予定外-06
ドドドドド――。
足音は、急速に野営地へ近づいてきていた。
教師たちが一斉に武器を構える。
「全生徒、その場を動くな!」
クラウスの怒号が夜の森に響く。
一年生たちは息を呑み、森の入口を見つめた。
やがて――。
ガサッ!
茂みをかき分け、一つの影が飛び出してくる。
「ゴブリンだ!」
誰かが叫ぶ。
緑色の肌をした小柄な魔物。
だが、その後ろから二匹、三匹と続き、あっという間に十匹以上のゴブリンが姿を現した。
「なっ……!」
教師の一人が目を見開く。
「こんな数、演習区域にいるはずが……!」
セシルも杖を構え、驚きを隠せない。
「群れがこちらへ……!」
クラウスは一歩前へ出る。
「全教師、戦闘配置!」
「生徒に近づけるな!」
教師たちが野営地の前へ展開し、防衛線を築く。
その間にも、ゴブリンたちは必死の形相で駆けてくる。
剣を振り上げる者はいない。
雄叫びを上げる者もいない。
ただ、一心不乱に走っていた。
その姿を見つめていたノアが、小さく呟く。
「……違う。」
レオンが振り向く。
「何がだ?」
ノアの視線は、ゴブリンたちから離れない。
「あれは襲ってきてるんじゃない。」
「逃げてる。」
「え……?」
リリアも息を呑む。
よく見ると、ゴブリンたちは野営地を目指しているのではない。
何かに追われるように、ただ前だけを見て走っている。
中には後ろを何度も振り返る個体までいた。
ミリアが震える声で言う。
「ゴブリンが……逃げる?」
その言葉と同時だった。
――ズン。
大地が揺れた。
誰もが息を止める。
もう一度。
――ズン……。
今度ははっきりと足の裏へ振動が伝わる。
森の奥。
闇に包まれた木々の向こうから、規則正しい地響きが近づいてくる。
クラウスの表情から、余裕が消えた。
「……全員。」
低く、しかしはっきりと命じる。
「最悪を想定しろ。」
その瞬間、森の奥で一本の巨木がゆっくりと傾き――
轟音とともに倒れた。
夜の森に、鳥たちが再び一斉に飛び立つ。
誰もまだ、その姿を見てはいない。
だが、その場にいた全員が理解した。
本当に恐ろしいものは、まだ森の奥にいる。




