森の暴走-04
変異種の咆哮が森を震わせる。
クラウスは一瞬で状況を見極めた。
教師だけで倒せる相手ではない。
まして、一年生を守りながら戦うなど論外だった。
「全教師、第一種撤退行動!」
鋭い号令が飛ぶ。
「生徒を王都方面へ退避させろ!」
「俺たちが時間を稼ぐ!」
教師たちは一斉に動き始めた。
セシルは素早く防御結界を展開し、生徒たちの前に半透明の光の壁を築く。
「落ち着いてください!」
「班ごとに行動を!」
野営地は一気に慌ただしくなった。
そんな中、ノアは地図ではなく森を見ていた。
変異種ではない。
その周囲だ。
倒れた木々。
逃げ惑う小動物。
そして、獣道。
「……先生!」
ノアはクラウスへ駆け寄った。
「どうした!」
「王都へ戻る街道は危険です!」
クラウスの目が鋭くなる。
「理由は!」
ノアは迷わず答えた。
「街道沿いには細い谷があります!」
「もしあの魔物が追ってきたら、全員が一本道に押し込められます!」
クラウスは頭の中で地形を思い浮かべる。
確かに街道は最短距離だ。
だが途中には谷へ沿う狭い道がある。
大人数で通れば、身動きが取れなくなる。
「じゃあ、どうする。」
ノアは森の西側を指差した。
「あっちです!」
「遠回りになりますけど、尾根沿いなら道幅があります!」
「班がばらけても立て直せます!」
クラウスは一瞬だけ森を見た。
そして迷わなかった。
「採用だ!」
振り返り、腹の底から声を張り上げる。
「全班聞け!」
「撤退経路を変更する!」
「西の尾根道へ向かえ!」
教師たちが一斉に復唱する。
「西の尾根道へ誘導!」
「急げ!」
レオンがノアの肩を軽く叩いた。
「よく見てたな。」
ノアは首を横に振る。
「父さんと何度も歩いた地形に似ていただけだよ。」
リリアは安堵したように微笑む。
「その『だけ』が、今はみんなを助けてる。」
ミリアも力強く頷いた。
「行きましょう!」
第一班はすぐに走り出す。
その後ろでは、教師たちが変異種の前へ立ちはだかっていた。
クラウスは剣を構え、小さく息を吐く。
「さて……。」
変異種の赤い瞳が、まっすぐクラウスを見据える。
「ガキどもが逃げ切るまで――」
剣先をゆっくりと持ち上げる。
「俺たちは、一歩も退かねぇ。」
その宣言と同時に、変異種が大地を蹴った。
轟音とともに、教師たちと変異種の激突が始まる。




