森の暴走-02
教師たちの迎撃は続いていた。
剣が閃き、魔法が夜を照らす。
防衛線へたどり着いたゴブリンは次々と倒され、生徒たちへ近づくことすらできない。
「このまま押し返せる!」
誰かが安堵した声を漏らした。
しかし。
「……違う。」
ノアは小さく呟いた。
隣にいたレオンが振り向く。
「何がだ?」
ノアは森の入口を見つめたまま答える。
「数が減っていない。」
「え?」
レオンも改めて前方へ目を向ける。
確かに教師たちは何匹ものゴブリンを倒している。
それなのに。
森の奥から、新たなゴブリンが次々と飛び出してくる。
「……本当だ。」
リリアもその異変に気づいた。
「倒しても、すぐ後ろから出てくる。」
ミリアが不安そうに呟く。
「こんなにたくさん……。」
ノアは静かに首を振る。
「数だけじゃない。」
「見て。」
三人はノアの視線を追う。
一匹のゴブリンが、教師の横をすり抜けようとしていた。
だが、剣を振り上げることもなく、そのまま反対側の森へ駆け抜けていく。
「戦ってない……。」
リリアが驚いた声を上げる。
さらに別の一匹も。
また別の一匹も。
教師を見ても立ち向かわず、ただ必死に走り続けていた。
その表情には怒りではなく、明らかな恐怖が浮かんでいる。
「やっぱりだ。」
ノアは確信を持って言った。
「あのゴブリンたちは、僕たちを襲いに来たんじゃない。」
「逃げてきたんだ。」
レオンの表情が険しくなる。
「つまり……。」
「もっと危険な何かが後ろにいる。」
ノアは頷く。
そして、地面へ視線を落とした。
ズン……。
ズン……。
一定の間隔で伝わってくる振動。
「この揺れ……。」
ノアは目を閉じる。
ガレスと森を歩いた日の記憶が蘇る。
――地面は嘘をつかない。
――目で見えなくても、足の裏が教えてくれる。
ノアはゆっくり目を開いた。
「一匹じゃない……?」
レオンが尋ねる。
「いや。」
ノアは首を横に振る。
「一匹だと思う。」
「でも……。」
その先を言葉にできなかった。
一匹の足音とは思えないほど、大地が揺れている。
まるで、小さな地震が近づいてくるようだった。
その時。
森の奥から、これまでとは比べものにならないほど大きな咆哮が響いた。
「グォォォオオオオオッ!!」
空気が震え、木々が大きく揺れる。
ゴブリンたちは悲鳴を上げるように速度を上げ、一斉に野営地の横を駆け抜けていった。
教師たちの表情からも、完全に余裕が消える。
クラウスは咆哮の響いた森の奥を睨みつけ、小さく呟いた。
「……来るぞ。」




