神枷-14
変異種が大きく体勢を崩す。
その一瞬を、クラウスは見逃さなかった。
「今だ!」
怒号が夜の森に響く。
「全員、畳み掛けろ!」
教師たちが一斉に駆ける。
槍が閃き、剣が唸り、幾重もの魔法陣が夜空を照らした。
セシルは杖を高く掲げる。
「《アイスプリズン》!」
冷気が一気に広がり、変異種の四肢を巨大な氷が包み込む。
完全に動きを止めることはできない。
それでも、その一瞬だけ動きが鈍った。
「そこだ!」
クラウスが跳ぶ。
全身の力を乗せた一撃が、変異種の肩口へ叩き込まれた。
轟音とともに火花が散る。
さらに他の教師たちも連携し、次々と攻撃を浴びせていく。
変異種は怒りの咆哮を上げながら暴れる。
しかし、さきほどまでのような圧倒的な勢いはない。
確実に足止めされていた。
「今のうちです!」
セシルが振り返る。
「生徒たちは退避を!」
近くにいた教師たちが一年生を誘導し始める。
「急げ!」
「立ち止まるな!」
レオンはすぐにノアのもとへ駆け寄った。
「ノア!」
肩へ手を回す。
その身体は驚くほど軽かった。
「立てるか!」
「……うん。」
ノアは答えようとしたが、言葉にならない。
頭の奥が焼けつくように熱い。
視界も少しずつ霞み始めていた。
リリアが反対側からノアを支える。
「無理しないで。」
「もう十分だから。」
ノアは弱々しく笑った。
「まだ……。」
「みんなが……。」
「大丈夫。」
リリアはきっぱりと言う。
「先生たちを信じよう。」
その言葉に、ノアは静かに頷いた。
クラウスたちは、命を懸けて時間を繋いでくれている。
ならば、自分たちがするべきことは一つ。
生きて、この場を離れることだ。
「行こう。」
レオンが力強く言う。
三人はノアを支えながら走り出した。
その時だった。
ふわり、と一枚の押し花が夜風に舞った。
衝撃でリリアの胸ポケットから滑り落ちたのだ。
「……あ。」
リリアは気づかない。
だが、ノアの視線だけが、その小さな花を捉えていた。




