第14話「HELPING HAND」
そろそろ残酷シーンありますとかそういうタグ付けといた方がいい気がしてきた。
ちょうど太陽が真上に昇った頃、一台の現金輸送車が車道を暴走している。
警察はパトカーでそれを追いかけるが、辺り構わず爆走し続ける現金輸送車には中々追いつけない。
その時、現金輸送車の行き先に黒いドラゴン・バニッシュが空から現れた。
【お昼休みぶっ壊してんじゃねぇよ!!!】
バニッシュはそう現金輸送車に怒りをぶつけ、バスケットボールサイズの圧縮弾を作ってそれを地面に放った。
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「すげぇよなぁ、あのドラゴン。また事件解決だってよ」
お昼休み中の教室で、タブレットでニュースを見ていた男子生徒の一人がそう言った。
僕は正にその事件を解決した直後なので、疲れ切った状態で椅子に座っている。
えへへ…褒められてる…。
お昼休み入ってすぐだったから嫌になったけど、こう褒められると頑張った甲斐があるもんだよなぁ。
「何ニヤニヤしてんの?」
「ふぇ!? し、ししししてないよ!?」
突然机の前で立っていたクリントに言われた。
僕はいつもの様に動揺しながらもクリントの言葉を否定する。
「してただろ。まぁいいや…アピアス、日曜の約束は覚えてるよな?」
「もっちろん! リーシャのところでしょ? 覚えてるよ!」
そうだ。最近、とても良いニュースがあった。
来週の月曜日から、リーシャがまた学校に行く事にしたのだ。
どうやら心の傷も癒え始めた様で、日曜は学校に行く前日のリーシャに会いに行く約束をしている。
明後日の日曜にリーシャに会えるのもそうだが、やはりリーシャが学校に行くというのがとても嬉しかった。
「そっ、まぁ一応明日にも連絡するけど、よろしくな」
「うん!」
「あ、そういえば昨日さ…」
約束を確認し終えると、クリントは昨日やったゲームの話をしだした。
僕はそれを聴き入り、気がつくとお昼休みは終了し、すぐに午後の授業が始まった。
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「カルト教団?」
下校し終えた僕は自分の部屋にいた。
そして、インカム型のケータイを通して、マンハッタンおじさんと話をしている。
「今日、現金輸送車を襲った奴等が…ですか?」
「あぁそうだ。名は『安らぎのエデン』」
「安らぎのエデン…」
明らかに怪しそうな名前に、僕は思わず苦笑いをする。
「ニジューキン市に本部を置くカルト教団で、教祖の名はショウ・ジムンズだ」
「そこまで分かってるなら、警察も踏み込まないんですか? 明らかに怪しいじゃないですかその教団」
「そうしたいのは山々だろう。だが、その本部は昨日何者かに襲撃されたらしい」
「え?」
おじさんの報告に、僕は驚いた。
襲撃? そのカルト教団を?
「一体誰が…」
「さぁね。でも『安らぎのエデン』の教祖、ショウ・ジムンズは相手を癒す不思議な力があったとされる。もしかすると…」
そこまでおじさんが言って、僕の頭に閃光が走った。
僕は、今思った事をそのまま口にする。
「その教祖も、ソーサラー…」
「だろうね。恐らく、この教団の信者達は、ショウの魔法を神の力だと勘違いしてたのかもしれない。まぁ、無理もないがね。
ソーサラーなんてただの噂に過ぎなかった訳だし、そもそも人間は魔法を使えない。それが世間の常識だ」
「教祖がソーサラーだとすれば、その教団を襲ったのも…」
「きっと政府だ。そしてそんな大きな力に狙われ始め、ショウは行動に移った。今までは何処にでもある様な小さな教団だったが、これからは何をするか分からないぞ」
「えぇ、現金輸送車を襲ったのも、奴の命令でしょうしね…」
これは早めに、そのショウ・ジムンズという教祖を止めた方が良さそうだ。
しかし、ショウの魔法とは一体何なのだろう。相手を癒すって事は…ヒーリングかな?
僕が考えていると、特に観ずに付けていたテレビからニュース速報が入った。
オグライ銀行サクメント支店により銀行強盗事件が発生。
僕はその文字を見て、すぐに頭を切り替える。
「おじさん」
「あぁ私も見た。『安らぎのエデン』かどうかは分からないが…」
「大丈夫です。誰であろうと」
僕は通話を切り、タブレットでオグライ銀行サクメント支店の画像を調べた。
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丁度中から撮った画像があって助かった。
俺、バニッシュは今、オグライ銀行サクメント支店の中にいる。
突然現れた俺の姿に、銀行強盗は驚き俺にすぐにレーザー銃を向けている。
銀行強盗の数は…ふむ、今確認できるだけで三人か。
それにしても、全員変な仮面を被ってやがる。何というか…パーティーで使う様な動物の仮面だ。顔を隠す為のものだろうが、こうして見ると気持ち悪いな。
俺は銀行強盗を確認し終え、次は周りを見渡した。
この銀行は午後6時までやっている。
そしてもうすぐ午後6時で、この銀行は閉店間近だった。
だからだろう。人は驚くほど少ない。ほとんどが銀行員とその銀行強盗で、それ以外は一人のおばあちゃんしかいない。おばあちゃんも可哀想に、急いで銀行に来たんだろうな。
「おいドラゴン」
俺が周りの状況を確認してると、ようやく銀行強盗の一人が俺に声をかけてきた。
仮面はゴリラだ。その割には体が細い。
「何の用だ」
【分かってるだろ? 邪魔しに来たんだよ】
俺はそうテレパシーで伝えると、すぐにそのゴリラにテレポートし、レーザー銃を奪い取る。
【銃はゴリラには早いよ】
俺はそう言い、ゴリラの顔を叩いた。
ゴリラは気を失い、俺はレーザー銃を真っ二つに折る。
それを機に、他の二人の銀行強盗らが俺に一斉にレーザーを撃ち始めた。
俺はテレポートでそれを避け、一人の銀行強盗に狙いを定める。ブタの仮面の奴だ。
俺はブタの背後にテレポートし、またそいつの顔を叩こうとする。
しかし、それに気付いたオオカミの仮面が、なんと俺に向けてレーザーを撃ちやがった。
マジか? その角度だと、ブタに当たるぞ?
だがブタは避けようとせず、寧ろオオカミのおかげで俺の場所が分かったのか振り返った。
もちろんその間に、オオカミの放ったレーザーはブタの脇腹を貫通して俺の足にも少し掠る。
レーザーが足に掠ったものの、大したダメージは無かった。あのレーザー銃が対人間用なんだろう。
でもあのブタは? 完全に脇腹貫通したけど…
………え?
俺は目の前の光景を疑った。
なんとブタは、脇腹から血を流しているというのに、ピンピンとしていた。
そしてまるでレーザーに撃たれていなかったかの様に、俺の腹にレーザーを撃ちやがった。
対人間用とはいえ、少し気を抜くと多少の衝撃は襲ってくる。
俺は少し後ずさり、ブタを凝視した。
何でだ? 確かに貫通したよな? 何で平気なんだ? まさか…。
俺が混乱していると、突然銀行の窓が外側から割られた。
それと同時に何かが投げ入れられ、そこから催涙ガスが発生する。
警察か。
催涙ガスが発生すると、二人の銀行強盗は現金を詰めたバッグを持って裏口の方へ向かう。
クソッ! 何の魔法かは知らねぇが、現金は持ってかせるか!
俺が奴らを追って裏口に着いた時、二人の銀行強盗は黒い車の後部座席に座ったところだった。
俺はそのまま車ごと捕まえようとすると、助手席の窓から男が手を伸ばしてきた。
ん? 何だ? 奴の手から黒い弾が…。
その黒い弾が俺の体に命中すると、俺はその場から一瞬動けなくなった。
何故なら……
「グ、グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
俺は倒れ、そのまま手足をジタバタとさせた。
とにかく凄く身体中が痛い。
いてぇ!!! いてぇいてぇいてぇ!!!! 痛い!!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!! 死ぬ!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!! いやもう死のう! 死にたい! 死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい!!!!
痛すぎて最初の方は何も考えなれなかった。今もまだ痛いけど、こう考えられるって事は少しはマシ……痛い!!! やっぱり痛い!!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
痛みは全然引きそうにな…ってか痛い!!!!
「グ、グウゥ…ウゥッ…」
よ、ようやく痛みが…お、治った…。
ク、クソッ…何ださっきの…。あの男の魔法か? だとしたらやべぇよあの魔法…。あれほど痛い思いした事ねぇよ…。あの痛みから解放されるなら、死んでも構わないとさえ思えたよ…。
俺は何とか立ち上がり、周りを見た。
巨体のドラゴンが暴れた事で、建物には窪みができ、パトカーも凹んでる。もう何というかボロボロだった。
……ん? パトカー?
銀行強盗を追うのとあまりの痛みで今まで気付いていなかったが、周りには三台のパトカーと複数の警官がいた。
そうか。まぁ裏口から出るのは想定内だよな。そりゃ待ってるか。ただ問題なのは、その警官達が全員死んでいる事だ。自分で自分を撃ってる警官が何人かいる。
まさかこれ…さっきの男の魔法か?
あの痛みはドラゴンの俺でも自殺しようと思ったぐらいの激痛だ。銃を持つ警官が自分を撃ったのは不思議でもなんでもない。
見たところ警官はそれ以外の外傷は無いみたいだし、一体何だったんだ?
それにあのブタ。あいつは何故レーザーが貫通しても平気そうにしてたんだ?
おっと。考え事をしてたらパトカーのサイレンが近づいてきた。
警察に見つかったら厄介だと思い、俺はすぐに僕の部屋に戻った。
僕は僕に戻り、僕の部屋にも戻ってきた。
それにしても、さっきは本当に痛かった。まだ心臓バクバク鳴ってる…。
どんな痛み? と訊かれると困るけど、とにかく痛かった。
何ていうか…体をトゲトゲのプレス機で横に潰されてさらにその上に、歯を全部ドリルで一つ一つ砕かれていき、最後に顔を何度も何度も鉄球で潰されていくみたいな痛みだ。イメージだよイメージ。
僕は少し、自分の体を確かめてみた。
あれほどの痛みは中々無い。俺の時や警官は一見何の外傷も無かったけど、今はどうなんだろう。
う〜む…ちょっと服邪魔だな。脱いじゃおっか。
上は…うん。何の問題も無い。じゃあ下は…
「アピアス〜? 入るわよ〜」
「ちょっと待って!!!」
危なかった…。お母さんにあらぬ疑いを掛けられるところだった…。
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「クゥ! クゥ!」
朝日が昇る森の中、チビが必死に翼を上下に動かしている。
……驚くほど、チビの体は浮遊しない。
「クゥン…」
チビが泣きそうな目で俺を見てきた。あぁもう! だからそんな目で見るな!
【まだ二日目だぞ。そう簡単に飛べるか。ほら、もっと頑張れ】
【でも、できないよパパ…】
全く、もう諦めムードか。
あの「偽りの契り場」に行った翌日、俺はチビに空を飛ぶ練習をさせた。流石に、このチビを背中に乗せながら飛ぶのは面倒過ぎる。
翼自体はちゃんとあるし、その翼なら練習さえすれば飛べる筈だ。
しかし、そう簡単に飛べたら苦労はしない。
昨日から朝飯を食べたら練習をする事にしているのだが、チビは一向に飛べる気がしない。まぁ、二日目だから仕方ないが。
【いいか? もっと翼を大きく動かせ。そして浮かび始めたら、体全体を飛びたい方向に伸ばすんだ。分かったな?】
【してるけど、浮かないよぉ…】
そうだろうな。お前が自力で浮いたところ俺見た事ない。
【仕方ない。俺が手本を見せてやる】
俺は慣れた様に、翼を大きく上下に動かした。
するとゆっくり、俺の体は浮かび始める。
それを、チビは食い入る様に見ていた。
【大事なのは勢いだ。勢いがなきゃ、体は浮かばん】
俺はチビにそう伝え、地面に降りる。
【ほら、もう一度やってみろ】
【う、うん!】
チビは元気良く返事をし、翼を思いっきり上下に動かす。
だが、今度は力み過ぎている。
一度できると楽勝なんだが、その一度できるまでが難しいみたいだ。
俺が初めて飛んだ時なんて、もう30年前になる訳だしもう覚えてないな。
それに俺は、「自身を風に変換する魔法」を持ってるから、空を飛ぶイメージは他のドラゴンよりはできていた。
だからか、母さん曰く俺は飛ぶのが早かったそうだ。
多分、俺自身の魔法の影響が大きいんだろうな。
……何だか、段々教えるのが不安になってきた…。
大丈夫か? こいつ、本当に飛べるのか?
案の定チビは、一向に浮かぶ気配が無かった。
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僕はマンハッタンおじさんの探偵事務所に行き、オレンジジュースを飲んでいた。
中々酸味がきいていてすごく美味しい。
「で、その男はこいつで間違いないと」
おじさんは、僕に一人の男の写真を見せた。
長髪で黒いサングラスをかけた男。忘れもしない。僕にあの異常な痛みを与えたソーサラーだ。
「はい。間違いないです」
「なるほどな。捕まった銀行強盗犯も、『安らぎのエデン』の信者だった。そしてさっきの男こそが、『安らぎのエデン』の教祖、ショウ・ジムンズだ」
「やっぱり、教祖がソーサラーだったんですね…」
「あぁ、しかもキミの話によると、一人の信者は撃たれても平気そうだったらしいね。その信者もソーサラーだったって事か…」
「いや、それは違うと思います」
僕はおじさんの推測に、真っ向から否定した。
おじさんはそれが意外だったのか、目を大きく見開く。
「何故…そう思う?」
「昨日よく考えて…ショウの魔法が分かったんです。多分、間違いありません」
「なるほど、魔法はキミの方が詳しいか」
「まぁ…魔法とは30年の付き合いですしね」
「13歳のキミがそれを言うと頭が痛くなるな…」
おじさんは苦笑いをしながらコーヒーを飲む。
そう、俺…バニッシュは30年は生きている。30年と言っても、人間とは寿命も違うし精神面での年の取り方も少し人間と違う。
だから実際は、人間に換算するともっと若い筈だ。何歳になるかは知らないけど。
っていうか僕と俺、片方が寿命来たらどうなるんだ? 俺の方が年上と言っても、寿命は僕の方が先に来る筈だし…。あぁもういいや。今はそんな事関係無い。
「でも、一体ショウは何が目的なんでしょう? 金なんか奪って…」
「それが目的なんじゃないかな。ただただお金が欲しい」
おじさんの推理に、今度は僕が驚いた。
「考えてみれば当然だろう? お金が欲しいなんて誰もが願う事だよ。ショウも、カルト教団を作った理由の一つに金稼ぎがあった筈だ」
「じゃあ…金稼ぎの為の道具として、信者を使ってるって事ですか?」
「あぁ…実際彼は、前から信者にお金を請求していた。自分の魔法を、金稼ぎに使ってた訳だ」
「なるほど…」
僕はそこまで聴き、大きく溜め息を吐いた。
たったそれだけの理由で、あんな大きなカルト教団を作っていたのか。
「ホント…宗教って面倒ですね。前にも宗教間の違いで戦争があったって言いますし…」
「まぁ問題は絶えないだろうね。でも、だからって否定するのは良くないよ。アピアス君」
「え?」
「宗教は元々、人を救う為、人を導く為のものだ。人は何かに頼っていないと生きていけない。家族や友達とかね。ただ頼るものが、人によっては宗教だったってだけだ」
おじさんは僕の目をしっかりと見つめる。
「悪いのは、その救いを求める人々を利用するショウの様な人間だ。宗教の問題じゃない。正義を悪用する事が駄目なんだよ」
な、なるほど…。何となく分かる気もする。
「人間とドラゴンの争いも同じさ。お互いがお互いの正義を悪用している。『これは正しい事だから、殺したって構わない』ってね。
それに、千年間も戦争が起こっていないのも、その宗教のおかげでもあるだろう?」
「あ、えっと…その宗教って確か…」
その話はドラゴンの間の話で聞いた事がある。確かえぇと…。
「あ! ヒュードン教!」
「そう。ヒュードン教はリアフォーナー条約を絶対視する。確かにヒュードン教が起こした事件も多数あるし、それで五世紀間大戦なんて戦争まで起きちゃった訳だけど…そのヒュードン教が、今や人間とドラゴンの戦争のストッパーの役割になっている。別に全部が全部悪い訳じゃないよ。
そう言えばキミも、バニッシュの姿で初めて人を助けた時はヒュードン教のドラゴンって疑われたよね」
「ま、まぁ…。でもヒュードン教のドラゴンが条約を破る訳がないって、すぐ否定されましたけどね…」
ヒュードン教。
人間とドラゴンが共通に信仰できる唯一の宗教。
まだ詳しくは授業で習ってないけど、人間とドラゴンの争いに、このヒュードン教も何度か関わっている事は知っている。
でも確かにおじさんの言う通り、千年間人間とドラゴンが大規模な争いを起こしていないのは、このヒュードン教の存在があるからだ。
僕と俺自身、無宗教だから問題面ばかり見ていた。でも本当は違う。問題は、それを利用する存在なんだ。
きっと、カルト教団だって…「安らぎのエデン」もそうだ。
アレは紛れもなくインチキの教団だ。ショウは自分の魔法で信者のお金を取り、さらにはその関係者まで不幸に陥れているのかもしれない。
だけど…
「アピアス君」
僕が考えていると、インカムで何かを聴きだしたおじさんが突然名前を呼んできた。
僕はすぐにおじさんの顔を見る。
「警察の通信を傍受した。『安らぎのエデン』の今のアジトが分かったらしい」
「! 場所は!?」
「ホービーク市にある地下シェルターだ。以前ショウが保険として購入していたらしい。写真を送る」
「写真? 写真があるんですか?」
「シェルターの入り口の写真だけね。そこから内部を確認する事は可能だ。行けるかい?」
入り口の写真から内部が見える…。うん。中に入れる。
「行けます。写真を」
おじさんはタブレットを操作し、一つの画像を見せた。
核シェルターの入り口のガラスから、内部の広々とした空間が見える。
僕はその内部の空間に目を向け、意識を集中させた。
場所が瞬間的に変わった。
噂の黒いドラゴンの出現で、祈りを捧げていた途中の信者は驚いて祈りを中断させる。
【よぉ悪りぃな。ショウ・ジムンズは何処だ】
俺がテレパシーで伝えると、奥からサングラスをかけた長髪の男がやってきた。
間違いない。ショウ・ジムンズだ。
「キミか…神の救いは来なかったらしい…」
【うるせぇインチキ野郎。お前の魔法はもう分かってんだよ】
「魔法? 何を…これは神の力だ。私こそ神なのだ!」
ショウの言葉に、周りの信者が俺を睨む。
おっと、これはマズい。
「ショウ様をお守りするぞ!」
「私達には、ショウ様の御加護が付いているわ!」
ショウ様の御加護ねぇ…。
俺の頭に、脇腹を撃たれても平気そうにしていたブタが過ぎる。
あのブタは…あのブタの仮面した信者はどうなった? 顔は見てねぇが、助かったのか? その御加護とやらで。
いや、助かる訳がねぇ。だってあの魔法は…。
俺は手にバスケットボールサイズの圧縮弾を作る。
【少し眠っとけ!!!】
俺は圧縮弾を床に投げつけ、衝撃波を放った。
何人かは壁に叩きつけられるが、平気そうな顔をして立ってくる。
だがそれでも、すぐに意識を失う連中もゴロゴロ出た。
無理もねぇ。あんな勢いよく吹っ飛ばされたら意識だって失う。
例えそれが「痛みを感じない肉体」でも。
俺は、他の信者に助けられて無事だったショウを睨む。
【お前の魔法は「痛みを操る魔法」だ。信者からは痛みを取り、俺や警官には信者や今まで集めた分の痛みをぶつけた。だから信者はレーザーに撃たれても平気そうにして、警官は痛さのあまり自殺したんだ。
そうだろ? インチキ教祖さんよぉ】
俺の推理が当たっていたのか、ショウは舌打ちをした。
悪いな。こういう感覚を操る魔法は知り合いにいるんだよ。
【でも、痛みを取られても身体的なダメージは消せない筈だ。昨日の、脇腹撃たれた信者はどうなった?】
俺の質問に、ショウは辺りを見渡した。
信者が残っていないか確かめているらしい。
だが、信者達は俺の衝撃波で一人残らず意識を失っていた。
ショウはそれを確認し終えると、鼻で笑って俺に言った。
「死んだよ。俺に祈ってな。馬鹿な奴だ。んな事しても、どうともならないのになぁ」
……なんだと?
【その信者は、お前を信じてたんだろ…。それなのに…何も思わなかったって言うのかよ!】
「思ったさ。駒が消えたってね」
こいつ…クズ野郎だ。
俺は強く拳を握り締め、奴を睨む。
「怒ってるのか? 薄汚いドラゴンがそんな感情を持つのかぁ。傑作だなぁ! でも…」
そう言いショウは、右手に黒い光弾を生み出す。
俺が前受けた「痛みの塊」だ。
「お前はここで死ぬんだ」
【無駄だ。俺はドラゴンだ。そのくらいの痛みでは死なん】
「以前のものならな。でもこれは、今まで俺が貯めた痛みだ。前のとは比較にはならないぞ? ドラゴンも耐えられるか見ものだなぁ!」
あぁそうかい。なら好きにすればいいさ。
ショウは、俺に向かって痛みの塊を放った。
だがその速さは知っている。その速さが、大した事ないことも。
俺はすぐにショウの背後にテレポートし、ショウの腕を掴んだ。
奴は驚いた様に振り返り、さっきまでの威勢は何処へやらかなり怯えていた。
「ば、馬鹿な! やめろ! 食うなあ!!!」
誰が人間なんか食うかよ誰が。いや一人食ったけど。その結果こうなってる訳だけど。
「俺は人を幸せにしたんだ! それの何が悪い! 今ここで倒れてる奴等は、みんな俺に救われたんだ! 何で俺が裁かれなきゃいけないんだあ!!!」
ホントこいつ、とことんクズだな。
俺は奴の命乞いなど聞かず、そのまま床に叩きつけた。
ショウは一瞬で気を失い、体を痙攣させていた。
奴の腕が一本折れてしまったが、腕一本で済んだんだから感謝しろ。
お前は、救いを求めた人々を利用した。
確かに、この「安らぎのエデン」で救われた人もいるだろう。
でもこいつは、そんな人を道具として扱いやがった。その罪、必ず償ってもらうからなクズ野郎。
信者達には悪いが、彼等にはまた別の何かが救いの手を差し伸べてくれる筈だ。
それこそ、家族や友達が…。
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ドラゴンスレイヤー専用の輸送車に、ショウは入れられていた。
両手にはニーベニウム製の手錠を付けられ、魔法を使う事ができない。
その上、輸送車には運転手以外に警備の男が二人いた。
魔法も使えないショウには、決して逃げられない監獄だ。
その筈だった…。
輸送車が赤信号で止まった瞬間、突然輸送車の扉の鍵が真っ二つに切られ、扉が開いた。
すぐさま警備の二人が扉に駆け寄るが、すぐにその二人も血を流してその場に倒れた。
「な、何だ!?」
ショウが突然の出来事に驚いていると、ショウの頰に何かが掠った。
それは銀色の閃光で、閃光はすぐに消える。
閃光が消えたのと同時に、運転席の方から誰かが倒れる音が聞こえた。誰かと言っても、運転席にいるのは一人しかいないのだが。
「失礼する…」
ショウ一人だけが取り残された輸送車内に、一人の男が入ってきた。
その男は青いジーパンと白いストライプのシャツを着た男で、髪と目の色は黒色をしていた。
「だ、誰だ…」
ショウが突然入ってきた男に怯えていると、その男に続いてもう一人のスーツ姿の男が入ってきた。
そのスーツ姿の男は、ダン・ノーマックだった。
「ダ、ダン・ノーマック…!」
「よく知ってるな。まぁ、ニュースとかでよく見るか。さて、無駄話はそのぐらいにして、本題に入ろうか」
ダンは、笑みを浮かべてショウと顔を近づかせる。
「『ネオプロローグ』に入る気は無いかい?」
「『ネオプロローグ』…? あのテレパシーで言っていた奴か? フン! 興味無いね! 俺には『安らぎのエデン』がある!」
「……そっか」
ダンは残念そうにそう言い、黒髪の男の方へ歩く。
「ねぇケンゴ」
名前を呼ばれ、黒髪の男・ケンゴは右手で左腰にぶら下げたあるものを掴む。
「殺れ」
ダンがそう言った直後、ショウの首を銀色の閃光が横切った。
そしてケンゴは、何かを左腰にあるもの…刀の鞘に仕舞う。
「会えて嬉しかったよ。さようなら、ショウ・ジムンズ」
ダンはケンゴの肩に手を置くと、ケンゴ共々姿を消した。
そしてしばらくして、輸送車から何かが落ちる音がした。
ショウが最後に見たものは、自分の体であった。




