神枷-11
土煙が夜の森を覆う。
「ノア!」
「リリア!」
レオンの叫びが響く。
やがて土煙がゆっくりと晴れていく。
そこには、リリアを抱きかかえるようにして倒れるノアの姿があった。
「ノア!」
リリアは慌てて身体を起こす。
自分には大きな怪我はない。
だが、ノアの制服は肩口が鋭く裂け、滲んだ血がゆっくりと布を染めていた。
「あ……。」
あの一撃。
完全には避けきれなかったのだ。
「ごめん……!」
「私のせいで……!」
ノアは苦しそうに息を吐きながら、小さく首を振る。
「無事……なら……。」
その一言だけで十分だった。
リリアの目には涙が浮かぶ。
その時。
――グルルルル……。
低い唸り声。
二人のすぐ前で、変異種がゆっくりと身体を起こした。
先ほどの一撃を避けられたことに苛立つように、赤い瞳が二人を睨みつけている。
距離は、ほんの数メートル。
逃げる時間などない。
「くっ……!」
レオンが駆け出す。
「間に合えぇぇぇっ!」
剣を握り締め、一直線に二人へ向かう。
その後ろでは、クラウスも全力で地面を蹴っていた。
「ノアァァァ!!」
セシルは杖を掲げる。
「《ライトバインド》!」
光の鎖が放たれる。
しかし。
変異種は前脚を一振りしただけで、魔法を力任せに弾き飛ばした。
「そんな……!」
セシルの表情が凍る。
変異種はゆっくりと前脚を持ち上げた。
狙いは、目の前の二人。
ノアは震える身体で立ち上がろうとする。
足に力が入らない。
視界も霞む。
(立て。)
(立たないと。)
(リリアを……。)
それでも身体は動かない。
リリアはノアの前へ出ようとした。
「やめて!」
ノアは残った力を振り絞り、その腕を掴む。
「ダメだ……!」
「君まで……。」
変異種の巨大な影が二人を覆う。
前脚がゆっくりと振り下ろされる。
誰も、もう間に合わない。
その瞬間。
ノアの意識は、ふっと白い光に包まれた。
世界から音が消える。
時間さえ止まったかのような静寂の中で、ノアは再び、あの白い世界へと足を踏み入れた。




