第十章:目醒めの檻
地下への階段は、崩れかけた金属とコンクリート片で覆われていた。霧島と青井は白猫の足跡を辿るように、慎重に足を進めていく。
「……こっち、で合ってるのか?」
青井が不安げに辺りを見回す。
「猫がいなくなった先だ。行くしかないだろう」
霧島は懐中電灯の光を鋭く先へ投げた。先ほどまで無機質だった空間に、明らかに人工的な構造が現れはじめる。地下施設だ。上層の廃墟とは違い、壁は比較的新しく、電源が微かに生きているのか警告灯が赤く点滅していた。
奥へと進んだその先に、奇妙な球状の観察室が現れた。
ガラス越しに見える部屋の中央には、何かが静かに眠っていた。
「……あれが、α-06……」
青井が息を呑む。
それは人間の形に限りなく近かった。しかし、異様に伸びた四肢と、白く滑らかな皮膚、そして仮面のように無機質な顔が、明らかに“人”ではないことを示していた。
「生命反応……微弱だが、ある」
霧島が端末を確認したその瞬間、施設内に警告音が鳴り響いた。
【WARNING:CONTAINMENT BREACH】
部屋の空気が震えた。ガラスの内側で、α-06がゆっくりと身体を起こす。機械に繋がれたチューブが一斉に引きちぎられ、瞳が霧島達を認識した――その瞬間、空気が爆ぜる。
「下がれッ!」
霧島が叫んだと同時に、ガラスが爆発するように弾け飛んだ。
現れたそれは、もはや“獣”だった。
口は人間のように閉じているのに、全身の皮膚が裂け、内側から金属のような骨格が覗く。何本もの腕のような突起が背中から伸び、動きは生物というより機械に近い。
「退路を確保する!」
霧島が銃を構えると、α-06は異常な速さで襲いかかってきた。
一撃で壁がえぐれ、衝撃波が走る。青井が飛び退き、霧島が側転して躱す。
「この動き……ヤバい!」
青井が叫びながら反撃を試みるが、弾丸は表皮に弾かれてしまう。
すると、突如として白猫が横から飛び出し、α-06の前に立ちはだかった。
「おい、やめろ!」霧島が叫ぶ――しかし白猫は振り返らず、ただα-06を見据えた。
α-06の動きが、止まる。
「……まさか」霧島が呟いた。「あの猫……α-06の制御キーなのか?」
白猫は、静かに一歩近づいた。α-06の身体が震え、突起が一つ、また一つと引っ込んでいく。
だが、完全には止まらなかった。次の瞬間、α-06の身体が震え、再び暴走を始めた。
「だめだ!制御が効かない……!」
青井が叫ぶ。
霧島は白猫を抱きかかえ、一瞬の隙を突いて緊急排出口へ飛び込んだ。爆音とともに背後の施設が崩れ始める。
「青井ッ!来い!」
「了解ッ!」
ぎりぎりで外へ飛び出した二人と一匹を、崩れた地上施設の爆風が追いかけた。
霧島は白猫を抱いたまま、地面に転がり、荒く息を吐いた。
「……あいつがα-06か……だが、まだ完全には目覚めていなかった」
白猫は霧島の腕の中で、一つ小さく鳴いた。
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