佐渡島の逃避行
二日かけてようやく、小木の港にたどり着いた。
小木は金の積み出し港で、北前船西廻り航路の寄港地であった。
毎週、船が越後・庄内の米、木材の他、多くの鉱山資源を運んできている。
小木には金銀を取り扱う豪商人が、たくさん住んでいた。
喜之助は船賃を工面するために、小木の最も裕福な商人の
邸宅を襲った。
夜、商人の家族が寝ている間に忍び込み、台所から出刃包丁を失敬すると、寝ている全員の胸を順々に刺していった。
翌朝になると、虫ケラでも殺したかのように小木港に平気でやってきた。
大金を北前船の船頭に渡し、乗船する事に成功した。
北前船の次の寄港地は、越後の直江津である。
そこで降りるつもりだったが、陸路よりかは海路の方が早く安全だったので、そのまま乗り続けた。
北前船は関門海峡を抜け、瀬戸内海を渡り、兵庫ノ津で荷物を降ろして大坂に着いた。
喜之助はそこで下船し、京街筋へと進んで行った。
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京都町奉行所陣屋、小笠原元定邸・・・。
日も暮れて夜になり、辺りは静まり返っていた。
役宅の一室で、小笠原元定は寝ていた。
役宅の天井裏は大きなネズミが這っているかのように、ミシミシと音が鳴っていた。
実際、大ネズミが這っているのではなく、喜之助が這っていたのだ。
天井裏は老朽化が激しく、今にも崩れ落ちそうな感じだ。
喜之助は音で小笠原元定に気づかれはそないかと、内心ヒヤヒヤした。
大坂から京都まで、執念で舞い戻ってきたのだ。
途中で道に迷った時が何度かあったが、木の根にかじりつき、雨水を飲みながら戻った。
今は憎き小笠原元定を殺し、父の形見を取り戻し、三年の獄中生活のうっぷんを晴らす事だ。
天井の板を外し、下の部屋を覗いてみた。
奴はいた。
イビキをかいて、寝ていやがる。
そんな事よりも、正国はどこにある。
喜之助は、部屋を見回してみた。
元定の寝室には、骨董品がズラリと並んでいた。
どれも質草にすれば、相当な金額になるものばかりだ。
よくもまあ、これだけ集めたものだと感心したのも束の間、正国を見つけた。
正国は刀掛けに置かれて、宝のように保管されていた。
喜之助は梁に縄を結びつけると、元定を起こさぬよう、静かに縄をつたって畳の上に降りた。
忍び足で元定の横を通り過ぎ、正国の前で膝をつくと、手に取った。
三年ぶりの感触だ。
感激しながら、正国を抜いてみた。
刃が表れた。
さて、久し振りに手にしたのだから何か斬ってみなければ、腹の虫が収まらない。
もちろん、その標的は小笠原元定だ。
喜之助は正国の刃を、元定ののどに当てた。
色々世話になった礼を、今こそすべきだ。
この男の罪状は、死によってのみ償われる。
正国を力一杯押して、喜之助は元定の首と胴体を切断した。
血しぶきが、畳一面に広がった。
この首は、どうしてやろうか。
出来るだけ 人目につく場所に飾った方がいいだろう。
喜之助は元定の首を持つと、陣屋を出た。
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翌朝。京都の街に、一騒動が起きた。
東海道五十三次の終始点、三条大橋の擬宝しの上に、小笠原元定の生首がさらされていたのである。
多くの野次馬連中が三条大橋に集まるのを尻目に、喜之助は京都の街を去った。
このまま京都に居続けても、自分の顔は知れ渡っている。
また町奉行所に、捕まるかも知れないからだ。
もう二度と、京都に戻るつもりはない。
次はどこへ行こうか。
喜之助は当てもなく、東海道を下って行った。




