神枷-12
白い。
どこまでも白い世界。
空も、大地も、果てさえ見えない。
音はなく、風もない。
時間という概念すら存在しないような静寂だけが広がっていた。
ノアはゆっくりと目を開く。
「ここは……。」
見覚えがあった。
幼い頃、一度だけ訪れた場所。
そして――。
「久しぶりだね。」
静かな声が響く。
振り返ると、白い衣をまとった人影が立っていた。
顔は光に包まれ、はっきりとは見えない。
それでも、不思議と恐怖は感じなかった。
「君は……。」
「また会えた。」
白い人影は穏やかに微笑むような気配を見せる。
「今回は、君自身の意思でここへ来た。」
ノアは周囲を見回す。
「僕は……死んだの?」
「いいや。」
「まだ生きている。」
「ただ、時間はほんの少しだけ止めてある。」
ノアははっと顔を上げた。
「リリア!」
「戻らないと!」
今にも駆け出しそうになるノアを、人影は静かに呼び止める。
「焦らなくていい。」
「ここでは、一瞬が永遠にもなる。」
ノアは拳を強く握りしめた。
「お願いだ。」
「戻してほしい。」
「僕には守りたい人がいる。」
白い人影は、しばらく黙ってノアを見つめていた。
そして、静かに尋ねる。
「力が欲しい?」
ノアは迷わなかった。
「欲しい。」
「でも――」
一度だけ言葉を切る。
「勝つためじゃない。」
「誰かを見返すためでもない。」
「ただ……。」
ノアの瞳に、リリアの姿が浮かぶ。
「守りたい。」
「だから力を貸してほしい。」
白い世界に、静寂が流れる。
やがて人影は、小さく頷いた。
「その答えなら。」
「契約に応えよう。」
ゆっくりと右手を差し出す。
「君には七つの枷がある。」
「そのすべてを外せば、君は君ではなくなる。」
ノアは息を呑む。
七つ。
初めて聞く言葉だった。
「だから今は――」
人影の指先が、ノアの胸へ触れる。
「一つだけ。」
その瞬間。
胸の奥で、何かが静かに外れる音がした。
カチリ。
まるで長い年月をかけて閉ざされていた錠前が、初めて解かれたような音。
白い人影は、優しく微笑む。
「行っておいで。」
「君の願いを叶えるために。」
世界が白い光で満たされる。
ノアの身体は光に包まれ、その意識は現実へと引き戻されていった。




