第二話 魔眼戦争
今回も読んでいただき、ありがとうございます。
今回は説明と戦闘を入れたかったので、長くなってしまいましたが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
気が付くと、俺はベッドの上に寝ていた。
思い出せる記憶は、両親を殺した奴が去時音を連れ去ろうとしていたこと。
そして、俺が奴を殴ったところまで。
それ以降は気を失ってしまったようで、記憶がない。
とりあえず、行動を起こすために上半身を起こすと、全身が筋肉痛になっていて、無数の痛みが襲ってきた。
その時、部屋の扉が開いて、一人の少女が入ってくる。
「あ、お兄ちゃん起きた?」
去時音が様子を見に来たみたいだ。
去時音の顔を見ると、何故か強烈な違和感を感じる。
昨日、去時音を助けるために戦った。
それは去時音が妹だからーーー
「お前、誰だ?」
冷や汗が背中を流れる。
俺が感じた違和感。それは、俺に妹がいるということだ。
そもそも、俺に妹は居ない。
その事実が変えられ、今まで何の疑問も抱いていなかったことに吐きそうなほどの不安感を感じる。
「な、なに言ってるの、お兄ちゃん?私のこと忘れちゃったの?」
去時音も動揺した様子で聞き返してくる。
しかし、その様子を見ても自分の違和感に確信があった。
「俺には妹なんていない。なんでそれを忘れてたのか、お前を妹だと思っていたのかは分からない。でも、俺の家族は父さんと母さんだけだ」
そう言い放った後、少しの沈黙を経て、去時音が喋り出した。
「あーあ、バレちゃったかぁ。それはそうだよね。あなたも所有者になっちゃったみたいだしね」
去時音の雰囲気が先程までとは変わった。
俺は昨日も聞いた単語が気になり、質問をする。
「昨日の奴も言ってたが、その『所有者』っていうのはなんなんだ?」
「………そうね。あなたには知る資格があるわ。私が知ってる限りのことを話しましょう」
話をすることになった俺たちは場所をリビングに移し、話をすることになった。
リビングに入る時、昨日の惨状を想像したが、リビングは何事もなかったように綺麗になっていた。
俺と去時音は向かい合う形で椅子に座り、去時音が話を始める。
「まず、あなたの言う通り、私は妹でもないし、あなたの家族とは何の関係もない。それをあなたが忘れていたのは私が魔眼を使ったからよ」
話をする去時音の眼は嘘を言っているようには見えなかった。
俺は去時音の話を信じることにして、聞き馴染みのない単語を質問することにした。
「その魔眼っていうのはなんだ?」
「これのことよ」
去時音は指で自分の眼を指差す。
俺は言っていることが理解できず、沈黙していると、追加で去時音が説明を始める。
「魔眼を分かりやすく説明すると魔術が使えるようになる眼。それが魔眼よ。そして、あなたは昨日その魔眼の所有者になった」
俺はその話に現実味を感じられなかったが、自分の両眼からする違和感は魔眼を得たことで納得できると思ってしまった。
「魔眼を所有する人のことを『所有者』って呼ぶの。これであなたの疑問は解決できたかしら」
俺はコクリッと頷く。
それを見た去時音はさらに説明を続ける。
「今のこの街には、あなたや私のような所有者が合計で七人いるわ。そして、七人の所有者は殺し合わなくてはならない」
「………え、今なんて?」
俺は聞いた言葉を信じられず、聞き間違いだと思い、聞き返す。
しかし、言葉は聞き間違いではなかった。
「所有者同士は殺し合うようになっているのよ。『魔眼戦争』と呼ばれる儀式によってね」
俺は話が呑み込めず、黙ってしまう。
去時音はそんな俺に現実を突きつけるように、話を続ける。
「あなたは何も知らなかったみたいだし、巻き込まれただけだから殺し合いなんて参加したくないかもしれないけど、他の参加者はあなたのことを狙ってくるわよ」
いつまで経っても話に頭が追い付かず、しゃべらない俺に去時音は提案をしてくる。
「私とあなたで協力しない?」
「どういうことだ?」
「私の魔眼は戦闘向きじゃないの。だから、あなたに戦ってもらって、魔眼戦争を勝ち残る。あなたも死にたくはないでしょう」
去時音は微笑みながら、俺の顔を見て、返事を待っていた。
確かに、何の知識もない俺がいきなり巻き込まれた殺し合いで生き残れる可能性は低いだろう。
昨日だって、あの殺人犯相手に殺されるところだった。
なら、俺がこの殺し合いを生き残るためには、去時音の提案にのるのが一番いいだろう。
「………分かった、その提案にのる」
俺の返答を聞き、去時音は笑顔になると、右手を差し伸べてきた。
「賢い選択ね。じゃあ、これからよろしく」
「ああ、よろしく頼む」
去時音と握手を交わし、ここに俺と去時音の共闘関係が出来上がった。
* * *
話が一段落した後で、俺たちは昼飯を食べ、さらに詳しい話をすることになった。
「まずは、私の魔眼の力を伝えておくわね。私の魔眼は『過去の魔眼』で、対象を過去の状態にしたり、過去を改変したりすることが出来るわ」
去時音の眼にはそう語ると同時に、瞳に時計の文字盤が浮かび上がる。その文字盤には、ローマ数字で一から四の数字のみが見えていた。
「あなたが私のことを妹だと思っていたことやこの家が元通りになっていたのは全部私の魔眼の力よ」
俺はその説明を聞いて、今までの不思議なことに納得がいった。
そして、そんな超常的な力が俺にも宿っているのかと思うと、少し楽しみに思う自分がいた。
「俺がどんな魔眼を持ってるかはどうやって知るんだ?」
「基本的な魔眼の使い方や能力は既にあなたの頭の中にあるはずよ。魔眼の力は元々持っていたみたいに使えるようになっているの」
そういわれ、俺は記憶の中を探す。
元々なかった、ましてや昨日知ったばかりのものの使い方を探す。
見つかるはずがないと思いながらも探す。
そして、存在しないはずの記憶は、さも当然のように存在していた。
俺はテーブルに置いていたコップを右手で持ち、眼を通してコップの中の水を見る。
そして、その水を撹拌した時のように回る様を想像して、眼に力を込める。
不思議な感覚だった。今までの意識したことのない力を感じ取り、操り、眼に込める。
そうすることで、コップの中の水は撹拌したかのように回り出した。
「俺の魔眼は『回転の魔眼』………らしい。未だに魔眼なんてのは信じられないが、なぜかこの魔眼の使い方は分かるよ」
「無事に魔眼が使えて何よりだわ。あなたも自分の魔眼でも見たら、少しは信じられるんじゃないかしら」
そういって、去時音はどこからか手鏡を取り出すと、俺に渡してきた。
俺はその手鏡で自分の両眼を確認する。
そこには薄緑色の眼があり、螺旋状の模様が刻まれていた。
「魔眼の能力は所有者の発想次第でいくらでも化ける。だから、ここから数日は魔眼の特訓をするわ」
俺はこれから始まる戦いの実感が濃くなるのを感じた。
そして、自分の中にある重要な疑問を去時音にぶつけることにした。
「昨日の奴は何者なんだ?」
去時音は俺の眼を見て、少し悩んだ後、知っていることを教えてくれた。
「あいつの名前は血洗、私たちの世界では有名な奴で、金で雇われたら何でもするって噂よ。昨日、私たちが生き残れたのは奇跡みたいなものね」
俺はその話を聞いて、昨日の出来事が鮮明に蘇る。
「あいつの魔眼は分からなかったけど、雇われてる可能性もあるし、時間系の魔眼だと決めつけるのはよくないわね」
「時間系の魔眼ってなんだ?」
俺は意味が分からず、質問をする。
「『過去』『現在』『未来』それぞれの魔眼のことをひとまとめに時間系の魔眼っていうのよ。この三つの魔眼は元々『時間の魔眼』っていう一つの魔眼だったのだけど、強すぎて魔眼戦争のバランスが崩れるから三分割されたらしいわ。時間系の魔眼は必ず揃って魔眼戦争に現れる。そして、三つ全ての魔眼を手に入れた者は『時間の魔眼』を得ることができる。だから、時間系の魔眼の所有者は他の時間系の魔眼の所有者を探すことから始めるのよ」
「………なるほどな」
察するに、時間系の魔眼は戦闘向きではない可能性が高い。だから、強かった血洗が時間系を持っている可能性は低い。
可能性が高いのは、時間系を持つ誰かが血洗を雇い、去時音を狙ったってところか。
なら、このまま去時音と行動していれば、血洗と再び会うかもしれないな。
俺はこの魔眼戦争で戦うと決めてから、もう一つ決めたことがあった。
両親を殺した血洗への復讐だ。
今のままじゃ、絶対に血洗には勝てない。
だから、魔眼戦争を勝ち抜き、もっと強くなる。そして、両親の仇を討つ。
俺は強く濃いその感情を去時音に悟らせないように、自分の奥底で燃やし続けた。
* * *
「はぁ、疲れたぁ」
俺は汗をダラダラに流しながら、椅子に座って、水を一気に飲み干した。
ただの水でも疲れている時は至高の飲み物に感じる。
去時音との共闘関係が始まってから数日、俺は魔眼の扱いに慣れるため、ずっと魔眼を使い、戦う術を磨いていた。
血洗が再びこの家を襲撃することを警戒していたが、去時音によると幻惑の魔術だかが、かかっているらしく、簡単にここが見つかることはないらしい。
前回見つかった時は、俺たち家族に自分の関係を挟み込むことで魔力を使い果たし、幻惑の魔術を使うだけの魔力が残っていなかったらしい。
ちなみに、魔力というのは魔眼や魔術を使う際のエネルギーみたいなもので、人によってその保有量は変わってくるらしい。
魔力は魔術師の血を引いていないと持っていないらしいので、俺は持っていないかと思ったが、俺の体にも少量の魔力が流れているらしく、去時音は「かなり昔の祖先が魔術師だったのかもしれない」といっていた。
「おつかれさま。どう、他の所有者と戦えそう?」
テーブルを挟んで向かい側の椅子に去時音が座り、話しかけてくる。
俺はあれから、少しずつ魔眼や魔眼戦争の知識をつけている。
魔眼戦争に参加している所有者は全部で七人、これは毎回変わらないらしい。
「魔眼の扱いには慣れてきたけど、実際に戦って勝てるかは分からないな」
「それじゃあ困るわよ。私はほとんど戦えないし、戦闘で頼れるのはあなただけなんだから」
俺の中で去時音が妹だったときの感覚が抜けないのか、出会ってから数日しか経っていないのに、かなり親しく話せるようになってきた。
お互いに頼れる人が他にいないから、自然と頼ってしまっているのかもしれない。
「でも、何の抵抗も出来ずに殺されるなんてことはないはずだ」
俺は確かな確信と共に、その言葉を吐く。
あの日、血洗に襲われた日は一撃当てたが、手も足もでなかったという表現が一番近いだろう。
だが、もうそんなことにはさせない。
俺はそんな強い意思と共に拳を握りしめる。
ふと、つけていたテレビで取り上げられているニュースが耳に入る。
『先日、またしても他殺体が発見されました。死因は銃によるものの可能性が高いとして警察は調べを進めています』
「日本で銃なんて珍しいな」
俺がテレビに対して感想をいうと、去時音も何かしら思うところがあったようで考え込んでいる。
「どうしたんだ?」
「………この事件の犯人、もう一週間近く捕まってないみたいなの。これは私の予想だけど、犯人は所有者の可能性が高いわ」
俺は驚きながらも、この現代日本では珍しい事件に魔眼が関わっているとなると説明できると納得してしまう。
「怖い?」
俺の感情を察したのか、去時音が問いかけてくる。
「怖い気持ちはある。けど、覚悟は決めたんだ。今さら逃げたりはしないさ」
「その言葉が聞けて安心したわ。でも、所有者を探していないのに街中で会うなんでことはそうそうないでしょうけどね」
去時音は冗談でも言うみたいにそう言った。俺は少し身構えていたが、その言葉を聞いて少し安心した。
「ところで、昨日血洗と戦った後のこと覚えてる?」
「いや、俺はあいつを殴った後気を失ったから、どうなったかまでは知らないんだ。去時音が目覚めた時にはどうだったんだ?」
去時音は少し顔を曇らせながら、部屋に少しの沈黙が流れる。
「私が目覚めた時にはもう既に血洗はいなくなっていたわ。近くに倒れたあなたと壊れた壁があっただけ。だから、家の状態を過去に戻して、あなたが目覚めるのを待ったの」
俺が気を失った後、血洗は俺達に何もせずに帰ったということになるが、二人とも気を失ったのになぜ何もしなかったんだ。
俺の頭の中に疑問が浮かぶが、今のままでは答えには辿り着けないと思い、思考を断ち切る。
「生きていれば、またアイツに会う機会もきっとやってくる。その時に直接聞き出せばいいだけだな」
血洗を倒すという意思を改めて宿し、去時音に問い掛けると、去時音もコクリッと頷き返してきた。
* * *
温かいお湯が張った風呂に体を沈めると、一日の疲れが溶け出るように体から消えていく。
そして、疲労が抜けた体からは燻っていた悩みが出てきて、リラックスした頭はその悩みを考えてしまう。
血洗に襲われた私は気を失っていて、次に目覚めた時には床に横たわっていて、周りを見ると壁に吹き飛ばされた血洗と気を失っている伊崎廻人がいた。
「やってくれたなァ。一般人だと思って油断してたら痛いのもらっちまったぜェ」
肩に乗っている壁の破片を手で払いながら、血洗は口から血を吐き捨てる。
その顔は痛みなど微塵も感じさせないほどの愉悦に歪んでいた。
どうやら私の目が覚めていることに気付いていないようなので、息を潜めて行く末を見守る。
もはや、相手を見つけた彼の中では私のことなど忘れられているのかもしれないが。
「おい、立てよ!まだこんなもんじゃないだろ!」
血洗はゆっくりと歩いていき、廻人の頭を掴み、顔の高さまで持ち上げる。
「………ケッ、おねんねかよ。一瞬でも期待した俺が馬鹿みてェだぜ」
先程までの表情とは打って代わり、おもちゃが壊れてしまった子供のような絶望を感じさせる顔をしていた。
「死ね」
血洗は懐からナイフを取り出し。廻人の首筋に向け一直線に刺そうとした。
『当所有者に対し覚醒直後、意識喪失状態での戦闘の継続を確認』
不意に機会音声のような無機質な声が流れ出した。
それに驚き、血洗ですらも行動を停止させる。
急に流れた声は明らかに廻人から出ているが、その意識は戻っておらず、口すらも動いてはいなかった。
『疑似人格を形成。当所有者の意識覚醒または戦闘状態の解除まで当所有者を守護します』
私は瞬きをしただけなのに、状況は一変していた。
廻人の頭を掴んでいた血洗は何かしらの攻撃を食らったようで廻人から少し離れていて、廻人は自分の足で立っていた。
そして、ゆっくりと廻人が眼を開く。
そこには薄緑色の螺旋を描く眼があった。
「ははっ!おもしれェ!よく分からねぇが、お前が強いってことは分かったぜ!!」
血洗は口に付いていた血を手で拭い、その顔に再び愉悦を浮かべる。
「お前も魔眼を使うなら、俺も使わせてもらうぜ」
血洗は手に持っていたナイフで自分の腕を切りつる。
すると、腕から鮮血が勢いよく吹き出す。しかし、その血は床に飛び散ることはなく、血洗の腕に纏わりつくように集まっていく。
「『血装 籠手』」
鮮やかな赤だった血は腕に集まり、鎧の籠手の部分を形作る。そして、血の籠手は次第に赤黒くなっていく。
そして、血洗の眼は鮮血と同じ鮮やかな赤に染まっていた。
「ラウンド2、スタートだァ!!」
その叫びと同時に、血洗は踏み込み、廻人に殴りかかる。
廻人はその拳を難なく避け、右手を血洗の腕に添える。
そして、こう呟く。
『『旋』』
私は柔道の一本背負いを思い出した。
血洗は廻人に触れられた所を支点にして、全身で回転運動をしていた。いや、させられていた。
人間がする動きではないが、廻人が魔眼を得て所有者になったのなら可能な芸当だろう。
回転させられた血洗は途中で回るのをやめ、投げ飛ばされるように飛んでいった。
廻人は飛んでいった血洗から距離を取る。しかし、そうはいってもここは家の廊下なので血洗からは一、二歩しか離れられていない。
「痛ってェ。今の感じはベクトルを操る感じか?」
血洗は楽しそうに今の状況を分析しながら、体勢を整える。
廻人はその間も立ったまま動かない。
先程行った通り、あくまで自衛の範囲でしか動かないということなのだろうか。
「じゃあ、これはどうかな!ッと」
血洗は片膝をついた状態でそう言い放った。
私は何も変わったことはないと思っていた。しかし、廻人の体を見ると左肩に指一本分の穴が空いていた。その穴から血が流れ出る。
「流石に初見で不意打ちだったら通るか」
血洗はニヤケ面を浮かべながら、膝をついた状態から立ち上がった。
『認知速度を超過した攻撃を確認。魔眼を使用し、認知速度を上昇』
「へぇ。見破れるといいなァ」
次は微かな音がした。
音がした方を見ると、廻人の後ろの壁に穴が二つ空いていた。
一つは廻人の肩に穴を空けたときのものだろう。なら、二つ目の穴は今穿たれてできたものだと推測できる。
『光線のような攻撃を認知。軌道の変更により回避に成功』
「本当に見破られるとは思わなかったぜ」
血洗は笑いながら喋る。
その表情を見るに、まだまだ遊ぶ余裕があるのだろう。
「今のは俺の血液を圧縮して打ち出してんだ。なかなか避けられるスピードじゃないんだが、俺と同じで何かしらの思考の速度を上げる方法を持ってるな」
血洗は廻人が何をしているかアタリをつけているようだが、私には分からない。
「久々にいい殺し合いができそうだ」
血洗はさらに口角を吊り上げる。
殺し合いの中でもさらに殺し合いを求める。
その感覚は常人の私には理解できないものだった。
プルルルルッ
ピリついた空気の中、血洗が今にも動き出しそうな一瞬手前、空気の読めない機械音が鳴り響く。
誰かの電話の着信音のようだった。
「………チッ!いいところなのに、邪魔しやがって!」
血洗が毒気づきながらも、自身のポケットからスマホを取り出し、電話に出る。
「………分かった」
先程までの昂りが嘘のように消えてしまった血洗は電話を切り、廻人を見る。
「雇い主から呼ばれちまった。この戦いはお預けだ。次に会う時にはもっと強くなってろよ」
血洗はコツコツと家に上がった時と同様に土足のまま家から出ていった。
無意識ながらも私はこの時まで満足に息ができていなかったことに、今更気付いた。
私は血洗が居なくなったことで空いた思考を廻人へと向ける。
彼は依然棒立ちのままだったが、無機質な声で喋り出す。
『敵対所有者の撤退を感知。支援終了条件に該当。サポートを終了します』
そう言い残すと、廻人は糸が切れた人形のように膝から崩れ落ちていった。
私はその後、廻人の生存を確認して、荒れてしまった家を魔眼の力で修復。
廻人に最低限の治療を施し、目覚めるのを待った。
そして、今に至るわけだ。
私は目の前にあるお湯を両手ですくい、顔にかける。
あの夜に起きた出来事ーーーいや、魔眼戦争が始まってから起きた出来事全てに頭がついていかない。
私は自分の髪を見る。
大部分は黒色であるが、一ヶ所だけ色が抜け落ちたように白くなっている髪がある。
これは私が無茶をした証拠だ。
魔眼は私に分かりやすい形で私の愚かさを教えてくれている。
でも、止まるわけにはいかない。
両親は死に、隠れ蓑にした家族は三人中二人死んだ。
いかに過去の魔眼であっても、死人は蘇らせられないのだから。
* * *
もう何時間も走り続けている。
息は上がり、呼吸ばかりした口は乾き切っている。
追っ手の姿が見えなくなり、立ち止まる。
今日何度目かも分からない魔眼の行使を行う。
一秒後の自身の生存を確認し、安堵する。
続けて、自分がこのまま逃げるとどうなるのかを見る。
「こんなところで………こんな意味の分からないことで………死んでたまるか」
「おっ、発っ見ーん。そろそろ逃げるのも限界かァ?」
追っ手がやってきた。見た通りだ。
俺は何も起きてないのに右に避ける。これでいい。
さっきまで俺が居たところを赤い線が通り抜ける。
「あれ?これを避けるのか。今日は珍しいことがよく起きるなァ」
相手は確実に油断している。
そこを突けば、俺でも逃げられる。
俺の人生にいいことなんてなかった。でも、希望を捨てず、未来を見て生きてきた。
「………なにがなんでも生き延びてやる」
今回も読んでいただきありがとうございました。
引き続きよろしくお願いします。




