月夜に放浪者
話を聞くと、どうやら静かに寛いでうたた寝でもしようとしていた所に運悪くタルタリヤとスカラマシュの喧騒組が通ってしまった様だった。
二人は素直に謝罪し、国同士のいざこざまでとはいかないまでも、今後スネージナヤと稲妻はフォンテーヌの配下に下る様になどと言われ、すやすやと静かに眠る甘雨までをも起こしてしまい、長い夜は喧騒と戦闘と国とファデュイとファデュイ狩りとの乱立、乱戦で更けていった。
「それで? ボクにファデュイのファトゥスーーだったっけ? ファトゥスのファデュイ? どっちかーーあ〜、もういい。そんなものを押し付けて君はどうするって言うんだ? 」
翌日ーー呼び出された夜にスカラマシュは来ていた。
丁度、世界運営の天の使いの友人が『彼女ーーあのお姉さんにお任せしようと思う。』とファデュイのファトゥスとしてスカウトする事を伝える為スカラマシュに遣いを頼み、スカラマシュとしても話が早かった。
『フォンテーヌをーー国自体を任せるかどうかは、今統治している子にも話を聞かないとーー確認を取ってみるよ! 』とも言っていたので、時間稼ぎでもあるのだろう。
「ーーさぁ? 僕は流れるまま、気の向くままさ。ーーそうだな、いつも通り放浪しよう。君の言うフォンテーヌとやらも歩きたいところだけれど、水の都を今の時期に歩いたら、夜風が冷たいからね。またにするよ。じゃあ、ーーああ、そうそう、喉をお大事に? 」
スカラマシュは衣装を翻した。
「ーーコホンッ! あぁ。大事にしよう! ーー良いのか? な? スカラマシュ! 待ってーー! 」
昨日の晩、まだ晩になったばかりの時間にあった静かな夜ーーサワサワと穏やかな風が草原の草花を揺らし、夜の匂いをフワリと香らせた。
下駄(草履)の音が遠離かっていった……。
「行っちゃった……。ーーよぉし!! こうしよう!! 」
「呼んだかな? 呼ばれた? 」
次期統治者が呼んでもいない奴ーータルタリヤが現れた。
新しい仲間のファトゥス(ファデュイ執行官)を見に来たのだ。
ーーまぁ、スカラマシュが上手く伝えられなければ、自分が言伝の代わりをするつもりで来ていた。
「公子、よう? 親父ギャグだぞそれ〜! 」
「パイモン、しっ。」
「しぃ〜……。」
「駄目か? うぅぅ……。うわぁん! オイラはもう、寝る! スヤァ、」
旅人たちに嗜められたパイモンは泣き言を喚いてから不貞寝をすると言い出した。
「スネージナヤァ〜♪ 」
タルタリヤが楽しそうに言った。
「ここはフォンテーヌ〜♪ 」
次期統治者も負けじとーーやはり楽しそうに言った。
「で、何? 俺を呼んだのは? 」
「お前を呼んだ訳ではーーない!! 良いか!! よぉく聞くんだ! 民よ! この場にいる者たちよ! このフォンテーヌーーの、次期統治者であるボクは! あのスカラマシュ、散兵の下に着く! 」
「えぇ!? 」
「うぉあええ!? 」
「大丈夫かなぁ〜? 今お付きさんが、『うおあえー』って、驚いちゃってたけど……。」
タルタリヤの言う通り、次期統治者の側近が大きく口を開けて驚いている。
「だ、だだだ、駄目っ、大丈夫!? ですか頭はっ!? 本気!? なんですかっ!? 」
次期統治者の側近だけでなくスカラマシュの側近までもが狼狽えていた。
「あぁ。放浪者くんの目を見て分かったよ。放浪者くんは嘘を吐かない。そしてファデュイは何だか危ない連中らしい……。その危ない連中の中や下にいるのも危ない。」
放浪者ーースカラマシュのことらしい。台詞で渾名を決めた様だ。
「ならば!! ーーという事で?? 」
「あぁ。ならば!! だ。」
「はあぁ……。」
側近が大きなため息を吐いた。頭に手をやっているので、頭痛もしてきたらしい……。
「仕方が、仕様が、無いーーのでしょう? 」
「えぇ。仕方も仕様も無い様です。」
「左様で。では、私は彼ーー放浪者の側近部隊の一人であるので、ならば!! の御付き様と連絡の交換等をーー……。」
座って控えていた側近2(いや3とかかもしれない)がスッと立ち上がり、サッと次期統治者の側近の前に出た。
「……。どさくさに紛れてっ!! ウチの側近を口説くなっ!! 」
「フォンテーヌの皆様の側近様!! でしたかっ!! 無念……。」
本当に残念そうに座っていた場所に戻り、またそこに座った。
「ーー本当、弱いのになぁんでアンタはアイツの側近部隊? 」
「サブアカウント故……。の様な者で……。」
側近たちにも色々とあるらしい……。
「やれやれ、本来は強いって奴? はぁ、何人そんなのが居るんだよ……。隠し事の多いスカラマシュは側近部隊まで隠し事だ。」
所謂、大人の事情というやつとか、隠密故、裏側の人間であるから等、隠し事は仕方無い。
そもそもあけすけ過ぎるくらいなのだ、この世界の住民たちは。
素性なんて幾らでも隠した方が良いものなのに……。
「タルタリヤさん、様……。」
「さん、でも良いけど、様だと嬉しいかなぁ。」
「タルタリヤ様、スカラマシュはこれより、放浪者と成ります。故、今後、名を放浪者として、お隠し下さい……。」
多分、側近の独断だろう。気に入ったのだろうか?
次期統治者の言った呼び名が……。
「はぁ? 隠す?? 隠すも何も、今までだってーー……。」
首を捻って抗議までして来そうな勢いのタルタリヤに側近は隠密らしく耳打ちした。
「え!? 嘘っ!? 本名!? あれ、本名か!?!? 」
「何語だったか……。確かにアイツの本名だぞ。」
何故かパイモンは知っていた。旅人は知らなかった様子でポーカーフェイスのまま衝撃で動揺していた。
「あの人もーー天の使いさんも、本名でそのままって言ってーーいたよ……。もう、寝て良い? おやす、み、スヤァ……。」
「スネージナヤぁ〜」
「フォンテーヌぅ〜……。眠いですね、確かに。もう休みましょう、我々もーー疲れがーー……。」
集まった者たちが次々と眠りにーー……。
「あ! アイツーー歌ってーーる、な、眠気が……。」
月に人影が映った。そう見えた。
「ルナは月ーーすやぁ。」
「お休み、すや〜♪ 」
皆が眠ると、夜空を照らす月の人影が微笑む様に笑った気がした……。
けれど、スカラマシュは、『放浪者』とは名乗らなかった。
稲妻のファデュイ執行官として、旅人たちと再会し対峙するまであとーー……。
ーー後日、散兵=スカラマシュであった放浪者は、ファデュイからもファトゥスからも姿を消した。
彼が生きているのか、死んでいるのかさえ分からない中、フォンテーヌの統治者は発言ーー宣言通りに、次期統治者がなった。それに合わせるかの様に、スネージナヤの統治者もタルタリヤとなり、更に後、スネージナヤ国境の境界戦火が激しくなる中で、タルタリヤもスネージナヤから姿を消す事になる。
二人の行く先を知っているのは、旅人達か、又はフォンテーヌのあの神かーー……。
2026.9.22




