村に居座る喜之助
「では、この綾音が茜のような子供だったらいいと申されますのか?
それでは余りにも、口惜しゅうございまする・・・」
綾音は衝動に駆られて、泣き始めた。
こんな白鷺のように美しい娘を捨てるとは思ってもみなかった感じで、衝撃を受けたようだった。
「結婚は無理でござるが、わしも綾音殿には会いとうございます。
綾音殿の雪のような白い肌、また度々拝んでみとうござる」
綾音は泣くのをやめ、喜之助の顔を見た。
「私も結婚して夫婦として毎日顔を合わせられぬのなら、せめてそれぐらい・・・。
これからも、よき恋人としてあり続けたい・・・」
「このわしを恨んでおられるかの、綾音殿?」
「恨んでいるだなんて・・・、今でまだ喜之助様に身も心も捧げとうございます・・・」
結局、綾音も快く承諾してくれた。
喜之助も音のような女を断るには、勇気が必要だった。
もったいないとは思うが、物事はその場しのぎで考えずに長い目で見ることも必要だ。
長い物差しで計れば、綾音と結ばれるのはひとときの快楽に過ぎない。
自分の選択は、長期的視野で考えれば間違っていない。
しかし綾音という女に引き合わせてくれたのは、天の配剤か。
天は決して、我を見捨てなかった。
今では神も仏も、信じる事が出来る。
人生は素晴らしい、と思えるようになったのだ。
その一翼を担ってくれたのも、綾音だ。
本当に、綾音には感謝の気持ちで一杯だった。
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秋がきて、冬になった。
冬になって雪が積もれば、農作物の収穫は激減する。
雪が降りしきる、ある晩の事。
喜之助と茜は二人で、同じ小屋に住んでいた。
囲炉裏に薪を入れて、寒さをしのいでいる。
喜之助は今度はノミで、仏像を彫っていた。
段々と仏像の形が整えられていくのを見ながら、茜がしゃべった。
「どう、喜之助。
あの日から随分経ったけど、自分の事をどう思ってる?」
喜之助はそのまま彫り続けながら、答えた。
「一生、このまま鬼の如く生き続けるのかと思っていた。
神も仏もあるものかと、呪い続けてきた。
だが今は、神に感謝したい。
わしは今、こうハッキリ言う事が出来る。
喜之助は鬼ではない。
人の血が通う、真の人間だとな」
しゃべっている間に、仏像は完成した。
喜之助は自慢げに、仏像を見せた。
「変われない事はない。
わしは変わることもが出来た。
誰でも変われるはずだ!」
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喜之助は仏像を、飾る事にした。
そして毎日、自分が殺していった者たちに対して手を合わせ、成仏してもらうよう祈った。
これぐらいしか、喜之助に出来る供養はなかったのだ。
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三年後。
茜はもう、立派な年頃の女になっていた。
村の皆が、茜と喜之助はお似合いの恋人だと、噂していた。
茜自身もこのままいけば、喜之助と結婚するであろう事は分かり切っていた。
しかしその事は両者共に、口に出さなかった。
口に出してきたのは茜の父・六兵衛である。
ある日六兵衛は茜に、結婚の事について聞いてきた。
「お前もええ娘になったな。
ここまでべっぴんになるとは、お父っつぁんも想像してなかったぞ。
所で茜、そろそろ結婚の事も考えとかなきゃならん。
村の若い者はどうだ、誰ぞめぼしい者はいるか?」
茜は父の目を見つめると、言った。
「あたしが結婚する相手は誰か、分かってるでしょ。
知ってて何故聞くの?」
「喜之助か・・・。
あ奴はどこの馬の骨か分からん男。
それよりも幼なじみの村の男では、いかんのか?
素性の知れん喜之助と一緒になればこの先、とんでもない事が待ち受けとるかも知れん。
お父っつぁんはな、お前には幸せになってもらいたいんじゃ。
だからこうして、言うておる」
六兵衛は、やんわりと聞かせてやった。
だが茜は、六兵衛の言う事を頑固に聞き入れなかった。
「誰と結婚しようが、あたしの勝手よ。
お父っつぁんなんか、大嫌い!」
茜はそう捨てセリフを残すと、父から立ち去った。
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茜と六兵衛は別々の小屋に住んでいたが、六兵衛はひょっこり娘を訪ねてきた。
「茜、この前の事はすまんかった。
わしも色々考えたんじゃが、お前の納得出来る男と結婚いたせ。
お前の人生は、自分で決めるんじゃ。
他人に作ってもらった人生は歩むな。
だが、これだけは覚えておけ。
自分で選り好みした以上、どんな事になろうとも、一切の責任は己にあるとな。
後悔する事になってもな」
これだけ言っても、茜の気持ちは変わらない。
「あたしは喜之助となら、地獄でもついて行きます」




