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ダブルイメージ  作者: ナメゐクジ
第2章
22/29

第22話「FIMBULWINTER BEGINS」

主は、大地の涙から人間を、山の涙からドラゴンを創造なされた。そして主はこう命じた。『人間とドラゴンは兄弟である。決してお互いの命を脅かす事をしてはならない』と。そして主は、『聖なる誓いは必ず守りなさい』とも命じた。

その二つを破った時、世界は暗黒に包まれ、みな地獄の苦しみを味わうだろう。しかし、その二つを守りさえすれば、死の先にさえも幸福が訪れるであろう。


─ヒュードン聖書 第1編 誕生─



ーーーーーーーーーーーーーーーー



「怖えよなぁ。遂にここでテロだってよ」


「ねぇ〜。今日もまたどっかで起きるのかなぁ…」


僕は教室で、クリントとそんな話をしていた。

いつも通り、僕が自分の席に着いていて、クリントがその近くで立っている。いつもの光景だ。


今まで二つの市で起きた連続爆破テロ。それが昨日の午後6時頃、このダイアンド市でも起きてしまった。


犯人は単独犯で、一つの市に三つの爆弾を爆破させるらしい。

つまり、このダイアンド市でも残り二つの爆弾が何時か爆発する訳だ。

時間も場所もバラバラだし、犯人の特徴もあまり良く分かっていない。

僕もおじさんと協力して何度か調べてみたものの、犯人どころか爆弾の場所すらも分からなかった。


「ってか、ここで起きたんならリーシャの父さんが捜査してんのかな? どう思うアピアス」


「えっ…流石に他の二つの市で起きてる事件なんだから、広域特殊犯罪捜査局ホープライズが捜査してるんじゃないの…?」


「そうかなぁ。あ、おいリーシャ!」


クリントが、教室に入ってきたリーシャを見つけて声をかけてきた。

僕はリーシャと一瞬目が合ったが、すぐに気まずくなって顔を伏せる。


お父さんが死んだ翌日、僕はリーシャに酷いことを言ってしまった。

僕はその日以来、リーシャとは上手く話せていない。


「リーシャの父さんさ、何か言ってなかったか? 昨日の爆破テロで」


「う〜ん…あまり捜査の事は言っちゃ駄目だし、特に何も…。あ、でもホープライズに仕事取られたって愚痴ってたよ」


ホープライズ

正式名称は「広域特殊犯罪捜査局」


普通は人間による事件が起きると、その事件の捜査はそれが起きた市の警察局に任される。

だけどホープライズは、三つ以上の市で起きた同一犯と思われる事件を捜査する機関だ。

つまり、二つの市で起きた同一犯の事件なら、その事件の管轄はその起きた二つの市の警察局合同のものとなるが、それが三つ以上の市で起きると、その時点で事件はホープライズの管轄になる。


あくまで「三つ以上の市で起きたら」というのは基準だ。

市の規模によっては、ホープライズの管轄になるのはもっと遅くなる事も、もっと早くなる事もある。だけど、今までの事件が起きた市は特別大きくも小さくも無いところだ。


だから、今回もちょうど三つ目でホープライズの管轄になったんだろう。


リーシャのお父さん・ランスティンさん曰く、仕事を勝手に取られる為にあまりホープライズの事は好きではないらしい。


「何だ〜。やっぱりアピアスの言う通り、ホープライズ行きか〜」


「まぁ決まりらしいからね。仕方ないよ」


丁度その時、学校のチャイムが鳴った。


「あ、席に着かなきゃ。じゃあねクリント君。アピアス君も…また」


「う、うん…」


僕はぎこちなく頷き、自分の席へ戻るリーシャの背中を見つめる。

すると、もうチャイムが鳴っているというのに、僕の隣でクリントの溜め息が聞こえた。


「お前…まだリーシャと仲良くなってねぇのか?」


「ま、まぁね…。僕が…リーシャに酷いこと言ったから…」


「なるほど…まぁ、気にすんなって。お互い話せば元に戻れるって」


「でも…」


「リーシャも分かってくれてるさ。あの時は、日が浅くてイライラしてたんだろ?」


「う、うん…そうだけど…。何で…?」


「俺もそうだったからだよ。経験者舐めんな」


クリントはそう言い、自分の席へと向かっていった。


経験者…か。


クリントは両親を亡くしている。ただ亡くしただけじゃない。喰われたのだ。

彼の生まれた街は、まだ彼が6歳の頃に壊滅状態に陥った。

彼の街に、赤黒いドラゴンが現れ街で大暴れしたのだ。

クリントはこの時、そのドラゴンに家族を喰われ、今はここダイアンド市にいる親戚の家に引き取られている。

だから、クリントはドラゴンを強く憎んでいる。恐らく、僕が知る中で一番。


それにしても、クリントの街を襲った赤黒いドラゴン。俺と融合して分かった。多分、そのドラゴンは…


「ほーらみんな席着けー」


教室に、若い男の数学の先生が入ってきた。


そうか、次は数学か。


僕は机のモニターに手を触れ、指紋認証を行う。そしてそれの中にある数学の教科書のデータを開いた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



「キャウキャウ! キャウキャウ!」


チビのテンションは異常に高かった。


あぁ分かった分かった。分かったから。そう何度も見せなくていいから。


だがチビは、誰も頼んでないのに俺の方を見ながら翼を動かした。

すると、その小さな体がふらっと地面から離れる。


「キャウー! キャウー!」


あぁそうだな。浮かんだな。


【あんなに喜んじゃって。相当嬉しいんだね】


隣でマーベリックが微笑みながらそう言ってきた。


【別に嬉しいのは良いんだが…何回見せる気だあのチビ。正直もう見飽きたぞ】


【まぁまぁそう言わないで】


マーベリックはそう言うが、言った通り俺はもう飽き飽きだ。

そりゃ最初に見た時は驚いたが、こう何度も見せられると新鮮味というか感動が薄れてしまう。

それに、これでチビは飛べた訳じゃない。まだ体を浮かせることができただけだ。


【おいチビ。浮かぶのは分かったから、次の練習だ】


「クゥ?」


こいつ…首を傾げやがった…。完全にこれだけで満足してやがる…。


【浮かぶだけじゃ飛べないだろうが。今度はその状態で動く練習だ】


「クウゥン…」


何落ち込んでんだこいつは。

仕方ない。最終手段だ。


【ほぉう? いいのかあ? 「アイツ」がやって来るかもしれないぞお?】


「! キャウキャウ! キャウキャウ!」


チビは俺のテレパシーを感じるや否や、涙目で俺に何かを訴えかけてきた。

読み取ろうと思えば奴の言ってる事は分かるが、正直面倒だ。


【やめなよトルネード。怖がってるじゃないか】


【はぁ!? だってこいつが…】


【今日は浮かぶ事ができた。それで充分でしょ? あまり無茶させるのは良くないし、少しは褒めてあげないと】


ぐぬぬ…た、確かに無茶をさせるのは良くない気が…。

く、くそっ…何か一気に罪悪感が生まれてきた。


【あぁもう! 嘘だよ嘘! 「アイツ」は来ねぇし、お前よく頑張ったから何かご褒美でもやるよ! だから泣くな! な?】


チビはまだ涙を流しているが、少し落ち着いてきた。

俺は、チビの考えを読み取る事にする。


【本当? 「アイツ」来ない?】


【あぁ来ない。絶対に来ない。だからその…まず住処に帰るぞ。ご褒美はそれからだ】


「キャーウ!」


俺の言葉に、チビは一気に上機嫌になって住処に走っていった。

あいつ…本当にテンションの振り幅が激しいな。俺はうんざりしながらも、マーベリックと一緒に住処へと向かう。


【そういえばさ、さっき言ってた「アイツ」って誰のことなの?】


隣を歩いていたマーベリックが、俺にそう訊いてきた。

そうか。こいつには言ってなかったか。


【ほら、例のドラゴンだよ。同族喰いの】


【えっ、あのドラゴンでチビ君を脅してるの…?】


【まぁな。何か怖がるものは必要だろ】


【チョイスが怖すぎると思うんだけど…】


マーベリックは、俺のそのチョイスに少し引いてしまった様だ。

とは言っても、子供が怖がりそうなものって言ったら人間かそいつしかいないし、この恐怖の対象を使おうと考えたのは、俺がバニッシュの真実を知ってからだ。


バニッシュの事を考えると、人間を恐怖の対象にしてしまうとチビは奴に出会う度にパニックを起こしてしまう。

いや、俺は奴と会う気は無いんだが、万が一の為だ。


となると、残るはその同族喰いのドラゴン。


話によるとそのドラゴンは、体色は血の様に赤黒く、その体に火を纏っているらしい。


本来、ドラゴンは「決闘」で勝敗を決める。

決闘の理由は様々だが、決闘であれば相手を殺す事も致し方ない。しかしその死体は自然に任せ、その場に眠らせておくのが敗者に対するせめてへの敬意だ。


だが奴は、その殺した相手を喰ってしまう。


まるで、「喰う」という行為そのものを楽しんでるかの様に。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



昨日の爆破テロの現場に俺、ランスティンは足を踏み入れていた。

今はもう撤去されてしまったが、爆弾が仕掛けられた車があった場所は黒く焦げており、側にある噴水も一部が破壊されてしまっている。


捜査はホープライズに任されてしまったが、どうしてもこの事件を無視する訳にはいかない。


ジオさんが死んだ日、俺は何もできなかった。

娘も、友人も俺は救えなかった。自分の無力さに嫌気が刺した中起きたこのテロ事件。


俺は、この事件は俺に託された最後のチャンスだと思っていた。


「ランスティン・ムールリットさんですね」


俺が現場をジッと見ていると、ホープライズの捜査官が声をかけてきた。

俺より若く、金髪のロングヘアーをした男性だ。手帳によると名前は…ハワード・ジョスキーか。

要件は言われなくても分かる。


「えぇ、発見当時の話なら何度もやりましたが」


「一応確認の為です。もう一度、その当時の話を聴かせてもらいませんか?」


「分かりました」


そう、俺は別の事件の捜査を終えた帰りに、偶然にも車の中の爆弾に気付いたのだ。


長い間車が止まっていたのと、刑事の勘でその車を不審に思っていた。

そして中を覗き込むと、特におかしいところは無かったのだが、座席から何か光が点滅していたのが見えたのだ。

その光が気になり、無理矢理車の中に入り座席を調べたら爆弾があったという訳だ。


落ち込んでいた矢先に見つけた爆弾。


俺がこの事件を最後のチャンスだと思っているのは、この経緯が理由だ。


「なるほど、ランプで爆弾に気が付いたと」


「えぇ、あの…事件で何か分かった事は」


「特に何も…。それに、この事件は我々の管轄ですので、我々に任せてください」


「ですが! 私も捜査に参加したいんです!」


俺の言葉に、ジョスキー捜査官は難しい顔をした。

彼は特に立場が上な訳では無いのだろう。だから、彼個人の判断では何とも言えない。

そんな事は分かっている。だが、どうしてもこの事件は解決しなければならないんだ。


「分かりました…。上に相談してみます」


「あ、ありがとうございます!」


俺はジョスキー捜査官の提案に、深々と頭を下げた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



夜になると、昼間の晴れ模様が嘘の様に大雨が降っていた。


ジョスキー捜査官に捜査の合同を頼んで数時間。


俺は家へ帰宅し、ジョスキー捜査官への連絡もまだ来ていなかったが、事件を放っておく事ができなかった。


俺はその雨音を聞きながら、自室で今までの事件現場を見続ける。


一つの市に三つの爆弾以外、これと言った共通点が見られない。

やはり、場所はバラバラなのだろうか。それと、犯人の目的は何なのだろう。


最初の事件現場はスイミングスクールだ。次は自然公園、その次は橋。

そして市が変わり、小学校のグラウンド、宿泊ホテル、水族館。それで昨日の現場、ダイアンド広場。


うぅん…やはり共通点が分からない。


ホープライズは、もう共通点を見つけてたりするのだろうか。


コンコン。


誰かがドアをノックした。


「どうぞ」


俺がそう言うと、ドアから出てきたのは娘のリーシャだった。

リーシャは、コーヒーの入ったコップを机の上に置く。


「はいお父さん」


「あぁ悪いな」


「お父さん、家に帰っても仕事してるの?」


「まぁな。だが、ちょっと難航してて…」


「無茶はあまり良くないよ? あ、そっか。そこの自然公園。テロにあったんだっけ…」


リーシャの言った自然公園とは、最初のテロ現場となった市の二番目の現場だった。


「リーシャ。お前この公園知ってるのか?」


「うん。テレビで特集されてたの。おっきい池があってね。それが凄く綺麗だったんだよ」


「池…?」


俺は何か引っかかり、ふと窓を見た。

窓には、雨粒が付着している。


……まさか…!


「リーシャ! 良くやった!」


「え? な、何が?」


「あ、あぁ…すまん。コーヒーありがとな。早く寝なさい」


「え、う、うん…」


リーシャが困惑しながら出て行ったのを確認した後、俺はすぐさま事件現場を振り返った。


スイミングスクール、自然公園、橋、小学校、ホテル、水族館、そして広場…。


間違いない。共通点は「水」だ。


スイミングスクールはプール。自然公園は先ほどリーシャが言った池。テロが起きた橋は、川の間を通る橋だったらしい。

小学校は授業用のプール。被害にあった宿泊ホテルには温泉があるらしいし、水族館は言うまでもなく水槽。


そして、最新の現場であるダイアンド広場。


俺は事件現場の状況を思い出す。


黒焦げの車に、その近くにあった噴水。


やっぱりそうだ。全ての現場には、水が存在する。


でも、何で水なんだろう。

犯人は、何でわざわざ水がある場所なんて…。犯人の何らかのメッセージなんだろうか。だとしたら、一体誰に…。


その時、家の近くに雷が鳴った。


突然の光と音に俺は驚き、また思わず窓を見た。


すると、雷よりも驚くべきものが窓の外に立っていた。


黒いローブを纏った坊主姿の老人が、窓を通して俺を見つめていたのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



俺はカッパを着て、外に出る。


向かう先はもちろん、あの不審な老人だ。


「おいあんた」


俺は、未だに窓の外に立っている老人に声をかける。

老人はゆっくりと振り返り、その不気味な目で俺を見つめる。


さっきもそうだったが、何だか薄気味悪い老人だ。

片方ずつで違うイヤリングも何だか気味が悪い。片方は四角いイヤリングで、もう片方は三日月型だ。


「あなたが…昨日、爆弾を見つけたという刑事さんか?」


「あぁ…そうだが…」


まさか、この老人が犯人か? 何だか、普通とは違う感じだし、めちゃくちゃ怪しい。


「私はヒュードン教の司祭じゃ。お主に、伝えるべき事があっての」


ヒュードン教だと?


「伝えるべき事? 何故、ヒュードン教の司祭が?」


「事情は色々じゃ。我らヒュードン教は、決してお互いを脅かさないと決めておるからの」


あぁそうだな。


ヒュードン教は、人間とドラゴンが争う事を嫌う。それがキッカケでヒュードン教が戦争を大きくさせた事が歴史上何度もある。

まぁ皮肉にも、そのおかげで長年の間戦争は避けられているんだが。

だが、それが今何の関係がある。


「伝えるべき事というのは、この事件の事じゃ。この事件は、ヒュードン教と関係する」


「なんだと…?」


「今までの事件現場の共通点は、分かるかの」


「あぁ、水がある場所を狙っている」


「その通りじゃ。水がある場所で、爆弾で火を付ける。水と火の同時出現。それは、ヒュードン教では聖なる現象じゃ」


そうだったのか。ヒュードン教の事はあまり知らなかったな。

だけど、ちょっと気になる。


「しかし、何故?」


俺は何故、水と火の同時出現が聖なる現象になるのかがどうしても気になった。

本当はこの老人から離れたいが、気になってしまったものは仕方がない。


「聖書に『主は、大地の涙から人間を、山の涙からドラゴンを創造なされた』と書かれてあるからじゃ。大地の涙というのは海。山の涙というのはマグマ。海とマグマ。これが長年の間によって水と火になった訳じゃ。

つまり、水は人間を意味し、火はドラゴンを意味する」


なるほど。それなら人間とドラゴンの関係を重要視するヒュードン教にとっては、特別な意味になるだろうな。水と火の同時出現って奴は。


「そうか…大体分かった。しかし、何故それを俺に伝える。ホープライズの管轄なんだからホープライズに言えば…」


「理由は、先ほど言った筈じゃよ…」


「なに?」


さっき言った? 一体何の事だ?


「あいつは、世界の為と信じて犯行を及んでる様じゃが…我々にとってはあれは早すぎる。まだ時間はあるというのに、あんな事をすれば逆効果じゃ」


「あんな事って…爆破テロの事だな」


「あぁ、早くあいつを止めてくれ。愚か者が感化されてしまう前に」


司祭はそう言い、俺の横を通り過ぎる。


「お主らも、戦争は嫌じゃろう?」


俺が振り返ると、司祭はもう遠くへと行っていた。

俺はポケットに入っていたボイスレコーダーを取り出す。


念の為、この会話を録音しておいたのだ。


ヒュードン教に関係するって事は、犯人はヒュードン教信者という事か。


戦争…か…。


確かに、五世紀間大戦の様な戦争を再び起こす訳にはいかない。

早くそのヒュードン教信者を探さなければ。あの司祭曰く、そいつに感化されて行動を起こす者が現れるそうだ。

そうなれば、大規模な戦争が起きてしまう可能性がある。


しかし、何故あの司祭は、俺にこれを伝えたんだろう。

理由は言ったって言ってたけど…。


まぁいい。家に戻った後でそれも考えるとしよう。

ホープライズからの連絡はまだ来ていないが。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



小さな足が森を駆け回る。


昨日、ようやく浮かぶ事ができたチビのご褒美として、俺は奴に森林浴をさせる事にした。

チビの要望により、マーベリックも一緒に。


【悪いなマーベリック。チビの我儘に付き合わせてもらって】


【別にいいよ。チビ君、結構楽しそうだね】


マーベリックの言う通り、チビは元気に走り回っていた。

余程、この森が気に入ったらしい。


せっかくだからと、俺は住処とは少し離れた森へとチビを連れてきた。

この森は俺の住処の近くの森より広く、大きな泉もあって大変気持ち良い場所だ。

チビの為だったわけだが、俺もこの森が気に入った。この森に引っ越しするのもアリかもな。


【そう言えば、チビ君チビ君って呼んでるけど、彼にもうちょっとちゃんとした名前は付けないの?】


【名前?】


俺はマーベリックの言った事が予想外で、しばらく固まる。


【いや…親が名前付けるのはおかしいだろ】


俺がそう言うと、マーベリックはクスッと笑った。

何だ? 俺なんかおかしな事言ったか?


【フフッ、あんなに嫌そうに面倒見てるのに、ちゃんと親って自覚あるんだね】


【え!? ち、違う! あの…ほら! あいつが俺のことパパってずっと呼ぶからつい癖で…!】


【はいはい、分かったよ。トルネードお父さん】


【だから違……ん?】


マーベリックに反論しようとした時、俺は何か違和感を感じた。

俺は指の先だけを風に変え、風をその身で感じる。

やっぱりそうだ。何か来る。熱い何かが。


【チビ! こっちに来い!】


俺は危機感を覚え、はしゃいでいたチビを呼んだ。

チビは首を傾げるが、すぐに俺の方へ向かう。


【どうしたのトルネード】


【何か来る】


【まだ…何の匂いもしないけど…】


【いや間違いない。風が妙に熱い】


俺の魔法は「自身を風に変換する魔法」だ。

自分自身が風になる訳だから、ちょっとした風の変化は分かる。

微妙なものだが、確かに何か熱いものが風に運ばれて来てる。


そして、しばらくすると焦げ臭い匂いがし始めた。

それに、これはドラゴンが来ている。血の匂いも少しする。


おいおい、嘘だろ…。これってまさか…。


【ト、トルネード…】


【あぁ、多分奴だ。チビ、俺が守ってやるからしっかり隠れてろ】


チビは俺の言う通り、近くの大きな木の陰に隠れた。


全く冗談はやめろよな。昨日、チビの脅しで使ったばっかだぞ。


その時、熱い何かが俺達に猛スピードで近づいて来るのが分かった。

焦げ臭い匂いがするが、ドラゴンのじゃない。


それは俺達の前で止まり、まるで獲物を確認するかの様に止まった。


それの正体は、蛇の様な形をした青い炎だった。


炎は突然、俺達に迫って来る。


【避けろ!】


俺はマーベリックに伝え、マーベリックとは逆の方へと跳んで炎の攻撃を防ぐ。

炎が草原にぶつかった事で、辺り一面は一気に火の海となる。


そして、俺の視線の先から森を燃やしながら、一匹の骨を咥えた赤黒いドラゴンが何匹もの青い蛇を連れながら歩いて来た。

いや違う。あれは蛇何かじゃない。あれも全部、青い炎だ。


【よぉ、美味そうだな。あんたら】


赤黒いドラゴンは、骨をしゃぶりながらそう俺達に思念を送る。


同族喰いの赤黒いドラゴンの話は、俺達ドラゴンの間では知らない者はいない。

ずっと前から、こう俺達の間では言い伝えられている。


《気配を感じたらすぐ逃げろ。視界に入ったら死を悟れ。狙われた時点で命は無い》


その名は…





終焉ジ・エンド…!】

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