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殺人の快楽

あの三人は、自分を殺すつもりなのだ。

またこの前のように、なぶり殺しにされる分けにも行くまい。

喜之助は持っていた正国を、ゆっくり音も立てずに引き抜いた。

殺される前に、こっちから殺してやる。

丁度三人のうちの一人が、こっちに背中を向けた。

殺すなら、今だ。

喜之助の茂みから飛び出すと、目の前にいる男の背中を斬った。

二人の連れが驚いて、喜之助に顔を向けた。

「このガキめ!」

仲間を殺されて怒った男が、喜之助を殴りかかろうとした。

殴られる寸前に、男の太ももを正国で斬り裂いた。

まだ子供だった喜之助は背が足りない分、下半身を狙った方が効率的だった。

太ももを斬られた男は地面を、転げ回った。

「よくも新吉を!ぶっ殺してやる!」

残りの男が猛然と、喜之助に向かってきた。

しかし、喜之助は慌てなかった。

男がこのまま走ってくれば、自分が作った落とし穴に落ちるのは分かり切っていたからだ。

男は喜之助をつかもうと手を伸ばした瞬間、落とし穴に落ちた。

落とし穴の底には、先端を鋭く尖らせた竹の槍を五本、直立させて立ててある。

男はアッサリと、竹槍にザクッと刺されて死亡した。

喜之助は太ももを刺されて痛がってる男に、目線を移した。

トドメを刺すには、持ってこいだ。

喜之助は男の腹めがけて、一直線に正国を刺し下ろした。

男は死んだ。

洞穴の前には、三人の死体が出来上がった。

人を殺すのは、これで二回目だ。

いずれにしても、うまくいった。

三回目の時がきても、もう慌てふためいたりしない。

沈着冷静に殺す事が、次から出来る。

だがこれ以上、この洞穴にとどまっていいのだろうか。

死んだ三人を探しに、今に村の連中が大勢やってくるだろう。

そうなったら、終わりだ。

喜之助は不安を抱えたまま、三人の死体を捨てると寝床に着いた。


    ――――――――――――――――――――――――――


夜はいつも、洞穴の入り口近くで寝ている。

昼間に殺されそうになってから、喜之助はグッスリと眠りこけていた。

無防備なままの状態の喜之助に、危険が忍びよりつつあった。

五、六匹の野ネズミが、喜之助の体に乗りかかってきたのだ。

ネズミ達はしばらく喜之助の体の上で蠢(うごめ)いていたが、いきなり噛みついてきた。

一匹は喜之助の耳たぶを、食いちぎった。

「うげえっ!」

喜之助は何が何やら分からぬまま、飛び起きた。

まさか、動物に寝ている間に襲われたのだとは思わなかった。

暗くて何に襲われたか飲み込めぬまま、喜之助は洞穴から抜け出した。

指に食いついているネズミを、何とか引き離した。

喜之助は暗闇の中、掌中に握っている動物が何なのか目を近づけて見た。

チュー、チューと鳴いている。

ネズミだった。

喜之助はやられた仕返しに、握ったままネズミの首の骨をへし折った。

耳から生暖かいものが流れている。

触ってみると、血だった。

耳たぶは、無くなっていた。

でも、耳たぶが無くなったぐらいで良かった。

危うく、顔面を食われる所だった。

その夜は眠るのが怖くて、一晩中起きていた。


    ――――――――――――――――――――――


また眠っている最中に、動物に襲われないとも限らない。

喜之助は高い場所に寝た方がいいと考えた。

さらに洞穴の奥に入ると、階段状に高くなっている部分を見つけた。

ここならネズミとて、這い上がるには時間がかかるはずだ。


      ―――――――――――――――――――――――


それからと言うもの、眠ってる最中でも喜之助の意識の下は、絶えず危険を察知するよう研ぎ澄まされていた。

何か小さい物音一つでも、パッと目が覚めるようになったのだ。

今日も畑作業にいそしんだ喜之助の体は、グッスリ眠っていたが脳は完全に眠っていなかった。

その喜之助に、一匹の野良犬が近寄りつつあった。

野良犬は一週間何も食べておらず、喜之助の肉を食らうつもりだった。

あともう一歩と喜之助に近づいた時、喜之助の脳は条件反射をするかのように起きた。

暗くてよく分からないが、何かがいる!

常に寝る時もそばに置いている正国を抜くと、正体不明の生き物に突き刺した。

「キャイ~ン!」

叫び声を上げて、謎の生き物は死んだ。

犬だったのか。

だが、これで安心した。

これからは眠っている間に誰が忍び寄ろうが、体が無意識に起きる事が分かった。

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