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旅する先生と、世界の教室  作者: 最後に残った形


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第18章 第3話:病院の授業――窓の外の運動会


 病室の窓の外から、太鼓の音が聞こえた。


 どん、どん、どん。


 少し遅れて、笛の音。


 それから、子どもたちの声。


 光は、ベッドの上で膝を抱えたまま、カーテンの隙間を見ていた。


 病院の五階。


 小児病棟の窓からは、少し離れた場所にある小学校の校庭が見える。赤白のテント。ラインを引いた白い粉。校庭の端に並べられたカラーコーン。遠すぎて顔までは見えないけれど、子どもたちが列になって動いているのはわかった。


 運動会の練習だった。


 光が通っていた小学校の運動会も、もうすぐだ。


 本当なら、今年はリレーの選手に選ばれていた。


 四年生の時から、ずっとなりたかった。


 足が速い方ではなかったけれど、今年の春、毎朝少しずつ走って、タイムを縮めた。体育の授業で初めて名前を呼ばれた時、胸が熱くなった。


 なのに、今は病室にいる。


 白いシーツ。


 点滴台。


 消毒液の匂い。


 廊下を行き来する看護師の靴音。


 規則正しく鳴る機械の音。


 窓の外では、誰かが走っている。


 自分だけが止まっている。


 光は、枕元に置かれた運動会のプログラムを裏返した。


 担任の先生が届けてくれたものだった。


 表紙には、クラスのみんなのメッセージが書かれている。


『光、待ってるよ』

『リレーがんばる』

『退院したらまたサッカーしよう』

『病院でも応援してて』


 最初に読んだ時は嬉しかった。


 でも、何度も見るうちに、少し苦しくなった。


 待ってる。


 がんばる。


 応援してて。


 みんなは校庭にいる。


 自分は窓のこちら側にいる。


 応援しててと言われても、何をすればいいのかわからない。


 病室の扉が軽くノックされた。


「光くん、入ってもいい?」


 病院内学級の片瀬先生だった。


 やわらかいベージュのカーディガンを着て、腕には教材の入ったファイルを抱えている。


「今日、教室に来られそう?」


 光は、窓の外を見たまま首を横に振った。


「無理」


「体調、つらい?」


「別に」


「じゃあ、病室で少しだけやる?」


「やらない」


 自分でも、声が尖っているのがわかった。


 片瀬先生は、すぐに叱らなかった。


 病院内学級の先生は、いつも少し待つ。


 けれど今日は、その待たれる感じも嫌だった。


「漢字のプリント、昨日の続きだけでも」


「やらない」


「算数は?」


「やらない」


 光は、窓の外から聞こえる声を聞いていた。


 どん、どん、どん。


 応援団の太鼓。


 きっと今、赤組と白組に分かれて練習している。


 自分の席は、教室の窓際の三列目だ。


 机の横には、体育着袋がかかっているはずだった。


 リレーのバトン練習も、もう始まっているだろう。


 光の代わりには、誰が走るのだろう。


 考えたくないのに、考えてしまう。


「先生」


 光は、低い声で言った。


「走れないなら、運動会なんて僕には関係ないですよね」


 片瀬先生は言葉を失った。


 そんなことはない、と言いたかった。


 でも、そう言っても光の気持ちには届かない気がした。


 光にとって、運動会は走る場所だった。


 今、その場所から離れている。


 病院内学級で課題を進めることは大切だ。


 学習の遅れを少しでも少なくしたい。


 学校に戻った時、困らないようにしたい。


 片瀬先生はずっとそう思ってきた。


 けれど、光が窓の外の運動会の音を聞くたびに沈んでいくことには気づいていた。


 遅れを取り戻すだけでは、この子の今には届いていないのかもしれない。


 その時、病室の入口に一人の先生が立っていた。


 黒い上着に、使い込まれた革の鞄。


 白瀬灯理。


 病院内学級と地域の学校をつなぐ授業の助言者として来ている先生だった。


 灯理は、窓の外の校庭の音と、ベッドの上の光を見た。


 そして、静かに言った。


「うん。では、行事に参加することは、同じ場所で同じことをすることだけなのでしょうか」


 光は、少しだけ顔を上げた。


「走れないんですよ」


「はい」


「校庭にも行けない」


「はい」


「じゃあ、参加してないじゃないですか」


 灯理は、すぐには否定しなかった。


 ただ、窓の方へ歩き、カーテンを少し開けた。


 遠くの校庭から、また太鼓の音が届く。


「音は、ここまで届いていますね」


「聞こえるだけです」


「はい。では、その聞こえるものを、学びの入口にしてみませんか」


 翌日、光はしぶしぶ病院内学級の教室へ向かった。


 教室といっても、病棟の一角にある小さな部屋だった。


 机は四つ。


 本棚には、学年の違う教科書や絵本が並んでいる。壁には、入院している子どもたちが描いた絵が貼られていた。窓辺には、小さな鉢植えが置かれている。


 片瀬先生が、机の上に一枚のワークシートを置いた。


 上には、こう書いてあった。


『窓の外から運動会を学ぶ』


 光は、眉を寄せた。


「何これ」


 灯理が、隣の机に座った。


「今日は、運動会を走る人だけの行事としてではなく、いろいろな役割から見てみます」


 ワークシートには、いくつかの欄があった。


『病室から見えるもの』

『聞こえる音』

『運動会を支える人』

『参加できないけれど関われること』

『友だちに届けたいこと』

『今の自分にできる役割』


 光は、鉛筆を持たなかった。


「走れないのに、役割なんてない」


 灯理は頷いた。


「そう感じているのですね」


「だって、リレー出るはずだった」


「はい」


「バトン練習もしたかった」


「はい」


「僕がいなくても、みんなは普通に練習してる」


 声が少し震えた。


「僕だけ置いていかれてる」


 片瀬先生は、光の言葉を聞きながら胸が痛んだ。


 今まで、自分は「学習の遅れ」を気にしていた。


 でも、光が感じているのは、学習だけの遅れではない。


 教室。


 校庭。


 友だち。


 行事。


 自分の席。


 その全部から置いていかれる感覚だった。


 灯理は、光のワークシートの一番上を指した。


「まず、見えるものと聞こえるものだけ書いてみませんか。気持ちは書かなくてもいいです」


 光は、しばらく黙っていた。


 やがて、窓の方を見た。


 病院内学級の窓からも、小学校の校庭が少し見える。


 遠くに、赤いテント。


 白いライン。


 旗。


 走る人影。


 光は、鉛筆を取った。


『赤いテント』

『白いライン』

『旗』

『太鼓』

『笛』

『先生の声』

『走る音は聞こえない』


 最後の一文を書いて、少し胸が痛くなった。


 走る音は聞こえない。


 でも、自分はその音を知っている。


 運動靴が砂を蹴る音。


 息が荒くなる感じ。


 バトンを渡す時の手の熱さ。


 それを思い出すと、悔しくなった。


 片瀬先生は、次の欄を指した。


「運動会を支える人って、誰がいると思う?」


「走る人」


「ほかには?」


 光は、面倒そうに言った。


「応援する人」


「うん」


「係の人」


「どんな係?」


「放送。用具。得点。救護。写真。先生」


 言いながら、少しずつ思い出していく。


 運動会は、走る人だけでできているわけではなかった。


 放送係が名前を呼ぶ。


 用具係がハードルやコーンを運ぶ。


 応援団が声を出す。


 保健の先生が救護テントにいる。


 先生たちがラインを引く。


 保護者が見守る。


 誰かが写真を撮る。


 誰かが記録する。


 それでも、光は唇を尖らせた。


「でも、僕はそこにもいない」


 灯理は言った。


「はい。では、今いる場所からできる役割は、まったくないでしょうか」


 光は答えなかった。


 その日の午後、片瀬先生は光の学校の担任とオンラインでつないだ。


 画面の向こうには、光の教室が映った。


 黒板の横には、運動会のスローガンが貼られている。


『最後まで全力で』


 クラスメイトたちが手を振った。


「光!」


「見えてる?」


「元気?」


 光は、少し画面から目をそらした。


 嬉しい。


 でも、悔しい。


 みんなの体育着がまぶしい。


 担任の先生が言った。


「光、今、応援旗のデザインを考えているんだけど、なかなか決まらなくて」


「応援旗?」


「そう。各クラスで一枚作る旗。よかったら、病院からアイデアを出してくれないかな」


 光は、画面を見た。


 クラスメイトの一人、陸が言った。


「光、絵うまいじゃん」


「去年の学級旗も、光の案だったし」


「リレーのことも入れたいんだよね」


 光は、胸の中で何かが揺れた。


 走れない。


 でも、旗なら考えられる。


 それは、運動会に関わることになるのだろうか。


 灯理は、横から静かに言った。


「光さんが病室から聞いている音や、見えているものを、旗に入れてもいいかもしれませんね」


 光は、ワークシートを見た。


 赤いテント。


 白いライン。


 旗。


 太鼓。


 笛。


 走る音は聞こえない。


 でも、応援の音は届いている。


 光は、少しだけ考えて言った。


「旗に、窓を描いていい?」


 画面の向こうで、クラスメイトたちが少し驚いた。


「窓?」


「うん」


 光は、手元の紙に描き始めた。


 病室の窓。


 その向こうに校庭。


 赤組と白組の旗。


 窓のこちら側から伸びる応援の声。


 声は線になって、校庭へ向かう。


 窓の上に、言葉を書く。


『ここからも、届く』


 描きながら、光はだんだん無口になった。


 怒っている時の無口ではなく、集中している時の無口だった。


 片瀬先生は、その横顔を見ていた。


 漢字プリントに向かう時とは違う目だった。


 病院内学級の学びが、今の光の生活とつながった瞬間だった。


 翌日、光は応援旗の下絵を完成させた。


 色鉛筆で、窓の外の空を淡い青に塗る。


 校庭の赤白の旗。


 応援の声を表す黄色い線。


 病室の窓辺に、小さな手。


 その手は、走っているわけではない。


 でも、外へ向かって伸びている。


 担任の先生にデータで送ると、その日のうちに教室から返事が来た。


『光の案で作ることになった!』

『窓のところ、みんなで描く』

『文字はそのまま使う』

『本番で見せるから』


 光は、そのメッセージを何度も読んだ。


 プログラムの裏のメッセージを見た時とは、少し違う感じだった。


 待っていると言われるだけではない。


 自分の案が、向こうの運動会に入っていく。


 病室から出した線が、校庭へつながったような気がした。


 病院内学級の授業も、少し変わった。


 片瀬先生は、国語の時間に「音を言葉にする」活動をした。


 光は、窓の外の運動会練習の音を書いた。


『太鼓は、胸の奥を押す音』

『笛は、線を引く音』

『応援の声は、遠くても少しざらざらしている』

『走る音は聞こえない。でも、頭の中では聞こえる』


 理科の時間には、体の仕組みと運動について学んだ。


 心拍。


 呼吸。


 筋肉。


 疲労。


 休むこと。


 光は、自分の体が今、走れないことを少しずつ別の言葉で見られるようになった。


 社会の時間には、行事を支える人について調べた。


 学校の先生だけではなく、地域の人、保護者、救護担当、用具係、放送係。


 運動会は、たくさんの役割でできている。


 光は、ノートに書いた。


『走る人だけじゃない。見ている人も、支える人も、記録する人もいる』


 それでも、悔しさが消えたわけではない。


 運動会当日が近づくにつれ、光はまた少し無口になった。


 リレーの順番表を見ると、胸が痛い。


 自分の名前はない。


 代わりに走る友だちの名前がある。


 その子が悪いわけではない。


 でも、悔しい。


 夜、病室で一人になると、涙が出た。


 母が気づいて、そっとベッドの横に座った。


「悔しいね」


 光は、頷いた。


「出たかった」


「うん」


「走りたかった」


「うん」


「旗を作ったからって、走ったことにはならない」


「そうだね」


 母は、光の手を握った。


「走れなかった悔しさは、なくならないね」


 光は、少し驚いて母を見た。


 励まされると思っていた。


 旗があるから大丈夫と言われると思っていた。


 でも、母はそう言わなかった。


 走れなかった悔しさはなくならない。


 それを言ってもらえたことで、胸の中の苦しさが少しだけ形になった。


「でも」


 母は続けた。


「光が作った旗は、みんなの運動会にあるんだよね」


「うん」


「それも、本当だね」


 光は、ゆっくり頷いた。


 悔しいこと。


 届いたこと。


 どちらか一つではなかった。


 運動会当日。


 病院内学級の教室には、小さな画面が用意された。


 学校から一部の競技の動画配信と、クラスからの短いメッセージが届くことになっていた。


 光は、窓際の席に座った。


 膝の上には、自分で描いた応援旗のコピーがある。


 片瀬先生が隣に座り、灯理も少し後ろで見守っていた。


 画面がつながる。


 校庭が映った。


 青い空。


 赤白のテント。


 保護者席。


 放送の声。


 そして、クラスの応援旗。


 そこには、光が描いた窓があった。


 窓のこちら側から、黄色い線が校庭へ伸びている。


 真ん中には、光の字をもとにした言葉。


『ここからも、届く』


 クラスメイトたちが、その旗を持って画面の前に集まった。


「光、見えてる?」


「旗できたよ!」


「リレー、走ってくる!」


 陸が画面に向かって言った。


「光の分まで、じゃなくて、光と一緒に走るから」


 光は、思わず画面を見た。


 光の分まで。


 その言葉は、少し苦手だった。


 自分の場所を誰かが埋めるように聞こえるから。


 でも、光と一緒に。


 それなら、少しだけ受け取れた。


 リレーが始まった。


 画面の中で、子どもたちが走る。


 映像は少し揺れ、音声も途切れることがあった。


 それでも、バトンが渡る瞬間、光は息を止めた。


 自分が走るはずだったコーナー。


 白いライン。


 砂の色。


 応援の声。


 陸がバトンを受け取る。


 走る。


 光の手が、膝の上の旗を握る。


「行け」


 小さく言った。


 画面の中には届かないくらいの声だった。


 でも、片瀬先生には聞こえた。


「行け」


 今度は、少し大きく言った。


 リレーが終わった時、光のクラスは一位ではなかった。


 でも、画面の向こうでみんなが旗を振っている。


 陸が息を切らしながら笑っている。


「光、聞こえた気がした!」


 たぶん、本当には聞こえていない。


 でも、光は笑った。


「届いたんだよ」


 そう言ったのは、片瀬先生だった。


 光は、旗のコピーを見た。


 病室から校庭へ伸びる黄色い線。


 自分は走っていない。


 でも、応援はここから届いた。


 運動会の後、学校から動画メッセージが届いた。


 クラスのみんなが、応援旗の前で順番に話している。


「光の旗、すごく目立った」

「窓の絵、みんなで塗った」

「退院したら、本物見せる」

「来年は一緒に走ろう」

「今年は、ここからも届いたって感じした」


 光は、病院内学級のノートを開いた。


 今日の振り返りを書く欄。


 以前なら、何も書かなかったかもしれない。


 走れなかった。


 悔しかった。


 それだけで終わっていたかもしれない。


 でも今日は、書きたいことが少しあった。


『今日は走っていない。でも、応援はここから届いた』


 書いたあと、少し考えて、もう一文足した。


『悔しいのも本当。届いたのも本当。』


 片瀬先生は、そのノートを見て静かに頷いた。


 放課後、片瀬先生は病院内学級の教室で灯理と話した。


「私は、学習の遅れを取り戻すことばかり考えていました」


「大切なことですね」


「はい。学校に戻った時、困らないように。勉強が遅れすぎないように。それは必要です」


 片瀬先生は、窓の外を見た。


 遠くの校庭には、もう誰もいない。


 運動会の片づけも終わりかけている。


「でも、光くんが止まっていると感じていたのは、勉強だけではなかったんですね」


「はい」


「友だちとの時間、行事、自分の役割。そこから切り離されている感じがあった」


 灯理は頷いた。


「病院内学級は、遅れを埋める場所であると同時に、今いる場所から世界につながる場所にもなりますね」


「はい」


 片瀬先生は、光の応援旗のコピーを見た。


「窓が、壁ではなく、つながる場所になりました」


 灯理は微笑んだ。


「光さんが、そこから線を描きましたね」


 数日後、光の病室の壁には、応援旗の小さなコピーが貼られていた。


 看護師が通るたびに、「いい旗だね」と声をかける。


 同じ病棟の子どもたちも見に来た。


「これ、光が描いたの?」


「うん」


「運動会?」


「そう」


「病院から?」


「病院から」


 光は、少し得意そうに答えた。


 その日の病院内学級で、光は別の子に言った。


「窓から見えるもの、書くと意外とあるよ」


「何書けばいいの?」


「音とか、空とか、匂いとか」


「匂い?」


「昼ごはんの匂いとか」


 片瀬先生は、その会話を聞いて笑った。


 学びは、今いる場所から始められる。


 ベッドの上でも。


 窓のそばでも。


 点滴台の隣でも。


 外に出られない日でも。


 外の世界と完全に切れているわけではない。


 夕方、灯理は病院を出た。


 エントランスには、面会を終えた家族や、薬を受け取る人たちが行き交っている。自動ドアの外に出ると、少し湿った風が頬に触れた。


 片瀬先生が、玄関まで見送りに来た。


「白瀬先生、ありがとうございました」


「こちらこそ、窓の外とつながる授業を一緒に見せていただきました」


 片瀬先生は、手に持った光のノートのコピーを見た。


「これからも、学習進度は大切にします」


「はい」


「でも、課題を進めるだけではなく、その子が今どこにいて、何を見て、何を聞いて、何とつながりたいのかを見たいです」


 灯理は頷いた。


「今の場所から始める学びですね」


「はい」


 片瀬先生は、病棟の窓を見上げた。


「あの窓の向こうにも、教室があるのですね」


 夜風が、病院の植え込みを揺らした。


 灯理は鞄を肩にかけ直した。


 中には、中学校の道徳と総合学習から届いた依頼状が入っている。


 けれど、まだ開かなかった。


 病気の中で学ぶことは、遅れを取り戻すことだけではない。


 もちろん、学習の継続は大切だ。


 学校に戻る日のために。


 自分の力を失わないために。


 けれど、学びは教科書のページだけでは終わらない。


 病室から見える空。


 遠くから聞こえる太鼓。


 参加できない行事への悔しさ。


 その中で見つける別の役割。


 友だちへ送る言葉。


 窓から伸ばす応援の線。


 今いる場所から、世界とつながる方法を持つこと。


 灯理は、小児病棟の窓を見上げた。


 その一つの窓辺に、光の応援旗のコピーが貼られている。


 そこには、消されなかった一文がある。


 今日は走っていない。でも、応援はここから届いた。


 その言葉を胸に、灯理は静かな道をゆっくり歩いていった。

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