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不吉な神主

しばらくして、茜と喜之助は結婚した。

婚礼の祝儀は、村を上げての一大行事になった。

村の全員が出席してくれ、二人の門出を祝福してくれた。

権兵衛、綾音、藤吉も。

六兵衛は喜之助の近くまで歩み寄ると、喜之助の手を両手でガッチリとつかんだ。

「喜之助、うちの娘をくれてやるからには、絶対幸せにするんだぞ。

これは男と男の約束だ。

おいらはお前を信じてる。

絶対に約束は守る男だとな。

だが万が一にでも約束をたがえた時は、おいらは許して尾かねえ」

喜之助も六兵衛の手を、握り返した。

「安心してくれ。

この魚住喜之助、身命に代えても茜を幸せにいたす」

二人は抱き合い、お互いを信じ合った。


   ――――――――――――――――――――――――――


喜之助と茜の結婚祝いに、村の有志たちが近くの村から神主を呼んできた。

村では若者が結婚する度に、神主を呼ぶのが恒例となっていた。

これからの二人のご多幸を祈り、災禍を近寄らせぬための祝詞を唱えてもらうためである。

村の外れにある空き地では、村人全員がゴザに座り、喜之助と茜の前には護摩壇(ごまだん)が焚かれていた。

神主は手に御幣(ごへい)を持ち、新郎新婦から邪気を払おうと祝詞を唱え始めた。

しかしものの数分で、神主は祝詞を唱えるのをやめてしまった。

神主の頭には、雷の閃光のように未来の出来事が見えたのだ。

「どうしたのじゃ?!」

権兵衛が立ち上がって、神主に聞いた。

だが神主は黙ったまま、答えようとしない。

「おい、どうしたって言ったのが聞こえなかったのかよ?!」

つられて藤吉も、文句を言った。

神主はゆっくりと振り向いて、喜之助の顔を見た。

「この男の顔には、凶相が表れておる。

村民の皆様、この男は必ずやこの村に災いをもたらすでありましょうぞ。

追い払うなら、今のうちじゃ。

さもなければ、末代に渡って後悔する事になりましょうぞ」

村人の前で恥をかかされた喜之助は、怒り狂って神主を地面に押し倒した。

「ふざけやがって!」

倒れている神主は喜之助にだけ、聞こえるよう小声でしゃべった。

「全てはムダな事じゃ。

いくら心を入れ替えようと、夢のある場所に移り住もうが、貴様を取り巻く宿命は何も変わってはおらぬ」

「何が言いたい?!」

「貴様の生まれ持った宿命とは、人を殺し続ける事じゃ。

その呪われた宿命をくつがえす事など、いくら努力しようが到底ムリなのじゃ」

村人に隠している秘密を知っているかのように言い当てられ、喜之助は愕然(がくぜん)とした。

コイツは神主などではない。

悪魔が人間に化けているのだ。

喜之助は馬乗りのまま神主を殴ろうとしたが、藤吉が腕をつかんで止めた。

「よさねえか、みっともねえだろ!」

「放せ、藤吉!」

喜之助は感情の抑制が、出来なくなってしまった。

「やめてちょうだい、喜之助!」

茜の大声で、喜之助は我に返った。

茜は喜之助のすぐそばまで寄った。

「あたしの言う事なら、聞いてくれるはずでしょ。

憎いだろうけど、神主さんに暴力振るうのはやめて」

喜之助は茜の言う事に、従順に従った。

神主の首根っ子をつかんで立たせると、突き放した。

「すぐに神社に戻れ!」

神主は埃を払うと、こんな結婚式に付き合ってられるかとばかりに、ふてくされて帰ってしまった。

まだ興奮状態の喜之助を、茜がなだめた。

「少しは落ち着いた?」

「あの神主の野郎・・・、本物なのか?」

「ひどい事言われたけど、村の誰もそんな事気にしてないから」

騒然としている最中権兵衛が手を叩いて、皆をうまくまとめた。

「皆様、お聞き下さい!

本日のめでたい喜之助と茜の結婚の儀は、これでお開きと致します!

大義でござった!」


  ――――――――――――――――――――――――


さんざんな結果になったが、結婚の儀は終わり、村人たちはそれぞれに各自の小屋に戻った。

もう、夜になっていた。

薄暗い夜道、二人の男女が歩いている。

喜之助と綾音である。

二人とも後片付けをして、帰るのが遅くなったのだ。

「綾音殿、一つ聞きたい事がありましてな。

わしと茜の結婚、どう考えておられる?」

「・・・分からない。

ただ、私と結婚するよりかは、うまくやっていけると思うけど」

「・・・そうか。

実は綾音殿が茜と結ばれるのを、快くないと思っておるはずだと考えておった。

だが今日は二人の門出を一番祝福してくれたのは他でもない、綾音殿、そなたじゃ。

一つ、礼を申させてもらえんかのう」

「いえ、私は・・・一組の男女が結ばれるのを見て、まるで自分の事のように嬉しく感じた。

それだけよ。

そうそう、一つ言い忘れてたわ」

歩きながら綾音は、喜之助の顔を見つめた。

「何じゃ?」

「お幸せに。あたしは別に嫉妬なんか、していない。

喜之助の晴れ姿を見てみたかったのよ・・・」

綾音は喜之助の頬に、自分の唇を押しつけると夜道を走って自分の小屋へと帰った。

喜之助はしばらく、そのままの姿勢で立ち続けた。

あの女は本当に、物分かりのいい女だ。

逃がした魚は大きいと言うが、あの女も逃がした割に惜しい。


  ―――――――――――――――――――――――――――


一年後の春に、長女が生まれた。

待望の第一子である。

美代という名にしようと、最初は決めていた。

だが結局、志及と決めた。

美代と同じ運命は、辿らせない。

その願いを込めて、全く関係のない名前にした方がいいと考えたからだ。

さらにまた一年後には、長男が生まれた。

清四郎と名づけた。

志及の弟となる子だ。

姉、弟と生まれた順は自分の場合と同じで、何だか同じ事が一つの周期から一周して、元に戻ったような感じだ。

だがこの子らには決して、自分と美代の辿った運命の繰り返しにはさせない。

喜之助はその決心を、深く心に刻みつけた。










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