第九話・魔法学園編入
ナンダ、アレ……?
トーマスはもう、言葉を失うしかなかった。
生身の人間じゃなくって、失われた古代魔法で淑女の理想が具現化した立体映像魔法と言われても信じられるほどの……。
男子の俺でさえこれだから、クラスの女子たちはもう、失神しかねない――恐慌状態といっていいレベルに達していた。
「キャアアアアア!?!? 見てあのふくよかな身体ぁ!? 三ケタサイズよぉ!?」(体重が)
「ぷっるんぷるん揺れて……はみ出そう! はぁはぁはぁ……ッ!!」(ウェストが)
「揉みしだきたいわぁ!!!」(注:男の身体の話です)
丸々太ったその身体もさることながら、その目も眩むような美貌……!?
丸刈りにちかい短い髪。だっぷりと膨らんだ頬は垂れ、耳も鼻も潰れ唇は分厚い。
それだけでもう完璧な美でありながら、鼻筋と頬に浮いたニキビと吹き出物。
一度見たら一生忘れられないくらいの衝撃。男の俺でさえ、心を奪われるほどの――饒舌に尽くしがたい“美”そのものだった。
ルシルダ先生は教壇をバンバン鞭で叩いて、それでも五分程興奮は収まりようがなかった。
ようやく事態が収拾し、彼の――プリンス・タクマロの席が発表される。
ああやっぱり……俺の隣だよなそりゃ……。
と……友達に、なろう。うん。
田舎から出てきたお上りさんで、ボッチって程じゃないけどこう、心の許せる友人が少なかった。同室のアルベルトは親友だし、昼食はいつも一緒に食べるけどやっぱりもう少し友人が欲しい。アルベルトも人見知りだし。
他の友人のグループに入れてはもらえるけど、やっぱりグループ全員同郷だったりするとちょっと見えない壁を感じるし。
記憶喪失? 出身さえ定かじゃないんだよな?
あわよくばそのお零れを……って下心が無いわけじゃないけど、席が隣だし、いい機会だとも思った。
ガンバレ俺! 頑張れトーマス=クルーゼ15歳!
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
用意された席は、窓側から二列目、最後列だった。
心臓の鼓動が止まらない。どっきんこどっきんこ。あ、クラスに三人くらい、こう……ゲテモノとさえ言っていいような(僕もだよ、僕も)残念な容貌の女子発見。
見つめる。あ、即効潤んだ瞳で流し目を返してくれました。ナイス流し目!……落ち着きましたありがとう御座います。
しかし、まあ……女子もレベル高すぎだけど、
「よ、ヨロシク、俺、トーマス=クルーゼ! 属性は風なんだけどさ、一緒に頑張ろうぜ!」
「~~~~ッッッッ!?!?」
(おいおいおいどこのアカデミー主演男優だよ、お前はハリウッド行けよそのまま!)
(なンだよコイツ……露骨に顔しかめてくれやがって、スンマセンね、不細工で畜生……まあいい、俺のが大人、俺のが大人!)
最盛期のトム・クルーズばりの爽やか系イケメンだ。あ、こっちでは不細工なのか……君、日本来れば一生働かなくても食っていけるよ?
とりあえずあまりのイケメンっぷりに思わず顔をしかめてしまい、向こうもちょっと面白くなさそうな顔をした。いかん!
「あああ、ありがとう御座いまぁす! よろし、く、お願いしまぁす!」
せめて誠意をこめて頭を下げると、僕の無礼な反応など直ぐに水に流してくれた。緊張のせいで顔が変になっているのは事実だし。
「はは、同級生なんだし遠慮しないでいいよ! タクマロ? 珍しい名前だね、俺のことはトーマスでいいから!」
やっべ超イケメンだ!?!?!? 惚れるぞマジで??
身も心もイケメンとか、バランス考えろよお前は!?
とりあえず僕の大親友決定! トーマストーマス! 僕はクルーゼ隊に一生着いていきます!!
着席――前の席は……すげぇ、ピンクのロングヘアをツインテールにした……これまたとんでもない美少女だ。てゆ~かエルフの一人だ! ちらちら振り返って僕を見てる。淫乱なのか? 淫乱なのか!? 試していいのか!?!?
いかん――こんな美少女見てたら、雛鳥が初めて目にした法則でそのまま自然に惚れてしまう!
僕は選べる立場なのか――? ぶっちゃけクラスの女子半分はストライクゾーンど真ん中、選べる立場じゃない(今は選べる側だけど)けど、クラスの97%は告白されたら即OKレベルだ。(今までモテなかった反動で守備範囲が広いです)……と、
顔を反らし窓際を見やる。気持ちを落ち着かせるために外を見る筈だったのに……、
その女子と、目が合ってしまった……。
座ってなお小さい、多分150cmにも満たないであろう小柄な薄い身体。
短い水色の髪。瞳の色も、夏の湖畔のような涼やかな水色。
透き通るほどの白い肌――華奢で……氷細工のような身体。
慌てて彼女は眼を反らした。
まるで熱の無い人形じみた無機質な美。なのに僕に見つめられて頬を赤らめ、懸命に身体を小さくもじもじさせる姿は――。
普段はきっと、クールな子なのだろう。
事実のちに聞いた話では、休み時間も一人で黙々と読書をし、食事も一人で食べるような大人しい子らしかった。
クラスに美少年が転入して来ても、盛り上がる周囲に我関せずと佇む、夜に咲く百合の花のような――。
なのに、僕の顔を見てドキドキしている。
――――惚れた。のかも、しれない。
その時僕は、彼女に――ルーリィ=アントスプに。
惚れてしまったのかもしれない。
未来は誰にもわからない。
いや本当マジで。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
高校生活とはなんだったのか……?
日本で一年弱高校に通ったけど、こんなイベントありませんでしたよ……?
魔法の授業は中々に面白いであります先生! そらもう魔法だしね!
ただまあ、一番最後列なもんだから、振り返った生徒の顔が一発でわかる。そのたびに目が合うともの凄い反応で……。
授業の合間合間……アニメでしか見たことのない質問攻め。記憶喪失を前面に乗り切るのが大変でもう。
僕の噂はとっくに三年まで知れ渡っており、学年さえ問わずに教室に見物客が押し寄せてきた。
珍獣か? 珍獣がみたいのかそんなに!? パンダなんてただのモノクロな熊じゃないか!……一度でいいからナマで見たかったな。
「身長は?」「体重は?」「血液型は?」「生年月日は?」「好きな女の子のタイプは?」「お風呂ではまず最初にどこ洗う?」「モンハンで使うメイン武器は?」「好きな色は?」「好きな食べ物は?」「ワタシのこと好き?」「恋人はいないよね? ね?」「好きなラノベは?」「ジャンルは?」「受けと責めだとどっち?」「好きな髪型は?」「なんの部活入るの?」「好きな銃はベレッタ? グロック?」「好きな決め台詞は?」「好きな体位は?」「好きな飲み物は?」「プリパラでは誰派?」「みれぃちゃんは変身前と後どっちが好き?」「今期の一押しアニメは?」
流石にどれも「覚えてません」では通せないので、それぞれ適当に答え、
「ちょっと女子! 少しは遠慮しろよな、怯えてんだろ!」
「ったく、これだから女はガサツなんだよ!」
トーマスが助け船を出してくれた。めっちゃ睨まれても踏ん張ってくれた。
もう一人、クリスと名乗った眼鏡で小さな少年も矢面に立ってくれた。ありがと。
「なによークリスぅ、背ちっちゃいからってぇ!」
どういう理屈だそれ……?
「トーマス邪魔、つ~か居たのアンタ?」
トム・クルーズ相手に何言ってんだよコイツ???
本当……今までの常識が全く通じない。
馴れる……しか、ないのか?
ま、こういう場に馴れているのか、クリスという少年が場をうまく仕切ってくれた。
興味津々の女子に変わり、代表して一番聞きたかったような質問をまとめてくれたのだ。
「で――タクマロ君は、恋人はいるの?」
彼の質問で教室がわななく。
「いや……全然さっぱり、これっぽっちも……」
「キャアアアアアアアッッッッ!!!!」
「フリーキタコレ!!!!」
クリスの質問が続く。
「どんな子が好みなわけ?」
「……大人しい、子。かなぁ?」
「キャアアアアアアッッッッ!!!!」
「ワタシ超大人しいわぁッッッ!!!!?」
「なんでまた魔法学園に編入してきたの? 将来の夢とかあるの?」
その質問には間髪入れずに答えられた。
「あ……僕、魔法騎士になりたいんだ!」
「へ――?」
結構意外だったらしい、教室が少し静かになる。
……日本で照らし合わせると、美少女が「自衛隊に入りたいの」って言うような感覚? もっとレアなケースなのかな?
確かに珍しいかなぁ?
とりあえず二、三日はこの有様を覚悟しよう。
人の噂も75日……な、ななじゅうごにち、だと……?
長いな……頑張らないと。
怒涛と昼休みに突入した。
授業が面白いのと囲みを受けるため、まさか昼休みが憂鬱に感じるとは思いもしなかった。でもお腹は空く。ご覧のとおり燃費は悪いので。
「学食行こうか、タクマロ、それとも弁当買う?」
「……どっちが、いいのかなぁ? ゴメンだけどお任せするよ」
「じゃ、学食行こう、案内するよ、いつもならルームメイトも一緒に行くんだけど、今日はアルベルト風邪ひいて休みだしな」
「アルベルト?」
「ああ、今度紹介するよ。身体はひ弱だけど勉強できるやつでね、試験前とかよく教えてもらってんだ。性格がちょっと気弱だけど、いい奴だぜ!」
トーマスが言うなら間違いない。ああ、早くまだ見ぬアルベルトとも友達になりたい。アルベルトゼロと名付けよう。心の中で。
二人で学食を目指す。
一応僕は、生活費は工面されてる。白銀の薔薇魔法騎士団と特待生の報奨金に感謝。
魔法学園の特待生です。いや魔法学園の豚細工です。看板に偽りなし。
ちょっと隣の席のあの子が気になったけど、むしろ僕の周囲が滅茶苦茶になっちゃうから今は離れるのが吉だろう。
もうハーメルンのヴァイオリン弾きみたいに、後ろにぞろぞろと人が(女子)が着いてくる。どうしたもんかなコレ?
アレ? ヴァイオリン弾きってそんな話だっけ??
とりあえず気にしない方向で、トーマスと共に食堂を目指す。追撃はぞろぞろ増えて行きました。
最早鼓膜が黄色い声を自然にシャットアウトしており、色々言われた気がするけど記憶に残っていません。
学食――キタ、妙に高級なラノベ特有の。僕の高校も学食あったけど、「囚人かよ…」ってくらい薄ら暗い所だったなぁ。いやご飯は美味しかったです。
高級レストランみたいな(入ったことないけど)豪華さ、品ぞろえの多さ。ペペロンチーノだぁ! ペペロンチーノがあるぅ~!? 勿論購入。かつ丼までありました。一緒に購入。この辺の世界観は突っ込まないで下さい。
ドリンクバー(ドリンク…バー?)でほうじ茶を淹れて、着席。割り箸割って食事。
その間も二年や三年の先輩方が押し寄せ、遠目にひそひそと(最早ざわざわとだけど)こちらをチラチラと凝視している。がん見ですがん見。
とはいえ……二年三年は流石にきっかけがなければ話しかけてはこない様子だ。クラスメイトと同学年が一番大変だった。
「そういやタクマロは、部活何するの?」
「ぶ、部活……?」
琢磨呂、トラウマスイッチオン。
僕の背中でガチ先輩が、「ぐわふはははははぁ~!」と悪魔のような声で嗤う。早く成仏して下さい。
「うちの学園は部活必須だからねぇ、俺はバスケ部だけど、よかったらどう?」
「う゛……う~~ん……バスケは、ちょっと……」
「まあ焦ることないさ、今日は部活休みだから、一緒に見学行く?」
トーマスまじクルーズ。
こんな親友が高校時代に欲しかったです……!!
どこまでいい奴なんだよコイツ。コレがモテないとか、世の中の女はどこに目付けてんだ?? 勿論僕は二つ返事で部活の案内を頼んだ。
食べている間も、ずっと黄色い声が止まらなかった。いい加減耳が痛いです。
……この作品って“ナニ視点”で語ってるの……?
答え、「なろう読者」視点です。娯楽、ただ娯楽。それだけ貫ければ、俺はそれでイイ!! 娯楽にも暇つぶしにもならなかった場合スミマセン。




