第三話 嵐の中の静けさ
今回もよろしくお願いします。
切りたいところがあったので、少なめです。
あの夜から二日。
未だに現実の実感がなく、フワフワとした感覚を感じる。
しかし、両親のことも自分の眼のことも紛れもない現実だ。
去時音と話した結果、学校に行く事になった。
俺は他の所有者に襲われることを気にしていたが、基本は人目があるところでは戦わないことになっているらしいので、学校は逆に安全らしい。
しかも、そういう基本的なルールは魔眼が宿った時に使い方と一緒に分かるはずだが、なぜだか俺は知らない。
去時音も理由は分からないというので、とりあえずは去時音の提案通り学校に行く事にした。
「おはよう」
俺が斥本に挨拶すると、斥本からの返事はなかった。
いつも通り席に座っているのだが、雰囲気が違う。
顔色は悪いし、いつもは綺麗に整えられている髪も乱れている。
「斥本、どうしたんだ?」
この質問は斥本に届いたようで斥本は顔をこちらに向ける。
斥本に一瞬驚きの表情が浮かぶが、すぐに消えてしまう。
俺も正面から見て分かった彼女の目のクマに驚いていた。
「おはよう、伊崎君。どうもしてないわ。ここのところ用事が立て込んでいて、寝不足なだけよ」
斥本はそう言うと、疲れた顔で笑顔を作る。
「………そうなのか。あんまり無理はするなよ」
不安が拭いきれないまま会話は終了となった。
斥本のことも気になるが、俺は自分のことすらも不安でいっぱいだ。
人目があるところでは襲われないらしいが、俺はどうやら魔眼を隠すことができないらしい。
慣れていけばいずれはできるはずなのだが、試してみたところコツが全く掴めなかった。
魔眼は所有者以外に見えることはほぼない。なので、魔眼が隠せないからといって一般人に不審に思われるわけではない。
しかし、問題なのは所有者に会った時である。所有者同士は近くに居る場合、他の所有者の存在が感覚的に分かるらしい。
雑踏の中ですれ違うくらいならば誤魔化せるかもしれないが、俺の場合は魔眼を隠せないので、眼を見られて終わりである。
ということもあり、学校でも気が休まらない。
授業にも身が入らないまま、一日が過ぎていく。
何もしていないという訳にはいかないので、ペン回しをずっとしていた。
ただ遊んでいたわけじゃない。魔眼の練習だ。ペン回しをしているようにペンを手の周りで回す。
魔眼は使えば使うほど体に馴染んでいく感覚がある。
それに魔眼の方からもどのように力を使えばいいのか教えてーーー
「伊崎君?いつまでペン回ししてるの?」
思考の海から一気に現実へと引き戻される。
声がした方を向くと、斥本がこちらを呆れながら見ていた。
「あ、ああ。何か言ったか?」
「あなた、今日一日中ペン回ししてたでしょ。それに授業が終わっても、私が話しかけるまで気付かないし。………何かあったの?」
斥本の表情からこちらを本気で心配しているのが伝わってくる。
俺が抱えてるもの、俺が今いる状況のことを全部吐き出したい気分だった。
でも、それは俺が楽になるだけで、斥本を危険な目に会わせるかもしれない。
「……いや、何もないよ。ペン回しって、やってみたら奥が深くてさ。ついつい何時間もやっちゃうんだよなぁ」
我ながら苦しい言い訳だった。
「そ、そうなんだ」
斥本は引きながらも納得してくれたようだ。
「というか、そういうお前もかなり顔色悪いぞ。本当にただの寝不足なのか?」
今朝見た時も体調は悪そうだったが、今はさらに具合が悪そうだ。
尋常じゃない。
「本当にただの寝不足よ。人間、生きていれば体調の悪い日くらいあるわ」
不意にポケットに入れていたスマホが振動する。
俺はスマホを取り出し、通知を確認する。
『昇降口で待ってる。学校に敵がいないとは限らないんだから、早く来て』
去時音からの催促のメッセージだった。
「………悪い、早く帰ってこいって言われちまった。お大事にな!」
俺は斥本との会話を切り上げ、教室を離れようとする。
斥本はこちらに手を振ってくれていたが、表情から微かに感じられる違和感が消えることはなく、深く心に残った。
昇降口に行くと、壁に体を預けた去時音が待っていた。
周りを見ると通りすぎていく生徒が去時音の方をチラチラと見ている。
確かに、去時音の容姿は整っていて、どこか目を奪われるものがある。
見られている方の去時音は居心地がよくはなさそうなので、駆け寄って声をかける。
「待たせてごめんな」
「別に大丈夫よ。それより何か不審なことはあった?」
問いに対して斥本のことが脳裏をよぎる。しかし、あれはただの体調不良だと処理する。
「いや、特にはなかった。魔眼を使ってたら、さらに馴染んできたってくらいかな」
俺がそう答えると、去時音は頭を手で押さえて項垂れる。
「………学校の中で魔眼を使ってたわけ?」
「……あ、ああ。」
「バカなの?」
「えっ?」
俺は話が飛んだのかと思い、間抜けな声をあげてしまった。
「はぁ。とりあえず、歩きながら話しましょう」
俺たちは学校を出て、帰路につきながら会話を再開する。
「まず、あなたが魔眼を隠せてないから、見られたら所有者だと疑われるのは理解してる?」
俺はコクコクと頷く。
「じゃあ、そんなやつが物理法則を無視したようなことしてたら、どう思う?」
そこまで言われて、やっと去時音の言いたいことが分かった。
俺は見られただけで所有者かもしれないと思われる。
そこでさらに、俺が魔眼の力を使っていたら所有者確定になってしまうというわけだ。
だから、去時音は俺の行動に呆れていたのか。
俺は学校に所有者がいた時のことを考えて、体から血の気が引いていくのを感じた。
「まあ、同じ学校に所有者がいる可能性なんてほぼないに等しいわけだし、大丈夫だと思う。街中ではそんな抜けた行動しないでよね」
「分かりました」
俺は自分の軽率さを悔やみながら返事をすることしかできなかった。
* * *
「あっ!」
家に帰り、冷蔵庫を見た去時音が驚きの声をあげた。
「どうした?」
「食べ物が何もないわ」
確かに、あの夜から俺たちは買い物などはしていない。
ならば、食材がなくなるのは必然であり、買い物に行かなくてはならない。
学校が終わり、時間が経ち、太陽は沈みかけている。
買い物から帰るまでには太陽は沈み、夜が始まるだろう。
つまり、戦争の時間だ。
「………買い物…行くか」
今日を空腹で乗り切ったとしても、戦いは今日だけでは終わらない。
ならば、ここで我慢するのは得策ではないし、早めに夜を体験しておいて損はないだろう。
外に出ると、冷たい風が頬を撫でた。
涼しくて気持ちいいと思う前に、体が強張るのを感じる。
暗い空も冷たい空気も何も変わっていない。なのに、どこか前まで感じていた夜とは違うと感じる。
変わったのは夜の方ではなく、自分の方だ。
「さて、帰りましょうか」
「そうだな」
買い物は意外な程あっさりと終わった。
近場のスーパーから出てきた俺たちの手には一袋ずつビニール袋が握られている。
腐らせずに食べきれる量の食材を買い込み、それを二等分してそれぞれが持っている。
あとは、帰るだけだ。
行く時に通った道を再び通って、家へと帰る。
去時音と会話が弾むわけではないので、自然も周囲へ視線が泳ぐ。
近くに公園があり、周りはポツポツと住宅がある。
ふと電柱にある地名に目が止まる。
最近見た気がする地名だった。
家の近くだからよく知っている地名ではあるのだが、それとは別に記憶に残っている。
なんで記憶に残っているのかすぐには思い出せず、自分の中を探してみる。
不意に背中を指でなぞられたような不気味な気配を感じる。
歩みを止め、周りを見回す。
去時音も同じ気配を感じたようで、こちらを見ていた。
おぼろ気だが、気配が強くなる方向があった。
その方向を見つめていると、去時音が小声で話しかけてきた。
「この気配は所有者が近くにいるってことよ」
俺は唾をゴクリッと飲み込む。
俺は自分が持っている袋を去時音に渡す。
「お前は先に家に帰ってろ」
去時音は目を見開く。そして、何か言おうとしたのをやめ、考え込む。
「戦闘は俺に任せとけ」
「………分かったわ」
去時音は俺の分の袋を受け取ると、家へと駆け出した。
「袋二つ持って重くないかな」とか「カッコつけたけど全然戦える気がしない」だとかの現実逃避とも思える思考が頭の中を駆け巡る。
その間にも不気味な気配はゆっくりと濃くなっている。
ーーー近付いてきている。
俺は周囲を見渡し、少しでも戦いに向いている場所を探す。
近くにはタイミングよく公園があり、何もない道よりはいいかと思い、公園へと移動する。
読んでいただき、ありがとうございました。
いよいよ意識がある状態では初めての戦闘になります。
次回の更新を楽しみにしていただけたら嬉しいです。




