プロローグ / スカラマシュ
ソワソワしている友人ーーこの世界の運営であるその子は古くからの知人で、よく話すようになってから友人になった。
僕は放浪者。
旅をしているって訳じゃない。僕は忙しい。
だけど、今は流れ着いて、この場所にいるーー流れ着くと言えば、あの双子……。
あれから、どうしているだろうね?
― ―― ― ―― ― ―― ― ―― ― ―― ― ―― ―
「頼みたいんだ。」
「それはわかったけど、本当に? 」
いつもの場所、いつもの顔触れ、ーーけれどいつもよりソワソワしていた友人に、そのソワソワの理由を聞くと、僕は頼み事をされた。
「うん、君が良いんだ。名前はーーそうだね、まだ決められない。決まったら伝えるよ。」
ワクワクした気持ちを抑えられない様子で立ち上がって、彼は僕を見下ろした。屈託の無い笑顔。彼は誰からも好かれている。彼と旅をするドラゴンの彼女もーーいつもは横で眠ってしまっているが、今日はきちんと座っていた。
「この名前じゃ駄目なの? 」
駄目な事は明白だった。今の名前は昔の名前で、更には人違いされそうで、ややこしくなりそうだからだ。
「駄目ーーかも分からない。どうだか。」
「わかった。」
きっぱり『駄目』、とは言われなかった。彼は天然で、頭も良く博識だが、疎い事柄もある。人の名前なんかがその様だ。
この世界を創っている神様やその神様の天の使いたちは、たまにこうして、スカウトに来るーーらしい。
そして、それは自分にも。
「名前、決まったよ! 」
嬉しそうな声と笑顔で、彼は本当に伝えに来てくれた。
「へぇ? どんな名前? ドドコ? 」
少年と旅をしている火吹きの小さなドラゴンの子供が、僕をそう呼ぶんだ。
「ドドコはーーへへっ、あの子からの大事な君への愛称別称だよ。そうじゃなくて、君はそのまま! 」
彼は愛称別称を付けられた僕本人より嬉しそうに話し、けれどそれは僕には嫌じゃなかった。
ーー名前はそのまま?
「うん? 」
「スカラマシュ。」
今の名前で大丈夫だったってこと? ーーと、聞こうとしたら、聞き慣れない言葉を告げられた。
「すからーーましゅ? 」
「片仮名が良いかも。ね、片仮名で。言ってみて? 」
今日は隣に別の友人が居た。その友人が僕に子供に言う様な、恋人に言う様な、そんないつもの口調で言った。
「ーースカラマシュ、僕は、スカラマシュ、だ……。」
「? しっくりこない? 」
名前を伝えに来た彼が、表情を少しだけ曇らせて聞いてきた。
「ううん、ーー聞き慣れない言語と、あと、そのままって言うのは? 」
今の名前とは、全く別だ。何が"そのまま"なのかーー……。
「へへへっ、日本語じゃないんだ。それがヒント! 」
彼はまた明るい笑顔で、なぞなぞを出した。
「ーー相変わらずだな、君は。」
「君もね! 」
こうして、神様と思うような天使の友人は、僕に名前を伝えた。
スカラマシュ。
これから僕は、"スカラマシュ"として生きて、この世界を歩くーー……。
2026.9.21




