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残された道

「結局、金の力に負けたって事ね」

唐突に、茜が話を遮った。

「そうだ。

そうして、奴らの手先に成り下がってしまったのだ。

金だけでなく、仲間が必要だった。

もう一人だけで生きていくのは、イヤだったからだ。

だが段々、奴らがうっとうしく思えてきた。

友情などない、金だけで結びついている関係だからだ。

そんな奴らの仲間になっている事自体、恥になってきた」

喜之助が返答した。

二人はいつの間にか、木の切り株に身を下ろして、並んで座っていた。

茜はもつようく分かったわ、とでも言うように切り株から

立ち上がって歩き始めた。

「これでスッキリしたでしょ。

心の中の悩みを打ち明けて」

茜は、振り向いて言った。

「茜、わしは・・・」

喜之助が言いかけたが、次の句が出てこなかった。

「心の中に溜まり切った膿(うみ)は、喋って吐き出した方がいいわ。

一人でウジウジと、悩んでいるよりかはね」

茜は喜之助に、哀れみの顔を向けてやった。

こんな事は、話したくなかった。

恥をさらすだけだ。 

だが、事実なのだ。

認めたくもない事実だ。

話さなければ、わしがどういう人間なのか茜には分かってもらえない。

だから勇気を出して話したのだ。

例え、嫌われる原因になったとしても。

「拙者は数え切れぬ程、人の命を奪ってきた。

屁理屈のように聞こえるかも知れんが、生きるためには仕方なかったのだ。

否、生きるためには人を殺す事も、やむを得まい」

茜にポツリ、と言い放った。

だが次に茜の口から出てきた言葉は、喜之助の予想していた罵詈雑言(ばりぞうごん)ではなかった。

「喜之助、今までどんな悪事を重ねてきたかはよく知らないけど、自分の意思と無関係にやらざるを得なかったんだわ。

やってはいけない、と頭の中で分かっていてもね」

茜は喜之助の行為を、責めなかった。

やはり、このおなごに話して良かった。

「茜、いきなり突拍子もない事を言い出して済まない。

だがわしはそちと会って、人の心を取り戻す事が出来た。

もう決して人は殺さない、と心に誓った」

自分の胸の内を、茜に正直に打ち明けた。

「分かるわ、喜之助の気持ち。

こう考えればいいのよ。

斬られて谷底に落ちた時に、過去の魚住喜之助は死んだんだって。

喜之助はあたしと出会った時から、真の人間として生まれ変わったんだから」

「生まれ変わるか・・・。

何度そのような奇跡が起きればいいか、と思ってきた事か」

「それは自分で否定しているだけ。

誰でも生まれ変われるはずよ。

丁度、サナギから蝶が出てくるように」

茜の言葉一つ、一つが自分を勇気づけてくれる。

もう何も、目的もなく生きているのではない。

生まれてきた事を、後悔したりもしない。

急に、己という人間に自信がついてきた。

今後一切、自分を最低なクズのような人間とは思わない。

この世に生まれ、価値のある人間なのだ。

今では、そう思える。

自分を信じて、最初からやり直そう。

それには、よき理解者が必要だ。

悩み、苦しむ時も心の支えとなってくれる人物が。

そう、その人物は目の前にいる。

喜之助は切り株から立ち上がり、茜の手を握った。

「拙者は人生をやり直す。

どんな不幸の星の下に生まれたかは知らぬが、一生そのままでいるとは限らぬ。

必ずや、見えない運命の糸は逆転してみせよう。

それが、わしに残された道じゃ。

これからは、明るい未来が待っておる」

茜も、喜之助の手を握り返した。

「それでいいのよ。

日も暮れてきたし、もう山を降りましょう。

あんまり長くいたら、村の皆が心配するわ」

喜之助は喜びと期待の混じった顔で、茜に微笑み返した。

二人は、山を降りた。











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