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最凶の過去

日本男児たる者、武勇に誉れ無ければ男としての資格なし。

それが吉右衛門にとっての、信念だったのである。

特に自分の一人息子には、十分そうなってもらいたかった。

何と言っても喜之助は、魚住家を継ぐ人物なのだ。

そんな息子をもやしのような、弱い人間に育てるつもりは毛頭無かった。

吉右衛門と喜之助はよく木刀を持って、立ち稽古をした。

厳しい訓練であったが、喜之助は音を上げなかった。

いつの日か父のように強くなりたい、喜之助の胸の打ちは毎日それで一杯だった。


    ――――――――――――――――――――――――――


ある日、吉右衛門は喜之助に大切に保存している名刀、正国を見せた。

「喜之助、この刀は正国と言うて室町時代の刀匠が作ったものじゃ。

わしはこの正国を藩主様から授かった。

わしの武功に対し、藩主様は『何が望みじゃ。何なりと叶えてやろう』と仰せられた。

わしは『畏れ多くも殿、いたくお気に入りであらせられる宝刀・正国を頂きとう存じます』と答えた。

それを聞いた殿は嫌な顔一つせず、この正国を授けてくれた。

それ以来、この刀は魚住家の家宝となったのだ」

喜之助は父に、正国を触らせてくれ、と頼んだ。

「ならぬ。そなたには、まだ早い。

喜之助が魚住家を継ぐ年頃になったら、この正国を改めてそなたに譲り渡そう」

そう言うと吉右衛門は正国を刀掛けには掛けず、黒い鉄の箱に鍵をかけてしまい込んだ。

そして誰にも触れられぬよう、押し入れ深く鉄箱をしまった。

喜之助はいつか正国を使いこなしてやる、と固く誓った。


   ――――――――――――――――――――――――――

 

美代と喜之助は、一緒に行動する時が多かった。

二人はお使いを頼まれ、近所に買い物に行った。

通りを曲がって裏路地に入った途端、二人は町のチンピラ三人にとり囲まれた。

美代まだ幼い喜之助を、必死になってかばっている。

「何よ、あんた達・・・」

ニヤニヤした男たちに囲まれ、美代は不安になってきた。

「お姉さん、どうだい?

俺達と付き合わねえかい?

どっちみち、暇なんだろ?」

髭を伸ばしきった、不潔な感じの男が美代に近づいてきた。

「いい子にしてたら、たんまり可愛がってやるからよ。

だけどそのガキは、置いていきな」

次は太った相撲取り風の男が、近づいてきた。

「前々から町でお前の顔を見かける度、お手合わせ願いたいと思ってたんだよ・・・。

ウヒャヒャヒャ」

顔に不気味な傷がある男が言った。

どれも、女に好かれるような感じの男ではない。

それを聞いた美代は、怒りが爆発した。

「ふざけないで!

あんた達みたいなケダモノと仲良くなるとでも思ってんの!?」

「その気が強いって言うか、芯の太さが俺の好みなんだよ」

太った男が美代に近づき、両手を握ってきた。

「今から楽しい所に案内してやっからよ」

美代は必死に抵抗しようとしたが、腕力では勝てない。

「イヤッ、放して!」

太った男は強引に引っ張り、美代に接吻しようとして顔を近づけた。

美代は思わず、顔を横にそむけた。

姉上が犯される!

喜之助は咄嗟に、大事な姉を守らねばと、怒りに燃えた。

「この汚い乞食野郎、姉上に触れるんじゃねえ!」

喜之助は太った男に突っかかると、姉と引き離そうとした。

だが所詮は大人と子供。

力では勝てるはずがない。

「おい、この小僧が目障りだ!

こっちから先に片付けるんだ!」

男三人は美代にかまうのをやめると、今度は喜之助に向かった。

喜之助はすぐに地面に張り倒されると、男三人に蹴られまくった。

弟が袋叩きにされてるのを見て、美代は叫んだ。

「きっ、喜之助!お願い、やめてぇ!」

気が済んだ三人は、喜之助を蹴るのをやめた。

「もうこれぐらいでいいだろう。

ガキにこれ以上、かまってる暇はねえ」

三人は再び、美代を取り囲んだ。

「余興は終わった。たっぷり可愛がってやるからな・・・」

頬に傷のある男が、ヨダレを垂らしながら言った。

三人と美代の背後では、喜之助がヨロヨロと立ち上がった。


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