神枷-15
第一班は教師の誘導を受けながら、尾根道を駆けていた。
変異種の咆哮は、まだ背後から響いてくる。
それでも距離は少しずつ開き始めていた。
「あと少しです!」
先頭の教師が叫ぶ。
「救援部隊との合流地点はもうすぐです!」
その言葉に、生徒たちの表情へようやく安堵が戻り始める。
しかし、ノアの足取りは急に重くなっていた。
神枷によって開かれた感覚が、急速に閉じ始める。
鮮明だった世界はぼやけ、全身から力が抜けていく。
「ノア!」
リリアが慌てて支える。
「もう少しだから!」
「……うん。」
その時だった。
風が吹いた。
リリアの胸ポケットから、小さな革のしおりがふわりと舞い上がる。
「あっ……。」
本人が気づくより早く、しおりは地面へ落ちた。
さらに風に押され、落ち葉の間を転がっていく。
リリアは立ち止まろうとする。
だが、その一瞬の迷いが足を止めた。
「リリア!」
教師が叫ぶ。
「止まるな!」
リリアは苦しそうに唇を噛む。
「でも……!」
そのしおりは、彼女にとってかけがえのない宝物だった。
幼い頃から、ずっと大切に持ち続けてきたもの。
失いたくない。
それでも、拾いに戻ることはできない。
その時。
ふらつきながら歩いていたノアが、静かに身をかがめた。
震える手で、落ちたしおりを拾い上げる。
中からこぼれそうになった押し花をそっと戻し、土を優しく払う。
その花を見つめ、ノアは思わず小さく笑った。
「……まだ、大事にしてくれてたんだ。」
「え?」
リリアが目を見開く。
ノアは何事もなかったように、しおりをリリアへ差し出した。
「落としたよ。」
リリアは戸惑いながら受け取る。
「あ……ありがとう。」
大切そうに胸ポケットへしまう。
どうしてノアが、そんな優しい笑顔を浮かべたのか。
どうして「まだ」と呟いたのか。
その意味を尋ねるより早く――
ノアの身体から力が抜けた。
「ノア!」
膝から崩れ落ちる身体を、レオンとリリアが慌てて支える。
ノアは安心したように小さく息を吐いた。
「……よかった。」
その言葉を最後に、静かに意識を失う。
リリアはその横顔を見つめながら、胸元のしおりをそっと押さえた。
(今の言葉……。)
(どういう意味だったの……?)
答えは、まだ誰も知らない。




