表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旅する先生と、世界の教室  作者: 最後に残った形


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
81/204

第17章 第1話:AI先生の授業――すぐ答える画面


 画面は、悠斗が迷うより先に答えを出した。


 机の上のタブレットに、青い吹き出しが表示される。


『この問題の答えは、x=12です。解き方は以下の通りです。』


 その下に、整った数式が並んでいく。


 途中式。


 説明。


 確認問題。


 どれも見やすく、間違いがないように見えた。


 悠斗は、少しだけ目を細めて画面を見た。


 中学二年。


 数学の宿題。


 連立方程式の文章題。


 問題文には、兄と弟の年齢だとか、三年後だとか、合わせて何歳だとか、面倒な言葉が並んでいる。


 悠斗は、最初の一行を読んだ時点で、考えるのをやめていた。


 わからない。


 なら、聞けばいい。


 タブレットに向かって質問を入力すれば、AI学習支援システムがすぐに答えてくれる。


 学校に導入されたばかりの新しい教材だった。


 生徒一人ひとりの理解度に合わせて、問題を出す。


 わからないところを解説する。


 苦手な単元を分析する。


 次にやるべき学習を示す。


 情報担当の三笠先生は、導入説明会でそう言っていた。


「これは、みなさん一人ひとりに合わせた学びを支える道具です」


 クラスの生徒たちは、その時、少し歓声を上げた。


 AIが教えてくれる。


 すぐに解説してくれる。


 宿題も進む。


 テスト勉強も楽になる。


 悠斗も、最初は便利だと思った。


 実際、宿題を出すのは速くなった。


 わからない問題で止まらなくなった。


 作文の下書きも、理科のまとめも、社会の調べ学習も、AIに聞けば形になる。


 ノートの空白は減った。


 提出物も遅れなくなった。


 小テストの点数も、少し上がった。


 だから、悠斗は思っていた。


 これでいいのだ、と。


 画面に出た答えをノートに写す。


 途中式も写す。


 説明も、少し短くして写す。


 先生に見せれば、宿題は終わる。


 悠斗は鉛筆を持った。


 AIの解説を、ノートにそのまま移す。


 窓の外では、夕方の光が校舎の壁に反射している。放課後の教室には、まだ数人の生徒が残っていた。部活動へ行く前に宿題を済ませる者、タブレットで復習をする者、友人と小声で話す者。


 悠斗の隣の席では、莉央が同じ問題を解いていた。


 莉央は、紙に図を書きながら考えている。


「悠斗、もう終わったの?」


「うん」


「早っ」


「AIに聞けばすぐ出るし」


 悠斗は、少し得意げに言った。


 莉央は、悠斗のノートを覗き込む。


「式、ちゃんとわかってる?」


「写したから大丈夫」


「いや、そうじゃなくて」


「答え合ってればよくない?」


 悠斗は軽く言った。


 莉央は何か言いたそうにしたが、結局黙って自分のノートに戻った。


 その日の数学の授業で、三笠先生は宿題の問題を取り上げた。


「では、昨日の文章題を確認しましょう。悠斗、前に出て説明してみてください」


 悠斗は、椅子の上で少し固まった。


 ノートには、答えも途中式もある。


 AIの解説を写したものだ。


 だから、板書することはできる。


 悠斗は黒板の前に立った。


 チョークを持つ。


 ノートを見ながら、式を書く。


 x+y=28


 x+3=2(y+3)


 そこまでは写せた。


 三笠先生が尋ねる。


「では、なぜこの式になるのかを説明してください」


 悠斗の手が止まった。


 なぜ。


 ノートを見る。


 AIの説明には、こう書いてあった。


『現在の兄の年齢をx、弟の年齢をyとおく。三年後、兄の年齢は弟の年齢の二倍になるので、x+3=2(y+3)となる。』


 そのまま読めばいい。


 そう思った。


 けれど、口に出そうとすると、自分の言葉にならない。


「えっと……三年後に……兄が……二倍で」


「何が二倍になりますか」


「えっと、年齢が」


「誰の年齢と誰の年齢の関係ですか」


 悠斗は、黒板の式を見た。


 x+3。


 2(y+3)。


 記号はある。


 でも、問題の中の兄と弟が、その記号につながっていない。


 教室が静かになる。


 悠斗は、顔が熱くなるのを感じた。


「すみません、ちょっと……」


 三笠先生は、責めるようには言わなかった。


「座って大丈夫です」


 悠斗は席へ戻った。


 ノートには正しい式がある。


 でも、説明できない。


 答えは出ているのに、自分の中には何も残っていないようだった。


 授業の後、三笠先生は職員室でAI学習システムの管理画面を見ていた。


 悠斗の学習ログ。


 宿題提出率は高い。


 解答完了も早い。


 正答率も悪くない。


 AIへの質問回数も多い。


 画面上では、よく活用している生徒に見える。


 しかし、今日の授業で、悠斗は式の意味を説明できなかった。


 三笠先生は、腕を組んだ。


 AIを導入すれば、個別最適化が進む。


 つまずいた時に、すぐ支援が届く。


 教師が一人ひとりの横に立てない時間も、AIが補ってくれる。


 そう期待していた。


 実際、効果はある。


 苦手な問題に取り組む時間が増えた生徒もいる。


 解説を読み返す習慣がついた生徒もいる。


 授業外でも質問できるようになった生徒もいる。


 けれど、悠斗のように、答えをすぐにもらい、写して終わる使い方も増えている。


 AIが便利であるほど、考える前に聞いてしまう。


 止まる時間がなくなる。


 自分の予想を書く前に、正解が流れてくる。


 その時、職員室の入口に一人の先生が立っていた。


 黒い上着に、使い込まれた革の鞄。


 白瀬灯理。


 さまざまな学校や学びの場を訪ねている先生だと、校長から紹介されていた。


 灯理は、三笠先生の画面を見た。


 そこには、生徒ごとの学習時間、正答率、質問回数、苦手単元が色分けされて表示されている。


「三笠先生、AI教材の活用状況ですね」


「はい」


 三笠先生は、少し疲れた声で答えた。


「便利です。確かに便利なんです。生徒もよく使っています」


「はい」


「でも、使い方が気になってきました。すぐ答えを聞いて、写して、終わりにしてしまう生徒がいます」


 灯理は頷いた。


「悠斗さんのことですね」


「今日、説明できませんでした。ログ上はよく取り組んでいるのに、式の意味が入っていなかった」


 三笠先生は、管理画面を閉じた。


「AIを入れれば、一人ひとりに合った学びが進むと思っていました。でも、AIに何をどう聞くかを学ばせていなかったのかもしれません」


 灯理は静かに言った。


「AIに聞く前と、聞いた後を見えるようにしてみませんか」


「聞く前と後?」


「はい。答えをもらう時間ではなく、自分の問いがどう変わったかを見る時間です」


 翌日、二年三組の数学の授業は、いつもと少し違っていた。


 机の上にはタブレットがある。


 けれど、画面を開く前に、三笠先生が紙を配った。


 上には大きく書かれている。


『AIに聞く前の自分』


 その下に、三つの欄があった。


『自分の予想』

『どこがわからないか』

『AIに聞きたいこと』


 さらに右側には、別の欄。


『AIの答えで納得した部分』

『まだ疑問が残る部分』

『次に聞く問い』

『自分の言葉で説明』


 悠斗は、紙を見て眉を寄せた。


「面倒くさ」


 隣の莉央が小さく笑った。


「いつもすぐ聞くからでしょ」


「聞いた方が早いじゃん」


 悠斗はタブレットを開こうとした。


 その時、灯理が教室の後ろから声をかけた。


「悠斗さん」


 悠斗は手を止めた。


「AIに聞く前に、一つだけ書いてみませんか」


「でも、わからないから聞くんです」


「はい。では、わからない場所を書いてみましょう」


「それもわからないです」


 灯理は少し微笑んだ。


「それなら、『どこからわからないかもわからない』と書けます」


 悠斗は、少し不満そうに紙を見た。


 今日の問題は、速さに関する文章題だった。


『家から駅までの道のりを、行きは分速80メートルで歩き、帰りは分速60メートルで歩いた。往復に35分かかった。家から駅までの道のりを求めなさい。』


 悠斗は、問題文を読んだだけで、AIに聞きたくなった。


 速さ。


 道のり。


 時間。


 往復。


 面倒な言葉が並ぶ。


 でも、今日は聞く前の欄を埋めなければならない。


 悠斗は、鉛筆を持った。


『自分の予想』


 何を書けばいいのかわからない。


 適当に書こうかと思った。


 でも、灯理が近くにいる。


 悠斗は、しぶしぶ書いた。


『道のりをxにすると思う』


『どこがわからないか』


 少し考える。


 行きと帰りで速さが違う。


 往復に35分。


 時間の式を作るのだろうか。


 でも、どうやって。


『行きの時間と帰りの時間をどう出すかわからない』


『AIに聞きたいこと』


 いつもなら、


『答えを教えて』


 と書く。


 しかし、今日の紙を見て、少しだけ違う言葉にした。


『式の作り方を教えて』


 そこまで書いてから、タブレットを開いた。


 AIに入力する。


『この問題の式の作り方を教えて』


 画面はすぐに返事をした。


『家から駅までの道のりをxメートルとします。行きの時間はx÷80分、帰りの時間はx÷60分です。往復で35分なので、x/80+x/60=35となります。』


 悠斗は、ノートに写そうとした。


 しかし、紙の右側の欄が目に入る。


『AIの答えで納得した部分』


 納得した部分。


 ただ写すのではなく、納得した部分を書く。


 悠斗は、画面をもう一度見た。


 道のりをx。


 行きの時間はx÷80。


 帰りの時間はx÷60。


 速さは一分に進む距離。


 だから、道のりを速さで割れば時間。


 悠斗は書いた。


『道のり÷速さ=時間だから、x÷80とx÷60になる』


『まだ疑問が残る部分』


 ここで手が止まった。


 疑問。


 AIの説明は正しそうだ。


 でも、本当にわかっているかと言われると、少し怪しい。


 悠斗は、式を見た。


 x/80+x/60=35。


 これが往復の時間になるのはわかるような気がする。


 でも、なぜxが同じなのか。


 行きと帰りで速さが違うなら、道のりも違うように感じてしまう。


 いや、家と駅の間だから同じなのか。


 悠斗は、少し迷って書いた。


『速さが違っても、行きと帰りの道のりは同じxでいいのか』


 書いてから、画面にもう一度入力した。


『速さが違っても、行きと帰りの道のりは同じxでいいのですか。ヒントをください』


 送信してから、悠斗は自分で驚いた。


 答えを聞かなかった。


 ヒントをください、と書いた。


 AIは答えた。


『同じ道を行って帰る場合、進む速さは違っても、家から駅までの距離そのものは変わりません。たとえば、学校までの道を走っても歩いても、学校までの距離は同じです。変わるのは時間です。』


 悠斗は、画面を見た。


 学校までの道。


 走っても歩いても、距離は同じ。


 変わるのは時間。


 それならわかる。


 悠斗は紙に書いた。


『距離は同じ。速さが違うと時間が変わる』


 その横に、小さく家と駅の絵を描いた。


 一本の線。


 行きの矢印。


 帰りの矢印。


 同じ線の上を、違う速さで進む。


 初めて、式が少し見えた気がした。


 三笠先生が教室を回りながら、悠斗の紙を見た。


「悠斗、今日はAIに何を聞きましたか」


「式の作り方です」


「その後は?」


 悠斗は少し照れくさそうに言った。


「速さが違っても、道のりが同じでいいのか聞きました」


「答えを?」


「ヒントを」


 三笠先生は、少し目を細めた。


「いい聞き方ですね」


 悠斗は、初めてAIへの質問を褒められた気がした。


 授業の後半、生徒たちはグループで「AIの答えをどう確かめるか」を話し合った。


 灯理が黒板に書いた。


『AIの説明をそのまま正しいと決めない』

『教科書で確認する』

『友だちに自分の言葉で説明する』

『別の例で試す』

『疑問が残るところをもう一度聞く』

『最後に、自分で説明できるかを見る』


 悠斗の班では、莉央が教科書の速さの公式を開いた。


「道のり=速さ×時間。だから、時間=道のり÷速さ」


「それはわかる」


 悠斗は言った。


「でも、文章題だと急にわからなくなる」


「じゃあ、絵にしたら?」


 莉央は、悠斗の紙の家と駅の絵を見た。


「これ、わかりやすいじゃん」


「適当に描いただけ」


「でも、AIの説明より悠斗っぽい」


「何それ」


「自分がわかった形ってこと」


 悠斗は、絵を見た。


 AIの説明は整っていた。


 でも、自分にとってわかった瞬間は、家と駅を一本の線でつないだ時だった。


 その線は、AIが出した答えではない。


 自分の中で式と場面がつながった印だった。


 最後に、三笠先生は全員に「自分の言葉で説明」を書かせた。


 悠斗は、鉛筆を持った。


『家から駅までの距離をxにする。行きも帰りも同じ道だから距離は同じ。でも速さが違うから、かかる時間はx÷80とx÷60で違う。その二つを足すと往復の35分になる。だから、x/80+x/60=35になる。』


 途中で少し迷ったが、最後まで書いた。


 ノートに写しただけではない。


 自分の言葉だった。


 放課後、三笠先生はAI学習システムの設定画面を開いていた。


 これまで、生徒がAIに質問すると、すぐに詳しい解答が出る設定になっていた。


 もちろん、それは便利だ。


 しかし、今日の授業を見て、三笠先生は考えた。


 いつでも答えを出すことが、いつでも良い支援になるわけではない。


 生徒が何を考えたのか。


 どこでずれたのか。


 何を疑問に思ったのか。


 それを見ないまま正解が出ると、問いが育つ前に終わってしまう。


 三笠先生は、授業用の新しいテンプレートを作った。


『答えを出す前に、まず確認します』

『あなたの予想は何ですか』

『どこまでわかっていますか』

『どこから迷っていますか』

『ヒントがほしいですか、解説がほしいですか』

『答えを見た後、自分の言葉で説明できますか』


 灯理が隣に立った。


「設定を変えるのですか」


「はい。AIの即答を止める場面を作ろうと思います」


「止める」


「禁止ではなく、一拍置く感じです」


 三笠先生は画面を見ながら言った。


「AIに聞くこと自体は悪くありません。むしろ、いい質問ができれば、とても助けになります」


「はい」


「でも、問いの立て方も個別に育てる必要がありますね」


 灯理は頷いた。


「AIは、一人ひとりの問いに付き合える可能性があります。その問いを持てるようにするのは、授業の大切な役割ですね」


 三笠先生は、今日の悠斗の紙を見た。


『今日は、答えじゃなくて、ずれた場所を聞いた』


 そこには、AIの解答より大事な変化があった。


 翌週から、二年三組では「AI質問ログ」を残すようになった。


 ただ質問回数を数えるのではない。


 どんな聞き方をしたか。


 聞く前に何を考えたか。


 AIの答えで何がわかったか。


 何がまだ疑問か。


 次にどう聞き直したか。


 自分の言葉で説明できたか。


 生徒たちは最初、面倒がった。


「AIに聞くのに、なんで紙を書くんですか」


「すぐ答えが出るのに」


「時間かかる」


 そのたびに、三笠先生は言った。


「答えを見る時間ではなく、自分の問いを見る時間です」


 悠斗も、最初はまだ面倒だと思っていた。


 でも、少しずつ聞き方が変わった。


『この問題の答えを教えて』

 から、


『この式の立て方のヒントをください』


『自分の考えはこうです。どこが間違っていますか』


『答えではなく、最初に考えることを教えてください』


『この説明を中学生にもわかる言葉で言い換えてください』


『別の例で説明してください』


 へと変わっていった。


 AIの画面は、相変わらずすぐ答える。


 けれど、悠斗はその答えをすぐ写さなくなった。


 まず、自分の予想を書く。


 AIの説明に線を引く。


 納得したところと、まだ怪しいところを分ける。


 教科書を開く。


 莉央に説明してみる。


 説明の途中で詰まったら、もう一度AIに聞く。


 その繰り返しの中で、答えは少しずつ自分のものになっていった。


 ある日の放課後、悠斗はまた教室に残っていた。


 タブレットを開き、数学の発展問題に向かっている。


 以前なら、問題文を読んで数秒でAIに答えを聞いていた。


 今日は、まず紙に書いた。


『自分の予想:表を作るといいかもしれない』

『わからないところ:何をxにするか』

『AIに聞きたいこと:変数の置き方のヒントがほしい』


 入力する。


『答えを教えないでください。何をxにするか考えるヒントをください』


 AIは答える。


『問題で求めたいもの、または複雑な条件を整理しやすくなるものをxと置くとよいです。まず、問題文の中で「わからない量」を三つ挙げてみましょう。』


 悠斗は、思わず笑った。


「AIのくせに、答え教えないじゃん」


 隣で莉央が言った。


「悠斗がそう頼んだからでしょ」


「まあね」


 悠斗は、問題文に線を引いた。


 わからない量を三つ挙げる。


 そこから一つ選ぶ。


 以前なら面倒で飛ばしていた作業だった。


 でも今は、その途中に自分の考えがあることを少しだけ知っていた。


 授業の終わり、三笠先生は生徒たちにAI質問ログの最後の欄を書かせた。


『今日のAIとのやりとりで、自分の問いはどう変わりましたか』


 悠斗は、しばらく画面を見た。


 そして、ゆっくり書いた。


『最初は答えを出したかった。でも、何をxにするかがわからないと気づいた。AIに答えじゃなくてヒントを頼んだ。今日は、答えじゃなくて、ずれた場所を聞いた。』


 書き終えると、少しだけ照れくさかった。


 でも、消さなかった。


 その日の夕方、灯理は中学校を出た。


 校舎の窓には、まだいくつか明かりが残っている。情報室では、三笠先生がAI質問ログを読みながら、次の授業案を書いていた。


 校門まで、三笠先生が見送りに来た。


「白瀬先生、ありがとうございました」


「こちらこそ、AIと問いの授業を一緒に見せていただきました」


 三笠先生は、手元のタブレットを見た。


「AIは本当に便利です。生徒一人ひとりに合わせた問題も出せますし、解説もできます。教師だけでは届かない時間に、支援が届くこともあります」


「はい」


「でも、便利だからこそ、使い方を学ばせないといけないんですね。答えを早く得るだけでは、問いが育たない」


 灯理は頷いた。


「答えが出たことと、その子の中で問いが育ったことは、同じではありませんね」


「はい」


 三笠先生は、校舎を振り返った。


「これからは、AIを導入する授業ではなく、AIにどう問いかけるかを学ぶ授業を作ります」


 夜風が、校門の横の木を揺らした。


 灯理は鞄を肩にかけ直した。


 中には、学習ログを活用する高校から届いた依頼状が入っている。


 けれど、まだ開かなかった。


 AIを使うことは、答えを早く取り出すことだけではない。


 わからない場所を言葉にすること。


 自分の予想を置くこと。


 説明をそのまま受け取らず、納得と疑問に分けること。


 もう一度問い直すこと。


 別の例で確かめること。


 最後に、自分の言葉で説明してみること。


 画面は、いつでもすぐ答えようとする。


 だからこそ、人は時々立ち止まり、聞き方を選ぶ必要がある。


 灯理は、夜の教室の窓を見上げた。


 机の上には、悠斗のAI質問ログが置かれている。


 その最後には、消されなかった一文が残っている。


 今日は、答えじゃなくて、ずれた場所を聞いた。


 その言葉を胸に、灯理は静かな道をゆっくり歩いていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ