第十話・部活見学
放課後はトーマスと共に部活見学をする。
この噂はあっという間に世間に広がった。僕の一挙手一投足はどれだけ波紋を呼ぶんだ?
「タクマロ君! サッカー部のマネージャーになってくれない?」
「いやバレー部のマネージャーに!」
「野球部のマネージャーになって! タクマロ君を甲子園へ連れてってあげる!」
「華道部に!」「剣道部に!」「茶道部に!!」「大正琴部に!」
……本当にファンタジーがココ? なんで茶道やら剣道があるんだよ、あと甲子園ってどこよ?
あとで聞いたけど、本当にあった。いや甲子園はなかったけど、野球も剣道も華道も普通にあった。
……どんだけグローバルだったんだよ日本。
しかし誘われるのは、大半マネージャーのポジションだ。男子も勿論部活をするが、マネージャーと言う存在は大抵男子らしい。女子もいるけど。流石は反転あべこべ世界。
……一応、僕としては自分で身体を動かす方がいい、かなぁ?
マネージャーって何をする人だか知らないし、中学時代の柔道部でも、勿論相撲部にはいなかった。ああ、雑用か、一年の頃僕がしてたの全部か。
なんというか、“生まれ変わって第二の人生”ってくらいの変貌ぶりだ。
高校に入ったら、漫研やアニメ部に入って、って思ってたけど、正直……少し前向きに運動したい。
「タクマロ君漫研入らない!?」
「ねえ一緒にラノベ部入ろうよ!」
「SOS団へようこそ!」「人生部作ろう!」
……流石にアニ研はないらしいけど、漫研とラノベ部はあるのか……。
適度に「お断りします」と「時間があったら」を織り交ぜ、先約のトーマス(僕の嫁)と一緒に周ることになった。
魔法の授業中は静かで楽しく、あっという間に放課後になった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
よーやっと一息つけた感じだ。最初の頃はもうニトロターボってレベルだったからなぁ。
まあ、今でもトーマスと連携する太めの貨物車の後には、ぞろぞろと大量の女子生徒たちが後を付けてるんですが。
……男女の立ち位置が反転しているなら、これってどうなんだろう?
美少女転校生の後をぞろぞろ男子が着いてきたら、もう色々まずいと思うんだけど……美男子の後を女子が追うならまあありなのかもしれないけど、今……それなのかな? う~~ん設定のさじ加減が難しい。
部活棟。
日本のソレとは豪華さが段違いだけど、まあ懐かしい気がする汗の臭い。
まだアールドワースに来て一週間程度しか経ってないのにもう懐かしい。嫌いじゃないわ。
グラウンドでサッカー部がドリプルドリプルパスパスパァァァ~~スッ! 陸上に男子は居るけどサッカーと野球には女子しかいない。男子はやってもソフトボールらしい。う~~ん……。
体育館。
滅茶苦茶デカい。国立体育館とかそんなレベルだ。バレー部が声を出し合ってる。ありがたいことに新体操部はちゃんと女子だった。これで男子がレオタードで踊ってたらキーボードクラッシュするところだった。
卓球にバトミントン。こうして見てると髪の色以外、異様に美男美女率が高い以外普通の高校生と変わらない。
それは最早異常と言うのだが、色々感覚がいい感じに麻痺してきた。
格技室。
空手に柔道、剣道にフェンシングまでここでやるのか。柔道懐かしす。……騎士を目指しているなら、身体は鍛えるに越したことはないし、格闘技なら一石二鳥だろうか?
ぬぉ!? YAWARA!ちゃん(二次でない方)が笑顔で手を振っている。「体験入部していかな~い?」「優しく教えてあげるよ~噂の編入生~♪」「寝技の特訓はいかがぁ~?♥」
スミマセン全力で遠慮します、いいから政治家やってて下さいもうファンじゃありません。
柔道部一の小町を全力で振り切り、さらに色々回ってみる。
どこも理不尽なシゴキとかはなさそうだ。まあ野川原高校相撲部が異常だったのかもしれないが、21世紀のあの世の中、マジ共産主義だったもんな、民主主義が通じないの日本なのに。
トーマスと共に談笑し合いながら見学して回る。「あはは♪」「ウフフ♬」いやぁ、本当悩むな~、青春だな~、高校入学時は部活見学とかできなかったもんな~、ハイエース→相撲部→はい入部します→いいえ入部させて頂きます!→入部させてください何でもしますから!!
……あれ、悲しくないのに涙が出ちゃう……。
が――運命はここでも琢磨呂の前に立ちふさがった! 今度は乗り越えて見せる!
「お? ここはドスモウ部だね、男子にも女子にも一番人気の。久しぶりに見てみよう!」
へ~ドスモウ部かぁ~、ちなみに相撲部は、絶賛「彼氏にして欲しくないスポーツ」No1を独走中だけどね~ぶっ千切りで~、ドスモウは人気なんだふ~ん……。
ど、スモウ……!?
ファッ!!!!!?!?!?!?!?!?!?
「ああ残念、今日は女子は休みかぁ……ああ、そういえば練習試合で遠征だったな。男子しかいないや」
……色々スカスカ過ぎるだろこの世界観設定!!!?
なんで相撲モデルの部活は男子もできるんだよ!? あとネーミングセンスがアザゼルさんレベルじゃねぇかよ!?!? よんでねえよアザゼルさん!?
マイブロウのトーマスは、僕の静止の間もなくドスモウ部の専用施設へと潜入してしまう。だめだ~~トーマァァス~~!?!? 行くな~~~!!!!
後ろで僕の追っかけと化している女子の皆さんが、黄色い声をあげる。
「きゃああぁぁぁァァ~~タクマロ君、ドスモウ部へ入るわぁ!」
「タクマロ君のスパッツ姿、見て見た~い!」
「タクマロ君が、半裸でくんずほぐれず……はぁはぁはぁっ」
何故だ? 何故再びわが前に立ちふさがる相撲部よ!?
ガチ先輩の呪いにしか思えない。絶対そうだろう。
死んで転生して異世界までいっても逃れられないのだろうか?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「失礼しま~す、部活見学させて下さ~~い!」
田舎出身と言う割にコミュ障とは無縁のトーマス(トム・クルーズ似)は、あっという間に部内へと滑り込んでしまった。仕方なく後を追う。
…………だいたい、スモウだ。色々違うけど、相撲だ。
一番人気というだけあり、ドスモウ部屋は広い。土俵(リングと言うらしい)が三つもある。
奥に親方や顧問が座る板張りの上座があり、なぜか神棚まであった。何を祭っとるのか。
清潔な感じだ。バーベルも一抱えの自然石もあるが、床は固めた土ではなく風呂に使うマットのような弾力のあるモノだった。
丸椅子が数個、小さな黒板。“だいたい相撲部”だが、やっぱりちょっと違った。
「ん……どなた? ん!?」
どこの部活でもそうだったが、やはり僕が入ると皆の目の色が変わる。今は男子しかいないけど。
色とりどりのスパッツ、上半身はスポーツブラのような、腹筋剥き出しな丈短のタンクトップ。
……相撲部というわりに(ドスモウだけど)、全然皆が太ってる感じではない。一人中々の体格の男がいるが、他は皆細くスレンダーな細マッチョや、体毛一つない男の娘のようなセクシャルな肉体だ。
まあファンタジー世界での体格なんて、全然当てにならない。(詳しくは※アールドワースの世界観説明回を参照です)。
エイミィさんなんてあのロリっ子体格で身の丈の大剣ブンブン振り回せるからな~。
皆柱に向けて鉄砲や股割をしている。三つの土俵の内一番端の一つを使い、上では二人の美少年が、「やぁ!」「えぃ!」って可愛い掛け声と共にぶつかり、揉み合い、組んずほぐれず……てか寝技の攻防になった。
ルールは相撲とは微妙に違うらしい。
まるでジャニーズだかの企画を見てるみたいだ。テレビ画面の向こうでは婦女子たちがキャーキャー言いそうな雰囲気だ。
……見た感じ結構ヌルいけど真面目にやっている雰囲気。まあ入部する気はさらさらないけど。
と、そこで相撲……ドスモウ部の中に一名、そこそこ見事なあんこ型体系のモンゴル相撲出身のような男が一人、こちらに接近を試みている。微妙に朝青龍似で強そうだ。
唯一この中でドスモウは兎も角、相撲の似合いそうな……この世界基準では結構美男子……なのかな? この辺やっぱり全然馴れないけど。
見た目は183cmくらいで、体重は120㎏近くはありそうだ。(見た目は)
「キャアアァ! カーチン先輩よぉ!」
「学園内美少年ランキング6位の、男子ドスモウ部エース、カーチン=ラ=ロスコイ先輩よぉ!?」
あ、解説ありがとう御座いました追っかけの皆さん。しかしコレで6位? 日本に来てもまだ性格が陽気だったり男らしければなら望みがありそうな顔だけどなぁ。
男は僕とトーマスを確認するや鉄砲をやめ、流れる汗をタオルで拭い黄色い声に向けて軽く手を振る。その声がさらに1オクターブ上がった。
明後日の方向を見ている。が、その意識は間違いなくタクマロを意識していた。
スパッツとタンクトップは鮮やかな赤色の上下で、中々に引き締まった腹がたぷたぷ肉を揺らしている。
後で聞いた話だが、彼はそれほど際立った“美男子”ではないが、人気No1のドスモウ部男子エースということで、ランキングベスト6に入っているらしい。
……ちょっと地味目だけど隠れ巨乳で、可憐な雰囲気の柔道部エース美少女? ってとこかな、日本語変換すると?
しかし随分と剣呑な空気を発している、明らかに僕に対し好意的ではない感じだ。
「ぶ、ふ~~ん……お前ら一年かぁ? ああ、もしかして噂になってる編入生ぇ?」
男は白々しく聞いてきた。
「あ、ハイ、自分1年D組、トーマス=クルーゼと申します。今日編入してきたコイツ、タクマロに部活を案内してまして、見学させてもらっていいですか?」
「1年D組、た、タクマロ=キリガヤっス! ヨロしくお願ぁシャァス!」
トーマスは丁寧に、僕は体育会系でシゴかれた通り元気に挨拶をする。が、
「ふ~~ん……コイツが、ねぇ……? フンッ。なんだよ、噂程じゃなさそうだなぁ」
やけに挑発的だ。美少女転校生の噂を聞いた老舗の柔道部美少女が、真剣に取り組んでいる部活を冷やかしにきたっぽいから、ちょっとつっかかっている、って感じ……。
いやそれとも、今まで自分だけ女子にちやほやされていたのに、強力なライバルが入られたら迷惑だからとっとと追い出そう……うん。どっちかと言うとそっちの雰囲気だ。
「スミマセン! お邪魔しませんので!」
僕は弛んだ腹を曲げて思いっ切り頭を下げる。てゆ~か入部する気さらさらありませんし。
「ブフフ、なに、仮入部ぅ? ウチは女子と合同練習もする全国レベルだからねぇ~、“見た目だけ”のお坊ちゃんじゃぁ、キツイと思うよ~?」
嫌味ったらしい言い方だ。僕は、
「マジっすか!? パネェっすセンパイ! オぉス!」
野川原高校相撲部で、先輩が掌を地面に向けて下げたら、それは「伏せ」のジェスチャーだ、部活中だろうが校舎の廊下だろうが、僕はその場で「押忍!」 と言いながら「伏せ」をする。ガチ先輩などはその上にどかりと座って休憩し、ヤカンの麦茶をラッパ飲みするのだ。
そういう世界に生きてきたのだ、僕は。
それに比べれば今のやり取りなど、百合百合しい箱入りお嬢様高校の「ごきげんよう」「あらごきげんよう」みたいなもんだ。
“女子との合同練習”だけはちょっと気になるけど。
長居は無用。「場違いだから帰れ」と言うなら喜んで。股の間を這って通れと言われれば悦んでそうして、とっとと退散するに限る。
「トーマス、お邪魔みたいだし……お暇しよぅ」
「ん? あ、ああそうだね……」
トーマスは、「女子がいればもちっと友好的だったのかもしれないけど……」と小声で漏らし、僕はあえてそれを無視し、ともあれ部屋を出ようとし――、
「ブフフフ~♪ それが懸命だね~、ブフフ。全く……自分の引立て役に、脇に不細工を連れて歩くような根性のひん曲がったヤツじゃぁ、仮に入部しても長く続かないだろうしねぇ~♪」
…………今この男は、言ってはならないセリフを言った。
トム・クルーズが一瞬身を固くする。が、その顔には直ぐに哀愁の漂う哀しい笑みを浮かべ、聞き流して扉をくぐろうとする。
が――僕の足は止まっていた。
「……センパイ、取り消してくださぁいよ。なんスカ、それ?」
「?」
「――ッ、タクマロ!」
僕はいい。体育会系の先輩なら、顔面に唾を吐かれようと、「ゴチになりやぁす!」「甘露でありましたぁ!」「ンほおおおもっとぉぉぉぉ!!」ってもんだ。
が――、
僕の中で凶暴な獣が膨れ上がった。体積を増したように錯覚した。
トーマスは――本当にいい奴なんだ。今日一日あまりにカルチャーがショックで、コイツが居なかったらちょっと神経が参ってたかもしれない。
普通にダベって部活見学に付き合ってくれて、女子たちから「ウゼェ」扱いされても辟易している僕の矢面に立ってくれて。
その――読者支持率No.1のトーマスを不細工だとぉぉぉぉぉぉ!!!!?
歯ぁ食いしばれこらあぁぁぁぁぁぁッッッ!?!?!?
「センパイ、取り消して下さい! トーマスは僕の親友っス! トーマスを侮辱するなら、いくらセンパイでもメチャ許せねっスよぉぉぉ!!?」
突然の少年漫画のような展開に、部内の生徒、遠巻きに見ていた女子たちも騒然となる。
自分の正妻を人前で侮辱されて、それで黙っているようならそいつはキンタマが無いのと同じだ!
どうあがいても許せなかった――。
…おいファンタジーどこ行った?




