予定外-03
日が沈み始める頃。
野営地の中央では、いくつもの焚き火が揺らめいていた。
一年生たちは班ごとに夕食を終え、静かな時間を過ごしている。
その頃、クラウスが焚き火の前へ歩み出た。
「全員、少し集まれ。」
その一声で、生徒たちは次々と焚き火の周りへ集まる。
第一班の四人も並んで腰を下ろした。
クラウスは焚き火を見つめながら、ゆっくりと口を開く。
「今日一日、よくやった。」
「大きな事故もなく、ここまで来られた。」
生徒たちの表情に、少しだけ安堵の色が浮かぶ。
だが、クラウスはそこで言葉を続けた。
「……だからこそ、ここからが危ねぇ。」
その一言で、空気が引き締まる。
「森で一番恐ろしい敵は何だと思う?」
誰も答えない。
しばらくして、一人の生徒が手を挙げた。
「強い魔物……ですか?」
クラウスは首を横に振る。
「違う。」
「一番怖ぇのは、油断だ。」
焚き火の薪が、小さく音を立ててはぜる。
「『今日は何もなかった。』
『明日も大丈夫だろう。』
その考えが、一番危ねぇ。」
生徒たちは真剣な表情で耳を傾ける。
クラウスは一人ひとりを見回した。
「魔物は、お前たちの都合なんざ考えちゃくれねぇ。」
「疲れている時も、飯を食っている時も、眠っている時も襲ってくる。」
「だから、野営中も演習は終わっていない。」
その言葉に、ノアは静かに頷いた。
ガレスから、何度も同じことを聞かされてきた。
だが、クラウスの口から語られると、その重みはまた違って感じられた。
「この後は班ごとに交代で見張りを立てる。」
「持ち場を離れるな。」
「異変を感じたら、自分たちだけで解決しようとするな。」
クラウスの声が、森の静寂に響く。
「すぐに教師へ報告しろ。」
「それがお前たち自身だけじゃなく、仲間を守ることにも繋がる。」
少し間を置いてから、クラウスはふっと笑った。
「まぁ、堅い話はここまでだ。」
「初めての野営だ。」
「今日はゆっくり休め。」
「明日も朝から歩くことになる。」
張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。
生徒たちは班ごとに立ち上がり、それぞれのテントへ戻っていく。
第一班も焚き火を囲んで荷物をまとめ始めた。
レオンがぽつりと呟く。
「油断か……。」
「簡単そうで、一番難しいな。」
ノアは静かに頷いた。
「だからこそ、忘れちゃいけないんだと思う。」
その時、一陣の風が焚き火を揺らした。
炎が大きく揺れ、火の粉が夜空へ舞い上がる。
誰も気づかなかった。
その風が、森の奥から吹いてきたことに。
そして、その風がどこか冷たかったことにも。




