鬼になった喜之助
喜之助が切り株に腰かけていると、一匹のウサギが周りをピョンピョンと、跳ね回ってきた。
喜之助は今夜の食事にありつけたと思い、正国ですかさず、ウサギの頭をぶん殴った。
ウサギは気絶した。
その日の晩はウサギの肉を火で炙って、食べた。
肉を久しぶりに食べる事が出来て、感激だ。
今度は、ウサギを捕まえてみるか。
鈴鹿の山奥には、色んな生き物が生息している。
それらの動物を、うまく捕まえる事は出来ないだろうか。
罠を仕掛けるというのもあったが、いつ標的が罠にかかるか気長に待たねばならない。
喜之助は弓を作る事に決めた。
弓矢があれば、見つければ遠く離れた距離からでも獲物を仕止める事が出来るからだ。
早速、弓と矢を作る事から始めた。
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弓と十本の矢が、出来た。
試しに近くの木に、射ってみる。
命中した。
今度は的を小さくしてみた。
外れた。
射って練習する内に、十本の矢は全部射つくしてしまった。
喜之助は木の枝を取ってくると、矢の形になるまで細く切った。
今度は三十本。
必ず命中させてみせる。
何度も何度も失敗したが、その都度腕は上達していった。
次からもっと離れた場所から、射る事にした。
当たり出したら、次はもっと離れた場所から射ってみた。
喜之助は毎日、その練習を重ねていった。
そしてついに矢が届く限界の距離まで離れても、命中させられるようになった。
次の目標は、動く獲物を射る事。
それには実際に動物を標的にした方が、手っ取り早い。
いよいよ、狩ひの季節が到来した。
喜之助は弓矢を持って、山中を散策した。
獲物はすぐ見つかった。
一匹の野生のイノシシが、喜之助の目の前にいた。
喜之助は弓を構え、弓矢を引いた。
弓矢を射ると、そのままイノシシの腹に当たった。
イノシシは猛然と走り、喜之助から逃げた。
ここで逃がしてなるものか。
喜之助は、次の矢を放った。
イノシシの背中に当たった。
痛みが増えた分、イノシシの走る速度が落ちた。
喜之助は走って追いかけながら、三の矢を放った。
これも、背中に命中した。
三本目にして、ようやくイノシシは走るのをやめた。
動きが鈍くなって、歩いている。
よし、これでトドメだ。
四本目を放った。
腹に見事に、刺さった。
イノシシは地面に、横倒しになった。
ピクピクと、痙攣している。
喜之助はイノシシに近づくと、正国を抜いて首を切り、息の根を止めた。
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喜之助は他にも、色々な動物を仕止めるようになった。
山でよく見つけるのは、鹿だ。
鹿を捕らえられるようになると、今度は鳥を射るようになった。
これが四つ足の動物を狙うよりも、難しい。
目標物が小さいというのもあるし、目線は常に上を向いておかなければならないからだ。
それでもあきらめずに、挑戦していった。
だがほとんど、失敗する事が多かった。
たまにに、二、三羽落とせるぐらいだった。
しかし喜之助の弓の技術だけは、格段に進歩していった。
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ある晩、喜之助は小屋の中で寝ていた。
何やら、話し声が聞こえてきた。
パッと目が覚めた。
「この小屋に間違いねえ。
この中に誰かがいる」
「山から天狗が降りて悪さをする、とは噂に聞いていたが正体は人間だったって事よ」
「今は必ず眠っているはずだ。
目を覚まさない内に、殺しちまおうぜ」
そんな会話が、聞こえてきた。
喜之助は、正国をつかんだ。
このままむざむざと、見知らぬ連中に殺されてなるものか。
寝ていると思ったのが、早計だ。
喜之助は眠っていても、物音一つで目を覚ますのである。
あの二人組とおぼしき奴らは、入り口からコッソリと入ってくるはずだ。
正国を抜くと、入り口の横で身構えた。
突然、入り口の扉が蹴飛ばされ、二人の男が乱入してきた。
喜之助は最初に入ってきた男の首を、斬り落とした。
次の男は刀を持っている喜之助を見ると、怖くなって逃げ出した。
臆病者め、逃がす分けにはいかぬ。
走って男に追いつくと、刀の切っ先を男ののどに突きつけた。
男は歯を、ガチガチと震わせている。
「申せ。何ゆえ貴様らはこのわしの命を狙った?!」
喜之助はドスの効いた声で聞いた。
「ヘエ、町で評判になってるんでさ。
竜が岳には、魔物が住んでいて、夜になると人の命を奪いに現れるって。
退治した者には褒美が出るっていうんで今晩きたんでさあ」
もうそんなにも、わしの噂が知れ渡っているのか。
無理もない。
どれだけ殺したか、数えられないしな。
もうこの場所は引き上げて、他の場所に移動した方がいいだろう。
いきなり一瞬の隙をついて、男は喜之助を殴り付け、刀を奪おうとした。
喜之助は地面に倒れ、その上を男が馬乗りになってきた。
このままでは、父の形見である正国を取られてしまう。
喜之助は寝たままの態勢で、男ののどに噛みついた。
「うげぇっ!」
男は声にならない悲鳴を上げた。
男の力が弱まった隙に、男の首に正国の刃を当てるとノコギリを引く要領で、正国を引いた。
首から大量の血が溢れ、喜之助の顔面に降り注いだ。
男は抱きつくように、グッタリと倒れ込んできた。
喜之助は両手で男の体を押しのけ、地面から立ち上がった。
さて、これからどうしたものか。
二人の男を殺してしまった以上、また新たな追撃者が現れるに違いない。
今いる場所は、早々に引き上げるとしよう。




