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ファトゥスのファデュイ。

「ごめん、君は敵側になりそうーー割当てなんだけどね、」


言い辛そうにしていた口が開いた。


顔を曇らせているので、何かあったらしい。ーー敵側? 割り当て……。


「隠さず話して欲しいな。それとも、それを話すくらいで、僕たちの友情や関係にヒビが入るっていうくらい、隠さなければいけないことなのかな? 」


「ーーへへっ、崩れたって良いや。スカラマシュくん、僕はね? 」


友人はパッと表情を変え、いつもの照れ笑いの様な明るい笑顔と口調に切り変わった。


僕は胸を撫で下ろす。


「君は皆の愛すべきーー皆に愛される君だろう? 」


愛されキャラなのだ。誰からも好かれ、誰もが心開いてしまう様な。


「…………。スカラマシュくんって怖い。」


「僕は怖いよ? だから、次の言葉には気をつけた方が良い。ーーなんて、君が何を言っても、僕は許してしまえそうだけど。」


怖い、と言われたので態と戯けて見せた。


「更に怖いや。えへへ、照れるな。ーーーー正直に話すよ。ぼくたちは、ファトゥスなんだ。ファデュイだよ! 」


楽しそうに話すその姿で、さっきまでの鬱々しさは無くなったが、また聞き慣れない言葉が並べられた。ーーいや、最近、少し前に聞いた様な言葉の羅列だ。


ファトゥス? ファデュイ? ーー……。


「確かーータルタリヤが、公子とかっていうのをやっているっていう? 」


タルタリヤーーあのいつもいつも同じ場所に立っていて、僕に話し掛けてくる青年……。心はまだ少年みたいなキラキラしたところが見受けられて、眩しいヒーローみたいな奴だと形容されそうなものだと思えば、年相応の気難しさや爽やかなお兄さん風を吹かす様な、そういう人物。


そのタルタリヤが話していた。


「そうだよ。話が早いや。」


「ーー僕はタルタリヤと仲間になれば良いって訳か。」


「そうだよ、相棒! ーーあぁ、じゃなかった、……。相棒は変わったんだった……。」


噂をすればーー不意に急に現れたファトゥス、ファデュイの公子。姿は変わらず爽やかなお兄さん風だ。


罰の悪そうな、難しそうな顔をするタルタリヤの言う通り相棒は新しく来た双子のあの子に変わったがーー……。新しく来たといっても、もう馴染んだ顔だ。

馴染みの顔という程にはこの世界に来て刻が経っている。


「そうだね。」


『相棒が変わった』と言うタルタリヤのその言葉をピシャリでもなく、スルリと肯定した。


「ーーそう、旅人のあの子に変わったよね? 」


友人は何かピンと来た様だったが、心に留めるだけの様子だ。


「あああ! 怒らないでくれ! よ〜〜〜! スカラマシュ、スカラマシュだって大事なーー……。ちょっと待て? 待ってよ? スカラマシュ、今妬いた? やきもち?? 」


何を言っているのか。


「彼は放って話を進めようか。」


宣っている公子は放って。


「ああ。ファデュイのファトゥスだったね? 」


「逆かな。ファトゥスのファデュイ。」


「あれ? ファデュイって組織のファトゥスという幹部たちじゃなかった? 」


「あれ? よく知ってるや。ーーでもね、ぼくはファトゥスの為のファデュイだと思っているから。ーーごめん、こんがらがった事、内緒にしておいて? 」


こういうところだろう。


友人が愛されキャラたる主たる理由は。


「自分で言ってる。」


「自分で言ってしまっているよ? 」


「うん。言ったけど、ここにいる皆だけの秘密に。ね? 内緒、に。」


自身で自ら『こんがらがった』と言ってしまった友人は照れながら恥ずかしそうに念を押してきた。


こういうところもだろう。


「ーーどうする? 相ーーぅ……。スカラマシュ? 」


「"くん"も"さん"も"様"も無しか? 」


スカラマシュの側近部隊の一人が威嚇する様に威圧した。


この側近部隊も友人が連れて来た。箔を付けたいとか何とかーー……。


「お前達なんかより、ずっと長くて深い付き合いだ! ーーどうだい? 羨ましいだろ〜う? 」


タルタリヤが大袈裟に揶揄っーー煽った。


「くっ!! 」


本気で悔しがっているらしい側近部隊の一人。


「あ、羨ましがってくれているね。フフン、気分が良いよ。僕は今、タルタリヤのお陰で気分が良くなったから、くんもさんも様も、何も付けないで呼び捨てにした事も、これから呼び捨てで呼ぶ事もーーいや、これからはまたにしようか。」


「ええ〜!? 今OK出すところだったでしょう? 」


言葉の最後に思い直した僕に、タルタリヤは今度は戯けている様でーー素だろうな。素で残念がった。


「あはは、面白いや。」


「面白いですね♪ 皆さんーーあ、……。えっと、ごめんなさい……。」


友人が楽しそうに言うと、隣に居たドラゴンの子も同じ様に笑顔で言ったが、直ぐに眉をへの字に下げて謝った。


「誰も怒らないよ、大丈夫。」


「怒り、ませんかーー? 誰方も? 」


とても優しい声で、気遣う友人。すごく大切な子だと聞いている。友人の態度に正にそれが出ていた。


友人の励ましの言葉にドラゴンの子はおずおずと遠慮がちに周りを見渡した。


「特に? 怒る様なことも? 」


「無いんじゃないかなぁ〜? ほら! やっぱり、タイミングも気も合う! 相棒! ーーあ〜、元相棒のスカラマシュ! 」


「ーーさんを付けて貰おうか。公子? 」


今、"元"と態々付け加えて言い直す必要はあったのかい?


「ああ〜、また振り出しに戻った……。はぁ、いつになったらスカラマシュは心を開いて相棒に戻ってくれるんだろうな〜? 」


「君が相棒ってしなくなった、相棒って言わなくなったって聞いてるよ? ぼくはね。」


「私もです。」


「えぇ〜? 甘雨ちゃんにまで話した? スカラマシュ〜、ーーちょっと。」


「? 何だーーいた!? 」


タルタリヤに小突かれた。


「はははっ! 『何だい? 』なんて、古臭い言葉遣いだなぁ! そういえば、姿、服装も見た目も古臭い。古臭いな、スカラマシュ。元相棒! 」


「〜〜〜〜、仕返しか!? 」


「あ、スカラマシュくんに言ってなかった。この子、甘雨はファデュイでもファトゥスでもないから……。あぁ、それで? それでスカラマシュくんに? 公子? 」


ドラゴンの子の名前だ。運良くも、命名のその場に僕は居合わせ、友人が命名し、友人に命名されたことを喜ぶ甘雨のその感動的なシーンを見る事ができた。


世界の全てがこうであったら良いと、そう思った。


「ーーほら見ろ、あの人まで"公子"って呼ぶ様になった! 伝染するんだ、スカラマシュの言葉遣いは! 」


公子が煩い。人が感動シーンの回想に浸っているというのに……。


「フンッ、ーー知らないよ。僕のせいじゃない。ーー僕のせいじゃないさ……。」


「…………。はぁ〜〜〜〜〜あ。仕方無い。百歩譲って"スカラマシュくん"としよう。これ以上は譲れない。」


「なら"くん"なんて付けなくて良いさ。ーーもう付けられても違和感だよ。公子、タルタリヤ。」


「"さん"を付けてくれても良いかな。」


タルタリヤが言い返してきた。折角名前呼びに直しても、『許してやらない』、『仕返しだ』、という訳だ。


「フン、ーー付けられたければ、僕に先輩らしい姿を見せてくれないかな? 」


「カナカナカナカナって鳴くの、いたよね? 」


「いますね♪ 」


少し外側で寛ぎ始めそうな雰囲気の二人と、直ぐにでもバトルを始め出しそうな僕らは対照的だろう……。


二人の平和はいつ見ても良いーー心を癒すものだ。


「遣り合うなら、ーー少しぼく達は離れてーーと、遣り合えるようにするよ! さぁ、存分に! 」


これはバトル展開になりそうだ!と気づいた友人が僕らから離れた。


そして、僕らがバトルできる設定に切り替えた。普段は傷付け合わない様にと敵ではなく仲間仕様になっている。


その仕様が切り替えられたのだ。


これで、僕らを縛り留める楔は全て外された。


「へぇ? 僕と遣るのか、タルタリヤ? 」


「嘘だろ? えーー!? スカラマシュと!? 」


背の高い元相棒を見上げて言うと、意外にも狼狽えられた。この流れにはならないと思っていたのかもしれない。


「先手必勝、決めさせて貰ったよ。」


「うわあああああっ!? 」


ーーが、タルタリヤの狼狽えに気を取られる事もせず、僕は風を旋回させて公子を宙に舞わせた。


殺し合いたい訳じゃないから、斬りつける様な攻撃はしないーーまぁ、この後に公子が剣で僕に斬り掛かってきたら話は変わるけれど……。


「いっ痛〜〜〜〜……。手加減とか……。」


「しないな? 」


「して欲しかった、なっ!!!! 」


向かってきた。瞬時に両手に剣(ソード)を装備した公子が。


「ーーふぅん、へぇ? 怒ったね? タルタリヤ」


「タルタリヤ、"さん"!! 」


本当に吹っ切れた様子で向かってくる公子ーータルタリヤ。


『これは今後の展開に使えそうだ』と、友人が記録し始めた。


「面白い。僕に勝てても、ーー言ってはやらないさ!! 」


僕も役らしく、少し気を張って、バトルを楽しむ事にした。


「ーーまるで幼馴染の様な二人。ねぇ? どっちが勝つと思う? ってあらぁ〜? 寝ちゃった。寝ちゃってるや、ぼくの大事な仲間の甘雨……。よしよし、眠いね。お疲れ様。」


やはり優しく、暖かい温もりのある声と眼差しで、友人は甘雨の頭を柔らかく撫でた。


「ーーーー、遠くに行こう! スカラマシュ。」


公子ーータルタリヤも、友人が運営であり、ファデュイであり、ファトゥスである事を理解している。そして、その意味も。


友人の怒りに触れるのは、僕でも遠慮したい。


友人の大切な"平和の似合う甘雨の様な愛らしいドラゴン"の、ひと時の安息でも邪魔しようものならーー……。


「ーーそうだね。静かな夜に気持ちの良い夜風だ……。僕たちみたいな喧騒は、もっと見合った場所にしよう。」


「冴えてきたな? 言語がしっかりしている。」


半分は正解だ。もう半分は、"役として在る"という事に気を遣い始めたからだ。頭も回すさ。


これがそのまま、物語《ストーリー》になるかもしれないのだから……。


「夜は長い。月も出ている。」


辺りは真っ暗になっていた。ーーといっても、月や星が瞬いて明るさと平穏を湛えている。


「あぁーーごらん? 実に綺麗な月だよ、スカラマシュ? 」


本当に綺麗な夜空だ。この世界の夜空は星が多く輝き、月が自ら光っているかの様に美しい。


「へへ、タルタリヤが口説いているや。ぼくも君をーー口説こうかな? 甘雨、今日の月は綺麗なんだ。夢で君も見れると良いーー見られていると良いな……。」


平穏と平和が満たされていた。


僕らはそこから離れていて良かった……。


「赤くなってやったりしないさ。ーー男の僕にわざわざ言うなんて、嫌味だろう? タルタリヤ! 」


僕は頭を切り替え、バトルに戻った。


僕らに、もう平穏や平和は過ぎ去った過去だ。二人の様に若くもないーータルタリヤはまだ若いと口では言っているが。見栄を張って、虚勢を張って、そうしている内に、自身も周りも見えなくなっていった。


「ッ、ーーバレたかぁ〜。」


今の戯ける様な姿は、ピエロに成り果てた後、友人が声を掛けた事で変わったからだ。


運命も、人生も、ーー性格さえも。


その変化に、この世界《ワールド》で僕と出逢った事も一因だとタルタリヤは言う。


「バレバレだよ、本気になったらどうだ? 」


切れ掛けていたが冷静さを取り戻した公子は、いつもの慎重さが窺えるーーしかし、それでは僕には退屈なくらいだ。


「ーーそっちこそ! ーー本気になって、こっちを、見ろ!! 」


タルタリヤの攻撃をーー剣を手で止め睨み合う。

力は譲らず互角というところか、いや、躰が人形な分、僕の方が火事場の馬鹿力を人間にある様なリミッターを無視して出せる分には強い様だ。


キィン、バシュッ!


「!? 」


金属音の様な、機械音の様な、または何かの楽器が鳴った様な、そんな音と共に、飛び跳ね着地した友人の足元が焼かれた。


「ーーーー痛ぁ〜……。あの子の能力なんだ。知ってる? 目を合わせたらってやつ……。」


視界の外れに少し見えていたが、攻撃は受けていないはずだ。急に動くと体を痛める体質だと聞いている。


友人が飛び跳ねていなければ、二人諸共攻撃されていただろう……。


直ぐ様友人は相手の目標を自分にーーターゲットロックさせた。甘雨に被害がないように。メデューサの危険な目が向かないように。


「メデューサか? 」


姿を確認すると、その通りだった。


「近いよ……。あの子と目を合わせたら! 目を合わせないで!! 二人共!! 逃げてっ!! 」


友人が注意を呼び掛けるーーその注意に素直に応じ直ぐに僕らはその場から走った。


こっちを追い掛けてくるように、きっとそうしてくれるはずだ。


友人は今、眠っている甘雨と居る。この後で、僕らがメデューサを何とかした後に『ごめんね、君たちを囮にさせて貰っちゃった』なんて少ししょぼんとしながら友人は言うだろう。僕らはそれをよく知っている。


「逃げーーられるかなぁ〜? スカラマシュっ!! 」


「なーー!? 」


平行に逃げていると、タルタリヤが不意に真横にいる僕に攻撃を仕掛けてきた。攻撃ではなく体当たり( タックル)だった。強い体当たり(タックル)を受け止め切れずに、タルタリヤごと川の縁に隣接する草原の斜面を転げた。


「メデューサの眼光が飛んで来てたかい? 」


「あぁ……。危ない所だった……。」


沈黙ーー、虫の鳴き声と静かな風、草原の草花に夜の匂い……。


見上げれば、やはり綺麗な夜空が広がっていた。


タルタリヤの整った顔もすぐ近くにあった。一緒にそのまま転げて来たからだ。


ーー公子といつ迄も遣り合っていたら、朝にもなるだろうか?


少しぼうっと、考えてしまったのは、頭か体を打ったからかもしれない。それから、タルタリヤも直ぐには体を起こせない様子だった。


仰向けに倒れたまま、束の間、ぼんやりとしていた。

2026.9.22

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