第十一章:残された式(しき)
廃墟となった地下施設の跡地から避難した霧島、青井、そして白猫は、一時的な保護施設へと戻された。そこには、特異事案調査課の専属アナリストたちが待ち構えていた。爆破寸前で回収されたログの断片が解析されていたのだ。
「……見てください、これが復元できたデータです」
ノートパソコンの画面には、薄暗い実験室の監視映像が映し出されていた。そこに写っていたのは、ベッドに横たわるα-06と、その傍らにちょこんと座る白猫の姿だった。
「……まるで、子守でもしているようだな」
青井が小さく呟く。
「それだけじゃない」
霧島は別のファイルを開き、端末の中の論文データを指差した。
> 《α-06は、失敗作の集大成であり、同時に“鍵”でもある。白猫──α-37の存在が、α-06の抑制装置であることは偶然ではない》
「……やっぱり、あの猫は制御のために作られた……」
霧島の声に、どこか悔しさが滲んだ。
「だけど、今のα-06は完全に制御から外れてる。もう抑える手段が――」
青井が言いかけたところで、通信端末が鳴った。
「こちら、吉良園子。状況はそちらと共有したわ。新たな命令を伝えるわよ」
端末越しに聞こえる声は、冷静かつ威厳を帯びていた。
「……吉良さん」霧島が応じる。
「α-06の暴走は、今後国家規模の災害を引き起こす可能性があるわ。これより、当該個体を“特異対象001号”として正式に処分対象と認定する」
「……処分、ですか」霧島は視線を落とした白猫に向けた。
「白猫については?」
「“鍵”である可能性が高いわ。回収、保護、解析を継続。ただし──今後も制御に関与できるなら、利用も視野に入れる。……悪いけど、感情で動かないでよ、霧島」
「了解しました」
通話が切れた後、重苦しい沈黙が降りた。
「……あの猫を、“利用”って、言ったな」
青井が苦々しく呟いた。
白猫は、その言葉を聞いていたかのように、霧島の足元にすり寄り、鳴いた。
「……利用なんてさせるかよ」
霧島の声には、微かな怒りが含まれていた。「だが、止めなきゃならない。α-06は、もう人間の手に負える存在じゃない……」
霧島は白猫を抱き上げ、その瞳を見つめる。
「お前が“鍵”なんだろ?だったら、俺たちに教えてくれ……どうすれば、あいつを止められる?」
白猫は小さく、しかしはっきりと首を縦に振った。
「……行こう」
霧島は振り返り、青井と目を合わせた。「次で終わらせる」
「了解。俺も付き合うよ、最後まで」
こうして、霧島、青井、そして白猫は、α-06を封じるための最終任務に向けて動き始めた。
終局の地へ向かう旅路が、静かに幕を開ける。
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