脱出
一ヶ月後の深夜。
麓の村の住民が五人、手にノコギリや棒などの武器を持って洞穴の入り口に勢揃いした。
仲間が三人消息を絶ってから、懸命に捜索を重ね、洞穴に誰かが住んでいるとの情報を得たのだ。
事実、山の中をうろつき回る喜之助の姿は近辺の村人に何度も目撃された。
天狗が山に住んでいる、という噂が立っていたほどである。
ついに決行の時機が到来し、仲間の仇を取る日がきた。
満月に照らされた五人は、洞穴の入り口に足を踏み入れた。
そこで足音を立て過ぎたのが、失敗の起因だった。
神経が敏感になっている喜之助は、離れた場所からの足音ですぐ目を覚ました。
犬でも猫でもない、人の足音だ。
喜之助は正国だけ持つと、洞穴の秘密の出口から脱出した。
いざという時のために、暗闇でも脱出出来るよう、訓練を重ねてきたのだ。
五人が提灯で照らした寝床は、即にもぬけの殻だった。
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喜之助はもう、洞穴に戻るつもりはなかった。
今度はもっと、離れた場所に住もう。
あんなに暗くて、ジメジメした所は嫌いだ。
自分にも、住まいがあればいいのに。
小さくともよいから、何とか作れないだろうか。
否、作ってやろう。
掘っ立て小屋でともいいから、作ってやる。
それにはまず、道具が必要だ。
喜之助は四里離れた場所へと、出向いた。
これだけ離れれば、大丈夫だろう。
喜之助は、かの場所に住む事に決めた。
ちょうど、空き地がある。
この場所に建てる事にしよう。
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夜になった。
木を切る斧、ノコギリ、それに縄も必要だった。
山を降り、近くの村に行った。
目的の物をコッソリ盗むと、朝になる前に村を出て山に戻った。
喜之助は見よう見まねで、家を作る事になった。
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三ヶ月もの苦心の末、家が何とか出来上がった。
粗末な物であるが、これでも自分が一から作り上げた物なのだ。
その掘っ立て小屋で、毎日の生活を送るようになった。
だが半年もしないうち、喜之助が山菜採りに帰った時、
小屋は完全に崩壊していた。
確かが小屋を見つけて壊したか、強風で壊れたのか。
同じ場所に作り直しても、またバラバラに壊されるかも知れない。
喜之助は場所を移動する事に決めた。
山
中を歩き回って、ようやく適当な場所を見つけた。
そこにまた同じように、小屋を建てた。
今度は前よりも、頑丈な物を作る事が出来た。
だがもし、この小屋も倒壊させられたらどうすればいいのだろうか?
そんな事を考えても、仕方ない。
壊されたら壊されたで、また作り直すまでだ。
その時までは、この場所に住むのだ。
喜之助は小屋に入ると、ゴロリと寝転んだ。
明日は明日の風が吹く。
明日の事を今日気にしたって、始まらない。
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喜之助の暮らしは、その日暮らしも同然だった。
一日、食料を探すのに大部分を費やしている。
金があったら山を降りて町へ出て、自分の好きなだけ食いたい物を買うのだが。
そうだ。
こんな大事な事に、今まで気がつかなかったとは。
ならば、金を盗めばいいではないか。
しかし、金という物は必ず家の中に置いてあるものだ。
金を盗むのであれば、危険を承知で家の中に侵入しなければならない。
もし見つかれば、即刻殺すつもりで挑まなければならない。
見つかれば、相手が子供だからと言って容赦はしてくれまい。
なあに、そんな事はたやすいことだ。
今までに、四人殺しているのだ。
何人殺そうが、変わりはない。
よし、今晩町へ降りて民家に忍び込み、住民を殺して金を奪おう。
喜之助はもはや、人の命など、何とも思わないようになっていた。
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その夜、喜之助は町へ行った。
手頃な家を見つけると、扉をこじ開けて中に入った。
一組の夫婦が寝ている。
喜之助は正国を静かに抜くと、男の胸に一直線に突き刺した。
男は口から血を吐き、死んだ。
次は女だ。
男が死んだ事も知らずに、スヤスヤと寝ている。
悪く思わんでくれ。
こんな事をしたくないが、自分の身の方が大事だ。
女の腹にも、突き刺して殺した。
これで、二人片づいた。
ゆっくり家の中を、物色する事が出来る。
喜之助は家中を探し回ると、金を見つけた。
一丁上がり。
金を奪うなんて、簡単なものだ。
明日になれば、うまい物をたくさん買って久しぶりに腹一杯になろう。
喜之助は何食わぬ顔で、家を出た。
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一週間経った。
そろそろ、金が底をついてきた。
ならば、また同じ事をして金を工面するまでだ。
今度はもっと、金持ちの家を襲った方がいい。
喜之助は豪商の家を見つけると、またもや一家全員を殺して金を奪った。
だんだん、殺人を重ねるのが快感になってきた。
この快楽を味わってしまえば、もう後に戻る事は出来ない。
喜之助は金が無くなる度、町へ金を奪いに行った。
もちろん、家の中にいた者は老人子供と言えど、皆殺しである。
人を殺す事は、毎日の鬱憤晴らしには最高だ。
喜之助はゲーム感覚で、殺人を重ねていった。




