森の暴走-06
第一班を先頭に、一年生たちは西の尾根道を必死に駆けていた。
背後では、教師たちの戦う音が断続的に響いている。
剣戟。
爆発。
魔法の閃光。
まだ戦ってくれている。
その事実だけが、生徒たちの足を前へと動かしていた。
「もう少しです!」
先頭を走る教師が叫ぶ。
「尾根を越えれば視界が開ける!」
生徒たちの表情に、わずかな希望が宿る。
その瞬間だった。
――ドゴォォォン!!
轟音とともに、大地が激しく揺れた。
「きゃっ!」
ミリアがバランスを崩しかける。
ノアがすぐに腕をつかみ、体勢を支えた。
「大丈夫?」
「は、はい……!」
レオンが振り返る。
「今の音は……!」
その問いに答える者はいなかった。
代わりに聞こえたのは、森が裂ける音だった。
バキィッ!!
メリメリメリッ!!
何本もの木が根元から倒され、土煙が夜空へ舞い上がる。
そして、その煙の中から、巨大な黒い影が躍り出た。
「そんな……!」
リリアの顔から血の気が引く。
変異種だった。
教師たちの足止めを突破し、一直線にこちらへ追いついてきたのだ。
その漆黒の体には、剣傷や焦げ跡が刻まれている。
それでも動きはまったく衰えていない。
むしろ怒りによって、その赤い瞳はさらに禍々しく輝いていた。
後方からクラウスの叫び声が響く。
「伏せろぉぉぉっ!!」
変異種が大きく前脚を振り上げる。
狙われたのは――
リリアだった。
逃げ切れない。
誰もがそう悟った、その一瞬。
「リリア!!」
ノアは地面を蹴った。
考えるよりも先に、身体が動いていた。
リリアの肩を抱き寄せ、そのまま勢いよく横へ飛ぶ。
二人の身体が地面を転がる。
次の瞬間。
――ズガァァァァン!!
変異種の一撃が、二人のいた場所を粉砕した。
土と岩が爆ぜ、衝撃で周囲の木々が吹き飛ぶ。
舞い上がる土煙の中、レオンが叫ぶ。
「ノア!」
「リリア!」
返事はない。
煙の向こうには、巨大な黒い影だけがゆっくりと立ち上がる。
その赤い瞳は、なおも獲物を逃すまいと闇の中を見据えていた。
夜の森に、重苦しい静寂が落ちる。
誰もが息を止め、その土煙の向こうを見つめていた。




