孤立無援
喜之助が肩を落として町を出ようと歩き出した時、何かに蹴つまづいて転んでしまった。
地面に頭をぶつけた喜之助は何に蹴つまづい他のか、振り返った。
そこには煤の中から正国を入れた鉄の箱が、地面から半分埋まって立っていた。
喜之助は、地面から箱を引き抜いた。
すると拍子で鍵が外れ、中から名刀・正国が姿を現した。
どうや鉄箱に入れていたお陰で、箱の表面は燃えても中身は無事なまま助かったらしい。
喜之助は不思議な思いで、正国を見つめた。
まるで正国が、私を見捨ててゆかないで、と訴えかけているようだ。
丁度いい。
唯一の父の形見として持っていこう。
正国が近くにある限り、自分はいつも父と一緒だ。
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だいぶん歩いて鈴鹿の山にたどり着いた時は、薄暗くなっていた。
これから先は、一人で生きていかねばならない。
誰も話しかけてくれないし、こちらから話しかける者もいない。
喜之助は人間一人が入れそうな洞穴を見つけると、そこに入った。
今日からは、ここが住みかだ。
泣いてもわめいても、ここで生活するのだ。
その決心の時、喜之助わずか十才。
喜之助ほサバイバル生活が、幕を開けたのである。
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じっと悩んでいても、始まらない。
喜之助はいつまでも、両親や美代の事を考えるのをやめた。
まずは食料探しから、始めなければならない。
腹が減っては、生きていく事が出来ない。
丸一日、何も食べてはいなかった。
空腹のまま洞穴を出ると、食料を探して出かけて行った。
近くに小川が流れている。
そこでのどを潤すと、また歩き始めた。
水だけでは、腹一杯になれない。
食べる物は、無いのだろうか。
喜之助は、地面に山芋を見つけた。
早速山芋を引き抜くと、洗わずにガツガツと食べた。
だがまだこれだけでは、腹の足しにもならない。
木の葉は食べれるのだろうか。
この際、迷ってる場合ではない。
葉を木からむしり取ると、何枚も口の中に入れた。
これはイケる。
葉という物が、こんなにうまいとは思わなかった。
何枚もちぎって食べていると、ようやく腹が落ち着いてきた。
満腹になると、地面に腰かけた。
これからは食料を確保する事が、先決だ。
毎日、毎日がそれの繰り返しになる。
これでは石器時代の穴居人と、同じではないか。
そう思いにふけりながら、日が暮れるとまた洞穴へ戻って行った。
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太陽が昇って、また一日が始まった。
今日は葉を食べるのは、やめておこう。
不味い岳だし、もっと滋養のある物を腹の中へ入れなければならない。
山の中にそんな物はあるのだろうか。
もっと幼い頃、父と姉の三人で山菜取りに行ったものだ。
父は毒キノコと食用キノコとの違いを教えてくれたし、色々な植物の名前を教えてくれた。
結局、その知識が今、役に立った。
喜之助は、キノコの大群を見つけた。
だが全部、真っ白だ。
これは毒キノコだから、食べるな。
父はそう教えてくれた。
喜之助が見たのはドクツルタケと言って、猛毒だった。
何処かに松茸はないのだろうか。
三人で取りに行って、茹でて食べたあの味が忘れられない。
次に見つけたキノコは、傘にイボがたくさんあるのだった。
これも、毒キノコだ。
あちこち探し回って、ようやくホンシメジを見つけた。
これなら食べられる。
十個ぐらいつかみ取ると、持って帰った。
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思ったよりもキノコの味が良かったので、次の日もキノコ取りに出かけた。
ここで喜之助は、失敗をしでかした。
毒性のキノコ、ニガクリタケを誤って持ち帰ってしまったのである。
うまそうに食べたが、数時間後に吐き気、腹痛、嘔吐などの毒キノコを食した時特有の症状が表れたのだ。
喜之助は洞穴の中で体を丸めて一晩中、苦しんだ。
こんなに苦しい思いをするのならば、二度とキノコは食べるまい。
喜之助は苦痛に顔を歪めながら、誓った。




