森の暴走-03
――ズン。
――ズン。
地響きが、さらに大きくなる。
野営地の誰もが、森の奥を見つめていた。
次の瞬間。
バキィッ!
一本の巨木が、根元からへし折れた。
続いて二本。
三本。
まるで見えない何かが道を作るように、木々が次々と倒れていく。
生徒たちは息を呑んだ。
「な、何だ……。」
誰かの震えた声が夜に溶ける。
そして――。
闇の中から、巨大な影が姿を現した。
四足歩行の魔物。
その体高は、大人の男をはるかに超えている。
漆黒の体毛は月明かりさえ吸い込むように黒く、全身には岩のように盛り上がった筋肉がうねっていた。
赤黒く光る双眸が野営地を見据える。
その視線だけで、空気が張りつめる。
鼻先から漏れる白い息は熱を帯び、地面へ落ちた瞬間、小さな草が焦げた。
「フォレストベア……?」
ミリアが呆然と呟く。
だが、ノアはゆっくり首を振った。
「違う……。」
「フォレストベアじゃない。」
レオンも剣を握る手に力を込める。
「あんな大きさの個体がいるのか……?」
クラウスは魔物から目を離さないまま、低く言った。
「俺も初めて見る。」
その一言に、生徒たちが凍りつく。
クラウスほどの騎士ですら、知らない。
それが何を意味するのか、一年生にも十分伝わった。
セシルは険しい表情で魔物を見つめ、静かに魔力を巡らせる。
「魔力反応が異常です……。」
「通常種の比ではありません。」
別の教師が声を上げる。
「上位種でしょうか!」
クラウスは短く答えた。
「……分からん。」
「少なくとも、俺の知るフォレストベアとは別物だ。」
その時。
巨大な魔物がゆっくりと顔を上げた。
鼻を鳴らし、空気の匂いを嗅ぐ。
そして、野営地に集まる人々を見つけると、赤い瞳が細くなった。
――グルルルル……。
低いうなり声が、腹の底まで響く。
次の瞬間。
「グォォォオオオオオッ!!」
咆哮が夜空を引き裂いた。
凄まじい衝撃波が広場を駆け抜け、焚き火の炎が大きく揺らぐ。
生徒の何人かは思わず尻もちをついた。
ミリアも恐怖で身体を震わせる。
「こ、こんなの……。」
リリアは唇を噛みしめながら杖を握る。
ノアはその魔物を見つめ、胸の奥がざわつくのを感じていた。
(違う。)
(この魔物……。)
(ただ強いだけじゃない。)
その姿から感じるのは、獣としての威圧感だけではない。
どこか――
本来この森に存在してはいけないものを目の前にしているような、不気味な違和感だった。




