↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/56

裏切り

どうやら、手強い相手だと認識したらしい。

しかし、その向かい合った状態も長くは続かなかった。

庄差ェ門の前に進み出る者が一人、いたのである。

それは、魚住喜之助だった。

「ここは、このわしに任されい!」

喜之助は両手を広げて、後方の者に誰も邪魔をいたすな、という身振りを示した。

カマイタチの連中も三名を失い、これ以上は犠牲者は出せない。

ここは皆が喜之助に任せる事に、決め込んだ。

「どうやらカマイタチの中でも、一番骨のある奴らしいな。

勇敢だが愚かだ」

庄差ェ門は喜之助を、ジロリと見た。

喜之助が斬りかかってきたが、庄差ェ門は刃を右によけてかわした。

次は庄差ェ門が刀を喜之助の脳天に、振り下ろした。

だが喜之助は、切っ先が額に届くスレスレで、一歩後ろに下がってかわした。

勢いよく振り下ろされた刃先は、そのままズブリと地面に

めり込んだ。

その時喜之助は刃先を足で、思い切り踏みつけた。

これで庄差ェ門の刀は、奪われたも同然である。

庄差ェ門は懸命に刀を引き抜こうとしたが、上に喜之助の体重が乗っかっているのでビクともしない。

庄差ェ門が最期に見た光景は、喜之助がニヤリと笑った顔になった。

喜之助は、庄差ェ門の首を斬り捨てた。

その戦いをカマイタチの仲間が固唾を飲んで見守っていたが、歓声を上げて飛んできた。

「でかしたぞ、喜之助!

こちらも三人やられたが、お主がおらんかったらもっと被害が大きくなっておった」

「賛辞はいい。それよりも、有り金全部抜き取ってずらかる事だ」

喜之助は重蔵に背を向け、その場から去った。

喜之助の後ろ姿を見ながら、重蔵はそばにいる土門源三郎に言った。

「源三郎、あ奴の酒に眠り薬は入れたか?」

「はっ、夜明けに喜之助が辺りを散歩している間に、たっぷり入れましてございます」

「それで良い。夜になり一段落すれば、あ奴は酒を飲む。」


       ――――――――――――――――――――――――――


夜になった。

喜之助はいつも通り、酒を飲んだ。

変な味がしたが、そのまま気にせず、飲み干した。

しかし飲んでからが、いつもと違って頭痛がする。

山の中ばかりいたので、悪い風邪でも引いたのだろうか。

喜之助はおぼつかない足取りで、皆の集まっている場所に行った。

そこにはカマイタチの連中が焚き火を囲い、町から買ってきた酒や肴で酒盛りをしている最中だった。

喜之助はその中に混じって楽しむ気には、なれなかった。

俺は奴らの真の仲間ではない。

喜之助はそう、心の中で思い続けてきた。

いつ裏切られるかもしれぬ、金で結びついた下衆(げす)の集まりでしかない。

油断のならぬ相手に対しては、常に高圧的な態度で望まなければならぬ。

俺はこ奴らの仲間になっても、一時も心の休まる時は無かった。

いい加減、こんな奴らとオサラバしたい。

喜之助は、連中の輪の中に混じり、座った。

金の分け前をもらうためである。

喜之助の姿を見て、多賀谷清兵衛が近寄ってきた。

「喜之助、まあ飲め。

お主の斬った若侍、金を二百両持っておった。

それで今夜はご覧の通り、ドンチャン騒ぎって分けよ」

清兵衛は盃を

差し出したが、喜之助は断った。

「当然、俺の分け前は残してあるんだろうな」

「そりゃあもう、今日の功労者である喜之助の分は残してあるに違いねえ。

刑部が持ってるらしいぜ」

清兵衛は奥に座っている、刑部を見ながら言った。

喜之助は黙ったまま清兵衛から離れると、刑部の前に腰を下ろした。

その際に使用している刀・正国を、傍らに置いた。

「今日の働きは見事だったぞ、喜之助。

お主も一杯やらんか?」

刑部は酒杯を出したが、喜之助は断った。

「それよりも、俺の分け前はどうなった?」

「その事なら、心配するな。

ちゃんと取って置いてある。

ところでお主のいる金値は、いくらじゃ?」

「半分の百両」

喜之助は、素っ気なく言った。

「たわけた事を申すな、喜之助!

いくらそちが手柄を立てたからと言うて、そこまで払うと思うか?!」

刑部は逆上した。

「支払ってもらって、当然だ」

喜之助は、主張を曲げなかった。

「ところがそうはいかぬ。

そちの分は町で使い果たしてしもうてな。

今、手元にはない」

「どういうつもりだ、刑部・・・」

「喜之助、貴様の度を越した大盤振る舞いも、今夜までよ」

刑部は微笑みながら言った。

「何と申した、刑部?

貴様は俺を裏切るつもりか?」

喜之助は背後から、足音が近づいてきたのを聞いた。

何かが頭の中で、警告の鐘を鳴らした。

この場は危険だ、と。

「喜之助、貴様はやり過ぎた。死んでもらおう」

後ろから、堀田正盛の声が聞こえた。

喜之助は背後を、カマイタチの連中に囲まれているのを感じた。

すかさず横に置いてある刀を取ろうと、手を伸ばした。

だがそこには、刀は無かった。

「探し物はこれか?」

喜之助が振り向くと、正国を持った重蔵がいた。

「剣が無ければどうにもなるまい。

我ら六名、貴様に制裁を与えし所存よ」

重蔵の言う通りだ。

今はめまいがしているし、とても刀が無ければ勝てる状態ではない。

意識は朦朧(もうろう)としてきた。

重蔵が、かすんで見えてきた。

やはり奴ら、俺の酒に何か入れやがったか。

重蔵は、鞘から正国を抜刀した。

「自分の刀で刺されて死ぬがよい」

重蔵は刃を喜之助に、向けてきた。

同時にカマイタチの残りも、一斉に刀を抜いた。

多勢に無勢、ここはにげた方が賢明だ。

喜之助は密かに、地面の砂埃をひとつかみ、つかんだ。

「さらばじゃ、喜之助」

重蔵が言い終わると同時に喜之助は立ち上がり、砂を目つぶし用に投げつけた。

重蔵が一瞬目をつぶった隙に、喜之助は背を見せて走り去った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。