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京都の辻斬り魔

何日か経つに連れて、金が残りわずかになった。

また人を斬って、金を奪うとするか。

久しぶりに誰でもいいから、人を斬ってみたくてたまらなくなった。

夜が更(ふ)けると、喜之助は安宿を出た。

当然、新たな金の工面をするためである。

人通りの少ない路地裏に身を隠し、獲物が近づくのをじっと待った。

ヒタヒタと歩く音が、聞こえてきた。

音の様子からして、一人だ。

足音はどんどん大きくなり、喜之助の手前まできた。

今だ。

喜之助は横から手を伸ばし、相手の胸ぐらをつかんで乱暴に路地裏に引きづり込んだ。

相手は女だった。

女は喜之助の顔を見るなり、悲鳴を上げようとした。

だがその前に、喜之助は女の口を手でふさいだ。

正国を抜くと、女の腹に刺した。

豚でも殺したかのように平気で女を殺すと、着物の中を探り、財布を奪った。

そばに丁度、水を入れた桶があったので、その中に女の死体を入れた。

財布の中身を調べると、小判が十枚。

悪くはない。

喜之助は金を自分の懐に入れると、夜の闇に紛れて消えて行った。


   ――――――――――――――――――――――――――――


喜之助は金が少くなり底をつく度に夜、闇に隠れて人を斬って、金を奪っていった。

お陰で京都の町には夜、辻斬りが出るという噂が広まってしまった。

最近ではめっきり、夜間外出する者がいなくなってしまった。

喜之助はそんな状態でも、懲りずに金が無くなると出没していた。

その夜喜之助はいつものように、人通りの少ない道端に身を隠していた。

しばらくすると、夜道を歩いてくる物語がいた。

そいつが今日の獲物だ。

相手がすぐそばまできたのが、分かった。

喜之助は素早く道に出ると、相手の男を斬った。

斬った男の袖着に手を伸ばし、財布を抜き取った。

その時である。

ピィーッと笛の鳴る音が、あちらこちらから響いてきた。

喜之助は最初は何が起こったのか、皆目見当がつかなかった。

「御用だ!」

「御用だ!」

御用を題目のように唱えながら、たすき掛けの同心連中が

物陰から飛び出してきた。

左手には「御用」を書いた提灯(ちょうちん)を掲げ、右手には六角十手を握っている。

見つかってしまったのだ。

喜之助は全方向から、取り囲まれた。

全部で三十人。

今度ばかりは、喜之助にも勝ち目は無かった。

同心たちは火消し用に使う長く細い梯子(はしご)を横にして、囲んできた。

その梯子は、合計四つ。

四つの梯子を口の字形に交差させ、喜之助を中に閉じ込めた。

こうなると、喜之助は逃げ道は無くなってしまった。

囲んだ梯子の外では、残りの同心たちが刺股(さすまた)という武器を持って構えている。

梯子の下を潜って逃げようものなら、刺股で突かれてしまう事になる。

何人かの陣笠をかぶった与力(よりき)が、四方を固めた梯子内に入ってきた。

与力の次々に縄を掛けられ、喜之助はグルグル巻きにされ、地面に倒れた。

倒れた所を数人が、押さえつけてきた。

その上から、棍棒で何度も殴られた。

殴られていく内に押さえつけなくとも動けなくなり、喜之助は起き上がれなくなった。

喜之助の背中を踏みつけている、与力の筆頭がしゃべった。

「京都の名高い辻斬り魔よ、ついに年貢の納め時だな。

往生際よく神妙にせい」

喜之助はさらに打たれ続け、気絶してしまった。


   ―――――――――――――――――――――――――


京都の町奉行所まで連れて運ばれ、翌日には吟味を受ける事になった。

後ろ手に縛られた喜之助は、白州まで引っ張られて呉座(ござ)の上に無理矢理座らせられた。

京都代官所所代、小笠原越中守元定が罪状を読み上げ始めた。

「魚住喜之助とやら。その方、京都の町に夜な夜な出没しては人を斬って金を奪い、その極悪非道なる所業、いかなる物をもってしても許しがたい」

そこまで言うと、役人が喜之助の所有物を持参してきた。

「これがこの罪人の所持品でございます」

役人は喜之助の正国を、小笠原越中守元定に渡した。

元定は鞘から正国を抜き、刃を見て感嘆した。

「これは素晴らしい。

かなりの業物(わざもの)である事は、間違いない。

その方、これをどこで手に入れた?」

「父の形見だ、その刀は」

「バカを申すな。

答えたくないのであれば、それでもよい。

大方、どこぞの名家名主から盗んできたのであろう」

違う、と喜之助は言おうとしたがやめた。

こんな奴と話をする事自体、間違っている。

「このような名刀、お主には相応(ふさわ)しかねる。

この小笠原越中守元定が、もらい受け申す」

貴様のようなバカが父の形見を持つとは、正に豚に真珠だ。

「本日、京都奉行所は魚住喜之助、その方に死罪申し渡す。

これにて、一件落着!」

喜之助は下をうつ向いたまま、何も言わなかった。

小笠原越中守元定は裃(かみしも)を翻すと、正国を持って吟味場から去った。

今日からはこの刀を、自分の押収品の一つとして部屋に飾るつもりであった。


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