第25章 第1話:休む授業――空白になった出席簿
紬は、校門の前で立ち止まった。
朝の中学校は、音が多い。
自転車のブレーキ音。昇降口へ向かう足音。友だちを呼ぶ声。誰かの笑い声。校舎の上から響くチャイム前の予鈴。
風は少し冷たく、制服の袖口から入り込んでくる。
紬は、鞄の肩紐を握りしめた。
地域学習センターなら、少しずつ行けるようになった。
外のベンチから始めた。
受付まで行った。
見るだけの日もあった。
申込書を一緒に読んだ。
窓際の席に座れる日も増えた。
けれど、学校は違った。
校門をくぐるだけで、体の奥が固くなる。
ここには、出席簿がある。
席がある。
クラスがある。
休んだ日を数える人がいる。
階段の上には、自分が入れなくなった教室がある。
「紬さん」
後ろから声がした。
振り返ると、養護教諭の佐伯先生が立っていた。
白衣ではなく、薄いカーディガンを羽織っている。手には小さなファイルを持っていた。
「おはようございます」
「……おはようございます」
「ここまで来られましたね」
佐伯先生は、そう言った。
教室へ行こうとも、頑張ろうとも言わなかった。
紬は、小さく頷いた。
「はい」
「今日は、別室まで行ってみますか。それとも、保健室で少し休みますか」
紬は、校舎を見た。
昇降口の中へ、生徒たちが吸い込まれていく。
上履きの音。
話し声。
明るい朝。
その全部が、遠くて近い。
「別室までなら」
「はい」
佐伯先生は、紬の半歩前を歩いた。
急がない速さだった。
昇降口で靴を履き替える。
下駄箱の匂いと、床のワックスの匂いが混じっている。
紬の靴箱には、久しぶりに上履きが入っていた。
白い上履きは、少し硬い。
足を入れると、自分が学校に戻ってきたことが急に現実になった。
別室登校スペースは、一階の端にあった。
もとは少人数教室だった部屋だ。
窓際に机が三つ並び、棚にはプリントや本が置かれている。小さなホワイトボードには、今日の予定が書かれていた。
『来た時間を書く』
『できることを選ぶ』
『休む』
『帰る前に次の一歩を決める』
紬は、入口で立ち止まった。
教室ではない。
でも、学校の中だ。
佐伯先生は扉を開けたまま、先に入らなかった。
「ここも入口の一つです」
その言葉で、紬は一歩だけ中へ入った。
机の上には、ノートと鉛筆が置かれている。
窓の外には中庭が見えた。花壇の土が少し湿っていて、朝の光を受けている。
紬は、椅子に座った。
座れた。
それだけで、体の力が少し抜けた。
しばらくして、担任の井沢先生が別室へ来た。
紬は、少し身構えた。
井沢先生は、手に出席簿を持っていた。
紬の視線が、そこへ吸い寄せられる。
出席簿。
厚い表紙。
中には、日付と名前と、出欠を示す記号が並んでいる。
紬の欄には、欠席の印が続いているはずだった。
「紬さん、おはよう」
「おはようございます」
「来られてよかったです」
井沢先生は、笑顔で言った。
悪気はない。
心からそう思ってくれているのだとわかる。
でも、出席簿を見た瞬間、紬の胸はざわついた。
来られなかった日。
空白のように並ぶ印。
その一つひとつが、自分の遅れに見えた。
授業を受けなかった日。
友だちと笑わなかった日。
給食を食べなかった日。
教室にいなかった日。
全部、なくなってしまった日。
井沢先生は言った。
「今日は、無理に教室へ行かなくて大丈夫です。ここで一時間過ごせたら、それだけで十分です」
「はい」
紬は返事をした。
大丈夫です、と言わなかっただけ、少し進歩かもしれない。
けれど、出席簿から目が離れなかった。
井沢先生がそれに気づいた。
「出席簿、気になりますか」
紬は、迷ってから頷いた。
「はい」
井沢先生は、少し困ったように表紙を閉じた。
「見ない方がいいですね」
「違います」
自分でも驚くほど、早く声が出た。
井沢先生が顔を上げる。
紬は、膝の上で手を握った。
「見ない方がいいんじゃなくて……見えると、苦しくなります」
「はい」
「でも、見えないと、もっと怖いです」
佐伯先生が、静かに椅子を引いた。
「紬さん」
「はい」
「どんなふうに怖いですか」
紬は、出席簿を見た。
厚い表紙の向こうに、自分のいない日が並んでいる。
「先生、休んだ日は、全部なくなった日なんですか」
言葉にすると、胸の奥が痛くなった。
ずっと怖かったことだった。
休んでいた間、自分は何もしていなかったのか。
学びから外れていたのか。
クラスの時間から消えていたのか。
戻ったとしても、その空白は埋まらないのではないか。
別室の扉が、軽くノックされた。
黒い上着に、使い込まれた革の鞄。
白瀬灯理が立っていた。
今日は、学校復帰支援と別室登校の学習支援で来ている先生だった。
灯理は、紬の問いを聞いていた。
部屋に入る前に、紬に尋ねる。
「入ってもいいですか」
紬は頷いた。
灯理は、少し離れた机に座った。
そして、出席簿を見ずに、紬を見た。
「紬さん」
「はい」
「休んだ日は、全部なくなった日なのか。大切な問いですね」
紬は、喉の奥が熱くなるのを感じた。
大切な問い。
欠席の言い訳ではなく、問いとして受け取ってもらえた。
灯理は、静かに言った。
「うん。では、休んだ時間は、学びから外れた空白なのでしょうか」
別室の中が、少し静かになった。
廊下では、誰かがプリントを運ぶ足音がしている。
紬は、窓の外を見た。
休んだ時間。
朝、起きられなかった日。
制服を見て泣きそうになった日。
ベッドから出られなかった日。
母と何も話せなかった日。
地域学習センターの外のベンチに座った日。
受付まで行って帰った日。
申込書を読まずに帰った日。
五分だけ座れた日。
その時間は、全部空白だったのか。
灯理は、鞄から大きな紙を取り出した。
中央に、こう書かれている。
『休んだ時間の地図』
その周りには、いくつかの欄があった。
『休んだことで守られたもの』
『休んでいる間にできた小さなこと』
『まだ怖い場所』
『行ける場所』
『戻る順番』
『教室以外の入口』
『戻れなかった日の扱い』
『もう大丈夫?への返事』
井沢先生が、紙を見つめた。
「欠席日数ではなく、時間の中身を見るんですね」
灯理は頷いた。
「はい。欠席の記録も必要です。でも、それだけでは見えないものがあります」
紬は、鉛筆を持った。
最初の欄。
『休んだことで守られたもの』
難しかった。
休んだことで失ったものなら、すぐに思いつく。
授業。
友だちとの時間。
給食。
クラスの話題。
でも、守られたもの。
紬は、しばらく考えた。
そして、小さく書いた。
『朝、無理に教室へ行って壊れること』
『人の視線で動けなくなること』
『泣くのを我慢し続けること』
『大丈夫なふりをすること』
『全部が嫌いになること』
書いてから、手が止まった。
休んだことで守られたもの。
そんなふうに考えたことはなかった。
次に、『休んでいる間にできた小さなこと』。
紬は書いた。
『ベッドから起きた』
『母と朝ごはんを食べた日がある』
『カウンセラーと少し話した』
『地域学習センターの前まで行った』
『外のベンチに座った』
『受付まで行った』
『見るだけカードを選んだ』
『窓際の席に座った』
『学校の門まで来た』
『今日、別室に入った』
書きながら、紬は少し驚いた。
何もしていなかったわけではなかった。
教室にはいなかった。
でも、毎日が真っ白だったわけではない。
怖い場所の前で止まり、少し戻り、また近づく。
その繰り返しをしていた。
佐伯先生は、その付箋を見て言った。
「紬さんは、休んでいる間にも入口を探していたんですね」
紬は、返事ができなかった。
そう言われると、目の奥が熱くなった。
井沢先生は、出席簿を机に置いた。
「私は、欠席が続いていることばかり見ていました」
先生の声は、少し低かった。
「もちろん、記録として必要です。でも、その間に紬さんが何を守って、どこまで来ていたのかを、見ていませんでした」
紬は、先生を見た。
井沢先生は、出席簿の表紙に手を置いている。
責めているわけではなかった。
先生も、どう見ればいいのかわからなかったのだと思った。
次に、『まだ怖い場所』。
紬は書いた。
『教室の入口』
『朝の昇降口』
『みんながいる廊下』
『給食』
『先生に急に話しかけられること』
『クラスで注目されること』
『いつ戻るの?と聞かれること』
『もう大丈夫?と聞かれること』
最後の一つを書いた時、手が止まった。
もう大丈夫?
悪い言葉ではない。
心配してくれている。
でも、紬には重かった。
もう、という言葉が、急がせる。
大丈夫、と答えなければならない気がする。
大丈夫じゃないと言ったら、がっかりされる気がする。
灯理は、その付箋を見て言った。
「では、その言葉への返事も作りましょう」
新しい小さなカードが並べられた。
『今日はここまでです』
『まだ練習中です』
『大丈夫な時間もあります』
『今は答えにくいです』
『少しずつ戻っています』
『教室はまだ難しいです』
『別室なら来られます』
『聞いてくれてありがとう。でも急がないでほしいです』
紬は、その中から一枚を選んだ。
『少しずつ戻っています』
もう大丈夫ではない。
全然だめでもない。
少しずつ戻っている。
今の自分に一番近かった。
昼休み、別室の扉がノックされた。
井沢先生が顔を出す。
「紬さん、遥さんがプリントを届けに来ています。会っても大丈夫ですか」
紬は、少し緊張した。
遥。
第24章で保健室の「大丈夫カード」を使っていた生徒だ。
同じクラスではないが、学校の中で何度か顔を見たことがある。
紬は、返事カードを見た。
『今日はここまでです』
『少しなら会えます』
指が迷う。
灯理は言った。
「会わないことも、会う練習の一部です」
その言葉で、紬は少し息ができた。
「少しなら」
井沢先生が頷き、遥を中へ招いた。
遥は、扉のところで立ち止まった。
近づきすぎない。
それだけで、紬は少し安心した。
「これ、今日のプリント」
「ありがとう」
「先生が、無理に全部やらなくていいって」
遥は、机の上にプリントを置いた。
その横に、小さなカードも置く。
『もう大丈夫?と聞かれた時の返事』
紬は、それを見た。
遥が少し照れたように言った。
「私も、前に『大丈夫』しか言えなかったから」
「うん」
「大丈夫じゃないかもしれない、って言ってもいいって教えてもらった」
紬は、その言葉を聞いて頷いた。
遥は続けた。
「だから、紬さんにも、すぐ大丈夫って言わなくていいと思って」
廊下から、昼休みのざわめきが聞こえる。
遥は、余計な励ましをしなかった。
「早く戻ってきて」とも、「みんな待ってるよ」とも言わなかった。
ただ、プリントとカードを置いた。
それが、紬にはありがたかった。
「ありがとう」
遥は、小さく笑った。
「また、渡すものがあったら来てもいい?」
紬は、少し考えてから答えた。
「ノックして、聞いてくれたら」
「わかった」
遥が帰った後、紬はカードを見つめた。
誰かと会えた。
少しだけ。
それも、今日の地図に入れていいのだろうか。
灯理は、紬の手元を見て言った。
「書いてみますか」
紬は、『休んでいる間にできた小さなこと』の下に、新しく書いた。
『遥さんからプリントを受け取った』
小さな一行だった。
でも、紬には大きかった。
放課後、紬は佐伯先生、井沢先生、灯理と一緒に「戻る順番」を作った。
模造紙には、学校の簡単な地図が描かれている。
校門。
昇降口。
保健室。
別室。
図書室前。
職員室前。
教室の階段。
教室の入口。
教室の後ろの席。
自分の席。
給食。
掃除。
五時間目だけ。
一日。
紬は、その地図を見て、少し怖くなった。
戻る場所がたくさんある。
でも、灯理が言った。
「全部を一度に進む地図ではありません。行ける場所を見つける地図です」
井沢先生が付箋を出した。
『今行ける』
『練習中』
『まだ怖い』
『いつか考える』
紬は、校門に『今行ける』を貼った。
昇降口には、少し迷って『練習中』。
保健室には『今行ける』。
別室にも『今行ける』。
図書室前には『練習中』。
教室の階段には『まだ怖い』。
教室の入口にも『まだ怖い』。
自分の席には『いつか考える』。
給食には『まだ怖い』。
掃除には『いつか考える』。
それを見て、紬は少し息を吐いた。
全部が「無理」ではなかった。
行ける場所がある。
練習中の場所がある。
まだ怖い場所がある。
いつか考える場所がある。
ひとつずつ違っていい。
井沢先生は言った。
「では、今週は別室に来ることを目標にしましょう。教室へ行くかどうかは、毎朝決めなくていいです」
紬は、驚いて顔を上げた。
「決めなくていいんですか」
「はい。毎朝、教室へ行けるかどうかを考えるだけで疲れるなら、今週は別室を入口にします」
佐伯先生も頷いた。
「保健室へ寄ってからでもいいです」
灯理は、地図の端にもう一つ欄を作った。
『戻れなかった日の扱い』
紬は、そこに書いた。
『失敗にしない』
『次の日また校門からでいい』
『別室に行けなくても保健室でいい』
『休んだら地図から消えるわけではない』
『戻る順番を変えてもいい』
その言葉を書いているうちに、紬の肩が少し下がった。
戻れなかった日があっても、また最初からではない。
道は消えない。
翌日、紬は校門まで来た。
でも、昇降口の前で動けなくなった。
朝の人の波が多かった。
誰かが笑いながら走っていく。
知っている顔が見えた気がした。
胸が苦しくなった。
佐伯先生がそばに来た。
「今日は、どうしましょう」
紬は、返事カードを握った。
『今日はここまでです』
それを佐伯先生に見せた。
佐伯先生は、すぐに頷いた。
「わかりました。校門まで来られましたね」
紬は、泣きそうになった。
「別室、行けませんでした」
「はい」
「昨日より、戻ってないです」
佐伯先生は、首を横に振った。
「昨日と同じ道を、毎日同じように歩けるとは限りません」
灯理も、少し離れた場所で見守っていた。
「地図に書き足しましょうか」
紬は、校門の横のベンチに座った。
小さな紙に書く。
『今日は校門まで』
『人が多い昇降口は難しかった』
『帰った』
『でも、校門までの道は消えなかった』
その紙は、別室の地図に貼られた。
欠席でも、早退でも、登校できなかった日でも、地図から消えない。
その考え方に、紬は少しずつ慣れていった。
週の終わり、紬は放課後の教室前まで行った。
授業は終わっていて、生徒たちはほとんど帰っている。
廊下には、夕方の光が長く伸びていた。
教室の中には、机と椅子が静かに並んでいる。
黒板には、今日の日直の字が残っていた。
紬の席もあった。
窓際から二列目。
机の横には、誰かが置いてくれたプリントの束。
席がある。
そのことが、嬉しくも怖くもあった。
井沢先生は、教室の扉の外で止まった。
「入らなくてもいいです」
紬は頷いた。
扉の前に立つ。
教室の中へは入らない。
ただ、見る。
それだけにした。
胸がざわざわする。
でも、前ほど息が詰まらない。
遥が遠くの廊下から見て、軽く手を振った。
紬は、小さく手を振り返した。
その日は、教室に入らなかった。
けれど、別室ノートに書いた。
『放課後の教室入口まで行った』
『入らなかった』
『でも、席を見た』
『今日はそれで帰った』
その下に、灯理が小さく問いを書いた。
『それは空白でしたか』
紬は、鉛筆を持ったまま、しばらく考えた。
空白ではない。
まだ教室に戻ったとは言えない。
でも、戻る道の一部だった。
数日後、別室の壁には、紬の「来られた場所の地図」が貼られた。
校門。
昇降口。
保健室。
別室。
図書室前。
放課後の教室入口。
遥からプリントを受け取った日。
校門までで帰った日。
別室で一時間過ごした日。
教室の席を見た日。
そこには、出席簿とは違う記録が並んでいた。
欠席の印だけでは見えない、紬の時間だった。
井沢先生は、その地図を見て言った。
「出席簿も必要です。でも、これも必要ですね」
佐伯先生が頷く。
「学校に来る道は、一つではありません」
紬は、別室ノートを開いた。
今日の欄に、ゆっくり書いた。
『休んだ日は、消えた日じゃなかった。壊れないために止まった日だった』
書いた文字を見て、胸の奥が静かに揺れた。
休んだことを、すぐに好きにはなれない。
欠席の印を見れば、まだ苦しい。
遅れた授業もある。
友だちとの話題もわからない。
教室の入口はまだ怖い。
けれど、休んだ日を全部消えた日だと思わなくてもいい。
あの日々は、自分が壊れないために止まっていた時間だった。
止まっている間も、入口を探していた。
外のベンチ。
受付。
窓際の席。
校門。
保健室。
別室。
教室の入口。
ひとつずつ、線はつながっている。
夕方、灯理は中学校を出た。
校舎の窓には、別室の明かりがまだ灯っていた。中庭の花壇には、薄い夕日が残っている。校門の近くを通ると、朝、紬が立ち止まっていた場所に、長い影が伸びていた。
井沢先生が、玄関まで見送りに来た。
「白瀬先生、ありがとうございました」
「こちらこそ、休んだ時間の地図を一緒に見せていただきました」
井沢先生は、手に出席簿を持っていた。
「私は、復帰という言葉を使うたびに、教室へ戻ることを思い浮かべていました」
「はい」
「でも、戻る場所は教室だけではない。戻る順番も、一人ひとり違うのですね」
灯理は頷いた。
「はい」
「出席簿の空白だけを見るのではなく、その間に本人がどこで止まり、何を守り、どこまで来ていたのかを見られるようにしたいです」
佐伯先生も、保健室から出てきた。
「返事カードも、戻り方カードも、同じですね。全部を言葉にできない時に、選べるものがあるだけで違う」
灯理は、静かに頷いた。
休むことを学ぶとは、遅れを数えることだけではない。
欠席日数。
未提出のプリント。
受けられなかった授業。
空いた席。
それらは、確かに記録として残る。
けれど、その印だけでは見えないものがある。
休んだことで守られたもの。
休んでいる間にできた小さなこと。
まだ怖い場所。
行ける場所。
戻る順番。
教室以外の入口。
戻れなかった日の扱い。
もう大丈夫、と聞かれた時の返事。
休んだ時間は、学びの外に落ちた空白ではない。
壊れないために止まった時間であり、別の入口を探していた時間でもある。
だから、戻る時も急がない。
校門まで。
昇降口まで。
保健室まで。
別室まで。
放課後の教室入口まで。
来られなかった日も、戻れなかった日も、地図から消さない。
灯理は、夕暮れの校舎を振り返った。
別室のノートには、紬の字で一文が残っている。
休んだ日は、消えた日じゃなかった。壊れないために止まった日だった。
その言葉を胸に、灯理は静かな道をゆっくり歩いていった。




