森の暴走-01
――ズン。
――ズン。
地面を揺らす振動が、刻一刻と近づいてくる。
野営地の前では、教師たちが一直線に並び、生徒たちを背に武器を構えていた。
クラウスが鋭く叫ぶ。
「生徒は防御陣形!」
「教師の前へ出るな!」
「班ごとに固まって待機!」
一年生たちは慌てながらも指示に従い、班ごとに集まる。
第一班も互いの位置を確認した。
レオンは剣を抜き、ノアの一歩前へ立つ。
リリアは杖を構え、ミリアも緊張した面持ちで魔力を練り始めた。
その間にも、ゴブリンたちは次々と森から飛び出してくる。
「来るぞ!」
一匹目が教師たちへ飛びかかった瞬間――。
「遅い。」
クラウスの剣が一閃した。
銀色の軌跡が夜を走る。
ゴブリンは悲鳴を上げる間もなく吹き飛ばされ、そのまま地面へ倒れ込んだ。
「二匹目!」
別の教師が槍を突き出す。
鋭い一撃がゴブリンの武器を弾き飛ばし、そのまま気絶させる。
さらに別方向では、
「《アイスランス》。」
セシルの静かな詠唱とともに、氷の槍が夜空を駆けた。
正確無比に放たれた魔法は三匹のゴブリンの足元を凍らせ、その動きを完全に封じる。
間髪入れず、他の教師が駆け込み、一瞬で無力化した。
息の合った連携だった。
生徒たちは思わず息を呑む。
「すごい……。」
ミリアが目を見開く。
「これが学園の先生たち……。」
リリアも静かに頷いた。
「さすがね。」
レオンの目にも尊敬の色が浮かぶ。
「一人ひとりが、一流だ。」
教師たちは慌てる様子もなく、それぞれが持ち場を守っていた。
ゴブリンの群れは次々と押し返され、防衛線へ近づくことすらできない。
野営地には、少しずつ安堵の空気が広がり始める。
「これなら……。」
「先生たちなら大丈夫じゃないか?」
そんな声も聞こえ始めた、その時だった。
ノアだけは、森の入口をじっと見つめ続けていた。
教師たちは強い。
誰一人として苦戦していない。
それでも――。
(……違う。)
胸の奥の違和感は、消えるどころか、ますます強くなっていく。
ノアは無意識に拳を握り締めた。
あのゴブリンたちは、戦うためにここへ来たのではない。
それは、その怯えきった表情を見れば分かる。
ならば。
彼らをここまで追い立てた"何か"は――。
まだ、姿を現していない。




