↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/56

悲劇

あの三人のチンピラはまた性懲りもなく、美代を襲う計画を立てていた。

美代だけでなく、吉右衛門にも先日の返礼をする目的もあった。

いくら剣の達人と言えど、寝首をかかれては人たまりもあるまい。

三人はそう考えた。

そのためには深夜に魚住邸に忍び込み、吉右衛門を殺害し、美代を奪う。

そういう筋書きだった。

ついに、実行に移す時は熟した。 

丑三つ時。

三人は密かに魚住邸の塀をよじ登り、潜入した。

その時刻、喜之助、美代、吉右衛門、母のお栓は就寝中だった。

三人の男は先に邪魔な吉右衛門から、殺す事に決めた。

三人は忍び足で居間に入ると、そこには吉右衛門と妻のお栓が寝ていた。

三人は各自持ってきたドスを抜くと、吉右衛門の胸に一斉に三本とも突き刺した。

吉右衛門は、そのまま即死した。

突き刺した時のザクッという音で、隣に寝ていたお栓が目を覚ました。

「何者っ?!」

お栓は得体の知れない三人を見るなり、咄嗟(とっさ)に叫んだ。

だがお栓は縄で首を絞められ、すぐに死んだ。 

これで邪魔者は、いなくなった。

後はガキを殺して、女をかっぱらってしまえば終わりだ。

三人は静かに、美代のいる部屋を探し始めた。

一方、美代と喜之助は一緒の部屋に寝ていた。

喜之助は何やら、ガサゴソという音で目を覚ました。

何か、おかしい。

先程、母の悲鳴が聞こえたような気がする。

喜之助は布団から出ると、美代を揺すぶった。

「姉上、起きて下され」

美代は目を覚ました。

「どうしたのじゃ?」

「物騒な物音が聞こえました。

もしかすると、泥棒が入ったのやも知れませぬ」

泥棒、と聞いて美代は眠気が吹き飛んだ。

「もしそうであれば、大変な事じゃ」

「姉上、私は父上、母上に別上あらぬかどうか見て参りますゆえ、ここで待っていて下され」

喜之助は手燭に火をつけると、両親が寝ている居間へ行った。

喜之助が居間に入った時、信じられない光景が広がっていた。

父は全身、血だらけだった。

血は畳一面に広がり、周りは血の海と化している。

父の横では、母がぐったりとしていた。

「父上!母上!」

喜之助は絶叫した。

父を揺すぶったが、ピクリとも動かない。

これだけ血を流して、生きているはずもなかった。

父はもう、既に死んでいる。

あきらめた喜之助は、揺すぶるのを止めた。

なら、母はどうだ。

母は目立った外傷はない。

喜之助は母の両肩に両手を乗せて、激しく揺さぶった。

「母上、起きて下され!」

だが母も死んでいる。

喜之助は母の首筋に、不気味な絞め跡を発見した。

壁にもたれると、放心状態になった。

一夜にして、孤児になってしまったのだ。

喜之助は絶望と、深い悲しみに襲われた。

だが悲しむのは、まだ早い。

父と母が殺されたという事は、まだ泥棒が屋敷にいるかも知れないのだ。

まだいるなら、何をするだろうか?

そうだ、姉上!

姉上の身が、今度は危ない。

両親を殺され、たった一人の肉親を殺されてたまるものか。

喜之助はすぐに、もといた寝室に引き返した。

戻る途中で、美代の悲鳴を聞いた。

「姉上!」

大声を出してフスマを開けると、そこには先日の三人の暴漢がいた。

美代は足で踏みつけられ、縄で縛り上げられている。

「チッ、まだガキが残っているじゃねえかよ」

三人の内の一人が、喜之助を見て言った。

「喜之助、逃げて!」

身動きがとれずに、うつ伏せのまま美代が叫んだ。 

「そうはいきませぬ。

姉上を助けなければ!」

「この聞き分けのない奴!

お前のような子供が、三人の凶悪な大人相手に救い出す事が出来ると思うておるのか?!

早う安全な場所へと、逃げるのじゃ!」

美代は激怒した。

このままでは、二人とも殺されてしまう。

「姉上を野獣の元に置いて逃げ去るなど、そんな卑怯な真似など出来ませぬ!」

「ええい、この姉の言う事が聞けぬと申すのか!?

ならばお前など弟でも何でもない!

さっさとくたばるのがいい!」

美代はかな切り声を上げた。

逃げるか、とどまるかは、喜之助にとって人生最大の岐路だった。

だが姉の言う事も、もっともだ。

このままでは、二人とも殺される。

喜之助は無念断腸の思いで、姉をあきらめた。

くるりと美代に背を向けると、全速力で逃げ出した。

「追え、逃がすんじゃねえぞ!

あのガキには現場を見られてるんだ!」

三人の内の、二人が追いかけてきた。

喜之助は手燭を庭に捨てると、振り返る事なく走り続けた。

自分はどんどん、美代から遠ざかって行く。

だが、ここで戻る分けにはいかない。

せめて姉だけでも助かってもらいたかったが、不可能だったか。

喜之助は深夜、町外れの野原まで走った。

まだ追いかけてきているのだろうか。

ようやく後ろを振り返り、追っ手がいないかどうか確かめた。

後ろには、誰もいなかった。

喜之助の余りの俊足に、二人は追いつけなかったのである。

走り疲れて原っぱの地面に、どっと倒れ込んだ。

大の字に寝ると、満月が美しく輝いて見える。

月はあんなにキレイなのに、さっき自分が見た光景は地獄そのものだった。

たが美代はどうすればいいのだ?

夜が明けたら町奉行所に行き、事の成り行きを説明するしかない。

そして、屋敷まで参上してもらおう。

だがそれまでにあの三人は、屋敷にとどまっている事は絶対にあり得ない。

美代の変わり果てた姿を見るか、連れ去られているかのどちらかだ。

しかしどちらになろうとも、戻らなければならない。


   ―――――――――――――――――――――――――――


夜が明け、朝日が昇った。

まだ明け六ツ(午前6時)の時刻だった。

朝四ツ(午前10時)にならなければ、町奉行所は開かない。

いっその事、門を叩きまくって開けさせるか。

しかしそんな事をすれば、お上に迷惑をかけたかどで、逆に己が捕まえられるだけだ。

喜之助は、一人で戻る事に決めた。

これからは誰にも頼れない。

どの道、泥棒たちはいないのだから、一人で戻っても心配はない。

しかしどんな無惨な光景を見るかは、覚悟しなければならなかった。


     ―――――――――――――――――――――――――


喜之助は急ぎ足で戻った。

何やら、町の様子が慌ただしい。

朝早くから、人々がせわしなく急いでいる。

何か大きな事件が、起こったに違いない。

しかしその大きな事件とは、夜中に起こった自分の屋敷の事ではないか?

喜之助は事の真相を確かめるために、走って屋敷のある場所に戻った。

そこには黒だかりの人々が、集まっていた。

屋敷はなかった。

火をつけられ、跡形も無くなっていたのだ。

あの三人は証拠を残さぬため、火を放ったのだ。

喜之助は焼け落ちた残骸の中を、トボトボと歩いた。

父と母の遺体を探しても、見つからない。

きっと瓦礫の下に、埋まってしまったに違いない。

喜之助は焼けて煤(すす)だらけになった木片を、片っ端からどかしていった。

そうしている内に、父と母とおぼしき遺体が見つかった。

二つの遺体は真っ黒になっていて、どちらが父と母なのか

も判別がつかない。

喜之助は地面に、ガクッと膝をついた。

もう何もする気力がない。

これから、どうやって生きていけばいいのだろうか。

それよりも、美代は無事なのだろうか。

無事でも今頃は、輪姦されているだろう。

一生、美代と会える事はあるまい。

ここら辺に、親類縁者は一人もいない。

喜之助の面倒を見てくれる者など、一人もいなかったのである。

取り敢えずは、この場から去った方がいい。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。