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投獄された喜之助

喜之助は早速、牢屋にぶち込まれた。

その牢屋には喜之助と同様、数々の殺人の罪を犯した重度の凶悪犯が大勢、入っていた。

牢役人が、喜之助に聞いてきた。

「おい、新入り。ツルは持ってきたか?」

喜之助には、ツルの意味が分からなかった。

「ツル?ツルとは何ぞや?」

牢役人は呆れたような顔をした。

「そんな事も知らんのか?!

ツルとはな、銭の事だ!」

牢屋に入る犯罪者の多くは、袖口などに金を隠し持っていた。

金を持っている、いない、で牢屋内での待遇は格段の差があった。

牢役人は牢内にいる、一番奥であぐらをかいている大男に言った。

「おい、この若造に世間の常識を教えてやれ」

牢役人は鍵を閉めると、陣屋に戻った。

   

    ―――――――――――――――――――――――――――


その日から喜之助は、手荒い歓迎を受けた。 

毎日、毎日、殴られ続けた。

喜之助の分の食事はほとんど取られ、食われる事になった。

日に日に痩せ衰え、もはや自力では立てないようになっていた。

死ぬ寸前の所までいったが、げっそりと痩せた姿を牢役人に見られ、独房に移し代えられた。

囚人に強制労働をさせるため、死なせる分けにはいかなかったのである。


    ―――――――――――――――――――――――


数日後。

喜之助の独房の前に、牢役人がやってきた。

「どうだ、若造。少しは骨身に応えたか?」

喜之助は体力は回復していたが、まだ歩き回れるような状態ではなかった。

「今日は貴様に、嬉しい知らせを持ってきたぞ。

明日執行予定である、貴様の打ち首獄門刑は中止になった。

江戸幕閣より、佐渡金山へ金堀人足を十名を京都から遣わせよ、との伝令が下った。

若い貴様は、その十名の中に選ばれたのじゃ」

喜之助は起き上がった。

いよいよ死ぬ日がきた、と思っていたのに佐渡金山だと?

「明日の明け方には、出発じゃ。

心身共に、支度をしておけ」

そう言い残すと、牢役人は陣屋に戻って行った。


   ―――――――――――――――――――――――


大坂から千石船で喜之助ら受刑者は、佐渡島に連れてこられた。

佐渡島は幕府直轄領で、全国から多数の無宿人、流刑人が

集められていた。

佐渡島の港に着くと、喜之助ら囚人は人間一人が入れるぐらいの大きさの籠(かご)に入れられた。

江戸時代、罪人の輸送時にはこの鉄製の籠に囚人を入れて輸送していたのである。

籠の天井には天秤棒が取り付けられ、棒の両端を人足が持って移動していたのだ。

輸送中でも囚人が尿便出来るよう、籠の底には開閉出来る

小さな扉がある。

長時間に渡る時には、この扉を開け、囚人が尿便を出していたのだ。

前後に二人、籠を吊っている天秤棒を担いでいる人足は喜之助の顔を見るなり、嘲り、罵倒してきた。

だが喜之助は揺れる籠の枠をつかんで、黙って輸送されるしかなかった。

前の棒を担いでいる人足が言った。

「見えたぞ。あれが佐渡金山じゃ」

喜之助は興味本意に見た。

金鉱に多数のいわくつき労働者が、幕府役人の監視下で苦しそうに働いていた。

翌日から喜之助は、そこで過酷な重労働を強いられた。

休日はなく、寝る時間もごくわずか。

食事も犬のエサのような粗末な物を与えられ、家畜同然の扱いであった。

しかしここで、音を上げる分けにはいかなかった。

働く事が出来なくなった受刑者は即刻、殺されてしまうからだ。

ここは何が何でも生き抜いて、脱走の機会をつかむしかない。

喜之助は辛抱強く、重労働に従事した。

ある晩、喜之助は脱走を試みた。

だがそれも、失敗に終わった。

すぐに見つかり、坑夫長屋に連れ戻された。

喜之助は最重要危険人物と見なされ、警備は一段と厳重になった。

手枷、足枷をはめられ、どこにも逃げられないよう、鎖で

つなぎ止められた。

しかし喜之助は、脱走をあきらめるつもりは無かった。

いつか必ず、この地獄から脱出する。

金銀を掘り出しながら、その事ばかりを考えていた。

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