第13話「REVIEW TIME」
前から読んでくださった人は気付いているかもしれませんが、あらすじを変えました。最初のあらすじは驚くほど魅力感じなかったんですが、今回はどうなんでしょうか。
そ、そんな馬鹿な…。
僕は、机のモニターに映る歴史のテスト結果を見て震えていた。
その結果には、大きく赤い文字で21点と書かれている。
「今回のテストそんなに難しかったか? みんなかなり点数が低いんだが…」
眼鏡を掛けた老年の歴史の先生のその発言に、僕は少し希望を見出す。
ま、まさか…ギリギリ平均点とか…!
「平均点は56点だ」
ですよねー!!!
彼方此方から「あぶね〜!」とか「うわっ俺ギリ平均点届かねー」とか声が聞こえる。
うるせぇよお前ら! 良いよね平均点で! 良いよね平均点に近くて! クソッ! こんなに50点代が羨ましく思えたの初めてだよ! クソッ! クソッ!
「じゃあ答え合わせを始めるぞ〜。採点が間違ってたら答え合わせ後に言ってくれ〜」
くっ! これは先生の採点間違いに賭けるしか…ってできねぇよ! 何処をどう間違えたら21点が50点代に行くんだよ! 無理だよ! 絶対に無理だよ! あぁもう…答え合わせする気にもなれない…。
この調子じゃ他のテストも期待できない…。いや、元から期待はしてないけど…。
「え〜、まず1問目の…」
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【おいチビ】
【なぁにパパ?】
【パパはやめろ】
俺、トルネードはこのチビにうんざりしていた。
魔力も無い、マトモに飛べない、火もろくに吐けない。まだ子供とはいえ、流石にここまで出来ないのはイライラしてくる。
今思えば、何故俺がこんな奴の子守をしなきゃならないんだ…。
チビはテレパシーが使えないから、一々こっちが聴く姿勢にならなくちゃならんのが面倒だ。
人間相手なら兎も角、ドラゴン相手でそんな事一々した事無いぞ。
……愚痴はこのぐらいにしといて、このチビに訊きたい事がある。
【お前、何も思い出せないと言ったな? 本当に何も思い出せないのか?】
【うん。気が付いたら川の近くで倒れててね。歩いてたらパパに会ったの】
だからパパじゃないんだが。
俺の事をパパと呼ぶのは気に食わないが、こんなチビが嘘を吐くとは思えないし、本当に何も覚えてないみたいだな。
しかし川か…。もしかすると、そこに行けば何か分かるかもしれないな。
【おい。その川覚えてるか?】
【覚えてる! 川の水キレイだった!】
この辺りの水は大体キレイだと思うんだが、覚えてるというなら信じてやろう。
【よし、なら行くぞ】
「グアァ?」
チビは俺のそのテレパシーに首を傾げた。
これは読み取るまでもない。何処に行くのか分かってないのだ。
【川だ。お前が倒れてたっていうな】
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「さて、最終問題だ。これはサービス問題だからか、ほとんどが正解してたな」
はいそうですね。「全員」じゃなくて「ほとんど」が正解してますよねこんなサービス問題。
「今から約二千年前の396年、我々人類はドラゴンと縁を切った。何故その様な出来事が起きたのかをカッコ内に書け。もうみんな分かるよな?」
先生の問いに、クラス中が一気に賑やかになった。
男女問わず生徒達が「先生バカにしすぎー」とか「んなもん分かんねぇ奴いんのかよ」という笑い声が聞こえる。
「静かに。では、一応正解を言うぞ。正解は『ドラゴンが人類を無差別に殺害し始めたから』だ。『ドラゴンが人類に対して戦争を起こしたから』でも間違いではないぞ」
「先生ー! 『ドラゴンがクソ野郎だから』は駄目ですかー?」
一人の男子生徒の質問に、周りは一斉に笑い出した。
言っとくけど僕は笑ってないからな。後で覚えとけよあのクソ野郎。
「明確な理由を書いてないので罰だ。そんな事言うとドラゴンに食われるぞ?」
「ちぇ〜」
安心してよ先生。こんな奴食わないから。
えぇとそうだな…まずは腸でも抉り出してやろう。それからえぇと…って駄目だ駄目だ。またバニッシュモードが入ってしまった。
でもあいつ殺してぇ…。
しかしこの先生、返すの早いくせに相変わらず採点がしっかりしてる…。見事に採点間違いが無い。
計算も間違ってないし、僕の歴史のテストは21点で決まりだ。
っていうか最後のサービス問題。「人間」と「ドラゴン」が逆で罰ってキツ過ぎない? 三角でも良くない?
ドラゴンの間では逆だよ? 人間がドラゴンを無差別に殺害し始めたし、人間が戦争おっ始めたって言われてきたよ? もう良いじゃん三角で。ドラゴン視点なら間違ってないんだからさ。
寧ろ丸で良くない? ねぇ? 丸で良くない?
「因みに、この惨殺事件…『ドラゴンの役』の僅か一年後、人間とドラゴンがそれぞれの陣地を決めた条約を何条約という?」
「リアフォーナー条約です!」
先生の問題に、一人の女子生徒が手を上げてそう答えた。
先生はその生徒に「正解」とだけ言い、話を続ける。
「しかし、その条約を結んですぐにドラゴンは条約を破り、我々人類の陣地に入った。それ以降はもうこの条約なんて名前だけのものになってしまった。ここまではみんな分かってるよな?」
生徒達全然が「はーい」と返事をする。こんな事など、人間の間では常識だ。
最も、ドラゴンの間ではさっき先生が言った事とは真逆のものが流れている。
つまり、人間が先に条約を破ったっていう話だ。
以降、人間は定期的に遠征と称してドラゴンの陣地に足を踏み入れるし、ドラゴンは人間に報復する為に人間の陣地に足を踏み入れる。
本当に「リアフォーナー条約」なんて、名前だけのただのお飾りだ。
「じゃあ、この条約を結んだ人間とドラゴンの名は知ってるか?」
「はい! モロックス・アンダスターと…えぇと…」
男子生徒が元気良く答えようとするが、ドラゴンの方の名前を忘れたらしい。
え、嘘でしょ。ドラゴンの名前めっちゃ簡単じゃん。
「裁判官」
我慢できなくなった僕は、手を上げずにそう言った。
「正解だ。しかし、先ほど言った通り条約は事実上破棄された。そのジャッジがモロックスを殺したのが発端だ。それを機に、ドラゴンは人間の陣地に入ってきた」
分かってはいたが、やっぱり悉くドラゴンとは真逆の話が進められる。
もう二千年も前の話なので真実は分からないが、こうにも話が噛み合わないとなると、やっぱり両者が分かり合う日は遠いんだろうなぁ。
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透き通るほどキレイな川など、この辺には幾らでもある。
そんな川が沢山ある中、チビが倒れていた川など探せるかと少し不安だったが、なんとか到着する事が出来た様だ。
……これで違うなんて言ったらぶっ飛ばすぞ。
【どうだ? ここで合ってるか?】
【うん! 僕、ここで倒れてた!】
どうやら正解の様だ。
俺は安堵の息を吐き、再びチビに問いかける。
【で? 何か思い出せそうか?】
【う〜ん……何にもぉ…】
まぁ、行って記憶が戻ったのなら苦労はしないか。
元から期待はしてないし、俺がここに来たのは俺自身の目でこの川を確認する為だ。
チビでは見落とした事も、俺なら何か見つけられるかもしれない。そしてそれが、チビの記憶に関係していれば大成功だ。
ふむ…まぁだろうとは思ったが、この川かなり長い。
大方、何処かからかこの川に落ちて、その内に記憶を失ってしまったんだろう。
となると、やっぱりこの川を登っていくのが一番の手掛かりになりそうだ。
【よしチビ。この川を登ってくぞ】
【はーい】
【ちょっとお待ちなさい】
ん?
俺は不意にテレパシーが届いた空を見上げる。
そこには、このチビと同じ黄色のドラゴンが翼を動かして宙に浮いていた。
【まさかあなた方…ここが私の縄張りとは知らずに来ましたか?】
縄張り? ったく、面倒な事になったな。
【そうだったのか。悪いな知らなくて。これからは気を付けるよ】
俺はそう言って川から離れようとする。
だがその黄色いドラゴンは、俺の目の前で地面に降りる。
【謝って済ませるとお思いですか?】
謝って済んだらいいなと思ったが、そう上手くはいかねぇってか。
【許可無く縄張りに入るなど言語道断。あなた方には……ん?】
黄色いドラゴンは、いきなり匂いを嗅ぎ始めた。
そしてしばらくして、奴はチビを見つめる。
【……あなたでしたか、私の縄張りに許可無く入っておきながら姿を消したのは】
どうやら、チビがいた時の匂いを覚えていたらしい。
多分、チビが目覚めた時にはこいつは飯にでも行っていなかったんだろう。
こいつ、相当縄張りに入られるのが嫌みたいだ。いや、俺も嫌だがこいつは異常な気がする。これはマズい事になりそうだ…。
【一度ならず二度までも…分かりました。最初は半殺しで許してやろうと思いましたが…】
俺は嫌な予感がして、右手を竜巻のドリルに変えて奴を攻撃した。
だが奴もそれを読んでいたのか、すぐに後ろへ跳びそれを回避する。
【気が変わりました。あなた方は、全力で殺してあげましょう。死体も残らない程に。いいですね?】
【いい訳ないだろ!!!】
俺は両腕を竜巻のドリルに変える。
やれやれ、また戦う事になるのか。二日連続は懲り懲りなんだがな。
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「よぉアピアス。テストはどう……って訊くまでもねぇか」
僕は絶賛死亡中だった。もうクリントに話し返す余裕も無い。
今日二つテストが返ってきたのだが、二つともボロボロだ。
いや、予想はしてたよ? してたけどさ? 流石にここまで酷いとなると…。
「クリント…僕もう…駄目かも…」
「それ前も聞いたぞ」
うんそうだね。テスト始まってから、僕ずっとそれ言ってる気がする。
あぁ…最近はドラゴンもソーサラーも殺し屋も出ないから平和なんだけど、どうにもそんな平和を噛み締めない。
テストという最大の敵がいるからか。
テストなんて考えた奴、絶対バカだと思う。天才過ぎてバカとかじゃなくて、マジでバカなんだと思う。だってそうじゃないと、こんな心を殺しに来る様な殺人兵器作らないもん。
「お前またぶつぶつ言ってるぞ」
「……テストに大しての不満を言ってた…」
「あぁ…なるほど…」
クリントも、どうやらテストとかいう殺人兵器の不満には同意してくれた様だ。
そうだよ。こんな不満同じ学生なら持って当然だ。そう言えば、クリントはテストどうだったんだろう…。
「クリントは…テストどうだったの?」
「え? どっちも余裕で平均点越してた」
殺そうか。
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俺は筋肉の一部を風に変え、それを黄色いドラゴンに放った。
黄色いドラゴンはそれを軽々と避け、俺からまた距離を取る。
何だこいつ? 喧嘩ふっかけて来た割りには全然攻撃してこねぇ。一体どういうつもりだ?
【へぇ、あなたの魔法は風を操るのですか? となると…名前も風関連とか】
【グダグダうるさいぞ。さっさとかかってこい】
【まぁそう焦らないで。でも…かかってこいという事は、私はあなたを殴ってもいいという事でいいですね?】
はぁ? 何言ってんだこいつ。
【……あぁ、出来るもんならな】
【了解しました】
ん? さっきあいつ、笑わなかったか?
直後、俺の頬に衝撃が走った。
俺はいきなりの衝撃にその場に倒れる。
「ガァ! ガァ!」
近くの岩の陰に隠れていたチビが、鳴きながら俺に駆け寄る。
ば、馬鹿…。出てこないで隠れてろよ…。
【お子さんが心配ですか? よろしければ、私が面倒を見ますけど…いいですか?】
【いい訳ねぇだろ馬鹿が…! ってか、今のお前の魔法か…!】
俺は立ち上がりながら、未だに青空に静止する奴を見た。
奴はやはりというか、一歩も動いてはいなかった。
【さぁ? 何でしょうねぇ?】
こいつ、シラを切るつもりか。
だが、さっきの衝撃は間違いなく奴の魔法だ。
「衝撃波を放つ魔法」とかそういうのか?
【チビ、お前まだ隠れてろ】
【でもパパが…!】
【俺はお前のパパじゃねぇが…安心しろ。お前が隠れてる方が戦いやすいんだ】
俺がそう言うと、チビは不本意そうに岩の陰に歩いて行った。
悪いなチビ。でも隠れてる方が戦いやすいのは本当なんだ。
と、そんな事を考えてるとまた衝撃が走った。
今度は腹に衝撃が走り、俺は思わず後ずさる。
また奴は動いていない。いや、手を少し動かしたらしい。一体何をしたのかは分からないが、衝撃波だとすれば風になってもその衝撃を受ける事になる。風で無力化はできなさそうだ。
【ハハハハハ! さっきまでの威勢はどうしましたぁ?】
クソッ…こいつ面倒だな。
だが、さっき衝撃が走った時、奴は手を動かしていた。
となると、奴は手から衝撃波を出せるのか?
……だったら…。
俺は翼を広げ、奴の周りをぐるぐると回った。
これで衝撃波は避けられる筈だ。後は隙を見て、空中の奴を攻撃すればいい。
すると、奴が拳を握って手を前に出した。
衝撃波か? だが無理だ。俺はお前の後ろに…
ドッ!
なっ…!
俺は背中に衝撃を受け、地面に叩きつけられた。
嘘だろ…。俺は後ろにいたぞ? 何で衝撃が…。
【あれぇ? どうかしました?】
奴は嫌な笑みを浮かべて振り返る。
どういう事だこいつ…。衝撃波を曲げる事ができるのか?
【これで分かったでしょう。あなたはここで死ぬんです。いいですね?】
【いい訳…ねぇ…!】
どうする? どういう理屈かは分からないが、こいつの後ろにいても衝撃波を受ける事になる。
クソッ! せめて…せめてこいつの魔法の具体的な内容が分かれば…!
【足掻いたって無駄ですよ。なら、嫌でも認めさせてあげましょう!】
奴が拳を前に出した。
立ち上がったばかりの俺の腹に衝撃が走り、俺はまた倒れる。
倒れた俺に続けざまに衝撃が走り、俺は口から血を吐いた。
ヤバい…これはかなり…。
「ガァ! ガァ!」
チビが隠れてた岩の上に立って心配そうに吠える。
馬鹿野郎…。だから出てくんなって…。
【うるさいガキですね。あいつも殺してもいいですか?】
さっきから「いいですか」とうるさい奴だ。いい訳ねぇだろクソが!!!
俺は衝撃波を受ける覚悟で、全身を竜巻に変えて奴に迫った。
奴は少し焦ったが、すぐに拳を放った。
来る! 衝撃波が!
………あれ?
【なっ! き、効かない!】
何故か衝撃波は俺のところには来ず、竜巻となった俺はそのまま奴を飲み込んだ。
もちろん鋭利な鱗付きの竜巻で、奴はその鱗で体を徐々に切り刻まれる。
「グガァ!!!」
奴は拳を出したりを続けるが、何故か衝撃波は一向にやって来ない。
奴は諦めてか、竜巻を無理矢理に脱出して地に降りた。
俺も長時間竜巻でいられるのは限界だったので、俺は体を元の肉体に戻し地面に着地する。
【く、くそぉ! 風を操るんじゃなくて風になるのかぁ!!!】
奴は俺の魔法の正体が分かって動揺していた。
しかしどういう事だ? 衝撃波なら、風になった俺にも通用する筈だ。それなのに、衝撃波は全く届かなかった。
俺は何か引っかかるものを感じ、奴の今までの言動を振り返る。
「いいですか?」という奴の口癖。
何処へ逃げても受ける衝撃波。
衝撃波を出す前に握る拳。
風になると衝撃波を受けない。
………そうか…。そういう事か!
俺は何か考え事をしている奴を見つめ、笑みを浮かべる。
【何考えてんだ? もしかして、どうやって俺から「魔法を封じる許可」を得ようか考えてるのか?】
俺のテレパシーに、奴は驚愕した。
その顔、やはりそうだ。
【お前の魔法…「許可を得る魔法」だろ? だから、仕切りに俺に訊いてたんだ。許可を得る為に】
【そ、そんな訳…】
【お前は自分の名を明かさなかった。大体の野郎は強さに自信があるから、自分から名を明かす。大方お前の名は、魔法を表したありがちな名前なんだろ。
だけどお前は魔法の特性上、魔法の内容が分かっちまえば何も戦えない。だから名前を明かさなかったんだ】
奴は明らかに動揺している。これは確実に当たってるな。
【お前は最初訊いたよな?「俺を殴ってもいいか」と。そして俺は「できるもんならな」って答えた。これでお前は、俺から殴る「許可」を得たんだ。
今までのは衝撃波じゃねぇ。お前は俺を殴ってたんだ。「殴る許可」を得たお前は、俺が何処にいようが俺を殴れた。その場所に依存されない拳が、衝撃波に見えただけだったんだ】
そう、だから俺が風になると無効化された。
衝撃波は通じるが、風となった俺に殴るといった攻撃は通じないからだ。
【そうだろう? 許可】
黄色いドラゴン…ライセンスに、俺はそう突きつけた。
ライセンスは、悔しそうに拳を握る。
【フ、フン! 私の魔法が分かったから何だというのです! 忘れたのですか? 私はあなたから既に、「殴る許可」を得ています! あなたが何処にいようと、私はあなたを攻撃できるのですよ!】
【お前も忘れたのか?】
俺はそう言い、ライセンスが殴る前に自身を風に変えて奴の後ろに回り込んだ。
俺はライセンスの両腕を封じ、耳元で声をかける。
【風になった俺に、その拳は通用しない】
その直後、俺は自分を竜巻に変えて奴を包み込む。
奴は鋭利な鱗に再び体を切り刻まれる。
そして奴が片膝を付いた瞬間、俺は上昇して元の肉体に戻った。
右手を竜巻のドリルに変えて。
【終わりだ! ライセンス!】
【ぐっ…ふざけるなあ!!!】
ライセンスはすぐに立ち上がり、拳を振るおうとした。
だが、それが少し遅すぎた。ドリルは奴の腹に命中し、真っ赤な血が飛び散った。
「グガアァァァァァァァ!!!」
奴の断末魔が、美しい川を振動させた。
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ライセンスを殺した俺は、チビを背中に乗せて川の上流にそって飛んでいた。
う〜む…上流にそっていけば何か分かると思ったんだが、未だにチビの方は何も言ってこない。
俺も何か無いかと飛びながら探しているが、どうにもチビに関係してそうなものは見つからない。
しかし、そろそろ疲れてきたな…。
「ガァ!」
お? 何か分かったのか? 俺は意識を集中させ、チビの言いたい事を読み取る。
【パパ! あれ何?】
……何だよ。ただ訊いてみただけかよ…。
俺はチビが指差すものを目で追った。
そこには、石で造られた塔の跡地があった。
と言っても、本当に跡地で、何も知らないとここに立っていたのが塔なんて誰も分からないだろう。
俺がここが塔の跡地だと知っているのは、この跡地がドラゴンの間でも有名なものだからだ。
【あぁ、アレは「偽りの契り場」だ】
「ガァ?」
チビは分からなさそうに首を傾げた。
【あの跡地の先に、何かトンネルみたいなの見えるだろ?】
塔の跡地に続く壊れて途切れ途切れに続いているトンネルを、俺は指差す。
まぁトンネルと言っても、小さすぎてドラゴンは通れないものだ。チビなら通れるかもしれないが。
【あのトンネルを通って人間がここに来るんだ。まぁ最も、あのトンネルじゃあもう人間も通れないがな】
俺はそう言いながら地面に降りて、チビも背中から降ろす。
そして俺達は、偽りの契り場に近づく。
【ここで大昔、ジャッジというドラゴンと一人の人間が契りを結んだ。お互いの陣地を決めて、お互いに干渉をしないという契りをな。
だが、その契りはその人間の裏切りによりすぐに破られた。おかげで俺達は、未だに人間共と争ってるって訳だ】
俺がそこまで説明すると、チビが何か言いたそうにしている。俺はそのチビの考えを受信する。
【そのニンゲンって…悪い奴らなの…?】
【あぁ、俺はそう考えてる。だけど、最近は何故か、その人間を守るドラゴンが現れてな】
【何で? 何でそのドラゴンは、ニンゲンを守るの?】
【さぁな。俺もそれが知りたくて、人間を見てきた。でも、どうしても分からなかった。やっぱり俺は…人間が憎い】
【憎い? パパ、ニンゲンに何かされたの?】
チビの問いに、俺は答えていいものか少し悩んだ。
だが、こんな事答えても減るようなものじゃない。別に言ってしまってもいいだろう。
【俺には、父親がいない。俺が産まれる前に、殺されたんだ】
俺は不安気なチビを見つめる。
【人間にな】
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午後9時33分
ニジューキン市に建設されたとあるビル内に、三人のスーツ姿の男達がエレベーターに乗っていた。
男達はエレベーター内で急いで着替え始め、黒い装甲服に着替え終わる。
35階で止まったエレベーターを降り、男達は廊下を進んでいく。
そしてとある扉の前で止まり、耳につけたインカムのスイッチをオンにした。
「準備完了です」
『了解。では、作戦…開始』
インカムからの指示通り、男達は扉を無理矢理開けて中の部屋に入っていった。
それと同時にその部屋のガラスも割れ、同じ装甲服を身につけた軍団が部屋に侵入してきた。
部屋には、黒い衣服を身にまとった集団がおり、その集団は突然の侵入者にパニックを起こす。
「騒ぐな! ショウ・ジムンズは何処だ!」
装甲服の軍団の一人が、パニックを起こす集団にそう問いかける。
「私を呼んだか?」
すると、その背後から男の声が聞こえた。
装甲服の男が振り返ると、そこには黒いサングラスをかけた長髪の男が立っている。
装甲服の男は、構わずその長髪の男…ショウ・ジムンズにレーザー銃を向ける。
「ショウ・ジムンズ! ソーサラーであるお前を、捉えにきた!」
「ソーサラー? 違うな。私は、神だ」
ショウがそう言った直後、黒い服の集団の一人が装甲服の一人を押し倒した。
「ショウ様をお守りするぞお!!!」
その黒い服の男の一言に、他の黒い服の集団は一斉に装甲服の軍団に襲いかかってきた。
装甲服の軍団はレーザー銃を撃つが、黒い服の集団は撃たれてもまるで効いていないかの様に彼等を襲い始める。
「なっ!?」
ショウに銃を向けていた男も、その光景に驚いて思わずショウに背中を見せてしまう。
瞬間、ショウは男の肩に手を置いた。
「神に銃を向けた罰です」
ショウがそう囁く。
「ああああああああああああああああ!!!」
男の悲鳴が、夜のビルに木霊した。




