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旅する先生と、世界の教室  作者: 最後に残った形


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第10章 第3話:職業体験の授業――働く意味を探せない少女


 職業体験の日の朝は、いつもの登校より少しだけ足音がばらばらだった。


 校門の前には、生徒たちが班ごとに集まっている。地域の保育園へ向かう班、商店街のパン屋へ行く班、図書館へ行く班、駅前のホテルへ向かう班。みんな、普段の制服に名札をつけ、手には職業体験用のファイルを持っていた。


 杏奈は、そのファイルを胸の前で抱えたまま、集合場所の端に立っていた。


 今日の体験先は、地域の小さな修理店。


 家電、鞄、傘、家具の簡単な修理を受け付ける店だという。


 杏奈は、正直なところ、あまり興味がなかった。


 職業体験。


 働くことを知る。


 将来について考える。


 先生たちはそう言う。


 けれど、杏奈にはまだ、働く意味がよくわからなかった。


 お金のため。


 生活のため。


 社会の役に立つため。


 答えとしては知っている。


 でも、その言葉はどれも遠かった。


 職業紹介の動画を見ても、パンフレットを読んでも、どの仕事も「大変そう」としか思えない。


 楽しそうに働く人を見ると、少し不思議になる。


 どうしてそんなに頑張れるのだろう。


 自分は何をしたいのだろう。


 そう考えると、頭の中が白くなった。


「杏奈、修理店だっけ?」


 同じ班の芽衣が声をかけた。


「うん」


「面白そうじゃない?」


「そうかな」


「古いもの直すんでしょ。職人っぽい」


 杏奈は曖昧に頷いた。


 古いもの。


 壊れたもの。


 それなら、新しいものを買えばいいのに。


 そう思ってしまう。


 傘だって、安いものならすぐ買える。


 鞄の金具が壊れたら、新しい鞄を選べばいい。


 時計が止まったら、スマートフォンで時間を見ればいい。


 わざわざ修理する意味が、杏奈にはまだわからなかった。


 引率の真壁先生が出席を確認していた。


 地域企業と連携する職業体験プログラムを担当している先生で、働く人たちの姿を通して生徒に進路を考えてほしいと願っている。


「今日の体験では、仕事の大変さや責任をしっかり学びましょう」


 真壁先生は言った。


「終わったら、レポートに仕事内容と感じたことを書いてもらいます」


 感じたこと。


 杏奈はファイルを握り直した。


 どうせ、「大変だった」「勉強になった」「働く人はすごいと思った」くらいしか書けない気がした。


 その時、校門の外から一人の先生が歩いてきた。


 黒い上着に、使い込まれた革の鞄。


 朝の光の中、その人は生徒たちの名札を一つずつ見るようにして近づいてきた。


「白瀬先生」


 真壁先生が迎える。


「お待ちしていました」


「こちらこそ、呼んでいただきありがとうございます」


 その人――白瀬灯理は、軽く頭を下げた。


「今日は職業体験に同行させていただきます」


 杏奈は灯理をちらりと見た。


 旅する先生。


 世界の学校を訪ね、いろいろな授業をしている先生。


 昨日、学校で紹介されていた。


 灯理は杏奈のファイルに挟まれた体験先一覧を見た。


「修理店に行くんですね」


「はい」


「楽しみですか」


 杏奈は少し迷った。


「よくわかりません」


「はい」


「先生、働くって、結局何をすることなんですか」


 自分でも少し大きなことを聞いてしまったと思った。


 でも、ずっと胸の中にあった問いだった。


 灯理はすぐに答えなかった。


 校門の向こう、商店街へ続く道を見た。


「うん。では、今日その仕事は、誰のどんな困りごとに触れていたのでしょう」


 杏奈は首を傾げた。


 誰の。


 どんな困りごと。


 仕事の名前ではなく、その先を見るような言葉だった。


 修理店は、学校から歩いて十五分ほどの商店街の外れにあった。


 古い木の引き戸。


 少し錆びた看板。


『直し屋 森野』


 店の前には、修理待ちの椅子と、傘立てに入った何本もの傘が置かれている。窓の内側には、時計、鞄、ラジオ、小さな扇風機、木製の引き出しなどが並んでいた。


 中に入ると、金属と油と木屑の匂いがした。


 作業台は古く、表面には無数の傷がある。小さなネジ、細い針金、布切れ、接着剤、ドライバー、ペンチ、時計の部品、革の端切れが、決められた場所に置かれていた。


 店主の森野さんは、白髪交じりの髪を後ろで結んだ女性だった。


「いらっしゃい。職業体験の子たちね」


「よろしくお願いします」


 生徒たちは頭を下げた。


 森野さんは笑って、作業台の前に椅子を並べた。


「うちでは、何でも直せるわけじゃないよ。直せるものもあるし、直せないものもある。まずは、それを見分けるところから仕事が始まる」


 杏奈は作業台を見た。


 傷だらけの台。


 色の違う接着剤の跡。


 焦げたような小さな跡。


 何年も、いろいろな物がここに置かれてきたのだろう。


 最初の仕事は、持ち込まれた品物の受付記録だった。


 品物の種類。


 壊れている場所。


 預かった日。


 持ち主の名前。


 修理できるかどうかの確認。


 杏奈はファイルを開き、記録欄を見た。


 ちょうどその時、店の引き戸が開いた。


「こんにちは」


 入ってきたのは、高齢の女性だった。


 両手で小さな箱を抱えている。


 森野さんがすぐに顔を上げた。


「いらっしゃい。今日はどうされました?」


 女性は箱をそっと作業台に置いた。


 中には、古い腕時計が入っていた。


 革ベルトは擦り切れ、文字盤には細かな傷がある。


「止まってしまって」


 女性は言った。


「もう古いものだから、無理かもしれないんだけど」


 杏奈は時計を見た。


 古い。


 かなり傷んでいる。


 今なら、もっと軽くて正確な時計が安く買える。


 スマートフォンもある。


 でも、女性の手は箱からなかなか離れなかった。


 森野さんは時計をすぐに触らず、まず尋ねた。


「大事なものですか」


 女性は小さく頷いた。


「夫のものです。亡くなる前まで、ずっと使っていたの」


 店の空気が少し静かになった。


「動かなくても、置いておくだけでいいと思っていたんです。でも、最近、秒針が止まっているのを見ると、何だか本当に遠くへ行ってしまったようで」


 杏奈は記録用紙を持つ手を止めた。


 時計が止まる。


 それは、時間を見る道具が使えないというだけではないのかもしれない。


 森野さんは時計を丁寧に手に取った。


「中を見てみます。直せるかどうか、確認してからご連絡しますね」


「お願いします」


 女性は少しだけほっとしたように頭を下げた。


 森野さんは杏奈に言った。


「記録、お願いできる?」


「あ、はい」


 杏奈は慌てて書いた。


『腕時計』

『動かない』

『亡き夫のもの』

『直せるか確認』


 最後の一行を書いて、少し手が止まった。


 仕事内容だけなら、腕時計の修理。


 でも、それだけでは足りない気がした。


 次に来たのは、小学生の男の子だった。


 ランドセルを背負い、片手に青い鞄を持っている。


 鞄の金具が壊れ、蓋が閉まらなくなっていた。


「これ、直りますか」


 男の子は心配そうに聞いた。


 森野さんが鞄を見る。


「入学祝い?」


 男の子は驚いた。


「どうしてわかるんですか」


「名前の刺繍がきれいだから。大事に使ってるね」


 男の子は少し照れた。


「おばあちゃんがくれたんです」


 金具は小さな部品が外れていただけだった。


 森野さんは部品箱から合うものを探し、手早く取り替えた。


 ぱちん、と音がして、蓋が閉まる。


 男の子の顔がぱっと明るくなった。


「直った!」


「まだ使えそうね」


「はい!」


 杏奈はその表情を見た。


 新しい鞄を買えばいい。


 朝はそう思っていた。


 でも、この男の子にとって、この鞄はただの鞄ではなかった。


 おばあちゃんがくれたもの。


 名前が刺繍されたもの。


 学校へ行く時に毎日持つもの。


 新しいものに替えることは、簡単ではないのかもしれない。


 昼前には、配達員の男性が古いラジオを持ってきた。


「仕事の車に置いてるやつでね。音が途切れるんだ」


 森野さんはラジオを開けながら言った。


「新しいのを買えば早いですよ」


 男性は笑った。


「そうなんだけど、この音がいいんだよ。配達の途中、昼に聞くと落ち着くんだ」


 杏奈はラジオを見た。


 角が擦り減り、アンテナも少し曲がっている。


 でも、男性はそれを乱暴に置かなかった。


 作業台の上に、そっと置いた。


 午後には、若い父親が子どもの傘を持ってきた。


 黄色い小さな傘。


 骨が一本曲がっている。


 杏奈は思わず言った。


「傘なら、買い替えた方が安いんじゃないですか」


 言ってから、少ししまったと思った。


 父親は怒らなかった。


 ただ、傘の持ち手を撫でた。


「そうなんだけどね」


 森野さんも何も言わず、父親の言葉を待った。


「この傘、娘が初めて一人で選んだ傘なんです。雨の日が嫌いだったのに、これを買ってから少し楽しみにするようになって」


 父親は苦笑した。


「何度も転んで、何度も曲げてくるんですけど、そのたびに『まだ使いたい』って言うんです」


 杏奈は傘を見た。


 黄色い布に、小さな泥の跡がある。


 持ち手には、子どもの名前を書いたシールが少し剥がれていた。


「直せそうですか」


 父親が尋ねる。


 森野さんは骨を確認した。


「完全に新品みたいにはなりません。でも、開け閉めできるようにはできます」


「それで十分です」


 父親の声は、ほっとしていた。


 杏奈は記録用紙に書いた。


『子どもの傘』

『骨が曲がっている』

『初めて一人で選んだ傘』

『まだ使いたい』


 その最後の言葉が、目に残った。


 まだ使いたい。


 今日、この店に来た人たちは、みんな少し似ていた。


 まだ動いてほしい。


 まだ持ちたい。


 まだ聞きたい。


 まだ使いたい。


 壊れた物を持ってきているのではなく、手放したくない時間を持ってきているようだった。


 昼休み、杏奈たちは店の奥の小さな休憩スペースで弁当を食べた。


 作業台の向こうでは、森野さんが腕時計の裏蓋を開けている。


 灯理は隣に座り、杏奈の記録用紙を見た。


「たくさん書けていますね」


「はい」


「仕事内容は見えてきましたか」


「修理です」


「うん」


「でも」


 杏奈は作業台を見た。


 古い時計。


 青い鞄。


 ラジオ。


 黄色い傘。


「修理だけじゃない気がします」


「どんなふうに?」


「物を元に戻すだけじゃなくて」


 うまく言葉が出てこない。


 杏奈は記録用紙の「まだ使いたい」を指で押さえた。


「その人が、まだ手放したくないものを、もう少し使えるようにしてる」


 灯理は静かに頷いた。


「この仕事は、壊れた物だけを見ているのでしょうか」


 杏奈は首を横に振った。


「違うと思います」


「何を見ていますか」


「持ってきた人のこと」


 言ってから、杏奈は少し驚いた。


 仕事の先にいる人。


 朝、灯理が言った言葉が戻ってくる。


「困っている場所が、物だけじゃないんだと思います」


「はい」


「時計が動かないことも困ってるけど、それだけじゃなくて、止まったままだと寂しいとか。鞄が閉まらないだけじゃなくて、おばあちゃんにもらったものだからとか」


 杏奈はゆっくり言葉を探した。


「傘が曲がっただけじゃなくて、子どもがまだ使いたいって言ってるからとか」


 灯理は微笑んだ。


「杏奈さんは、仕事の先にいる人を見始めていますね」


 午後、杏奈は森野さんの作業を手伝った。


 といっても、専門的な修理はできない。


 部品を分類する。


 ネジを小さな皿に分ける。


 修理が終わった品物にタグをつける。


 作業台の上を拭く。


 それでも、一つ一つに気を使った。


 ネジ一つなくなれば、時計が閉じられない。


 タグを間違えれば、持ち主に返せない。


 作業台を乱せば、森野さんが必要な道具を探す時間が増える。


 大きな仕事ではない。


 でも、修理の一部だった。


 夕方近く、黄色い傘の父親が戻ってきた。


 森野さんは修理した傘を開いて見せた。


 少し歪みは残っている。


 布にも泥の跡はある。


 でも、きちんと開く。


 閉じることもできる。


 父親の顔が緩んだ。


「助かります。娘、喜びます」


「強く曲がっていたので、次に同じところをぶつけると折れるかもしれません」


「気をつけます」


 父親は傘を受け取り、何度も頭を下げた。


 杏奈は、その姿を見ていた。


 安い傘なら、買い替えた方が早い。


 それは今でも事実だ。


 でも、早さだけでは測れないものがある。


 黄色い傘を受け取る父親の手は、朝の杏奈には見えていなかった。


 職業体験が終わる前、森野さんは生徒たちに作業台を見せた。


「この台、傷だらけでしょう」


 生徒たちは頷いた。


「ここに置かれた物の跡です。時計の裏蓋を開けた跡、鞄の金具を打った跡、椅子の脚を削った跡。きれいな台ではないけど、私は気に入っています」


 森野さんは指で古い傷をなぞった。


「直せなかった物もあります。直せた物もあります。どちらにしても、一度ここに置かれた物には、誰かの事情がありました」


 杏奈は作業台を見た。


 ただの古い台ではない。


 何人もの「まだ使いたい」が置かれてきた場所。


 何度も、手放すかどうか迷った物が置かれてきた場所。


 真壁先生も、その話を静かに聞いていた。


 学校へ戻ると、すぐに職業体験レポートの時間になった。


 教室では、生徒たちがそれぞれの体験を書いている。


 楽しかった。


 大変だった。


 緊張した。


 疲れた。


 杏奈も、最初はそう書こうとした。


『修理店で、壊れた時計や傘を直す仕事を体験しました。細かい作業が多く、大変だと思いました。』


 間違ってはいない。


 でも、それだけでは、今日見たものが入らない。


 森野さんの作業台。


 高齢女性の腕時計。


 男の子の青い鞄。


 配達員のラジオ。


 父親の黄色い傘。


 杏奈は新しい紙に書き直した。


『今日行った修理店は、壊れた物を直す店です。でも、仕事を見ているうちに、それだけではないと思いました。時計を持ってきた人は、時間がわからなくて困っているだけではありませんでした。亡くなった夫の時計が止まっていることが寂しかったのだと思います。鞄や傘も、新しいものを買えばいいという話だけではありませんでした。そこには、贈ってくれた人や、子どもが選んだ時間がありました。』


 鉛筆が進む。


『修理店は、誰かがまだ手放したくないものに、もう一度使える時間を作る仕事だと思いました。』


 書いてから、杏奈は少しだけ手を止めた。


 働く意味。


 まだ、全部わかったわけではない。


 でも、今日の修理店についてなら、少し言える。


 仕事は、職業名だけでは見えない。


 その先にいる人を見ないと、わからない。


 最後に、杏奈は書いた。


『まだ夢はありません。でも、誰かの「まだ使いたい」を聞く仕事は、少し気になりました。』


 真壁先生がレポートを読み、杏奈の机の前で足を止めた。


「杏奈さん」


「はい」


「この言葉、いいですね」


 先生は紙を指した。


『誰かの「まだ使いたい」を聞く仕事』


 杏奈は少し照れた。


「森野さんの受け売りみたいなものです」


「でも、あなたが今日見つけた言葉です」


 真壁先生は少し考え込むように、教室を見渡した。


「私は、仕事の大変さを学びましょう、と言いました」


「はい」


「それも大切です。でも、それだけでは職業体験が『大変だった』で終わってしまうことがありますね」


 真壁先生はレポートを丁寧に机へ戻した。


「次からは、仕事の先にいる人を見ましょう、と言います。誰の、どんな困りごとに関わったのか。それを書いてもらいます」


 杏奈は頷いた。


 その方が、今日のことを思い出しやすい気がした。


 放課後、杏奈はもう一度、修理店の前を通った。


 商店街には夕方の買い物客が増えている。


 森野さんの店の明かりはまだついていた。


 窓越しに見ると、作業台の上には朝の腕時計が置かれている。


 森野さんが小さな部品をピンセットで扱っていた。


 杏奈は店の前で少し立ち止まった。


 引き戸を開けるほどではない。


 でも、作業台の傷が見えた。


 今日、あの上に黄色い傘も置かれていた。


 青い鞄も、古いラジオも、夫の時計も。


 それぞれの物に、それぞれの持ち主の顔があった。


 杏奈は自分の傘を見た。


 透明な、どこにでもある傘。


 少し骨が曲がっている。


 前なら、壊れたら捨てればいいと思っただろう。


 今は、少しだけ違う。


 これをいつ買ったのか、誰といたのか、どんな雨の日に使ったのか。


 そんなことを考えてしまう。


 店の中から森野さんが顔を上げ、杏奈に気づいた。


 軽く手を振る。


 杏奈も小さく頭を下げた。


 夜、灯理は学校を出た。


 真壁先生が校門まで見送りに来た。


「白瀬先生、今日はありがとうございました」


「こちらこそ、職業体験に同行させていただきました」


 真壁先生は手に持ったレポートの束を見た。


「毎年、職業体験の感想が似てしまうことに悩んでいました。大変だった、楽しかった、働く人はすごいと思った。それは悪くないのですが、そこで止まってしまう」


「はい」


「今日、杏奈のレポートを読んで、見方を変えられると思いました」


「どんなふうに?」


「仕事の先にいる人を記録する。誰が、何に困っていて、その仕事は何に触れていたのか」


 真壁先生は校舎の窓を見上げた。


「働く意味を大きな言葉で教えようとしていました。でも、生徒たちは、今日出会った一人の困りごとから学ぶことができるのですね」


 灯理は頷いた。


「杏奈さんは、修理店でそれを見つけていました」


「はい。まだ夢はない、と書いていました。でも、その後に『少し気になった』とありました。十分な一歩ですね」


 商店街の方から、夕方の匂いが流れてくる。


 パン屋の甘い匂い。


 魚屋の声。


 自転車のベル。


 遠くで、修理店の引き戸が閉まる音がした。


 灯理は鞄を肩にかけ直した。


 中には、資格試験や選抜試験を控える専門コースから届いた依頼状が入っている。


 けれど、まだ開かなかった。


 今日、杏奈は夢を見つけたわけではない。


 将来を決めたわけでもない。


 けれど、一つの仕事の先にいる人を見た。


 壊れた時計の向こうに、夫の時間を見た。


 曲がった傘の向こうに、子どもの「まだ使いたい」を見た。


 働くことは、遠い言葉の中だけにあるのではない。


 誰かの困りごとに触れ、その人の時間を少し先へ進める手の中にもある。


 灯理は暮れていく商店街の明かりを見ながら、ゆっくりと歩き出した。

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