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藤吉の陰謀

馬、亀、鹿、鳥等色々な動物の木彫りで一杯になってしまった。

喜之助は熊の木彫りを、綾音に見せてやった。

「へぇ、熊の特徴をよく押さえてあるわね。

喜之助さんにノミを持たせたら、何でも彫ってしまいそう」

喜之助は、照れ笑いをした。

「わしにノミを持たせたら、一流じゃ。

熊だけでは、物足りなくてのう。

もっと色々な物を彫ってあるのじゃ。見てみられい」

喜之助は奥の棚に飾ってある、動物の木彫りを綾音に見せてやった。

「喜之助さんはヨほど、木彫り作業か好きでいらっしゃるのね」

綾音は、感嘆した。

「いや、彫る事自体は余り好きではない」

「では何故、そんなに熱心に彫り続けて

らっしゃるの?」

「出来上がった物を見るのが、楽しみだからだ」

喜之助は棚から、馬の木彫りを取り出した。

「例えばこの彫刻じゃが、これを見てどう思うであろう」

綾音は、しばらく考え込んだ。

今にも馬が駆け出す寸前で、前足を高く上げている。

「馬の・・・雄々しい姿って感じかしら?」

喜之助は、次は鳥を取り上げた。

「ではこの鳥は?」

鳥が両翼を広げ、飛んでいる形である。

「鳥が大空をのびのび飛んでいる・・とても力強くね」

「これらの物をすべて見て、どうですかな?」

綾音は全部の彫刻を、見渡した。

「まるで本当に生きているみたい・・・。

獣として精一杯生きているのを彫った感じね」

「一言で言い表すならば、これらは皆素晴らしい、美しい。

そんな所でござろうか?」

「そう、それ。一言で言えば素晴らしい」

「どんな物を彫っても、美しいと感じなければ彫る意味がない。

素晴らしく感じる、だから彫る価値がある。

わしは醜く、汚く不快さを感じる物は彫ったりいたさぬ」

喜之助の言う事は難しかったが、何となく分かる気がした。

この男は、美術品を作っているのだ。

それもありきたりのではなく、本当の芸術品を。

「それはそのまま、綾音殿にも当てはまりましょうや。

綾音殿は神がお造りになった、最高級の作品だと」

喜之助は、真剣に言った。

「いや、かたじけない。

話が少々、横路に反れましたな。

拙者はどうも彫刻に対する思い入れが、強過ぎましてな。

そのような話をされるとつい、熱くなってしまうのじゃ」

綾音もつい、笑ってしまった。

「喜之助さん、出来ればその木彫り、少し私がもらって行ってもいいかしら?」

「もちろん、好きなだけ持って行きなされ。

彫ったのも元々、他人に見てもらうため。

自分だけ見て自己満足だけで終わってしまいましては、木彫りも泣きまする」

喜之助は綾音に、数個の彫刻を譲った。


   ――――――――――――――――――――――――――


勘兵衛に約束した五日は、とうに過ぎていた。

確かに綾音は、器量のいい女だ。

だが、どこか引っ掛かるものがある。

綾音は茜と違って、本心を打ち明ける事は出来ぬ。

もしそんな事をすれば、綾音は自分の抱いていた偶像を壊す事になり、わしから永遠に去ってしまうだろう。

そうなったら、全てぶち壊しだ。

喜之助はこのまま綾音には、好青年のままで押し通す方がいいと考えた。

どんな事があっても、綾音が抱いている理想像を壊す分けにはいかない。

そんな事を考えながら、畑作業に熱中していた。

すぐ隣で働いていた藤吉という、同じぐらいの若い男が話しかけてきた。

「喜之助、この作業が終わったらわしと一緒に、隣村まで食糧を運ぶのを手伝ってくれないか。 

どうも、人手が足りんでな。

喜之助なら、二つ返事で引き受けてくれると思ってのう」

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