第16話「SUIT ACTOR」
「え〜…第二次人竜大戦に敗北し、ドラゴンの奴隷にされてしまった人類が起こした421年の戦争を、人類解放革命戦争と呼ぶ。さてみんな、この人類解放革命戦争が終了したのは433年の何月何日か。分かる人は挙手」
歴史の老年の先生の声に、多くの生徒が手を挙げる。
「う〜ん…じゃあムールリットさん」
「はい。11月10日です」
「正解」
先生に当てられたリーシャは、ハキハキと答えた。
今日で、リーシャが学校に来始めてから一週間が経つ。
リーシャが元気に授業を受けてる姿を見れて、僕はとても嬉しい。
彼女は長期間休んでいたとは思えないほど、授業にちゃんと追いついていた。というよりも、他の生徒達よりも先を行っている気がする。
そういえばリーシャって、すごく頭良いんだよなぁ。
「433年の11月10日。人類はドラゴンから解放された。これが、人類独立記念日だ。これは流石にみんな分かるよな。今週の金曜日の話だ」
そっか。もう今週かぁ。
人類独立記念日になると、そこらかしこで祭りが開かれる。ここジフォード合衆国だけでなく、色んな国でもだ。
昔は楽しみだったけど、俺と融合した今では人類の独立記念日を一緒に祝うのも何か変な感じがする。
そういえば、お父さんは今日退院だっけ。
無茶して早めの退院だけど、本当に大丈夫かなぁ。
「ファーナー君」
「ふぇ!?」
いきなり先生に名前を呼ばれ、僕は間抜けな声をあげて先生の方を見る。
先生は、鋭い目で僕を睨んでいた。
「434年。この年、何が起きたか言ってください」
「よ、434年ですか!? え、えぇと…」
僕は急いで机のモニターの教科書をめくる。
だけど、僕が答える前に先生が溜め息と共に答えた。
「ドラゴンの復讐。先生の話、ちゃんと聴いておくんだぞ」
「は、は〜い…」
うぅ…めちゃくちゃ恥ずかしい…。
僕が恥ずかしさに顔を真っ赤にしていく中も、授業は続いていった。
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俺には、教える才能が無いのかもしれない。
あれ以降チビは飛ぶ練習をしているが、一向に上手くならない。
そもそも、地に足を浮かす事すらできていない。
何が駄目なんだ…。一体俺の教え方の何が悪いんだ…。
うむむ…考えてもさっぱり分からん。
ここは一層の事、母親に頼んでみるか? だけど、チビの事を説明するのも面倒だな。
とはいえ、俺は一匹が好きだから頼る友達もいないし…。
【おいチビ】
「ガァ?」
【背中に乗れ。飛ぶ感覚を教えてやる】
俺が考えられるのはこれが限界だ。
飛んでいる俺の背中に乗る事で、少しでも飛ぶイメージがつけばいい。
俺だって、「自身を風に変換する魔法」で空を飛び回ってたから早い段階で飛べたんだ。これだって、立派なトレーニングの筈だ。
「ガァ!」
チビは何故か嬉しそうに俺に駆け寄る。
こいつ、俺の背中に乗るのがそんなに好きなのか? それとも、飛ぶ感覚を知れるのが好きなのか? まぁどちらでもいい。
俺は姿勢を低くして、チビが背中に乗りやすい様にしてやった。
目的地は…そうだな。「偽りの契り場」でいいだろう。
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「はぁ…」
日が暮れはじめる頃、僕は一人溜め息を吐いて帰っていた。
え? 何でクリントと一緒じゃないって? そんなの簡単。
テストの結果があまりに悪かったので、最近補修をやらされているのだ。
まぁ僕の場合、入院で勉強ができなかったって事が考慮されて先生も同情してくれてるけど、学校の決まり的にはやらなければいけないらしい。
そんな訳で、僕はみんなと帰る時間が少し遅くなり、一人で帰っているという訳だ。
これだからテストって嫌なんだよ…。
僕が項垂れながら帰っていると、一台の車が僕の前で止まった。
ん? 何だ?
僕が車の方を見ると、突然車から黒い装甲服を着た男達が現れた。
え? 待ってこれ…これってもしかして…。
「え? 何!? 何なの!?」
突然僕の腕を掴んでくる男を、僕は無理矢理振り解く。
でも、男達の数は多く、さらに大人と子供の僕では体格差がありすぎる。
「アピアス・ファーナーだな」
「だったら…な、何ですか…?」
「ソーサラーのキミを捕らえる」
男はそう言って、寄ってたかって僕に迫る。男の手には、恐らくニーベニウムで造られたであろう手錠が。
ヤバい!
僕はすぐに、家の光景を頭の中で思い浮かべる。
そしてテレポートで逃げようとした時…。
「おらぁ!」
いきなり、一人の男が誰かに殴られた。
その殴った男は、僕がよく知る人物だった。
「お、お父さん!」
お父さんの登場に、男達は動揺していた。
無理も無い。お父さんはドラゴンを相手に戦うドラゴンスレイヤーの第一防衛部隊隊長だ。その強さは折り紙付きなのだ。
「お前達! 俺の息子に何をするつもりだ!」
「ジオ・ファーナー…アピアス・ファーナーの父親か…。厄介だな」
男はお父さんを見るとそう言い、殴られた男を引っ張って車に乗る。
「待て!」
もちろん、お父さんはその車を追おうとしたが、男がレーザー銃を撃って足止めしてきた為、それは叶わなかった。
車のナンバープレートも取られてあり、車を追う事は不可能になった。
「クソッ…何だったんだあいつら…。アピアス、大丈夫か?」
「う、うん…。でも、お父さん何で…」
「せっかく退院したからな。お前を送ろうと思ったんだ。すれ違いだったみたいだが…まぁ結果オーライってところだな」
お父さんは僕の無事を確かめると頭を撫で、近くに停めてあった車に連れて行った。
にしても、あの男達…きっと政府の人間だろう。
僕が魔法を使えるから、ソーサラーだと勘違いして襲ってきたみたいだけど、あいつらはまたやって来たりするのかな…。
「アピアス?」
「ふぇ!? な、なに?」
車の前で考え事をしていた為、お父さんが心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫か? 確かにいきなり怖かっただろうが…」
「い、いや大丈夫だよ!? ごめんちょっと考え事してて…」
僕はそう言いながら、お父さんの車に乗る。
確かにちょっとは怖かったけど、これでも僕は一度ドラゴンに食われた事があるんだ。あの程度、それと比べれば平気……だと思う。
僕は助手席に座り、考え込む。
もし、また彼等が現れたら何と言えば良いんだろう。
僕はソーサラーじゃありませんなんて、きっと通じないだろう。何でかは分からないが、奴等はある方法でソーサラーを識別してる筈だ。だから、魔法が使える僕が狙われた。
でも、本当の事を言えばそれはそれで政府は僕を捕まえに来るだろう。
一体僕は、これからどうすれば良いんだ…?
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さて、「偽りの契り場」に到着だ。
………で、どうするか。
チビをここまで運んできたが、ここからどうするかを全く考えていなかった。
まぁいい。とりあえずは、チビが飛ぶ感覚を掴める為にここまで飛んだんだ。
俺はチビを降ろし、チビに思念を送る。
【よしチビ。さっきまでお前は飛んでた。そのイメージで翼を動かしてみろ】
チビは一度頷き、また翼を大きく上下に動かした。
よし、これで少しは宙に……
…………
………
……
………浮かない。
「クゥン…」
流石にチビも悲しい声を出してきた。
やめろ。俺が出したいぐらいだその声。
クソッ…一体どうすればいい。もっとこう…教える奴が上手いドラゴンはいないのか。
【飛ぶ練習が上手くいかないのかい?】
突然、誰かの思念が入ってきた。
俺は振り返り、壊れた壁に寄りかかっている茶色いドラゴンを見た。
こいつ、ここに着いた時からいたが、別に俺達に敵対心を向けていなかった。
だから俺も無視していたのだが、まさかそっちから声をかけてくれるとは予想外だ。
それにしてもこいつ、よく見ると首に何か巻いている。紺色の布?
【まぁな。俺じゃあ上手く教えられん。何かコツを知ってるか?】
【そうだねぇ…。まず風を感じる事かな。翼を動かすより、手を動かした方がイメージがつきやすいよ】
なるほど。確かに風を感じるのは重要だ。
【まず、両腕を横に伸ばす】
茶色いドラゴンの飛行講座が始まる。
俺は奴の言う通りに両腕を横に伸ばし、それをチビにさせる様に目で命令する。
【そして上下に大きく動かすんだ】
俺と共に、チビが伸ばした両腕を大きく上下に動かした。
おぉこれは良い。翼より風を感じやすい。
【ただ精一杯伸ばすだけじゃ駄目だよ。例えば…風を集めるイメージ。そのイメージで上下に動かす】
【風を集めるイメージだとよ】
俺はチビにそう伝え、チビは俺の言う通りに両腕を動かしていく。
【そのまま続けてみて。それで何となくコツを掴める筈だからさ】
【分かった。誰かは知らんが、助かった】
【礼には及ばないよ】
そう言うものの、本当に助かる。
飛べるから分かる事だが、こいつの言った事は結構当てはまっている。正に、飛ぶ為に必要なコツそのものだ。
俺は当たり前の様に飛んでいるから分かっていなかったが、なるほど、こう教えれば良かったのか。
……しかし、気になる事が一つある。
【それはそうと、お前は何でここに?】
【僕? ちょっと…親友の事を考えててね】
【親友?】
何故、親友で此処なのだろう。
まさか、親友はヒュードン教の信者なのか?
この「偽りの契り場」は、ヒュードン教の神聖な場所だと聞くが…。
【僕と一緒に人間の街に行ったっきり、戻って来ないんだ。その親友】
【なに?】
【だから時々ここに来る。これは人間が造ったものだろう? だから…何て言うのかな…。人間の街にいる筈の親友を思い出せるんだ。
本当は人間の街に行きたいところだけど、最近守りが厳しくなってるらしいからね】
なるほど。そういう事情か。
しかし、人間の街に行ったっきり戻って来ないとなると、その親友とやらはもう死んでいるだろう。
きっと、こいつもそれを理解している筈だ。だが、信じられないのかもしれない。
【……なぁ】
気がつくと、俺はこいつに声をかけていた。奴は驚いた様に俺を見る。
やべぇ…何も考えてない…。何か咄嗟に放って置けなくなってやってしまった…。
えぇと…えぇと…
【お、お前…名は何て言うんだ? 俺はトルネード】
そうだ。まずは自己紹介。自己紹介から始めよう。
奴はそれを理解し、少し微笑んで答えてくれた。
【変わり者。みんなからはそう呼ばれてる。よろしくね】
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「アピアス君が誘拐された?」
「いや、厳密には誘拐され『かけた』だ。ギリギリで俺が助けた」
久々のジオのインカムからの電話を、リベッジはタブレットを操作しながら聞いていた。
調べている内容は、先週暗殺されたというダン・ノーマックだ。
「今日は俺がいたから何とかなったが、明日からは狙わないとは限らない。悪いが、息子を守ってくれないか?」
「……なるほど。そういう事なら引き受けよう。親友の頼みだしな」
「悪いな。金は払うよ」
「別に金はいいよ。それより、この件はアピアス君には伝えてあるのか?」
「あぁ、息子は別にいらないと言っていたがな」
ジオの言葉を聴き、リベッジは「確かに」と頭の中で呟いた。
アピアスは人間であると同時にドラゴンだ。人間なんて、やろうと思えば一捻りだろう。
「だがどうしても心配なんだ。息子の事を教えておいた方がいいか?」
「いや、大丈夫だ。安心しろ。守ってやるよ」
リベッジはそう言って、通話を切った。
そして再び、調べ物に没頭する。
ダン・ノーマックの暗殺。
どうにも引っかかる。アピアスも「死んだとは思えない」と言っていたし、リベッジ本人も彼があれで死んだとは思っていない。
普通だと死んでいるが、奴はきっとソーサラーだ。
どんな魔法の持ち主かは知らないが、死を偽造できる魔法を使ったに違いない。
それに、ダンは社会的な死と引き換えに、とんでもない置き土産をしていた。
ダンの発表により、ソーサラーの存在を信じる者が現れ、ソーサラーを殺しているとされる政府に対して反発を起こす者も現れた。
彼らの言い分によれば、ソーサラーも人間なのだからそれは政府が殺しを認めた事になる。つまり、何れ政府は自分達の障害となる人間すらも殺し、独裁を始めるだろうとの事だ。
決してデタラメな話ではない為、多くの人もそれを聞いて政府に不信感を抱き始めている。
さらにはダンの言った「魔法を使わなければ誰がソーサラーか分からない」という言葉に反応し、周囲の人をも疑い始める人間も現れる。
きっとこの事態に政府も必死なのだろう。
アピアスが狙われたのも、それが一因かもしれない。
早くソーサラーを排除し、混乱を静めなくては。
そういう焦りから、ソーサラーの可能性があるとはいえ、まだ子供のアピアスを捉えに来たのかもしれない。
「完全に、ダン・ノーマックに遊ばれているな」
リベッジは参った様にそう言い、タブレットの画面に映されたダンの画像を見つめた。
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翌日、ジオがドラゴンスレイヤーの本部内を歩いていた。
「ファーナー隊長!」
名前を呼ばれ、ジオは足を止めて振り返る。
「復帰したって聞いたんですけど、もう大丈夫なんですか?」
やって来たのは、スキンヘッドの黒人男性だった。
ジオは彼を見て「あぁ」と答える。
「俺がいない間、チームを纏めてくれて助かったよ。ありがとな」
「いえ、当然の事です。でも、本当に大丈夫なんですか?」
「心配し過ぎだよ。それに、万が一の時はお前がいるだろ?」
ジオは微笑みながら、黒人男性の肩に手を置いた。
しかし、彼は納得していない様な表情を見せる。
「そんな事言わないでください。我々の隊は貴方が必要なんですよ? 貴方にもしもの事があったら…」
「だがなラーリー。俺には隊長としての責任がある。これ以上黙って寝てなんかいられない」
「でも!」
「キミも隊長に昇格すれば分かる」
ジオは黒人男性…マーカス・ラーリーにそう言い歩を進めた。
一人残されたラーリーは、参った様に頭を掻いていた。
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午後5時32分
ウォーディー市は人間とドラゴンの陣地を分ける壁と隣接した都市だ。
その為、管区外にある貴重な植物や食料を目当てに、違法で壁の外に出入りする闇商人達の絶好の土地でもある。
今も、口髭を蓄えた男と金髪の男が木製の小さな扉を潜って壁の外から戻って来た。
仲間が戻って来た事で、他の二人の仲間は彼等に駆け寄る。
「どうだった!? 何か金になりそうな物はあったか!?」
仲間に問われると、口髭の男は懐からナイフを取り出し、それを迎いに来た仲間の一人に刺した。
「なっ…!」
突然の出来事に、刺された仲間は驚愕しながら意識を失う。
もう一人の迎えに来た仲間も信じられない様に戻って来た男を見るが、その時には既に彼もナイフに胸を刺され、そのまま男は倒れた。
「お、おい…出入り口までは案内したんだ…。も、もう良いだろ!?」
一緒に帰って来た金髪の男は、怯えた様に口髭の男にそう言った。
だが、口髭の男はニヤリと笑い金髪の男の胸をナイフで突き刺した。
【あぁ、キミはもう…用済みだ】
金髪の男の脳内に、テレパシーが届いた。
口髭の男はナイフを抜くと、壁から離れていく。
その男の目は、不気味に赤く輝いていた。
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あぁもう最悪! 補習のせいで遅れちまった。
俺、バニッシュは翼を広げ、ウォーディー市で現れたと言われる深緑色のドラゴンを探していた。
何処だ〜ドラゴン。あ〜あ、こんなに遅れちまったし、多分ドラゴンスレイヤーももうすぐで来るんだろうなぁ。ってか、場所が遠いから補習続けるっておかしくない? 人類の皆さんドラゴンの襲撃に慣れ過ぎてません?
おっと、そんな事ボヤいてると見つけた。
俺は深緑色のドラゴンの目の前で着地する。
ドラゴンと戦うのは久しぶりだな。
それに…畜生、周りを見ると何人も人が死んでやがる。こいつ派手に暴れやがったな。
【お前、あの監視をどうすり抜けた?】
【フッ、キミが例の裏切り者か。それより…何故ボクがここに入れたかと言うと…そうだなぁ…】
深緑色のドラゴンは、何処かキザっぽく喋る。
何か、この喋り方が癪に触る。
【まずボクの名を知ってもらわないとね。ボクの名は俳優。未来のスーパースターさ】
【スーパースター? とてもそうは見えんがな】
【なら、やってみるかい?】
【ヘッ! 上等!】
俳優。
この名前だけじゃ、こいつの魔法は分からない。注意が必要だ。
俺はまず、魔法を使わずアクターに飛びついた。
アクターはそれを転がって避け、俺に向けて口から火を吐いた。
何だ? こいつも様子見ってか?
俺はその火も魔法を使わず、真上に飛んで避けた。
こいつ…一向に魔法を使わねぇ。一体どういう事なんだ?
俺が不審に思い始めた瞬間、キャタピラが動く音とサイレンが聞こえた。
やべぇ。ドラゴンスレイヤーだ。
俺は一瞬、ドラゴンスレイヤーの方へ意識を向けてしまった。
それに気付き、俺は急いでアクターの方を向くが、そこにはアクターの姿はいない。
え? 逃げたのか? だとしても何処に…。
「きゃああああああああ!!!」
うおっびっくりした!?
な、何だ…女が悲鳴上げただけか。
何だよこっちはお前らの為に戦ってんだぞ。そんなに怒ること……ん? おい待て。この女、さっきまで此処にいたのか?
女は俺を通り抜け、到着したドラゴンスレイヤーへ向かう。
泣きじゃくる女を見て、ドラゴンスレイヤーの隊長さん…僕のお父さんは俺を敵意の眼差しで見る。
「確か…バニッシュと言ったな。言ったはずだぞ…今度あったら容赦はしないと!」
うわぁ何か明らかに誤解されてる。違うんだよ違うだって。
だってさ。ほら、俺って何度も人間助けたじゃん? そんな俺が人を怖がらせる訳ないじゃん? この女は多分ちょっとパニック起こし…
……あれ? あの女…笑った?
しかも目が赤く…
まさか!!!
【お父さん危ない!!!】
お父さんの危機を感じ、僕は反射的に思念をお父さんに送っていた。
お父さんは少し顔をしかめるが、俺の思念を受けて女の方を見る。
「おい! その女から離れろ!」
しかし、その指示は遅かった。
女はまるで卵の様に破裂し、中から深緑色のドラゴン・アクターが現れる。近くにいた隊員はその衝撃で何人か吹っ飛ばされてしまう。
俳優ってそういう事か! こいつ、人間に成りすまして管区内に入りやがったんだな!
【おやおや…まさかボクの迫真の演技を見破るとはねぇ。本当はこのままこいつらの本拠地に行きたかったところだが…仕方がないねぇ】
アクターは銃を向けるドラゴンスレイヤーに、火を吐きつけ銃撃を阻止した。
そしてその隙に、一人のドラゴンスレイヤーに目を向ける。
奴が目を向けたドラゴンスレイヤーは、先ほどの衝撃波で頭をぶつけ血を流していた。多分死んでる。
何でそんな奴の事を…。
と思ったら、アクターの目が赤く輝きやがった。
そしてアクターは煙になり、そのまま死人の目の中に入っていく。
マジか…。こいつ、人間に成りすますんじゃねぇ…。
俺が驚愕する中、頭を打った死人はさっきまで死んでたのが嘘の様に元気に飛び起き、近くに転がってた元々彼のだったのであろう銃を手に持つ。
確信した。こいつの魔法は「変身」じゃねぇ。
こいつの魔法は「死者に取り憑く魔法」だ。
畜生め。何が俳優だよ。こんなんゾンビじゃねぇか。
【じゃあ、一先ずここまでとしよう。またね】
アクターが取り憑いたドラゴンスレイヤーは、銃を肩に起きそのまま何処かへ去ってしまった。
丁度アクターの吐いた火も消え、ドラゴンスレイヤー達は突如消えたアクターに混乱している。
おっと、このままいると俺が攻撃されちまう。
悪いが、俺はここで帰らせてもらおう。
俺はテレポートをし、すぐにその場に消えた。
アクターとかいう野郎が野放しだが、人に姿を変えてしまった以上、下手に追う事ができない。
俺はそんな事を考えていた。
だから、これから起きる危機を予期していなかった。
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黒いドラゴンが消えて、辺りは沈黙が支配していた。
そんな中、隊長のジオは頭の中がごちゃごちゃになっていた。
女がドラゴンとしての姿を現わす直前、思念が送られた。
それだけならまだ良いのだが、問題はその時に脳に直接聞こえた声だ。
「あの声…」
その声には聞き覚えがある。
決して忘れない。愛する者の声。
「アピアス…?」
ジオの頭に、黒いドラゴン・バニッシュとバニッシュから聞こえた息子の声、そして先ほどのドラゴンに変化した女の姿が過ぎる。
「まさか…そんな…」
信じられない。だが、先ほどの様な魔法があったのだ。
もし、あのドラゴンも同じ様な魔法を使っていたとしたら…。
「バニッシュが…アピアス…なのか?」




