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旅する先生と、世界の教室  作者: 最後に残った形


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第39章 第2話:違う聞き方の授業――母が言い直したくなる電話


 祖母の家の電話台には、花の色が増えていた。


 赤い花は、母へ。


 青い花は、叔母へ。


 緑の葉は、翔太へ。


 黄色い小さな丸は、妹へ。


 黒い固定電話の横に置かれたカードには、それぞれの名前と、頼みやすいことが書かれている。


『母へ:買い物・家のこと』


『叔母へ:病院・書類・薬』


『翔太へ:庭・軽い手伝い』


『妹へ:花の印・見せるだけ欄のシール』


『誰でも:一つだけ見る?』


 窓の外では、庭の草が少し伸びていた。縁側の下には、昨日の雨の名残がまだ薄く残っている。台所からは、麦茶の香りと、祖母が切ったきゅうりの青い匂いが流れてきた。


 翔太は、居間の低い机で家族ノートを開いていた。


 前回、母が仕事で電話できない日に、叔母が祖母へ電話をかけた。


 その時、叔母は心配して、


「大丈夫?」


「何か困ってない?」


 と聞いた。


 けれど、祖母は、


「大丈夫よ」


「特にないわ」


 と答えてしまった。


 電話台には、病院の日の確認が書いてあったのに。


 そのあと、聞き方メモを叔母にも共有した。


『大丈夫?』ではなく、『メモに一つある?』


『困ってない?』ではなく、『今週見るものはある?』


『全部言って』ではなく、『今日は誰に頼む?』


『早く言って』ではなく、『書いてくれてありがとう』


 叔母は、そのメモを見てもう一度電話し、祖母は病院の日を確認したいと言えた。


 青い花が咲いた、と妹は言った。


 その日から、聞く人カードは電話台の横に置かれるようになった。


 今日は、その叔母がまた電話をかけてくる日だった。


 母も、仕事が少し早く終わり、祖母の家に来ていた。


 ただし、今回は母が聞くのではない。


 叔母が電話で聞く。


 母は、その横で聞いている。


 母は湯飲みを手にしたまま、少し落ち着かない顔をしていた。


 翔太は、それに気づいていた。


「母さん、緊張してる?」


「してないよ」


 母はすぐに答えた。


 けれど、湯飲みを持つ手が少しだけ動いている。


「叔母さん、聞き方メモ見てくれるんでしょ」


「うん。送ったし、見てくれると思う」


「じゃあ大丈夫じゃない?」


「そうなんだけどね」


 母は電話台を見た。


 青い花の横には、今日の欄がある。


『叔母へ:薬の袋を見てほしい』


 祖母は、病院でもらった薬の袋を二つ並べていた。


 朝の薬と夜の薬。


 どちらも白い袋で、少し似ている。


 祖母は自分でも見られるけれど、日付の書き方がわかりにくく、叔母に確認してもらいたいと思っていた。


 母でも見られる。


 でも、薬や病院の日の確認は、叔母の方が得意だった。


 叔母は、書類や薬の整理が早い。


 電話でも、明るくぱっと聞く。


 祖母はその明るさに、少し助けられることもある。


 けれど、母には、その明るさが少し急ぎ足に聞こえることがあった。


 固定電話が鳴った。


 祖母が受話器を取る。


「はい、もしもし」


 受話器の向こうから、叔母の声が弾むように聞こえた。


「お母さん? 私。今、大丈夫?」


 母の眉が、ほんの少し動いた。


 翔太はそれを見た。


 今、大丈夫?


 聞き方メモでは、『大丈夫?』ではなく『メモに一つある?』だった。


 叔母は、最初に「大丈夫?」に近い言葉を言ってしまった。


 母が口を開きかける。


 でも、祖母は受話器を持ったまま笑った。


「今は大丈夫よ」


 叔母がすぐに続けた。


「あ、ごめん。メモ見るんだった。メモに一つある?」


 母の口が、少し閉じた。


 翔太は、母の横顔を見た。


 母は言い直したそうだった。


 でも、叔母は自分で気づいて言い直した。


 祖母は電話台の青い花を見た。


「薬の袋を見てほしいの」


「うん。薬の袋ね。朝と夜の?」


「そうなの。似ていてね」


「それなら私、明日寄るよ。写真でもいいよ。今、袋は手元にある?」


 母が、また少し身を乗り出した。


 まず、急ぎかどうか聞いた方がいい。


 明日寄ると言う前に、祖母が何を望んでいるか聞いた方がいい。


 写真でいいかどうかも、祖母ができるか確認した方がいい。


 母の顔には、そんな言葉が浮かんでいるようだった。


 けれど、叔母の声は明るかった。


「朝の袋に、青い線ある?」


 祖母は袋を手に取る。


「青い線……ああ、あるわ」


「じゃあ、夜の方は?」


「赤い線ね」


「それなら、青が朝、赤が夜。わかりやすく大きく書き直そうか。明日行った時、太いペンで書くね」


 祖母は、少しほっとした声で言った。


「助かるわ。赤と青なら見やすいわね」


 母は、湯飲みを置いた。


 言い直したい言葉が、喉元にあるようだった。


 でも、祖母の声は沈んでいない。


 むしろ、少し明るくなっている。


 叔母の早さが、祖母を急かしているようにも見える。


 けれど、薬の袋の話に関しては、その早さが祖母を助けているようにも見えた。


 叔母は続けた。


「お母さん、他にも一つある?」


 母が今度こそ口を開きそうになった。


 一つだけ、だったはず。


 今日は一つだけ頼む道。


 全部言わせない。


 母はそう思ってきた。


 けれど、祖母は少し笑って言った。


「今日は薬だけでいいわ」


「わかった。薬だけね。書いてくれてありがとう。明日、青と赤のペン持って行くね」


「ありがとう」


 電話は、やわらかく終わった。


 祖母は受話器を置き、薬の袋を見た。


「叔母さんは、話が早いわね」


 母が少し慌てて言った。


「早すぎなかった?」


 祖母は首を傾げた。


「早いけれど、薬の話は助かるわ。ぱっと色で言ってくれるから」


 母は、少し複雑な顔をした。


 翔太は、その顔を見逃さなかった。


「母さん、言い直したかったでしょ」


「え?」


「何回か、口開きかけてた」


 母は少し困ったように笑った。


「見てたの?」


「見えてた」


 祖母も、穏やかに言った。


「あなた、何か言いたそうだったわね」


 母は、少しだけため息をついた。


「うん。聞き方メモと違うところがあると、つい言いたくなった。『メモに一つある?』って最初から聞いて、とか。まず急ぎかどうか聞いて、とか。一つだけにして、とか」


 言葉にすると、自分でも少し苦笑した。


「妹に聞き方を渡したはずなのに、横で聞いていると、私ならこう聞くのにって思ってしまった」


 その時、玄関の引き戸が開く音がした。


「こんにちは」


 白瀬灯理の声だった。


 今日は、聞く人カードがどう使われているかを見るために来る予定になっていた。


 灯理は、黒い上着に使い込まれた革の鞄を持ち、玄関で靴をそろえた。


 居間へ入ると、電話台の青い花、薬の袋、母の少し複雑な表情、祖母のほっとした顔を静かに見た。


 母は、灯理に向き直った。


「先生、聞く役割を妹に渡したのに、妹の聞き方を聞いていると、私ならこう聞くのにって言い直したくなりました」


 その声には、少し恥ずかしさがあった。


「妹は悪くないんです。母もちゃんと薬のことを言えました。でも、聞き方メモと違うところがあると、私が直したくなってしまって」


 灯理は、母の言葉を静かに受け止めた。


 そして、問いを返した。


「うん。では、聞く役割を渡した後に信じることは、次の人が自分と同じ間合いで聞くことなのでしょうか」


 同じ間合いで聞くこと。


 母は、電話台を見た。


 自分は、祖母の沈黙を待つ聞き方をしてきた。


 メモを見る。


 一つだけ選ぶ。


 急がせない。


 言えなかったら次回へ移す。


 その間合いは、祖母の声を育てた。


 だから大事だと思っていた。


 でも、叔母は違う。


 明るく、早く、具体的に聞く。


 薬の袋なら、色を探す。


 病院の日なら、書類を見る。


 写真でもいいと言う。


 すぐ行く日を出す。


 母より少し急ぎ足だ。


 でも、祖母は薬の話を言えた。


 それどころか、赤と青なら見やすいと安心していた。


 灯理は、白い紙を電話台の横に置いた。


『母が気になった聞き方と、祖母が助かった聞き方』


 翔太がペンを持った。


 灯理が尋ねる。


「まず、お母さまが気になったところは何でしたか」


 母は、少し考えてから言った。


「最初に『今、大丈夫?』って聞いたところ」


 翔太が書く。


『今、大丈夫? と聞いた』


「それから、薬の袋を見てほしいと言ったら、すぐ『明日寄るよ』と言ったところ。もう少し母の希望を聞いてからでもいいと思った」


『すぐ明日寄ると言った』


「『他にも一つある?』って聞いたところ。今日は一つだけでいいのに、増やすみたいで」


『他にも一つある? と聞いた』


 母は、書かれた言葉を見て、少し肩を落とした。


「こうして書くと、私、かなり細かく見ていましたね」


 祖母がやさしく言う。


「それだけ心配してくれているのよ」


 灯理は頷いた。


「では、祖母さまが助かったところは何でしたか」


 祖母は、薬の袋を手に取った。


「青と赤で見ればいいと言ってくれたところ」


 翔太が書く。


『青と赤で見ればよいと言った』


「明日、太いペンで書くと言ってくれたところ」


『太いペンで書くと言った』


「写真でもいいと言ってくれたところも、今はまだ難しいけれど、見せる方法があると思えたわ」


『写真でも見られると言った』


 母が顔を上げた。


「写真は、急かしているように聞こえなかった?」


 祖母は少し笑った。


「今日は写真は無理だけれど、そういう方法もあるのね、と思っただけよ」


 翔太は、その横に書いた。


『選べる方法が増えた』


 祖母は続けた。


「それから、妹は声が明るいでしょう。薬の話は少し不安だけれど、あの声だと、少し軽くなるの」


 母は、黙った。


 叔母の明るさ。


 母には少し急ぎ足に聞こえるその声が、祖母にとっては不安を軽くすることもある。


 翔太は書いた。


『明るい声で不安が軽くなる』


 灯理は、二つの欄を見た。


 母が気になったこと。


 祖母が助かったこと。


 同じ聞き方の中に、両方がある。


 早さは、急かしにもなる。


 でも、迷いを軽くすることもある。


 すぐ動くと言うことは、先回りにもなる。


 でも、安心にもなる。


 大事なのは、それが守りたい意味を失わせているかどうかだった。


 灯理が尋ねた。


「この頼む合図で守りたい意味は何でしょう」


 母が答えた。


「母が一つ言えること」


 翔太が書く。


『祖母が一つ言える』


 祖母が言う。


「急がされすぎないこと」


『急がされすぎない』


 翔太が続ける。


「母さん一人が抱えないこと」


『誰か一人が抱えない』


 妹が、花のシールを貼りながら言った。


「色でわかること」


 みんなが少し笑う。


 灯理が微笑んだ。


「それも大切ですね」


 翔太は書いた。


『その人に合う頼みごとが見える』


 母は、紙を見つめた。


 祖母は一つ言えた。


 急かされすぎてはいなかった。


 母一人が抱えていない。


 薬の確認は、叔母に合っていた。


 守りたい意味は、残っている。


 ならば、叔母の聞き方が自分と違うからといって、すぐ直さなくてもよいのかもしれない。


 妹が、花のシールを並べながら言った。


「同じ花じゃなくていいよ」


 母が妹を見る。


「同じ花?」


「赤い花と青い花、違うでしょ。でも、どっちも咲く」


 祖母が、ふふっと笑った。


「そうね。赤も青も、違う花ね」


 翔太は、その言葉を家族ノートの端に書いた。


『同じ花じゃなくていい』


 灯理は、聞く人カードに新しい欄を足すことを提案した。


『その人らしい聞き方』


 母は、少し考えながら書いた。


### 母


* ゆっくり待つ

* 一つ選ぶ

* 家のことを受け取る

* 沈黙を待てる


 祖母が頷く。


「あなたには、ゆっくり言えるわ」


 次に、青い花のカード。


### 叔母


* 明るく聞く

* 病院や薬を確認する

* 写真で見る

* すぐ動ける日を出せる


 母は、その欄を書きながら少しだけ笑った。


「妹らしい」


 祖母が言う。


「ええ。あの子らしいわ」


 次に、緑の葉。


### 翔太


* 庭や軽い手伝いを一緒にする

* 言葉より動きで受け取る

* 家族ノートに残す


 翔太は少し照れた。


「僕、言葉より動きなの?」


 祖母が頷く。


「翔太は、草取りを一緒に始めてくれるでしょう」


 最後に、黄色い丸。


### 妹


* 花印をつける

* 見せるだけ欄を明るくする

* つぼみを次に咲くものにする


 妹は満足そうに頷いた。


「つぼみ大事」


 母は、カードを見ていた。


 聞く人が増えるということは、同じ聞き方を増やすことではない。


 それぞれの聞き方がある。


 母には母の間合い。


 叔母には叔母の明るさ。


 翔太には翔太の動き。


 妹には妹の花印。


 同じ花でなくていい。


 でも、守りたい意味は共有する。


 祖母が一つ言えること。


 急かされすぎないこと。


 一人が抱えないこと。


 頼みごとが人に合うこと。


 それを見失わなければ、聞き方の違いは残してよい。


 ただ、母には自分用のメモが必要だった。


 口を出したくなった時に見るメモ。


 灯理は白いカードを一枚出した。


『母の見守りメモ』


 母は、少し苦笑した。


「私用ですね」


「はい」


 翔太がペンを持つ。


 母は、言葉を選びながら書いていった。


### 母の見守りメモ


* 妹が聞いている時は、まず一呼吸置く

* 守りたい意味が残っているかを見る

* 祖母が言えているなら、すぐ直さない

* 困った時だけ、聞き方メモを見せる

* 後で妹と振り返る


 母は、最初の一行を読んで、小さく息を吸った。


「まず一呼吸置く」


 祖母が言った。


「あなたにも必要ね」


「うん。必要」


 母は素直に頷いた。


 その時、母の携帯が鳴った。


 叔母からだった。


 母は少し迷ってから、スピーカーにした。


「もしもし」


「さっきの聞き方、大丈夫だった? また早かった?」


 叔母の声は少し心配そうだった。


 母は、すぐに何か言いそうになった。


 でも、見守りメモを見た。


 まず一呼吸置く。


 母は一度、息を吸った。


「薬のこと、母さん言えてたよ」


「よかった。私、最初に『大丈夫?』って言っちゃったから」


「そこは自分で言い直してたね」


「うん、途中で思い出した」


 母は、青い花のカードを見た。


「薬の袋を青と赤で見るっていうの、よかったと思う。母さん、安心してた」


 受話器の向こうで、叔母の声が少し明るくなった。


「ほんと?」


 祖母が横から言った。


「ほんとよ。青と赤なら見やすいわ」


 叔母が笑った。


「じゃあ明日、太いペン持って行く」


 母は、見守りメモを見ながら言った。


「あとで、聞き方メモも少し足そう。あなたの聞き方のよさも書いたから」


「私のよさ?」


「明るく聞く、病院や薬を確認する、すぐ動ける日を出せる」


 叔母は少し照れたように笑った。


「なんか褒められてる」


「褒めてる」


 母はそう言ってから、少し驚いたように自分で笑った。


 言い直したいだけではなかった。


 叔母の聞き方にも、ちゃんとよさがある。


 それを言葉にできた時、母の胸の中の落ち着かなさが少しほどけた。


 電話を切ったあと、翔太は家族ノートを開いた。


 今日の出来事を書いていく。


『叔母が電話した』


『母は横で聞きながら、言い直したくなった』


『理由:聞き方メモと違う/急ぎ足に聞こえる/一つだけを守りたい』


『祖母が助かったこと:青と赤で薬を見られた/明日太いペンで書くとわかった/明るい声で不安が軽くなった』


『手入れ:聞く人カードに、その人らしい聞き方を追加/母の見守りメモを作った』


 そして、少し考えてから一文を書く。


『聞く役割を渡した後を信じることは、自分と同じ聞き方をさせることではなく、祖母の声が届くなら、その人らしい間合いを残すことだった』


 書き終えると、妹がその横に赤い花と青い花を描いた。


 二つの花は、形が少し違っていた。


 赤い花は丸い花びら。


 青い花は細長い花びら。


 妹は、最後に言った。


「違う花だけど、同じ紙に咲いてる」


 祖母は、それを見てやさしく笑った。


「いい絵ね」


 母も、青い花を指でそっとなぞった。


「同じじゃなくていいんだね」


 翔太は頷いた。


「たぶん」


 電話台には、更新された聞く人カードが並んでいる。


 母の赤い花。


 叔母の青い花。


 翔太の緑の葉。


 妹の黄色い丸。


 それぞれの聞き方は違う。


 でも、どれも祖母の声へ向かって伸びている。


 夜、白瀬灯理は祖母の家を出た。


 外には、静かな住宅街の夜が広がっていた。庭の草は夜風に小さく揺れ、縁側の下に残っていた雨の匂いが、土の匂いと混ざっている。電話台のある部屋の窓には、やわらかな明かりが灯っていた。


 祖母と翔太、母、妹が玄関まで見送りに来た。


「白瀬先生、ありがとうございました」


 母が言った。


「こちらこそ、聞く役割が一つの間合いから、違う花のように広がっていく時間を一緒に見せていただきました」


 灯理は静かに答えた。


 母は、見守りメモを手に持っていた。


「先生、聞き方を渡したつもりでも、実際に聞いているのを見ると、口を出したくなるんですね」


「はい」


「妹が悪いわけじゃないのに、私ならこう聞くのにと思ってしまいました」


 祖母がやさしく言った。


「でも、叔母さんの聞き方も助かったわ」


 母は頷いた。


「うん。薬の話は、あの子の方がぱっと見えるのかもしれない」


 妹が言った。


「青い花も咲く」


 翔太は、家族ノートを抱えていた。


「母さんの聞き方と叔母さんの聞き方、違ってもいいって書いた」


 灯理は、やわらかく頷いた。


 聞く役割を渡した後に信じることは、次の人が自分と同じ間合いで聞くことではない。


 前に聞いていた人には、積み重ねた時間がある。


 どの言葉なら出やすいか。


 どの沈黙を待てばいいか。


 どこで一つに絞ればいいか。


 その経験は大切だ。


 けれど、それをそのまま次の人に求めすぎると、聞く役割はまた前の人へ戻ってしまう。


 次の人には、次の人の関係がある。


 明るく聞く人。


 具体的に見る人。


 すぐ動ける日を出す人。


 写真で確認する人。


 その違いが、別の頼みごとを開くことがある。


 信じるとは、何も言わずに放っておくことではない。


 守りたい意味を見ること。


 祖母が一つ言えているか。


 急かされすぎていないか。


 誰か一人が抱えていないか。


 頼みごとが人に合っているか。


 その意味が残っているなら、違う聞き方をすぐ直さない。


 困った時だけ、戻る言葉を示す。


 そして後で、一緒に振り返る。


 母の赤い花と、叔母の青い花は、同じ形ではない。


 けれど、どちらも祖母の声のそばで咲き始めていた。


 灯理は、夜の道から祖母の家を振り返った。


 翔太の家族ノートには、一文が残っている。


 聞く役割を渡した後を信じることは、自分と同じ聞き方をさせることではなく、祖母の声が届くなら、その人らしい間合いを残すことだった。


 その言葉を胸に、灯理は静かな道をゆっくり歩いていった。

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