第五話 弾丸の行き先
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頬に冷たい感触を感じて、意識が目覚める。
周りを見ると何も見えないほどの土煙が上がっていて、相手の姿は見えないほどだった。
地面に寝転がっている体を起こそうとして、体に痛みが走る。
どこかが激しく負傷しているわけではないが、無数の切り傷ができていて、何が起こったのかを想起させる。
俺は砲撃を見て、咄嗟に周囲の土と空気を回転、纏わせ防御のための即席の壁とした。
それにより砲撃に直撃することはなかった。
しかし、砲撃を防いだ衝撃で即席の壁は壊れ、飛んできた石やら破片やらで切り傷ができたようだった。
痛む体を我慢して動かそうとして、膝をつく。
ーーーカチャッ
嫌な予感と音がして、恐る恐る顔を上げる。
目の前には銃口があった。
チェックメイト。詰みだ。
自然と高速で回りだした頭で状況を打破する方法を考える。
ここに来て、やっと相手の顔を見る。
顔から推定できる年齢は二十代から三十代。
その顔からは余裕が見てとれ、俺の頭に銃を突き付けている状況で勝ちを確信しているのだろう。
「最後に言い残すことはあるか?」
相手が俺に向かって喋りかけてくる。
時間が足りない。
いや、考える時間は作れる。だが、この手札が足りない。
回転させられるものがない。
魔力も足りない。もっとあれば選択肢も増えたが、俺の魔力量じゃ回せるものも限られる。
奥の手もあるにはあるが、時間がかかる上に使ったら消費魔力が多すぎて、使ったらしばらく魔眼は使えないだろう。
「もう勝った気なのか?皮算用にしても早ェだろ」
俺に出来るのは苦し紛れの皮肉を相手にかますことくらいだった。
「チッ」
相手はそれを聞いて顔をしかめながら、舌打ちをしていた。死ぬ前に相手の気分を悪くすることぐらいはできたようだ。
死ぬ直前になって思い出すのは、やはり家族の顔だった。これで死んだらまた再会できるのだろうか。
そして、家族の他に思い出す顔がもう一つあった。ーーー去時音だ。
戦っている間は余裕がなく、逃げられたかなど考えていられなかったが、このくらい時間があれば逃げられただろう。
しかし、この先の魔眼戦争を一人で戦い抜くのは厳しいだろう。
去時音の能力はとてもだが戦闘に向いていない。
そう思った瞬間、死へ向かっていた思考が方向を変え始める。
去時音を助けると決めたのに、俺はここで死ぬことを受け入れていた。
家族も死に、俺が一人残された。敵討ちという目標もあったが、諦めていた。
しかし、ここで諦めるのは早い、早すぎる。
後悔したり、過去を振り返るのは死んだ後でも十分間に合う。でも、生き抜く方法を考えるのは生きている間しかできない。
「ーーー死ね」
情けも容赦もなく死の宣告が下される。
俺は加速した思考を再び戦闘に向け始める。
ガキンッという音がして目の前の銃口が激しく光る。
それと同時に銃弾が発射される。
銃口と俺の間は数十センチしかなく、1秒もかからず到達するだろう。
俺は可能な限りあらゆるものに回転をかける。
銃弾をジャイロ回転の反対方向へ回転をさせる。止まりはするが、俺の頭は貫かれた後だ。
相手の体は抵抗があって、干渉できない。
俺の体は動かせるが、銃弾を躱せる程動かせない。
いや、回せるものは目に見えるものだけじゃない。
例えばこの銃弾の軌道。これを回転させて曲げる。
いける。少しの角度でも進む程そのズレは大きくなっていく。
俺も残された時間を使って、少しでも頭を銃弾から遠ざける。
紙一重のところを銃弾が通り抜けていく。
生きた心地がしないどころではなかった。しかし、死ななかったことを喜んでいる暇はない。
まだ敵は生きていて、俺が圧倒的に不利な状況なことは変わらないのだから。
光の残穢が残る視界で俺は立ち上がり、踏み出す。
敵は俺が銃弾を避けたことに今気付いたばかりだ。この隙を利用して一気に決める。
俺は勢いそのまま敵にタックルする。
敵の上に俺が乗る形で二人とも地面に倒れる。
敵に触れていて相手への魔眼の抵抗が著しく下がっている。それに加えて全魔力をここで絞り切る!
俺は敵の首に両手をかけ、叫ぶ。
「『螺旋』!」
周りの空気を回転させ、相手の体を巻き込みながら、回転の半径を狭めていく。
敵の頭が段々と圧縮され、小さくなっていく。
「ゔ、ぐおおぉぉぉ」
敵の口から断末魔が漏れ始める。
頭が圧縮されることにより、押し出される血液が穴という穴から押し出されてきている。
今にでも目を離したい程の凄惨な状態だが、俺は目を離さない。
自分が死なないため、約束を守るため、家族の復讐を果たすため。
どんな理由があったとしても、今ここでこいつを殺すと決め、実際に手にかけるのは俺自身なのだから。
「あ"あ"、げごぉぉ!!」
敵も最後の力を振り絞っているのか体が激しくのたうち回る。
しかし、俺が馬乗りになっている状況を覆せる程の力は出せていない。
ついには頭蓋骨が崩壊し、ゴキッゴキッという音とともに頭が急激に小さくなる。
それに伴い、出血量も大幅に増える。
「ごめん。今、楽にする」
俺は眼に力を込め、一気に回転を強める。
もう魔力は残っていないはずだが、心なしか回転が強まった気がした。
ようやく戦いが終わり、緊張で満足に空気を取り込めていなかった肺に新鮮な空気を送るため、大きく息を吸おうとしてーーー
背後にカチャッという音が聞こえた。
今回も読んでいただきありがとうございました。
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