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喜之助の栽培

もうキノコを探すのはやめ、今度はナズナを見つけた。

実はちょうど、熟れごろだ。

木によじ登って、実を取った。

栗も見つけた。

トゲが刺さって痛いが、何とか取った。

喜之助はそうやって、次々と実を取っていった。

しかしそれでは、毎日探し回らねばならない。

探し回らなくとも、取れる方法はないものか。

自分で栽培して、育てればいい。

父は庭に、茄子畑を作っていた。

自分もよく手伝ったものだ。

どこかに茄子は無いのだろうか。

何処にも無いので、山を降りた麓の村の畑から失敬する事にした。

早速、畑を耕すと、茄子の実を植えた。

しかし茄子だけでは、心もとない。

また村に戻ると、蓮根を盗んだ。

これで茄子と蓮根を、同時に作れる。

また米も、食べたくなった。

母の手料理が食べられたら、良いのだが。

だが母がいない以上、自分で作るしかない。

喜之助は山の上の頂きから、村人が稲作をしてるのを見続けた。

苗を一本、一本、植えていっている。

苗と苗の間隔が、狭すぎてもいけない。

半年観察をし続けると、大体どんなふうにすればいいのか分かってきた。

夜になると、苗を盗みに行った。

自分で山の中腹に、隠し水田を作り苗を植えて行った。

収穫後を考えると、米を蒸す釜がいる。

これも山を降り、麓の村から盗んできた。 

盗む事には良くない事だが、金を持っていないので盗むしかない。

別に盗みたくて、盗んでる分けではないのだ。

ようやく実った稲穂を刈り取り、蒸した。 

釜の蓋を開けると、米の香りが漂ってきた。

約一年ぶりに、米を食べる事が出来た。

母さんはよく、味噌汁を作ってくれたものだ。

味噌汁まではないが、こうして米が食べれただけでも感慨無量だ。

この時代、内密に田畑を作る事は幕府が禁じていた。

百姓から確実に、年貢を搾取(さくしゅ)するためである。

しかし喜之助はそんな事は露知らず、毎日田畑作りに精を出していた。


    ――――――――――――――――――――――――


風呂に入る事は無かったが、近くの川でよく泳いだ。

温かい風呂に、入りたかった。 

夏は良かったが、冬になると川の水が冷たい。

そういう時期は、何日も泳ぐ事は無かった。


     ――――――――――――――――――――


一年も経つと、着ていた服がボロボロになってきだした。

これでは、乞食同然だ。

喜之助は正国を抜くと、伸び切っていた髪をバッサリ切った。

さて、服はどうするか。

これも深夜村に忍びこみ、莚(むしろ)を盗んできた。

莚を適当に切り、体に合わせた。

これで当分はしのげる。

だがその莚も、徐々にボロボロになってきた。

新しいのと、交換しなければならない。

夜になると、麓の村に降りて行った。

何か新しく着るものを、頂戴するためだ。

いつものように、こっそりと忍び込んだ。

誰もいない。

そう早合点したのが、間違いだった。

「誰だ、そこにいるのは?!」

喜之助はギクリ、とした。

見つかってしまったのだ。

今まで見つからずに盗んできたのに、今回に限って失敗するとは。

喜之助は暗がりの中、じっと息をひそめた。

見つからないようにし、立ち去るまで待つつもりだった。

だがそれもムダだった。

喜之助は見つかってしまった。

「小僧、おいらの莚を盗んだな!」

形相の悪い男が、喜之助の後ろから首をつかんだ。

確かにガキの着ている莚は、自分が町から買ってきたものだ。

「お前だな。最近、村の物を盗んでいく泥棒ってのは。

まさか、こんなガキだとは思わんかったわ。

二度と悪さ出来ねえようにしてやる」

男は鍬(くわ)を持つと、喜之助に殴りつけた。

喜之助の額から、血がしたたり落ちた。

男は何度も鍬で、喜之助の体を打ち続けた。

殺すつもりだったのだ。

喜之助は強打されながら、感じた。

このままでは殺される、と。

死にたくなければ、この男を殺すしかない。

人を殺すなんて事はしたくないが、自分が殺されるのであれば、殺した方がマシだ。

喜之助は、男の脛(すね)にガブリと噛みついた。

男はうめき声を上げた。

「放しやがれ、このクソガキ!」

男は足に食らいついている喜之助を放そうと、必死になっている。

だが喜之助は死んでも離すものかと、さらに歯を奥まで食いこませた。

男はもう片方の足で、喜之助の足を勢いよく踏みつけた。

今度は喜之助の方がうめき声を出した。

その隙に、男はようやく喜之助を自分の足から引き離した。

喜之助の歯には、男の脛の肉片が残っている。

離れた途端、男は激痛の余り立っていられず、地面を転げ回った。

喜之助はその姿を見て、今こそこの男を殺すべきだと思った。

男の持っていた鍬を持つと、男の頭めがけて叩きつけた。

まだ、死なない。

二度、三度。

もう何度叩きつけたか、数えられない。

喜之助は、ようやく手を止めた。

恐る恐る顔を上げて、男の顔を覗きこむ。


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