スネージナヤとフォンテーヌ。
「ふぅ〜〜……。ここまで来れば……。大丈夫かい? 日頃の鍛錬ーー修行が足りてない? 増やそうか、スカラマシュ用の鍛錬メニュー♪ ーーとか、喜んで作ってくれるから、作って貰うと良い。あの人に。」
公子は脚が速いーー知ってはいたが、付いて走ればそれがよく理解できた。
「ーーハァ、タルタリヤ、君に合わせて走るのがーー……。いい、か。何でもない。」
脚の速いタルタリヤに同様に走って付いて行く事はスカラマシュには大変だった。そもそも歩幅が合わないのだ。そして速度も。少しでも飛び走れればもう少しは楽だっただろう。
「何でもないって事も、ないんじゃないのかな? 」
「……。」
飛び回ってしまえば、タルタリヤや周囲の様子がその速度と風圧で多少なりとも見え辛くなってしまう。
追っ手を一人で撒いても意味がない。
引き付けなければ……。ーーと、スカラマシュだけでなくタルタリヤも同じ考えを頭に過ぎらせていた。
「よっと……。やっと見つけた! 」
見つかってしまった。
メデューサを嗾けて来た張本人に。
「タルタリヤの歩幅に合わせて、タルタリヤを守りながら、闘いながら抗ったスカラマシュくんに、拍手〜〜〜♪ で、死ねぇ!!!! 」
手負いの味方と共に逃げれば誰でも同じだろう……。
相手はとても愉快そうにステージの司会者や進行役の様な口調と振る舞いで拍手をして見せたかと思えば、一転、物騒な言葉を放ち、ジェスチャーで合図した。その合図に打たれる様に敵が一斉に掛かってきた。
「いや、」
「もっと緩急は!! 」
「無いのかっ!! 」
ーー旅人たちが応戦した。
スカラマシュとタルタリヤが襲われていると聞き、駆け付けたのだ。
天の使いの友人が味方になってくれそうな者たちに声を掛け回ってくれていた。
「二人ーー、三人か? 」
「もっと居る……。」
「もっと居るよ! 」
言葉の通り、更にヒーロー登場とばかりに手助けの者たちはやって来た。
「もっと居るぜ〜♪ そして来るぜぇ〜♪ お相手さんも!! 」
敵も増えて来ていた。うじゃうじゃと沸いて出て来る様だ。
「居過ぎ……。来すぎだなぁ〜……。相棒、人徳ってやつなのか? これは……。」
「こっちの人徳じゃなくてーー……。」
旅人はチラリとスカラマシュを見た。
スカラマシュは『君の方の人望ってやつじゃないのかい? 』と言いたげに見返した。
「スカラマシュの、人界戦術〜♪ ええっと? 人界戦術って言うんだよな? こういうの、なっ!? 」
旅人に付いて回っているいつものコウモリ娘ーー妖精か精霊かが、見た目に合うキーの高い明るい声で喋った。まるで、ぬいぐるみやドールが宙に浮き動いて話しているみたいだ。
「パイモン……。大丈夫、多分、合ってる。」
聞かれた旅人は剣を前にーー距離を取ってこちらの様子を覗っている相手向かって構えながら精霊ドール本いパイモンに答えた。
旅人とパイモンはタルタリヤの動きが悪い事に気づいてスカラマシュに話を振ったのだ。タルタリヤはもしかしたら怪我をしているーーそれか、調子が悪い状態だと判断した。
「友達の友達は友達〜? スカラマシュ、やっぱり相棒に戻らない? 君のその人に好かれて来られるは、使えると思うんだよなぁ〜……。っと!! おっと!! 」
しかし、あまり旅人やパイモンに目を向けさせる訳にもいかなかった。男の意地としても。
タルタリヤがスカラマシュに向かって言った。スカラマシュはタルタリヤが態と敵から視線を離した事に気づいている。ーーと、直ぐに敵がその作られた隙に飛び込んで来た。
「余所見をするなっ!! 」
自分に向かって突進し突っ込んで来る敵の攻撃をスレスレで躱す。
「余所見、本当、余所見ばかりだな? タルタリヤ。」
「ニ対一〜? 多勢に無勢……。誰か助けてくれないの〜? 」
普段なら助けに入るスカラマシュや助けを呼んでくれた友人は、それぞれに敵と対峙していた。
旅人もメデューサに苦戦している様だった。
その状態ーー戦況を目の当たりにして、タルタリヤはハッとした。自分も普段ならこんな状況は把握しながら戦えているのに、だ。
油断? ーーいや違う、これは……。
「ファデュイだしな。」
「公子はーーファトゥス……。」
助けに集まった者たちが口々に言った言葉でタルタリヤの思考は一度霧散した。
そう、タルタリヤたちはファデュイという組織のファトゥスーー執行官だ。
故にこれくらいで梃子摺っている場合ではない。ーー否、先刻のメデューサの眼光攻撃からスカラマシュを庇い転げた際に、体を痛めていた。そしてそれは人形の躰であるスカラマシュもだった。
躰だけではなく、身に着けている神の目にメデューサの眼光攻撃が当たり、ヒビ割れていた。
そのヒビは動く度にーー時間と共に広がっていく……。
旅人たちは、その事に気づき緊張を走らせていた。
「助けようか? タルタリヤ、」
兎に角、スカラマシュから目を離させようーーと、来た時とは逆に旅人はタルタリヤに声を掛けた。
「相棒〜♪ 」
口調とは裏腹に、タルタリヤに余裕は無さそうだ。
旅人がタルタリヤと会話をしているその隙に、パイモンがヒビ割れた神の目をパッとスカラマシュの衣装から取り外し、両手に隠した。
手負いと神の目のヒビーー、こんな状況にどんな説明を貰えれば納得ができるだろうか? ーー旅人は逡巡した。
「この状況、納得のいく理由をくれたら! 」
「…………。一筋縄では、いかない、か……。」
タルタリヤは『ふぅ、やれやれ、』と息を吐き、項垂れて首を振った。
どうにか状況を打開しなければならない。
「両手に花! だね〜? どっちも、何処で口説いたの〜? 」
「口説いたんじゃなくて、付いて来られたのと!! あとはーー……。」
よく話して、何だか分からないけど目を離しちゃいけないと感じたスカラマシュ……。タルタリヤは初見からこの自分の顔よりも頭一つ分くらい背の低い、小柄な機械人形のスカラマシュがスカラマシュと名付けられる前から気になっていた。
『君のその『気になる』は僕が機械人形だからだ。物珍しさだろう? 』、『小さい者、弱き者を助けるーー君はヒーロー思考なのさ。』ーー等と散々、スカラマシュに言われてしまった。
運命的な何かじゃない、と。
けれど、タルタリヤには運命的だと思えたのだ。
例えば兄弟、例えば幼馴染み、例えば親子ーー……。そういった魂の絆の様な、消せない縁の様なそういうものだと……。
「フン、ーー今日は帰るよ。人が多くなったからね……。」
タルタリヤの視線や感情の揺らぎに飲み込まれてしまわない為にも、スカラマシュは背を向けた。
背を向ける前に、タルタリヤと視線を合わせてから。
「うわっ、ーー本当に帰るんだ……。益々それっぽい……。モノホンの生物、っぽい! 」
スカラマシュに対してだろう。噂が広まっている。どうやら人形の躰だという事までも……。
「『うわっ』? 君は何なんだ? いきなり乱入して来て……。ああ、ファデュイ狩りか? 」
「如何にも。そうだよ♪ だから死ねっ!! 」
ファデュイ狩りだった。『有名になったものだ』とファデュイに属する者たちは嘆息した。
「『死ね』『死ね』って、さっきから物騒……。」
「物騒なのは良いんだもん。ーーだって、こんな夜だから! 」
いつの間にか星々さえ飲み込まれそうな程に深黒となっていたーー深黒の夜更けは、確かに魔に掬われそうでもあった。
怪異やホラーは夜に起こる。だから、良い子は夜に出歩かない。
「聞こうか。君が何故、如何して俺たちに襲い掛かって来たのか。」
このままではーーこの乱闘騒ぎでは埒が明かないと、タルタリヤは核心を突く事にした。
「うん? ーータルタリヤ、もしかして、初めて会った相手か? 」
スカラマシュはてっきり、またタルタリヤが何処かで引っ掛けて来て厄介事になったのかと思っていた。
「ーーそう、だよ。初見で初見の誰だか……。スカラマシュこそ? 心当たり無い? 」
タルタリヤはタルタリヤで、スカラマシュの怨恨か何かかと考えていた。
「………………。無いな。初見初見、誰だかさん? 何故僕たちを襲って来たんだ? 」
「初見? 初見? 誰だか? ーー此方からも言わせて頂こう。このフォンテーヌに、一体何用で足を踏み入れたのかを! 」
国境の守り人ーー番人であるなら、不自然ではない。当たり前の行動だった。
寧ろその国境に足を踏み入れた側がいけないのだ。
「ーーうっわ!? フォンテーヌ!? 足を踏みいれてた!? 」
暫しポカンとしてしまっていたタルタリヤが我に返り、素で驚きの声を上げた。
「ヤバイな……。」
「不味い事になった。」
騒ぎになればなる程、人が集まって来る訳である。不正入国者ーーと見なされてしまっているのだから。
「ふぉんーーシフォンケーキ?? 」
「ガチかスカラマシュ!?!? 」
スカラマシュのボケとも取れる言葉ーー誰ともなく、その失言に目を丸くする。因みにスカラマシュはシフォンケーキが食べたくなってきている。
「テリーヌ? の方が似てない? か……。」
シフォンケーキにテリーヌーー不意打ちのスイーツの羅列にフォンテーヌが美味しそうに思えてくる。
「まだテリーヌの方だな! ーーじゃなくて、オイラも初めて聞いたぞ!? 何なんだ!? お前は一体……。」
まだフォンテーヌを知らない者たちは、パイモンに同意し、和まざるを得なかった。
「第三勢力か……。」
「国だな。フォンテーヌ、は稲妻と同じく、国家だろう。」
稲妻はあのお姫様ーー雷電将軍が治めている国だ。スカラマシュもタルタリヤも少し前までその国を拠点に活動していた。
ーーフォンテーヌといえば龍神が治めている国だったはずだ。小難しそうなあの美形の……。
「如何にも! このボクが統治するフォンテーヌはーーえ〜……。あ〜……。ゴホンッ! ボクがいずれ統治するであろうフォンテーヌは、水の都だ。」
しかし、またステージにでも立っているかの様な振る舞いで、見慣れない人物はそう宣った。
「! 」
「水の都!! ーーか!! 」
スカラマシュは水の都でシフォンケーキとテリーヌを食べようと決めた。後に小話にでもできそうだからだ。
「そうそう、その通り正解〜♪ 」
水の都でピンと来たらしい者に対して、いずれその水の都を統治する主(自称)は『その国で正解』といった意味で肯定した。
「可笑しいなぁーー? フォンテーヌ、水の都はーー……。他の子が統治しているはずだよ。お姉さんは何者で誰? 」
スカラマシュたちの友人がファトゥスらしく言った。この世界の運営でもある友人が知らないという事は、何処かで密に決められた事か、単なる自警団の様なものだろうか。
「ン、ン、ゴホンッ! ーー先にも言った通り、いずれ統治する、だ。分かったらーー分かろうな、平民、民たちよ! 」
どちらでもなかった。次期統治者ーーという事は、現統治者の何かである確立が高い。が、雰囲気からはそう見受けることができなかった。
「やばいや。」
「頭が逝ってる人、かぁ〜……。」
「測ろうか? なぁ? 」
次期統治者は早速背の低さを馬鹿にされていた。
「う〜ん、どうしよう? 」
「ーー……。」
「どさくさに紛れてーー帰すかっ! スカラマシュ〜、悪い癖だぞぉ〜? いっつも和を乱す〜ーーお兄さんは、スカラマシュにも協調性を持って欲しい。で、あの新しい新入りのお姉さんを何とかして!! 」
事態を大体把握し、すっかり気を抜いたタルタリヤは帰ろうとする(本当は現統治者に話を聞きに行こうとしていた)スカラマシュを掴まえ、解決を懇願した。
『こういった案件は元相棒ーースカラマシュが得意案件だ』とタルタリヤは常日頃からそう思っているのだ。
「…………。」
「…………。」
「ーーーーコホンッ! 」
顔を見合い沈黙の空気に堪えられなくなった次期統治者候補(?)が大きな咳払いをした。
「それは喉に良くないから止めた方が良い。」
「あ、やっぱそう思う? やっぱり? ーーやれ、みたいにさ〜……。」
スカラマシュの一言で瞬時に心を開いた様子に、タルタリヤだけではなく周囲までもが『スカラマシュに話し掛けられるとやっぱりこうなる』と納得や確信をされてしまった。ーーメデューサなどの敵にまでも……。
「…………。タルタリヤ、」
「ん〜? 何かなぁ、嫌な予感! 」
スカラマシュの目配せに背を向け駆け出したタルタリヤはそこからの逃走を試みた。が、体は走る度にギシギシと痛み、思う様に動かせず、いつもの俊敏さを出せない。
「今度はタルタリヤか!! 逃げるな!! 」
「立ち向かえ!! 両手に花野郎!! 」
タルタリヤに向かって野次が飛んだ。ーースカラマシュの時はこんなそんな暴言もストップも無かったじゃん! とタルタリヤは抗議したくなった。しかし、それよりもまず、気にする言葉が出てきていた。
「えぇ〜〜? 両手に花ぁ〜? 」
「ーーどっちも男の子だよぉ? 」
『どっちも? 』『どの男子たちだ? 』という目に、度々出会うスカラマシュと目を合わせ、ニコッと笑ったのはスカラマシュよりもずっと小柄な男の子だった。
「おお〜! 我が弟! 良い所に〜! ーー早く寝ような? 夜は、こういう奴等がーーいて危ないからなっ? 」
いつまでも帰って来ないタルタリヤに痺れを切らしたか、心配して見に来たか、ーーその両方か。
タルタリヤの弟が登場した。パイモンくらいに小さいがパイモンよりは背が高そうだ。
「タルタリヤお兄ちゃん、どっちの方が危ないの? あの二人は! 」
「な……。」
「んーー!? 」
タルタリヤの弟は次期統治者候補と旅人を指して聞いた。旅人を危険視? ーーと半数は疑問に思い、半数は納得といった様子で頷いたりした。
「あ、はは〜……。どっちもかな!? 逃げる!! ぞっ!! 」
危ないとされた二人が攻撃の構えを取っていた。
それに気づき素早く弟の手を取り走り出したが、直ぐに膝を付いてしまうタルタリヤーー傷が痛む様だ。これは早く治さないといけない、と傷口を押さえた。しかし、外傷ではなく内傷らしいその傷口を見て取れない周囲は、首を傾けた。弟は不思議がり、攻撃を受けたのかとタルタリヤの背を確認していた。
「あ!! 公子が逃げるっ!! 一人で狡いぞ〜!! オイラ達だって逃げたい、あ!! 新入りって言ってたぞ!? さてはお前もファデュイだな? そうなんだろ!? ファトゥス!! 」
パイモンが何故か大袈裟に引き留めようと声を上げた。自分たちだけでは怖いのだろうか? 夜更けでもあるし……。
「ファデュイ? ファトゥス? ーー聞いた事が無ーーコホンッ! い、如何にも! だ。」
次期統治者候補は、はぐらかした上に嘯いた。
ファデュイだと自警団ではないな。次期統治者にはなれなくもないーーと、つい現ファトゥスたちが仕事モード入って思考を回してしまった。
「おい今ーー」
「あぁ。今、」
新入り(とかいう奴)の側近(お供)とパイモンがタルタリヤとスカラマシュがこれで逃げない逃げられないって耳打ちしていたーー!! と、全員ぐらいで心内を一致させた。
ーーこの時、パイモンが手に持って隠した神の目をファトゥス執行官のスカラマシュに返し忘れて持ち帰ってしまい、行方の知れなくなったスカラマシュの消息を聞きに雷電将軍の所へ行き、"神の目を直して欲しいーー直せなくても、取り敢えず雷電将軍にスカラマシュの神の目を預けたい。スカラマシュが来たら渡して欲しい"と願うと、雷電将軍は神の目が壊れている事やスカラマシュが消息を絶っている事に怒りのオーラを発し、旅人とパイモンに『壊れた神の目を直す事』と『スカラマシュの行方を探し出す事』を言い付けられる。(命ぜられてしまう……。)
ーーが、入れ違いに帰って来た(旅人たちの様子を窺い気づかれない様に尾行していた)スカラマシュとタルタリヤを、雷電将軍はメンテナンスと傷の治癒の為に城に隠し匿う事にした。
旅の途中でトラブルは付きものーー旅人とパイモンには数々の試練や願いや依頼が来る。
傷の癒えたタルタリヤは一度家に帰ることーー帰郷を望み、メンテナンスを終えたスカラマシュはファトゥスらしく、いつまでも戻ってこない神の目を取り返す名目で、それぞれ稲妻を出る。
運命の歯車はこうして、各々の行く道を交錯させていったのだったーー……。
2026.9.22




