予定外-02
「よし、これで最後だ。」
レオンが木槌を振り下ろす。
カン、と小気味よい音が響き、最後の杭がしっかりと地面へ打ち込まれた。
「テント設営、完了。」
「さすがレオン。」
ノアが笑顔で親指を立てる。
「こういう作業は慣れてる。」
レオンは照れ隠しのように肩をすくめた。
「領地でも騎士団の訓練を見て育ったからな。」
一方その頃。
リリアとミリアは小川で汲んできた水を鍋へ移していた。
「火、ついたわ。」
リリアが火属性魔法で乾いた薪へ火を灯す。
小さな炎はやがて安定し、鍋の底を温め始めた。
「すごい……。」
ミリアは目を輝かせる。
「こんなにきれいに火をつけられるなんて。」
リリアは少し照れたように笑う。
「お母様が厳しかったから。」
「宮廷魔導士だった頃は、火力の調整だけでも何時間も練習させられたの。」
「だから今でも癖になってるのよ。」
ミリアは感心しながら頷いた。
「やっぱり、すごいです。」
その頃、ノアは広場の外周をゆっくり歩いていた。
木々の配置。
風の流れ。
獣道。
周囲を一つずつ確認していく。
演習で使われる野営地だけあって、安全は十分に確保されている。
魔物の気配も感じない。
それでも。
「……。」
ノアは立ち止まり、森の奥を見つめた。
胸の奥に、小さな棘が刺さっているような感覚。
言葉にできない違和感。
「何を見ている?」
声を掛けてきたのはクラウスだった。
いつの間にか隣まで歩いてきていた。
「先生。」
ノアは軽く頭を下げる。
「何か気になることでもあるのか?」
ノアは少し迷ってから答えた。
「……うまく言えないんです。」
「森が静かすぎる気がして。」
クラウスは森へ目を向ける。
風は吹いている。
葉も揺れている。
異常は見当たらない。
「根拠はあるか?」
「ありません。」
ノアは正直に首を振った。
「ただ、何となく……です。」
クラウスはしばらく黙って森を見つめ、それから小さく笑った。
「その答えでいい。」
ノアは意外そうな顔をする。
「勘ってのは、経験が積み重なって生まれることもある。」
「理由が分からなくても、違和感を覚えること自体は悪くねぇ。」
そして、人差し指を一本立てた。
「だがな。」
「違和感だけで仲間を不安にさせるな。」
「まずは観察しろ。」
「確かめろ。」
「それで異常が見つかったら、すぐ報告だ。」
その言葉は、ガレスの教えと驚くほどよく似ていた。
ノアは自然と表情を緩める。
「はい。」
「よし。」
クラウスは力強く頷いた。
「その目は大事にしろ。」
「騎士ってのは、剣だけでなるもんじゃねぇからな。」
そう言い残し、他の班の様子を見に歩いていく。
ノアはもう一度だけ森を見つめた。
やはり異常は見つからない。
それでも胸の奥の違和感は、少しも消えることはなかった。




