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旅する先生と、世界の教室  作者: 最後に残った形


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第24章 第2話:友だちの授業――既読を待つ夜


 美羽のスマートフォンが、枕元で震えた。


 午後十一時四十六分。


 部屋の電気は消している。


 カーテンの隙間から、向かいのマンションの明かりが細く入り、机の上に置いた教科書の角だけを白く照らしていた。


 布団の中は温かい。


 目は、もう半分閉じかけている。


 けれど、通知音が鳴るたびに、胸の奥が小さく跳ねた。


 画面を伏せておけばいい。


 見なければいい。


 そう思うのに、指は勝手にスマートフォンへ伸びる。


 グループチャットの名前は、『いつめん五人組』。


 画面には、吹き出しが次々に並んでいた。


『明日の髪型どうする?』

『体育あるからポニテかな』

『え、私下ろしてく』

『凛、明日ノート見せて』

『美羽、起きてる?』

『既読ついた』

『美羽ー?』

『寝た?』

『無視?笑』


 美羽は、急いで文字を打った。


『起きてるよー』

『ちょっと歯みがきしてた』


 本当は、もう寝ようとしていた。


 けれど、寝ようとしていたとは書けなかった。


 すると、すぐに凛から返信が来た。


『よかった』

『急に既読だけついたから怒ってるかと思った』


 美羽は、画面を見つめた。


 怒っていない。


 ただ眠いだけ。


 そう書けばいい。


 でも、凛が不安そうなスタンプを送ってきたので、美羽は慌てて笑顔のスタンプを返した。


『怒ってないよ笑』

『全然!』


 それからまた、雑談が続いた。


 明日の髪型。


 数学の小テスト。


 隣のクラスの噂。


 好きな動画。


 新しく出たリップ。


 どれも、昼間なら楽しく話せることだった。


 友だちのことは好きだ。


 凛のことも、ほかの三人のことも好きだ。


 でも、夜の画面の中では、好きな気持ちよりも、置いていかれる怖さの方が大きくなる。


 返信が遅れたら。


 既読だけつけたら。


 話題についていけなかったら。


 自分だけ翌朝、空気が変わっていたら。


 美羽は、眠気でぼやける目をこすった。


 母が廊下から声をかける。


「美羽、まだ起きてるの?」


「もう寝る」


 美羽は、とっさに返した。


 そして、布団の中で画面の明かりを手で隠した。


 チャットはまだ続いている。


『スタンプだけでも返して』

『美羽、明日一緒に行く?』

『美羽ー』

『既読』


 美羽は、胸の奥が苦しくなった。


 返さないと。


 友だちでいられなくなる気がする。


 翌朝、美羽は教室の席であくびをかみ殺していた。


 窓の外はよく晴れている。


 校庭では、一時間目の体育に向かう生徒たちの声が響いていた。教室には、朝のざわめきと制汗剤の匂い、誰かの朝食の菓子パンの甘い匂いが混じっている。


「美羽、眠そう」


 凛が、机に頬杖をついて笑った。


 凛はいつも通り元気そうだった。


 髪はきれいに巻かれ、前髪も整っている。


 美羽は笑って返した。


「ちょっと寝不足」


「昨日、結局一時くらいまで起きてたよね」


「うん」


「でも楽しかったじゃん」


「うん、楽しかった」


 そう言いながら、美羽はノートを開いた。


 文字がかすんで見える。


 一時間目の数学で、先生の声が遠くなった。


 黒板に書かれる式を追おうとしても、頭がうまく働かない。


 鉛筆を握ったまま、手が止まる。


 まぶたが落ちかけた瞬間、担任の瀬尾先生の声がした。


「美羽さん」


 美羽は、びくっと顔を上げた。


 クラスの視線が集まる。


「眠いですか」


「すみません」


「最近、授業中ぼんやりしていることが増えていますね。夜、スマートフォンを使いすぎていませんか」


 その言葉に、胸がかっと熱くなった。


 使いすぎ。


 その一言で終わらせられるのが、嫌だった。


 確かに使っている。


 でも、使いたいからだけではない。


 やめたくても、やめられない理由がある。


「……はい」


 美羽は小さく答えた。


 瀬尾先生は、少し厳しい顔で言った。


「中学生にとって睡眠は大切です。友だちとのやり取りもほどほどにしないと。夜はスマホを見ないようにしましょう」


 正しい。


 正しいけれど、遠い。


 夜はスマホを見ない。


 そんなことができたら、とっくにしている。


 授業が終わると、凛が美羽の席に来た。


「先生、うざかったね」


「うん」


「でもさ、美羽が寝たらグループ静かになるから困る」


 凛は笑って言った。


 冗談のようだった。


 でも、美羽は笑えなかった。


「私がいなくても、みんな話すでしょ」


「えー、美羽いないとつまんないじゃん」


 嬉しいはずの言葉だった。


 必要とされている。


 輪の中にいる。


 でも、その言葉はまた、美羽の肩に小さな重りを乗せた。


 美羽がいないとつまらない。


 だから、いなければならない。


 その日の昼休み、美羽は保健室前の廊下で白瀬灯理に会った。


 黒い上着に、使い込まれた革の鞄。


 今日、学校の情報モラルと人間関係の授業支援に来ている先生だった。


 灯理は、美羽の顔を見て少し足を止めた。


「美羽さん」


「はい」


「少し眠そうですね」


 また言われた。


 美羽は、反射的に笑った。


「大丈夫です」


 そう言ったあと、自分でもその返事に疲れた。


 大丈夫。


 夜も、朝も、授業中も。


 大丈夫と言えば、そこで終わる。


 でも、終わってしまうと、誰もわかってくれない。


 灯理は、美羽を責めるようには見なかった。


「夜、眠れませんでしたか」


 美羽は、少し黙った。


 廊下の向こうで、生徒たちが笑いながら走っていく。


 自分の声が、その音に紛れそうだった。


「スマホです」


「はい」


「先生にも言われました。使いすぎだって」


「美羽さんは、どう感じていますか」


 美羽は、唇を噛んだ。


 言っていいのかわからなかった。


 友だちのことを悪く言っているみたいになる。


 でも、言葉はもう喉元まで来ていた。


「先生」


「はい」


「返さないと友だちじゃなくなる気がするんです」


 言った瞬間、胸の奥が少し痛んだ。


 こんなことを言ったら、友だちを信じていないみたいだ。


 でも、本当だった。


 灯理は、静かに頷いた。


 そして、問いを返した。


「うん。では、友だちでいることは、いつでも返事をし続けることなのでしょうか」


 美羽は、すぐには答えられなかった。


 違う。


 そう言いたい。


 でも、画面の中では、違うと言い切れない。


 既読。


 未読。


 返信。


 スタンプ。


 寝たふり。


 無視。


 仲間外れ。


 その全部が、夜の小さな画面の中でつながってしまう。


 放課後、二年生の教室で小さな授業が開かれた。


 参加したのは、美羽、凛、グループの友人たち、担任の瀬尾先生、灯理だった。


 机は円になるように並べられている。


 黒板には、灯理が書いた言葉があった。


『つながることと、離れられること』


 凛は、少し不満そうだった。


「私たち、トラブル起こしたわけじゃないです」


 瀬尾先生が口を開きかけたが、灯理が先に頷いた。


「はい。今日は、誰かを責める授業ではありません」


「じゃあ、何するんですか」


「つながっている関係の中で、どこに重さがあるのかを見ます」


 凛は、少し眉を寄せた。


「重さ?」


 灯理は、付箋を配った。


「まず、チャットで疲れる瞬間を書いてみましょう。名前は書かなくても大丈夫です」


 美羽は、付箋を前にして固まった。


 書いたら、凛にばれるかもしれない。


 グループが気まずくなるかもしれない。


 でも、灯理は言った。


「友だちを嫌いだから疲れる、とは限りません。大切だからこそ、疲れることもあります」


 その言葉で、美羽は少しだけ鉛筆を動かせた。


『眠いのに通知が鳴る時』

『既読だけつけるのが怖い』

『返事が遅いと言われる時』

『寝るねと言えない』

『自分がいない間に話が進むのが怖い』

『スタンプだけでも返してと言われる時』

『朝、全部読むのが大変』


 ほかの友人たちも、少しずつ書き始めた。


『夜遅いと親に怒られる』

『本当は寝たい』

『話題を変えたいけど言えない』

『未読にしていると気になる』

『既読つけたら返さなきゃと思う』

『自分だけ返さないと嫌われそう』

『誰かが抜けると不安になる』


 凛は、最初なかなか書かなかった。


 腕を組み、机の上の付箋を見つめている。


 けれど、みんなの付箋が黒板に貼られていくと、少し表情が変わった。


「みんな、そんなに疲れてたの」


 美羽は、凛の方を見られなかった。


 凛は、ぽつりと付箋に書いた。


『誰も返してくれないと、自分だけいらないみたいで怖い』


 教室が静かになった。


 凛は、少し早口で言った。


「別に、みんなを縛りたいわけじゃない」


 誰も何も言わなかった。


 凛は、付箋を握ったまま続けた。


「でも、既読ついてるのに返ってこないと、何か悪いこと言ったかなって思う。私だけ盛り上がってるのかなって。だから、つい『無視?』とか送っちゃう」


 美羽は、凛を見た。


 凛はいつも中心にいる。


 みんなを笑わせて、話題を出して、グループを回している。


 凛は、自信があるからそうしているのだと思っていた。


 でも、凛も不安だったのだ。


 誰かが返さないと、自分がいらないみたいで怖い。


 その不安が、美羽たちを夜の画面に引き止めていた。


 瀬尾先生は、黒板の付箋を見ていた。


 これまで、美羽たちの問題を「スマホの使いすぎ」として見ていた。


 もちろん、睡眠時間は大切だ。


 ルールも必要だ。


 けれど、画面の奥には、関係の不安があった。


 友だちでいたい。


 外されたくない。


 嫌われたくない。


 自分が必要とされているか確かめたい。


 それを見ないまま「やめなさい」と言っても、子どもたちはやめられない。


 灯理は、黒板に次の欄を書いた。


『つながっていて安心する時』

『離れていても安心できる約束』


「今度は、どういう時につながっていると感じるかを書いてみましょう。そして、離れていても関係が壊れないために、どんな約束があるとよいか考えます」


 美羽は書いた。


『昼間に直接話す』

『困った時に返信してくれる』

『学校で普通に声をかけてくれる』

『寝てたと言っても怒られない』

『朝に続きから話せる』


 凛は書いた。


『返事がなくても、明日普通に話せる』

『寝ると言われたら信じる』

『既読だけでも怒らない』

『急ぎじゃない話は朝でもいい』

『自分も寝ていいと思える』


 ほかの友人たちも書いた。


『十時以降は返信しなくていい』

『急ぎの連絡と雑談を分ける』

『寝る合図スタンプを作る』

『返信不要スタンプ』

『既読は読んだだけ』

『朝、まとめて返してもいい』

『グループから少し離れる日があってもいい』

『大事な話は学校で直接する』


 凛が、小さく笑った。


「返信不要スタンプ、ほしい」


 美羽も少し笑った。


「寝る合図スタンプも」


「じゃあ、月のスタンプとか?」


「いや、布団の絵にしようよ」


 ほかの友人が言った。


「『今日は寝ます、返信いりません』ってやつ」


「長い」


「でもわかりやすい」


 教室の空気が少しずつ柔らかくなる。


 瀬尾先生は、黒板に出た案を整理した。


『夜十時以降は返信不要』

『既読=すぐ返信ではない』

『寝る合図スタンプを使ったら、その後は返事を求めない』

『急ぎの連絡は「急ぎ」と最初に書く』

『雑談は朝に続けてもいい』

『未読・既読で相手の気持ちを決めつけない』

『学校で話せることは、学校で話す』

『返せない日があっても、次の日普通に話す』


 凛は、少し不安そうに言った。


「でも、十時以降に誰も返さなかったら、寂しくない?」


 美羽は、凛の方を見た。


 そして、勇気を出して言った。


「寂しい時は、寂しいって言っていいと思う」


 凛が目を上げる。


「でも、みんなが寝る時間を削らなくても、次の日聞けるようにしたい」


 美羽の声は震えていた。


「私、凛のこと嫌いじゃない。グループも嫌じゃない。でも、夜ずっと返してると、次の日しんどい」


 凛は、何か言おうとして止まった。


 美羽は続けた。


「返さないと友だちじゃなくなる気がしてた。でも、本当は、返さなくても次の日普通に話せる方が、友だちって感じがする」


 教室が静かになった。


 凛は、机の上の付箋を見た。


『誰も返してくれないと、自分だけいらないみたいで怖い』


 その付箋の横に、美羽の言葉が置かれた気がした。


 返さなくても、次の日普通に話せる。


 凛は、小さく頷いた。


「私も、みんなを試すみたいに送ってたかも」


「試す?」


「返してくれたら安心する、みたいな」


 凛は、少し恥ずかしそうに笑った。


「でも、それだとみんな寝られないね」


「凛も寝られてないでしょ」


 友人の一人が言う。


 凛は、少しだけ目を逸らした。


「まあ、私も眠い」


 その一言で、みんなが笑った。


 笑いは軽かった。


 誰かを責める笑いではなく、同じ重さを見つけた後の笑いだった。


 その日の帰り、五人はグループチャットの説明欄を変えた。


『いつめん五人組』


 その下に、新しいメモを入れる。


『夜十時以降は返信不要』

『既読は読んだだけ』

『寝るスタンプ後は追いメッセージなし』

『急ぎは最初に「急ぎ」』

『雑談は朝に続けてもOK』

『返せない日があっても、翌日普通に話す』


 凛が、布団に入った猫のスタンプを送った。


『寝る合図これでよくない?』


 美羽は笑った。


『かわいい』

『採用』


 別の友人が返信した。


『返信不要スタンプも作ろ』

『このハートに「読んだよ、返事いらない」って意味つける?』


 美羽は、画面を見ながら、少しだけ胸が軽くなるのを感じた。


 ルールを作ったからといって、すぐに不安が消えるわけではない。


 きっと今夜も、通知が鳴れば見たくなる。


 既読だけつけるのは、まだ怖い。


 でも、画面の向こうに約束がある。


 返さなくても、明日普通に話す。


 その約束が、布団の中の美羽を少し守ってくれる気がした。


 夜十時三分。


 美羽のスマートフォンが震えた。


 凛からだった。


『今日ありがと』

『ちょっと言いすぎてたかも』

『ごめん』


 美羽は、画面を見つめた。


 すぐに返したい。


 でも、十時を過ぎている。


 ここで返したら、また続くかもしれない。


 迷っていると、続けて凛からスタンプが来た。


 布団に入った猫。


 寝る合図。


 さらに一言。


『返信いらない。明日話そ』


 美羽は、胸の奥がじんわり温かくなった。


 返信しなくてもいい。


 でも、無視ではない。


 美羽は、返信不要のハートスタンプだけを送った。


 そして、スマートフォンを机の上に置いた。


 枕元ではなく、机の上。


 手を伸ばせば届く距離ではある。


 でも、布団の中に持ち込まなかった。


 部屋の電気を消す。


 カーテンの隙間から、夜の光が細く入っている。


 通知音は、もう鳴らなかった。


 美羽は、久しぶりに画面ではなく天井を見ながら目を閉じた。


 翌朝、教室で凛が美羽の席に来た。


「昨日、寝た?」


「寝た」


「私も」


 凛は、少し得意げだった。


「十時半には寝た」


「すごいじゃん」


「でも、ちょっと不安だった」


「うん」


「誰も返さないの、変な感じだった」


「うん。私も」


 凛は、美羽の机に軽く指を置いた。


「でも、朝も普通だったね」


 美羽は頷いた。


「普通だった」


 その言葉が、思っていたより嬉しかった。


 返信しなかった夜の次の日も、友だちは友だちのままだった。


 昼休み、五人は教室の隅で昨日のルールを少し直した。


『寝る合図を出した人に、追いメッセージを送らない』

『誰かが不安な時は、夜に解決しようとしないで、翌日直接話す』

『グループで言いにくいことは、個別か先生に相談してもいい』

『返信が遅い理由を勝手に決めない』


 瀬尾先生も、その様子を見ていた。


 放課後、先生は灯理に言った。


「白瀬先生、私は最初、スマホをやめなさいと言えばよいと思っていました」


「はい」


「でも、子どもたちにとっては、スマホの問題である前に、関係の問題だったのですね」


 灯理は頷いた。


「道具を遠ざけるだけでは、不安は残ります」


「はい。これからは、ルールだけでなく、安心して離れられる約束を作ることも授業に入れたいです」


 瀬尾先生は、少し苦笑した。


「大人でも、返信がないと不安になることがありますから」


 灯理も静かに微笑んだ。


 数日後、美羽たちのグループチャットには、新しい使い方が少しずつ根づき始めた。


 夜十時を過ぎると、誰かが布団猫のスタンプを送る。


 返事がない時もある。


 翌朝、「昨日寝落ちした」と笑う子もいる。


 凛が不安になって長文を打ちかけた時、美羽が学校で直接聞いた。


「昨日、何かあった?」


 凛は少しだけ泣きそうな顔をして、「ちょっと寂しかっただけ」と言った。


 その話は、夜の画面ではなく、昼間の教室の隅でできた。


 美羽も、眠い日は先に寝るようになった。


 まだ完璧ではない。


 通知が気になって、何度も机の上を見てしまう日もある。


 でも、返さなければ終わる関係ではないと、少しずつ体が覚え始めていた。


 ある夜、美羽はチャットのメモを開いた。


 みんなで作ったルールの下に、短い一文を書き足した。


『つながっている証拠は、すぐ返すことだけじゃない』


 送信する前に少し迷った。


 でも、送った。


 すぐに凛からハートのスタンプが来た。


 返信不要の意味を持つハート。


 それだけで十分だった。


 夜、灯理は中学校を出た。


 校舎の窓には、部活動の明かりがまだ残っている。グラウンドの向こうから、ボールを打つ音が聞こえた。風は少し冷たく、昇降口の前の木々が暗い空に揺れていた。


 瀬尾先生が、玄関まで見送りに来た。


「白瀬先生、ありがとうございました」


「こちらこそ、友だちの重さを一緒に見せていただきました」


 瀬尾先生は、手元の授業記録を見た。


「美羽さんたちのルール、他のクラスでも使えるかもしれません。ただ、押しつけにならないようにしたいですね」


「はい」


「それぞれの関係に合った約束を、自分たちで作ることが大事なのですね」


 灯理は頷いた。


 友だち関係を学ぶことは、つながる量を増やすことではない。


 いつでも返事をする。


 既読をつけたらすぐ返す。


 夜遅くまで会話を続ける。


 誰かが不安になったら、その場で安心させる。


 それらは、一見すると仲のよさに見えることがある。


 けれど、つながりが眠る時間を削り、返事が義務になり、既読が重りになった時、関係は少しずつ息苦しくなる。


 必要なのは、つながりを切ることだけではない。


 安心して離れる方法を作ること。


 寝ると言えること。


 返事を待たない約束。


 急ぎと雑談を分けること。


 既読を気持ちの証拠にしないこと。


 翌日、普通に話せること。


 離れても戻ってこられる関係を、みんなで育てること。


 灯理は、夜の校舎を振り返った。


 美羽のスマートフォンの中には、グループチャットのメモが残っている。


 そこには、美羽の言葉で一文が書かれている。


 つながっている証拠は、すぐ返すことだけじゃない。


 その言葉を胸に、灯理は静かな道をゆっくり歩いていった。

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