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第二の殺し

明くる日の朝。 

カマイタチの連中は、島田の宿場町へ食料を買いに出掛けていた。

町の高札場にはお尋ね者であるカマイタチに関する板札が立っていた。

だが顔は知られていないので、重蔵以下八名は堂々と町を歩いている。

その中で喜之助だけはいつも単独行動を取っているので、その場にはいなかった。

「重蔵、話があるんだ」

徒党の一人、堀田安盛が言った。

「何だ?」

歩きながら、重蔵は聞いた。

「喜之助の事だ。

あの野郎、最近ますます態度がデカくなってかてやがる。

この前も、三千文したり顔で一人占めしやがった。

もう勘弁出来ねえ」

「で、どうしろと言うんだ?」

「決まってるじゃねえか。ブッ殺すのよ」

「お主らも、同じ存念か?」

重蔵は連れ立っている皆に聞いた。

「同意でござる」

「それがしも御同意」

皆、口々に同じ事を言った。

「重蔵はどうなんだ?」

堀田安盛は、重蔵の心うちを聞いた。

「俺もあの野郎は好かん。お主らと同じで、ブッた斬ってやりてえ」

「それでは話が早い。

夜の闇に乗じて、喜之助を皆でたたっ斬ってやりましょう」

「だがな、あ奴は右に出る者もおらぬ程の剣の使い手。

まともに攻めた所で、全員斬られてしまうだけの事よ」

「なら、あいつが寝ている間に刀をかっぱらっちまえばいい」

「いかにも。しかしあの男、寝る時と言えども片時も刀を手放さぬし、物音一つで目を覚ます獣の如き勘を持っておる。

それよりも、もっとよい知恵はないか」

「それならば、奴がいつも飲んでいる酒に、眠り薬を入れやしょう。

きっとあの野郎、立っている事さえもやっとさになりますぜ」

「それは名案じゃ。

早速、町で薬を買ってこい。

わしは山に戻って、この事を刑部に伝える。

刑部の賛同が得られれば、ついに念願の宿敵を葬り去る事が出来るぞ」


   ―――――――――――――――――――――――――――――


重蔵は急ぎ足で、山へ戻った。

刑部は土手の上の草むらで、鍋を沸かして雑炊をすすっている。

重蔵は刑部の前に、詰め寄った。

「刑部様、先程の皆と話し合うた儀を申し上げつかまつります」

「藪から棒に何だ?

そんなに大事な話なのなら、聞こう」

刑部は雑炊をすするのをやめ、重蔵の顔を見た。

「我ら八名、魚住喜之助を討つ事に同意いたしました」

「喜之助を殺すのか?」

刑部は考え込んだ。

「是非、刑部様の意見をたまわりたい」

「その策、わしも同感じゃ。

確かに喜之助は我が徒党の中でも、一番の切れ者。

そやつを失うのも痛手じゃが、生かしておいては勝手気ままに行動し、カマイタチを破滅へと追いやるは必定(ひつじょう)。

今まで喜之助の蛮行、奇怪至極な言動も随分と目をつむってきた。

だがそれも、ここまでが限界じゃ。

喜之助はカマイタチに取って、死んでもらわなければならぬ存在と相成った」

「刑部様の存念、しかとたまわった」

重蔵はニヤリ、と笑った。

「して決行の策はあるのか?」

「ござりますとも。

あ奴が毎晩飲む酒に眠り薬を入れ、刀を奪い、立っているのもままならぬ時を見計らって全員で斬る所存にてござる」

重蔵はいかにも喜之助が死ぬ日が待ち遠しい、と言った顔を見せた。


   ――――――――――――――――――――――――――――


まだ夜が明け切らぬうちから、早駕籠(はやかご)が一挺走っていた。 

乗っている客は出石藩士、別木庄佐ェ門。

国許(くにもと)から領主、杉原伯耆守重長のいる江戸・出石藩邸に急ぐ最中である。

国許では杉原家の世継ぎ、笹千代が風邪を患って死去した。

大事な跡継ぎが血なくなっては、家銘存続よ危うい。

庄佐ェ門は城代家老からの書状を持ち、日坂から出発した途中だった。

もうじき金谷。

大井川を越えれば、駿河の国。

何としてでも江戸には後七日以内に着かなければならない。

「エイホッ、エイホッ」

駕籠かきの二人の掛け声がリズムを取りながら続いていたが、急に止まった。

一本道の前方には、刀を持った野武士が横一列になって、道を塞いでいたからである。

急に駕籠が止まったので、庄差ェ門は慌てて外に出た。

「どうしたのだ?」

庄差ェ門が駕籠かきに尋ねると、駕籠かきは二人とも前を指差した。

「旦那、あれを見て下せえ」

庄差ェ門が前方を見ると、野武士たちは一斉に刀を抜いてきた。

庄差ェ門はその瞬間に、全てを理解した。

なるほど、あの者たちが今巷を騒がしているカマイタチか。

カマイタチの一人が、こちらにしゃべってきた。

「殺されたくなくば、持っている所持金は残らず置いてきいくがよい」

それを聞いたかき手二人は、元きた道を走って逃げた。

金を持っていなかったのである。

しかし、退路も塞がれていた。

カマイタチの仲間が刀を構えて、道の真ん中を陣取っていたのだ。

たちまち、かき手二人は斬られてしまった。

「さあ、お主はどうする?

あの者たちのように、なりたいか?」

カマイタチはさらに威圧的に、庄座ェ門に刃を近づけてきた。

だが庄差ェ門は別段慌てる素振りを見せずに、平然としている。

「拙者(せっしゃ)も武士のはしくれ、金を出せと言われてすごすご出すような臆病者ではござらん」

庄差ェ門は腰に差していた、刀を抜いた。

連中を一人で、相手にする気だ。

「参る」

庄差ェ門はいきなり、近くの賊を斬り捨てた。

カマイタチは、仲間の一人を失った。

さらに庄差ェ門は隣にいた男の腹めがけて、脇差しを投げた。

脇差しは腹にめり込むように刺さり、男は倒れた。

「おのれっ!」

賊の一人が庄差ェ門の肩めがけて狙ってきたが、振り上げた刀にアッサリはねかえされた。

その隙に、相手の首筋を庄差ェ門は斬った。

頸動脈からピューッと噴水みたいに血を出し、男は死んだ。

「どうした、カマイタチも世間の噂ほどではないようだな」

相手をナメる庄差ェ門。

膠着(こうちゃく)状態になった。

カマイタチは刃を向けたまま、誰も斬りかかろうとしない。 

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