生まれ変わった喜之助
月日は経った。もう村の誰もが、喜之助をよそ者とは思っていない。
村人の一人として、認めてくれているのだ。
毎年、田植えの季節になる度に、喜之助は仕事に夢中になった。
信頼出来る仲間と一緒に汗を流し、働くのは無上の喜びだったのだ。
村人には権兵衛という、六十過ぎの爺さんがいた。
妻であるお鈴は寝たきりの病人で、いつも看病している。
権兵衛爺さんも、田植えの季節に苗を持って植えていた。
次の苗をさそうと腰をかがめると、腰に激痛が走った。
権兵衛爺さんは腰に手を当てたまま、田んぼの泥の中に倒れた。
ドサッという音がしたので喜之助が顔を上げると、権兵衛爺さんが隣の田んぼで倒れているではないか。
喜之助はすぐさま隣の田んぼに走ると、倒れている権兵衛爺さんを助け起こした。
権兵衛爺さんの意識はあった。
「どうしたのじゃ、しっかりしろ!」
「すまん、喜之助。助けてくれて」
「ナニ、同じ村の住む者じゃ、助け合わねばならん。
そんな事よりも、何故泥の中に身を埋めた?」
「持病の腰痛じゃ。
年を食ってからはどうも、身をかがめるのが辛くなってな・・・。
こんなザマじゃあ、おちおち田植えも出来やしねえ」
「家まで運んでやる」
喜之助は権兵衛の体を、ヒョイと持ち上げた。
弱り切って痩せこけた老人の体など、軽いものだ。
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その日から、権兵衛は妻のお鈴と共に寝たきりの生活になった。
喜之助は気の毒な二人のために、身の世話をしてやるようになった。
食事の世話から、下の世話まで、何から何まで面倒を見た。
それだけではない。
腰が痛くて歩く事も出来ない権兵衛の分まで、田植えもしてやった。
こうして、権兵衛と喜之助の間には、一種の友情のようなものが芽生えていった。
茜以外にも、気さくに話し合える相手が出来た。
ひと月看病してやると、権兵衛はようやく歩く事が出来るようになった。
数ヵ月後、権兵衛と喜之助は自分たちの田に稲穂を見た。
「礼を言うぞ、喜之助。
ここまでお前が何もかもしてくれるとは、思わんかった」
「礼には及ばん。
わしもカマイタチに腹を斬られた時、村人たちが熱心に面倒を見てくれた。
その時にわしは他人の親切に、心を打たれた。
今度は自分が返す番じゃ」
喜之助は権兵衛が立派に成長した稲穂を見て、感激して涙を流しているのを見た。
苦労して育てた稲が実った姿を見るのは、何とも感慨深いものだ。




